第50話 ザイアス国王崩御(エクロート)


 いきなり俺エクロートたちの前を赤翼騎士隊が、近衛兵たちが走って行く。


 彼らは皆「国王が大変らしい」「国王が倒れたらしい」「国王が死んだのか?」とにかく国王に何かあった事は確かなようだ。


 「何があったんだ?」


 「わからん。とにかく俺達も行ってみよう」


 俺達はその集団の後について行く。



 王城の中に皆が駆け付けて行く。


 近衛兵が入り口で入れる人間を降り分けている。


 入り口では近衛兵が「お前たちは南の出入り口を見張れ!お前らは北だ!」などと指示を飛ばしている。


 俺が近衛兵に身分証を呈示する。そんな事をしなくても顔はわかっているが。


 「どうぞ」


 「何があった?」


 「国王が倒れたとのことです。詳細は聞いておりません。ここで関係者以外を入れないよう指示を受けました」


 「そうか。ご苦労。後は頼む」


 「あの、こちらは?」アリーシアが止められた。


 俺は一瞬はッ?と思うが仕方なく近衛兵に教えてやった。


 「この方は聖女様だ。通るぞ!」


 「失礼しました!」近衛兵はビシッと敬礼をした。



 俺達は国王の執務室に急いだ。


 扉を開けて中に入ると中は騒然としていた。


 そこには倒れてソファーに寝かされているザイアス国王がいた。


 国王の前には医者がいてどうやら手当てを受けているらしい。


 その近くにグロギアス公爵。


 床には何やら黒いマントを羽織ったいぶかし気な男が近衛兵に取り押さえられて座り込んでいる。


 そしてロイド王太子も国王のそばにいた。


 「何があったんです?国王は?」俺は聞く。


 すぐにグロギアス公爵が答えた。


 「こいつが…デオロイが国王に毒を盛ったんだ!」


 「「「毒を?」」」


 するとぐったりうなだれていた男が叫んだ。


 「私は毒など盛っていません。すべてこのグロギアス公爵に騙され「こいつの言うことに耳を傾けるな。こいつは国王の病を治すふりをして国王に近づき国王を魔法で操っていたのだ。私もすっかり騙されていた」


 グロギアス公爵は苦々しく顔を渋らせる。


 「そんなのうそだ!俺は騙されて」


 男は近衛兵にぐっと抑え込まれる。


 「そんな事より国王は?」


 医者がこちらを見て首を横に振った。


 「そんな…まさか…」


 俺はソファに横たわるザイアス国王に近づく。リント隊長もアリーシアも後に続く。


 ロイド王太子が首を横に振った。


 「毒は即効性のものだったようだ。たまたまグロギアスが執務室に来たから発見が早かった。この男はまだここにいたそうで父上はすでに息絶えていたらしい」


 「ああ…ロイド王太子。残念です」


 ザイアス国王は口元から血を流していた。毒を飲んですぐに呼吸困難になりもがいたらしい後もあった。



 ロイド王太子がすくっと立ちあがった。俺はとっさに腕を差し出した。


 (倒れるかもしれない)と思った。が。


 「エクロート。後の事は頼む。俺はミリアナの所に戻る」


 「はっ?王太子何をおっしゃってるんです。これからはあなたが国王なんですよ。ミリアナ様の事どころではありませんよ!」


 (こんな時にまでミリアナの事を?こいつばかか。こんな男が国王になれるのか?)


 脳内ではどこまで腑抜けになる気だと怒りが湧いて王太子を殴ってやりたくなった。



 そんな気持ちの俺に王太子は更に話をつづけた。


 「どうして?俺はもちろん国王にはなる。だが、仕事はお前たちがやればいい事だろう。最終決議を俺が決めれば済むことだ。いいか、エクロート。まずは国王崩御を皆に知らせなければならないだろう。国葬の準備と国王戴冠式もやらなければならないぞ。それぞれ担当者を決めて取り掛かれ。国葬の日時が決まったら知らせてくれ。全くそんな事も俺が言わないと分からないのか?わかったらさっさとやれ!それまではミリアナといる。いいな。わかったか?」


 俺はあっけに取られて言葉を失う。


 すぐにグロギアス公爵が返事を返した。


 「エクロート聞こえたのか?ロイド王太子がそうおっしゃっているんだ。すぐに指示を出せ!」


 (おい、おっさん。あんた(グロギアス)もそう言ってこいつ(王太子)をそそのかすつもりなのか?ああ、こいつ(グロギアス)やっぱりロイドも追い落とす気なんだろうか?ここでロイド王太子が腑抜けたことをしでかせば貴族たちはロイドに国王は無理だと判断するだろうな。そうなれば…お前の出番ってわけか?そうはさせるか。でもなぁ…俺の力じゃどこまでできるか‥)


 ロイド王太子はグロギアス公爵も納得したと思ったのだろう。そそくさとその場を後にした。


 「ええい、近衛兵こいつを連れて行け!」


 今度はグロギアス公爵がさっきのデオロイを連れて行かそうとした。


 (ちょっと待て。俺はこの男に聞きたいことがあるんだよ)


 「いえ、ちょっと待って下さいグロギアス公爵。この男は例の魔術師とか言う。デオロイですよね?確か色々な事を国王に吹き込んでそのせいで国王はとんでもない事を言い出したりして…グロギアス公爵、私も詳しい事を知りたいので男と話をさせて下さい」


 「エクロートお前はただの王太子の側近にすぎん。そんな権利はない」


 「グロギアス公爵。黒翼騎士隊長。リント・マートルです。私もその男の話を聞かせてもらいたい。いえ、それよりその男はこちらで調べましょう。騎士隊が責任をもって取り調べますので。近衛兵その男を騎士隊に連れて行け!」


 俺もリントも完全にグロギアスが怪しいと思っている。



 そこにいきなり人が飛び込んで来た。


 「誰だ?」


 「おい、その男を止めろ!」近衛兵がなだれ込んで来る。


 「俺だ」


 「「「パシュか?」」」


 入って来たのはパシュだった。


 


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