転生教育係は最推しショタキャラを最弱に育て救いたい

東雲弘治

第1話 夢

「おぎゃああああああ!! わ、私のピュアリーノきゅんがああああああ!?」


 ゲームパッドをぶん投げた。

 PCモニタには筋肉モリモリ蝙蝠羽つき青肌半裸魔王が映っている。


 キービジュアルとデモムービーが気に入って買ったRPG【シルバーフォルテ】。近年増えてきたアニメ調高精細3Dモデルキャラが動き回るタイプのゲームだ。

 キャラデザも有名イラストレーターを起用しており、クオリティは折り紙付き。いわゆるジャケ買いをしてしまったのだが、特に後悔はない。


 主人公も嫌みのない快活な青年で、王道イケメンも好きな私は満足だった。

 が、とりわけ私のハートを打ち抜いたのはそちらではなく、途中から出てくるサブキャラのピュアリーノ・ゲルトマイセンだった。


 初登場時のとき、私は画面の前で固まってしまった。何を隠そう私はかわいい男の子が超超超大好きなのだ。いや待って。ショタコンなんて安っぽい言葉で片づけないでほしい。


 まず柔らかな金髪でポニーテール。碧い目はサファイアみたいだし、いつも困ったような儚げな微笑をしていて、もうそれだけで庇護欲をそそられる。ゲルトマイセン国の第五王子という身分にしては気が弱く、優しい性格。ピュアリーノって名前ぴったり。まだ10歳だから仕方ないんだけど、華奢な体型で、王族の礼服が全然に合ってなくてかわいい。上の王子たちや父王からは軽んじられていて、おまけにピュリアーノを産んだときに王妃は死去。愛情に飢えているせいか主人公を「お兄様」と呼んできてマジご褒美すぎる。


「それがどうして『これ』になるのよおおおおおおおおおおおお!!!!」


 最推しショタはラスボスでした。しかも闇の力に飲み込まれて姿形から変貌しちゃうやつ。もう金髪しか面影がないじゃん・・・。髪型もサ〇ヤ人だし。


 私もゲーマー歴は長い。小学3年生ぐらいからだから15年ぐらいか。同世代の女子が服だの化粧だのにかける金も時間も、全部費やしてきた。

 当然、意外なキャラがラスボスとして立ちはだかるパターンも遊んだことはある。


「もっといたじゃん・・・、ヤバい目をした教育係のあいつとか、腹黒の第一王子とかさぁ・・・名前にピュア入ってるんだよ!? 真逆にすることはないじゃん!!」


 宝石のような二つの碧眼は一つ目になり、血だまりの色に。儚げな微笑は狂気じみた大笑に。ぷにぷにのほっぺも死神みたいに細ってしまっていた。


「返して・・・私のピュアリーノきゅんを返して~・・・ちょっ攻撃力たっか、デバフデバフ」


 まあそこはゲーマーなんで普通に倒しますけど。

 あと、もしかしたら撃破後に元の姿に戻るかもしれない。経験的に6割ぐらいで戻るはず――4割の方でした。

 ゲルトマイセン国ごと巻き込んで消滅。正気に戻るとかも特になく。いや死に際に「お兄、様・・・」なんて言われた方がダメージでかいからいいけど。


 放心していたのでエンディングはよく覚えていない。そのままベッドに転がると深夜だったのもあり、そのまま寝てしまった。




 ――ふと目を開けると、見知った王宮書庫が広がっていた。


「は? ここどこ?」


 いやいや王宮書庫なんて知らない。

 ん、あれ? 知ってる? 記憶にある。


「君が居眠りとは珍しいな、クロリナ」


 私は慌てて身を起こす。テーブルに突っ伏していたらしい。周りに積み上げられていた本の山がバタバタと音を立てて崩れた。

 声の方を見上げると柔和な顔つきの男性がいた。


「こ、これはベルナー大臣。醜態をお見せして申し訳ございません」


 気づけば勝手に言葉が口から出ていた。生きてきて一度たりともいったことのない言葉。だけど、そうすることが正しいと記憶が告げたのだ。

 

 立ち上がり敬礼しようとした私を大臣が鷹揚に押しとどめる。

「構わん。ピュリアーノ様の教育係として奔走していることは私も知っている。例の才能を早く開花させ、国王陛下に安寧を差し上げたい」

「承知しております」


 小太りの大臣は突き出た腹を揺らしながら書庫を出て行った。私はその姿を見送りながら冷や汗をひとつ垂らす。


「まずいところを見られてしまった・・・。国王陛下にでも見られたら懲罰ものだった――じゃなくて!」


 散らかったワンルームの部屋にいたはずだ。なのにいま私は見たこともない世界にいる。いや、それは正確じゃないか。見たことはある。画面越しに――【シルバーフォルテ】のプレイを通じて。


「私はいま、ゲームの中にいる・・・!? いやいや、はは、ないない」


 これは明晰夢ってやつでしょ。

 【シルバーフォルテ】をクリアした後、私はふて寝した。夢の中にいることは不自然でも何でもない。直前にプレイした記憶が混ざりこむことも当然のことだ。


 ベルナーはゲルトマイセン国大臣、クロリナは第五王子の教育係の名。そしてここはゲルトマイセン国の書庫だと私は知っている。


「徹夜で一気にやったのが悪かったかなぁ。まあそれはそれとして」


 夢だとわかったらやることは一つ。私は書庫を飛び出して彼に会いに行く。


 ――愛しのピュアリーノきゅんのもとへ!

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