第18話 何で俺が?(リント)


 俺リントはエクロートに誘われて一緒に飯を食うことに。


 エクロートはイエルハルドが滅んでから騎士隊に入って来て苦労してロイド殿下の側近にまで上り詰めた男だった。


 彼とは王都の騎士隊にいたころからの知り合いでアリーシアの前では少しかしこまった口調になったが普段は友達同士でくだけた話し方が常だった。



 「おい、エクロート。お前な、早くあいつを連れて帰れ。これ以上ここにいたらみんなが変に期待し始めるだろう。国王が殿下との婚約を望んでるならどうあがいたって覆すことは出来んだろ!」


 俺はエクロートになるべく小声でまくし立てた。


 エクロートはスープの入った器を差し出すとふたりで木の根元に座った。


 「まあ、とにかく食べたほうがいい。またいつ魔獣が出るかもわからないんですよ。隊長がそんなにイライラしてどうするんです?」


 エクロートのとりとめもない態度に少し調子が狂うが胸の内はアリーシアに対する不満が渦巻いていた。



 (それにしてもアリーシアには驚かされたばかりだ。まずガロンが言うことを良く聞く事。アランの病気もあっと言う魔に直して、まあ、それは感謝しているんだが。今日は今日でこんな所までついて来て待機していろと言ったのに魔樹海にまで出しゃばって来て。怪我を治してくれるのは有難い防御魔法を施してくれたのも助かった。でも、あいつはここにずっといるわけじゃない。隊員がいつも聖女を当てにするようになったらそれこそどうしてくれるんだ?


 いつだって俺達だけで魔獣を倒して行かなきゃならないのに…あいつはそんな事もわかったいないくせに!!)



 イライラしながらもエクロートの言う通りだと俺はスープに口をつけた。サンドイッチも口に運ぶ。


 「リント。実はアリーシアの事なんだが…」


 「なんだ?改まってお前らしくもない」


 「ああ、実はロイド殿下はミリアナとこのまま結婚したいそうなんだ」


 「ハハハ。そりゃ無理だろう?ザイアス国王がうんとは言わないだろう」


 「ああ、だがな、ミリアナは宰相ルド・グロギアスの娘だ。どうやら本格的にザイアス国王と対立が始まるんじゃないか。まあ、それは置いておくとしてもだ。アリーシアもロイド殿下と婚約するのは絶対嫌だと言ってる。お互いそんな気持ちのままうまく行くとも思えん。そこでだ。お前アリーシアと婚約しないか?」


 俺はむせてスープを吐き出す。


 「コホッ。コホッ…お前。悪い冗談はやめろ」


 「冗談で言えるか?本気だ。いや、婚約は見せかけでいいんだ。本気で婚約しろとは言っていない。黒翼騎士隊隊長のお前がアリーシアと婚約するとなれば国王も無理は言えなくなるだろう。何しろザイアス国王は独裁者だが、ここ最近は議会もうるさい。それに属国の情勢も怪しくなっている。それにロイド殿下にはグロギアス公爵がつく様子だし、だとしたらこれ以上無理強いは出来なくなって来る」


 「だからといってどうして俺が?」


 「はッ?他に誰がいるんだ。これだけいい話はないだろう。お前は結婚する気は更々ない奴だし。これ以上安全な相手はいない。アリーシアにもそこは大丈夫だと言えば納得してくれる。だろ?」


 「なんだ?まだ彼女には話してないのか?」


 「話しかけたが魔獣騒ぎで…な。だから先にお前から責めることにしたんだ」


 「ほら見ろ。あっちも嫌がってるんじゃないか。無理だ。こんな話引き受けられるか!」



 そんな話をしているとガロンが「きゅぅぅぅ、ぎゅぅぅ。きゅっきゅっ‥」と楽しげな声を上げた。


 ふたりはガロンを見た。


 アリーシアがガロンと一緒に食事をしている。


 ガロンは水を器に入れてもらい大好物の干し肉とドライフルーツを貰っているらしい。


 「もっ、ガロンかわいい。すごくカッコよかったよガロン。頑張ったね。えらいよ」


 「きゅきゅきゅきゅぅぅぅぅ~」(フローラに褒めてもらってうれしいよ~)


 ガロンは今まで見せたこともないような姿を見せた。


 アリーシアの顔にすり寄り甘えるように首を何度もこすりつけて…



 (ガロン。お前裏切る気か!)


 「アリーシア。あまりがロンを刺激しないでもらいたい。まだ戦闘になるかもしれないんだ」


 「ぎゅ!ぐろぉぉぉぉ~ぼぉぉぉぉぉ~」(何で邪魔する?ぐぉぉぉ。お前なんか主人でもないくせに)


 ガロンはリントに向かって火をはいた。


 まあ、威嚇程度の炎は俺の所まで届きはしなかったが、俺はショックだった。


 「ガロンお前そんなにアリーシアが好きなのか?俺よりもそいつがいいのか?」


 「隊長、ガロンはそんな事思っていませんから。ねっガロン」


 「きゅきゅるぅぅぅ!がふっ!ぐぅぅぅ」(今すぐ僕はフローラの物だって言ってくれない?そしたらあいつなんかと)


 「ガロン。それは無理なの。わかるでしょう?」ガロンにだけ聞こえるように話す。


 アリーシアはフローラでもないし増してガロンの主人でもない。


 「ぎゅぅぅぅ~ぎゃふっ、ぎゅぎゅぎゅぅぅぅ」(いやだ~そんなのいやだ~)


 「ガロン。それ以上無理言うなら私はもうあなたと会わないわよ」


 アリーシアは無茶を言うガロンに怒る。



 「ガロンお前おかしいぞ。一体どうしたんだ?」


 つかつかとリント隊長がガロンのそばにやって来る。


 「アリーシア。ガロンに何をした?言うんだ!」


 俺は彼女の前で怒りで眉を吊り上げた。


 アリーシアは少し困った様子で言った。


 「隊長、ガロンは私に怒るなって言ってます。隊長、意外と嫉妬深いですよね。ヤキモチです?」


 してやったり顔のアリーシアにさらに怒りが増した。


 「うるさい!ガロンも覚えてろよ!」


 (誰がこんな女を嘘でも婚約者なんかにするか!)


 「エクロート。さっきの話無理だからな」


 「おい、リント。考え直してくれ。頼む」


 俺はそれ以上聞く耳を持たなかった。




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