第41話 いよいよ出発。その前に


 翌日の午後、予定通り魔獣退治に出かける事になった。


 今回魔獣の数が多いとおい事で騎士隊員もいつもの倍ほどの人数だった。


 昨日のあんな発言のせいで隊長と顔を合わせるのが少し気まずく思っていたがリント隊長はいつもと同じふうだった。


 (ちょっとがっかり。そんなつもりじゃなかったのに、私ったらもう。当り前じゃない。隊長とは20歳も年が離れてるしアランだっているんだもの。私みたいな女をどうこう思うはずがないわ)


 「昨日はすまなかった。いつもアランが無理を言って…」


 隊長はそこで口ごもった。


 「とんでもありません。私の方こそ毎日お邪魔して隊長もお疲れなのに…これからは気をつけます」


 「そんな事思ってない。ところでこれを着てくれないか」


 「これは…?隊服ですか」


 驚いたのは隊長が私に隊服を準備していたことだった。


 上質な黒生地には赤いステッチが施されていて襟口や袖口は銀糸で翼の刺繍がていねいにされていてとても高価なものだとわかった。


 「君も騎士隊の一人だ。これからはこれを着て魔獣退治に参加してほしい」


 「でも、こんな高価なもの‥私になんかもったいないです。どうせ汚れたり破れるかも知れないんですから」


 「だからこそ、丈夫な生地で袖回りも擦り切れたりしないよう刺繍が施してあるんだ。俺達の隊服も同じだろう?」


 見れば隊長の袖口にも同じような翼の刺しゅうがある。こちらは黒色で目立たないが。


 「わかりました。では、着替えて来ます」


 「着替えなら隣の部屋を使え」


 私は失礼して隊長室の隣の部屋で着替えをした。


 ここは仮眠室なのだろう。簡易のベッドと小さな机と椅子があるだけの部屋だった。


 それでも息を吸い込めば知っている香りが鼻腔をくすぐった。


 これはリント隊長の匂い?彼に近づくと香るミント系の香りがして思わずその香りに浸る。



 「アリーシア?どうだ?サイズはいいと思うが…」


 いきなり隊長の声がしてびくりとなる。


 「は、はいっ、ええ、サイズはピッタリです。すぐに行きます」


 大急ぎで身支度を整えて部屋を出た。


 「急がせたか?顔が赤い」


 「いえ、何でもありません。大丈夫です」


 (はぁぁぁ…一度意識してしまうとこうも彼のちょっとした事にも敏感に気になるとは…恋とは恐ろしいものかも…)



 それから表に出てリント隊長がそれぞれも持ち場の確認をして2班に分かれて出発することになった。


 私はあくまで後方支援ということで後の隊に混じることになった。


 出発の前にガロンの所に挨拶に行った。もちろん周りには誰もいないことを確認してガロンと話をする。


 リント隊長にはガロンに今日は魔獣が多いから頑張ってくれと伝えてくれと頼まれた。


 「ガロン元気だった?」


 「きゅぅきゅぅぎゅぎゅるぅぅ~」 (元気だよ。今日はアリーシアも一緒なんだよね?)


 「もちろんよ。ガロン前にも言ってた浄化をやってみようかと思ってるの。でも、魔獣の数が多いって聞いたから出来る範囲でやるつもりよ」


 「きゅる。きゅぅりゅりゅきゅゆぅぅぅ~きゅきゅぅ」 (そんなの僕だってアリーシアだけにやらすつもりはないよ。僕も浄化するから心配しないで)


 「ガロンも?どうやってするつもり?」


 「ぎゅうぎゅ、りゅっくりゅぅぅぅばしゅしゅきゃふっぅぅぅ、きゅきゅるぅぅ~」 (今までは炎しか吹き出せなかったけどアリーシアと繋がったから浄化の風を吹き出せるんだ。空から魔獣のいる魔樹海に向かって浄化するから)


 「それってリント隊長にも伝えておかないと」


 「りゅ、きゅるぅぅぅ~びゅるぅぅぅんきゅうぅ」(リント。そうだ。僕今日は急降下一杯するつもりだって伝えといてね)


 「覚悟しろって言う事ね。わかった。伝えておく。でも、無理はしないでよ」


 「きゅっ」(了解!)


 (ガロンったら張り切ってるな。私も頑張らなきゃ)



 私はガロンの言った事を隊長に伝えた。もちろんガロンの獣舎の影でふたりきりの所で。


 「アリーシア。あんまりガロンを挑発するな。いくら聖獣だからって無理は禁物だ」


 「たいちょう~それってガロンの急降下が恐いって事です?」


 「誰がそんな事!俺はきっちりガロンを乗りこなせる。心配するな。それよりアリーシア君こそ気を付けてくれよ。何かあったらアランに殺されるからな」


 脳内で(アリーシア気をちゅけてね)って言うアランの姿を想像してしまった。


 「アランが心配してくれてるんですか?うわぁうれしい!」


 思わず胸キュン乙女みたいに両手をぎゅっと口元に寄せた。


 「アリーシア。それは少し刺激が強すぎる…か、わいい…」


 いきなりリント隊長が私を隠すように腕を回した。


 私はごつごつした暑い胸板にいきなりぎゅっと押し付けられ彼の香りがして脳内がくらくらしそうになる。


 「ばか、こんな姿誰にも見せるんじゃない。他の奴がこんな姿を見たら…」


 「た、隊長こそ、こんなところ見られたら誤解されますよ。私、戻ります」


 私は照れ臭いやら恥ずかしいやらで彼の顔も見ないで走り去った。


 それでもしばらくは心臓がバクバクしてどうしようもないほど顔が火照って化粧室でひとり時間をやり過ごした。



 表に戻るとみんながすでに待っていた。


 「すみません」


 「「「大丈夫です。女性は支度に時間がかかるものですから!」」」


 隊員が一斉に声を揃えてそう言った。


 私は真っ赤になって隊列の後ろに並んだのは言うまでもない。


 

 そして隊員は出発した。私は後ろの隊員と一緒に馬に乗って行く。


 リント隊長はもちろんガロンで魔樹海を目指した。






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