第24話 アリーシアの真実2


 クレアはいきなり私の脚元に跪いた。


 「アリーシア様。あなたはイエルハルド国女王の忘れ形見なのです。私は亡き女王フローラ様の侍女をしておりました。女王と王が王宮に入り込んだコルプスの密偵に亡き者にされる前に私とアリーシア様は秘かに王宮を脱出しました。ご両親はその後服毒自殺されたのです。コルプス帝国に利用されるくらいならと覚悟をされていました。私はアリーシア様を連れてこの教会にあなたは身寄りのない捨て子として預かってもらうことにしたんです。王女であるあなたをそのような身の上に置いた事本当に申し訳なく思っておりました。ですがあの時はなによりコルプスの手のものがイエルハルド国の王族狩りをしていてとても危険な状態だったのです」



 「じゃあ、私は本当にフローラと言う人の子供なの?」


 「はい、アリーシア様は間違いなくイエルハルド国女王のお子です。女王は赤ん坊だけは何としても助けたいとおっしゃって。王はフローラ様にも逃げるように言われましたが、自分が生きていてはコルプスに利用されるからと死を覚悟されて…すでにそれを覚悟なさっていたのか、生まれた赤ん坊は家来がどこからか死産で生まれた赤ん坊を用意されていて、その赤ん坊をアリーシア様に見立てて私たちは逃げのびたのです」



 「ああ…それでガロンがその時の事を‥きっと母はガロンに事を思っていたんだわ。ガロンは母たちが属に襲われる時の事を知っていたわ…」


 「ああ…お労しい。そのようなことをお聞きになったとは…」


 クレアはまた涙を流す。


 私は聞いた話に茫然としながら無意識にそっとクレアの背中をさする。



 「最初は何のことかさっぱりわからなかったの。ガロンは私にフローラ会いたかったって言うし…あっ、実はその前にガロンの具合が悪くなってそれを助けたの。その後ガロンが魂を繋いだって言ってたわ。それでガロンの考えがどんどん脳内に流れ込んでくるようになって」


 「そうだったんですね。ガロン。いえ赤竜は代々イエルハルド国女王の従僕なんです。フローラ様は結婚して女王になられました。そしてガロンと魂を繋げられたのです。そうやってイエルハルド国はずっと女王の加護を受け継いできたのです。この国の平穏と豊穣を守るために女神イルヴァが授けてくれた力で。だからこの国は他国に侵略されることはなかったんです。平和で実り豊かな国の国民は幸せでした。なのに…あの男が王になって…」


 クレアは憎悪で憎々しい顔をした。


 「そもそもコルプス帝国は我が国の聖獣が欲しかったのだと。自国の力を誇示するために大きな力が必要だった。それに神の国であるコルプス帝国には聖獣がいなかった事も問題だったのでしょう。あの頃国王がザイアス王に変わってコルプス帝国は一気に隣国の侵略を始めたんです。それまでに凶作や食料不足。属国の反発などいろいろな問題が山積していたらしいんですが、それを一気に解決するにはイエルハルド国を手に入れるのが一番だと考えたのでしょう。コルプス帝国はずっとイエルハルド国には手出しして来ませんでしたがザイアス王は違ったようで、王宮にはかなり前からコルプスの密偵が入り込んでいたのです。だから女王を失ったイエルハルド国の崩壊はあっという間でした。イエルハルド国は本当に小さな国です。領土は一つの貴族の領地ほどと言ってもいいくらい。そんな国の王族を潰すことなど彼に取ったら造作もない事だったでしょう」



 「そうね。聖獣はすべてイエルハルド国のものだったって事?」


 「はい、そう言えば赤ちゃんが生まれたとか、きっとアリーシア様がいたからですよ」


 「ああ…それで私は聖獣に懐かれていたのね」


 「そうです。何しろあなたは正当な飼い主です。それに魔樹海は元はそれは美しい樹海でしたのに…憎しみや恐怖。多くの血が流れました。そんな森には悪い気がたくさん発生します。人のいなくなった樹海に悪い瘴気。魔獣が増える要素しかありません」


 「ええ、せめて魔樹海から魔獣を失くして元の美しい樹海を取り戻せたらどんなにいいか…」


 「はい、アリーシア様。イエルハルド国を元に戻すことは出来ないでしょう。ですが魔樹海を昔のような美しい樹海に戻すことは出来るかも知れません」


 「ええ、クレア。私、頑張るから。せっかくガロンが魂をつなげて大きな魔力が使えるようになったんだもの」



 「それは素晴らしい事です。でも、アリーシア様くれぐれもイエルハルド国の王女と気づかれませんように」


 「ええ」


 私はどうしてと思った。すぐにクレアが話しをし始めた。



 「元イエルハルド国の密偵が王族の動向を探っているのです。ザイアス王のあくどいやり方のせいでどうやら神殿の3種の神器である魔源石であるコファルの力が衰退の一途をたどっているらしいのです。昔はわかりませんでしたがフローラ様を狙ったのはどうやら王女の持つ女神の加護の力だと思われます。女神の加護があればきっとコファルは一気に力を取り戻すのではないかと思われます。フローラ様が亡くなった事で今では聖女と聖獣がその代りをしていますがもしアリーシア様の素性が知れれば…」


 「ああ、オークの森の浄化も聖女と聖獣のおかげだと聞いたわ」


 「はい、オークの森の中にコファルがあるらしいのです。古代の神殿がそこに会ったと聞いております」


 「そう言う事」


 私はやっとすべての謎が解けたと納得した。



 クレアはすべてを話してやっと落ち着いたのかほっとしたように息をついた。


 そして私の手を取って…


 「アリーシア様。あなたに魔力があると知れて王都バカルに行ってからもずっと秘かに元イエルハルド国の者が貴方をお守りしておりました。それでもいつ何が起こるかもとずっと心配でなりませんでした。ようやくこの地に帰って来られて私はやっとほっと胸を撫ぜ下ろしたところでしたのに…まさかガロンが全てを暴露することになるとは…どうか今までのご無礼お許しください」


 静かに首を垂れた。



 「クレア。やめて。私を守ってくれたのはあなたじゃない。お礼を言うのは私の方よ。クレア今までありがとう。これからもあなたの事お姉さんと思っていい?」


 「アリーシア様…私の方こそどうかいつでも頼って下さい。どんな事でもあなたのためなら」


 「クレア、私はもう王女じゃないのよ。イエルハルド国はなくなったの。もう私はただのアリーシアよ。だからアリーシア様何て言わないでよ。今までもこれからも…」


 「はい…」


 私達は手を取り合って力を合わせて行こうと誓った。




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