あたたかな手の行く先

うり北 うりこ@11/1ざまされ②書籍化

あたたかな手の行く先


 あの時、どうして私は彼女の手をとったのだろうか……。


 彼女の手の温かさに、私はひとりなのだと泣きたくなるなんて、思いもしなかった。

 ひとりは嫌だ。そう思っていた。

 だから手を取った。


 それなのに、どんなに取り繕っても、私はひとりだ。

 彼女の心に、私はいない。


 

「影枝さん」

 

 私を呼ぶ声がする。

 誰にでも優しいクラスメイト。

 彼女は、誰にでも手を差し伸べる。その手をとった日のことを、私は毎日後悔している。

 あの日、さみしさに負けて、手を伸ばさなければ良かった。

 

「なーに?」

 

 顔に笑みを貼り付ける。

 この笑みはメッキだ。少しの刺激ですぐに剥がれ落ちる。

 だけど、貼らずにはいられない。

 

「影枝さんも一緒にいこうよ」

「行きたいけど、今日は予定があるの。ごめんね?」

 

 さっさと目の前から消えてくれ。

 あなたを見てるとさみしくなる。

 どうせ、私のものにはならないのだから。

 手に入らないなら、こっちに来ないで。

 

「そっか……。次は一緒に行こうね」

 

 イエスともノーとも言えない曖昧な笑みを浮かべ、彼女の後ろ姿を見送った。

 スタスタと歩いていた彼女は、ひとりのクラスメイトを見つけると、早足になり、走り出す。

 

 その姿に、心臓がギュッと縮まった気がした。

 こんな気持ち、知りたくなかった。

 これを恋と呼ぶのなら、恋なんかしたくなかった。

 あの頃の私に戻りたい。

 あなたの不幸失恋を願う私は、自分でも嫌になるほど醜悪だ。

 

「ねぇ、何であの日、私に手を差し伸べたの?」

 

 遠くなった後ろ姿に問いかける。

 私は恋を知り、孤独を知った。

 

 見たくないのに目で追ってしまう。

 自分の気持ちなのに、どうにもならない。

 こんな気持ちを捨てたくて、遠ざかる後ろ姿に、一つの賭けをする。

 

 私の方を振り向いたなら、この恋を受け入れる。

 

 どうせ振り向かないと高を括ってした賭け。

 振り向いて欲しい。

 振り向かないで欲しい。

 振り向いて欲しい……。

 心の中はぐちゃぐちゃだ。

 

 もうすぐ、曲がり角だ。

 このまま振り向かなければ、私はこの恋から目を逸らして生きていく。そっちの方がラクだろう。

 感覚を鈍らせて、さみしさに気が付かないふりができるのだから。

 

 あぁ。あと少し。あと少しだ……。

 角を曲がっていく。その時、彼女は──。


 自分の愚かさに乾いた笑いがこぼれた。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あたたかな手の行く先 うり北 うりこ@11/1ざまされ②書籍化 @u-Riko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ