第32話 私も亮平くんのことが好きです
「茅森さん、好きです。付き合ってください!」
何回目だろうか。男の子から好きだと告白されたことは。数えたことがないからわからないが、全員、ほとんど話したこともない人だったのは覚えている。
今まで告白を受けたことはない。お試しという選択しもあるが、好きでもないのに付き合うのは相手に悪い気がしていた。
それに恋愛に全く関心のない私と付き合っていても面白くないと思っていたので断っていた。
今もこれからも私は恋愛と無縁。そう思っていたけれど、彼の側にいて初めての感情を知った。
中学3年生になってからはあまり話さなくなったが、メールでのやり取りはあって、会わなくてもその時間は私にとって幸せな時間だった。
おそらく私にとって亮平くんは特別。けれど、亮平くんの特別に私はなれない。
なぜなら彼の隣には今、藤原渚咲さんがいるから。
***
「ど、同居って……」
真綾から同居という言葉が出てきて俺も渚咲も動揺してしまった。
その様子を真綾は見落とさず、そうなんですねと呟いて手を口元にやり、小さく笑った。
真綾に言ってもいいだろうと判断すると同じことを思った渚咲は口を開いた。
真綾に同居している理由を話すと彼女は俺の方を見た。
「そうだったんですね。2回ほど家に入っていくところを見かけましてもしかしてと思ったのですが」
なるほど……全く見られていたことに気付かなかった。真綾とは家が近いので見られてもおかしくない。隠しているわけではないが、見られたのが真綾でホッとしている。
3人で流れるプールを1週回ると渚咲と真綾はスライダーへと向かい、俺はまた別のスライダーにいる海人たちと合流した。
渚咲と真綾は2人用の浮き輪を係の人から受け取るとスライダーの列へと並んだ。
どちらも自分からグイグイと人と距離を詰めていくタイプではないため沈黙が続いたが、真綾がその空気を壊した。
「私、今日は楽しみだったんです。1人の時間も好きですがこうして皆さんで遊べるのも好きなので……。藤原さんはどうですか?」
「私も同じです。1人でいる時間が多かったからでしょうか……皆さんと遊ぶのも好きですが1人の時間も好きです」
渚咲はそう言って以前の真綾の言葉を思い出し、ハッとした。彼女が似ているところがあると言っていたのはこれなんだろう。
「仲間、ですね。亮平くんに特別な感情を抱いているのも」
「は…………えっと、それは……」
真綾は困惑する渚咲の方へと体を向けるとクスリと微笑んだ。
「私、亮平くんのこと好きなのかもしれません。藤原さんはどうですか? 好き、なんですか?」
以前ならわからないと答えていた。けれど、今は気持ちがハッキリしていて言葉にすることが出きる。
「私も……私も亮平くんのことが好きです」
「そうだと思っていました。私、応援します、藤原さんの恋」
「……応援? 茅森さんも亮平くんのこと好きなのにどうして」
「私はいいんです。亮平くんの隣は私ではないと思っています。ですから藤原さん、頑張ってください。亮平くんは少し鈍感なところがあるので気持ちはしっかりと伝えるのがいいですよ」
真綾はそう言って階段を上がっていく。その後を渚咲はゆっくりと追いかける。
気付いていた。だからこそ本当の気持ちを知ったとき、どうしたらいいかわからなくなる。
伝えてくださいと言ったが、本当にそれでいいのだろうかと。
「茅森さんは……それでいいんですか?」
好き、そう言ってはないが彼女は好きになっていると言っていた。けど、それは今だけ。この先の気持ちの変化は十分ありえる。
「いいんです。お似合いだと思ってるから、私は応援することにしたので」
「…………お似合い、ですか」
自分と彼が並んでいるところを想像し、渚咲は顔を真っ赤にした。
「ふふっ、可愛いですね、藤原さん」
***
昼食の時間になると全員集合し、一緒に食べることになった。
流れるプールではそこまで話していなかったが渚咲と真綾が仲良さそうに話しており、少し驚いたがそれと同時嬉しさもあった。
時々ぴりついた感じがあったので仲良くしている2人を見たからだろうか。
空いているベンチへと座ると先ほどまで真綾と話していた渚咲がやって来た。
「亮平くん、一緒に買いに行きませんか?」
「あぁ、行こっか」
胡桃に声をかけて屋台がある方へ渚咲と向かった。先ほどまで別々に遊んでいたのでお互い何をしていたのか話しながら前へと進む。
「真綾と仲良くなったみたいだな。性格とか似てる感じするし仲良くなれるだろうとは思ってたけど」
「確かに似てますね。茅森さんからたくさん亮平くんのことを聞いていました」
「俺の話!?」
「はい。亮平くんの小さい頃のお話を」
(小さい頃って変なこと言ってないよな……?)
真綾が人の恥ずかしい過去を誰かに話すような人ではないことは知っているが、どんなことを話したのか非常に気になる。
「ちなみにどんなこと聞いたんだ?」
「ふふっ、それは内緒です。気になるのでしたら茅森さんに聞いてみてください」
「えっ……気になるんだけど」
「内緒です。秘密です」
「教えてほしかっ……って、渚咲?」
腕に柔らかい感触がして視線を少し下にやると渚咲が俺の腕にぎゅっと抱きついていた。
ラッシュガードを羽織っているが下には水着のみ。そう思うと心拍数が上がってドキドキしてしまう。
「亮平くん、買いに行く前に寄り道いいですか?」
「寄り道?」
「はい。少しだけ……お時間ください」
よくわからないまま渚咲に連れていかれ、着いた場所は人気のないところだった。
(えっ、何されんの…………?)
渚咲は俺の腕から離れると目の前に立ち、何をするかと思いきや急に着ていたカーディガンを脱ぎ始めた。
「えっ、ちょっ、ストップストップ! ここで脱ぐのはよくないって!」
「大丈夫ですよ。亮平くんに……水着を見てもらいたいだけなので」
「…………水着?」
しばらく待っていると彼女はチラッと俺のことを見た。
「ど、どうでしょうか…………似合ってますか?」
最終的にどんな水着選んだのかは知らなかったが、一言で言うと可愛い。
(白の水着、凄い似合ってる……)
「うん、とても似合ってる。可愛い」
「!!」
思ったことをそのまま伝えると渚咲は顔と耳が真っ赤になり、それに気付いた俺も自分の言葉に恥ずかしくなり体が熱くなった。
気まずい空気が流れ、お互い相手の顔を見ることができない。
(可愛いとか、あんま気軽に言う言葉じゃなかったかな……いや、けど、ほんとだしな)
「亮平くんが好きそうな水着を選んだんです。似合っているのでしたらこちらを選んで良かったです」
嬉しそうに微笑み、渚咲はラッシュガードをゆっくりと羽織る。
「俺が好きそうな……」
「はい。好きじゃないですか?」
「…………正直に言うけど、好みすぎる」
「! ふふっ、それなら悩んだ甲斐がありました。さて、寄り道は終わりましたので昼食買いに行きましょう」
「あぁ……」
今日で確信に変わった。以前から気付いていたが勘違いの可能性もあって違うだろうと思っていたが、勘違いではなかった。
(俺もハッキリさせないとな…………)
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