第17話 そう、ですね。いつか

「ねっ、りーくんとはどう?」


 放課後。試験勉強をするため、私は胡桃さんと教室に残っていたのだが、胡桃さんは手を止めて話しかけてきた。


「どうとは?」

「え~そりゃ恋愛的なやつ? 同居してて何もないってわけじゃないでしょ?」


 胡桃さんにそう尋ねられたが、同居して何かが大きく変わったわけじゃない。仲良くなったとは思うが。


「恋愛というものが私にはよくわかりませんが、亮平くんとは仲良くやってますよ」

「ふふっ、渚ちゃんらしい。恋愛相談なら私に任せてね。私、絶対に渚ちゃんの恋、応援するからね!」


 胡桃さんから両手でぎゅっと優しく手を握られる。その手はとても温かくて心まで温かくなっていく。


 この先、私が恋をするのかはわからない。けれど、もし付き合うなら私は……。


 頭に亮平くんの顔がなぜか浮かんできて私はぶんぶんと首を横に振った。


「く、胡桃さんはどのように村野くんと付き合い始めたのでしょうか?」


「馴れ初め? 私はね、最初は片想いだったの。けど、海人に猛アタックして最後には両想い」


 両手でハートマークを作り、胡桃は、ニコッと笑う。


「好きな人と両想いになれて良かったんだけど、色々問題があってね」

「問題、ですか?」

「うん。私の父親が学生のうちは恋愛とかするな、勉強に専念だって人で、どこかに出掛ける度に誰と遊びに行くんだっていちいち聞かれるの」

「それは厳しいですね」

「ほんと厳しすぎ。勉強も恋も両立するって言ってもダメでさ……」


 村野くんと付き合い始めてから成績が伸びていることから両立はできているらしい。できているなら禁止しなくてもいいと思うが。


「結果があるのなら胡桃さんのお父様に成績が伸びたこと、大切な恋人ができたことを言ってみてはどうですか?」


 胡桃さんはどうせ反対されるからといって村野くんと付き合っていることはお父様には黙っている。けれど、そのどうせ反対されるというのは言ってみないとわからない。


「そう、だね……一度言ってみようかな」

「はい、それがいいです」

「渚ちゃん……ほんといい子すぎる、可愛い」

「く、胡桃さん?」


 胡桃さんにぎゅ~と抱きしめられ、私はふぎゅっとなる。


 たまにこうして胡桃さんに抱きつかれるが嫌じゃない。今まで同姓で仲のいい友達がいなかったから、こうして仲良くしてくださる胡桃さんのことが私は好きだ。


「あれ、2人残ってたんだ」

「海人! とりーくん。やっほ」


 先に帰っていたと思っていた亮平くんと村野くんが教室に入ってきたことに気付いた胡桃さんは片手をぶんぶん振った。




***



 海人と自販機に行き、ベンチでアイスを食べ、教室の前を通るとまだ残っている生徒がいたので中を覗くと渚咲と胡桃がなぜか抱きついていた。


(何やってんだ……)


「あれ、2人残ってたんだ」


 海人が教室へ入り、2人に声をかけると胡桃の表情がパァーと明るくなった。


「海人! とりーくん。やっほ」


(とっ、て……付け足し感あるな……)


「勉強会だっけ?」

「そうそう。海人とりーくんは? 何かしてたの?」


 渚咲から離れて、胡桃は海人の元へと駆け寄る。


「アイス食べてた。胡桃も食べたいなら勉強頑張ってるみたいだし買ってくるけど、いるか?」

「いる~!! あのやつお願いね?」

「あれな。わかったよ」

「ありがとっ。勉強、頑張る!」


(絶対、さっきまで会話に夢中でやってなかったな……)


 恋人のイチャイチャタイムは放って置いて、椅子に座り、勉強している渚咲の元へ。


「なぎ……藤原は何か食べたいアイスはあるか? 買ってくるよ」

「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて箱に入っていて小さなアイスが6つ入っているものを…………わかりますかね?」


 商品名が出てこなかったらしくどんなアイスなのか説明した渚咲は俺にわかってくれたか確認する。


「うん、わかるよ。海人、アイス買いに行こう」

「まだ食べるのか?」

「違うよ、藤原の分」

「へぇ~」

「ニヤニヤするな」

「してないよ」


 してないというが、俺から見ればしている。以前より仲良くはなったが渚咲とは友達だ。それ以上もそれ以下でもない。


 再び教室を出て、アイスを買いに行くと自販機の前には彩音がいた。


 彼女もこちらに気付き、目が合うと小さく手を振った。


「海くんと亮平くんだ」

「海人に合わせて俺もくんづけしたら何か嫌な予感がするんだが」

「あははっ、亮平、考えずき~」


 彩音はこちらに駆け寄ってくると俺の肩をポンポンとやさしめに叩いてきた。


「久しぶりに海くんとか呼ばれたんだけど……中学のとき、春風が呼んでから周りからも呼ばれ始めたの思い出したわ」


「胡桃と亮平だけは海人だったよね~。で、2人もアイス買いに来たの?」


 彩音がそう尋ねたが、俺は答えず彼女の格好を見ていた。


 ほんと周りを気にしない格好だ。シャツのボタン、少しだけ開けてスカートは短くして……これでよく先生に怒られないな。


「亮平、見すぎ。可愛くて見たくなるのはわかるけど」

「否定はしないがその格好でよく先生に怒られないなと思って見ていただけだ」

「あっ、スカートのこと? これならギリオッケーな長さらしいよ?」

「ギリなんだ……」


 このまま彩音と話しているとアイスを買うことを忘れそうなので渚咲が食べたいと言っていたアイスを買った。


「彩音も何か買うんじゃなかったのか? 良ければ奢るけど」

「奢る……何かあるの?」


(……相変わらず察しがいいな)


「何もない。いらないなら俺は教室に帰るよ。アイス溶けるし」

「いる!」


 教室へ戻ろうとすると後ろから腕を掴まれ、グイッと引っ張られた。


「いるのかよ」

「いらないとは言ってない」


 彩音はそう言ってふふっと小悪魔のような笑みを浮かべた。


 棒のソーダアイスが食べたいそうで買って彩音に手渡す。そして、俺は1つ彼女に頼み事をした。




***




 俺と海人は帰るつもりでいたが胡桃に誘われ、教室へ戻ると勉強会に参加した。


 帰る頃には日が暮れていて、俺と渚咲は途中まで一緒に帰ることになった。


「そういや、桃子さんが帰ってきたって聞いたけどお父さんは帰ってきてないの?」

「お父様ですか? お父様は仕事で忙しいですし、家族にあまり興味がないので帰ってくることなんてほとんどありませんよ」


 彼女はそう言ってニコッと笑う。けれど、その笑顔は無理をしていて、上手く笑えていない。


「久しぶりに会いたい気持ちはありますが私はまだお父様に会ってはダメです」

「……どうして?」

「今、会ったとしてもお父様は私のことを見てはくれない。認めてくれるような私ではダメなんです」


「…………そっか。振り向いて欲しいんだな」

「そう、ですね。いつか─────」

「渚咲?」


 彼女の言葉を遮り、後ろから男の人の声がした。俺は知らない声だが、渚咲は知っているようでハッとしていた。


 



       

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