第14話 魔獣が出た


 私はそのまま寝たらしくネクノさんが声をかけて目が覚めた。


 「昨晩は良く寝ていらしたので、きっとお腹が空いていると思って朝食をお持ちしました」


 「まあ、私ったら相当疲れてたみたいで…ぐぅぅ~」


 そう言えばお腹が空いている。


 私は素直に持って来てもらった朝食をベッドの上で食べ始めた。



 しばらくしていきなり表が慌ただしくなる。


 「なに?」


 窓から顔を出して外の様子を伺う。


 「魔獣です!魔樹海から魔獣が現れたそうです。どうやら村に向かっているようです」


 黒翼騎士隊の隊員がリント隊長に知らせに来たらしい。


 「ま、魔獣?大変!」


 表には騎士隊員が沸いて出たように溢れている。


 もちろんそこにはリント隊長もいた。リント隊長はガロンを連れて行く気だろうか?


 (そうだ。ガロンはもう大丈夫なんだろうか?…あっ、そう言えば昨晩おかしな夢を見た気が…)


 ふと昨晩のおかしな夢を思い出すが今はそんな事を言っている場合ではないと気づいた。


 そう思ったらじっとはしていられなくなった。


 「ネクノさん、私ちょっとガロンの様子を見に行ってきます」


 「で、でも、ここにいた方がいいのでは「大丈夫です。すぐに戻りますから、じゃっ」‥はぁ」


 ネクノさんは呆れた様子で私は大急ぎで聖女服を着るとすぐに部屋を飛び出した。


 走ってガロンの獣舎に向かう。途中で騎士隊員が一斉に準備をしている倉庫のそばを抜けて真っ直ぐ獣舎を目指す。



 「ぎゅわぁ!」(フローラ?)一瞬ガロンの声が聞こえた気がした。


 「こらガロン。そっちじゃない。お前はあっちだ。おい、なんだ?どこに行く?」


 ガロンはアリーシアの匂いを敏感に感じ取ったらしく、一目散にアリーシアを目指した。


 「がふっ、ぎゅるぅ~」(会いたかった。どこ行ってたんだよ)


 私は思わず振り返った。ガロンが目の前にいた。


 「ガロン、お前大丈夫?フローラって誰?私はアリーシアだよ」


 「ぎゅぎゅぎゅぅ~」(違うよ。フローラ会いたかったよ~寂しかった~)


 ガロンは殿下の言う事も聞かず私に顔を摺り寄せた。


 「私もだよガロン」


 私は戸惑いながらもガロンを撫ぜる。


 「ガロン、アリーシアに助けてもらったからわかるが、今は急がないと、さあ行くぞ」


 「ぐるっ、うぎゅぅ~うぅぅぅ~」(えっ?やだ。僕のご主人はフローラなんだ!)


 突然ガロンは怒りだしてリント隊長を乗せている背中を盛り上げてを振り落とそうとする。


 彼は黒っぽい騎士隊服に鎧をつけて魔剣を背中に背負っていた。


 「ガロン!おい、やめろ!何してる。俺はお前の主人だぞ。こらガロン!」


 「隊長すみません。ガロン。ほら大人しくしないとだめだよ」


 「きゅっ?きゅっぎゅぅぅぅ」(だって、フローラ…)


 私はガロンが自分をフローラと言う人と勘違いしていると思う。それにして昨日食べた毒のせい?


 いや、今はそんな事を考えている暇はない。


 「ガロン。そんな事を言ってはだめよ。さあ、隊長と行かなきゃ」


 「そうだガロン。ほら行くぞ」


 ガロンは手綱を引かれても動こうとはせず、ふてたようにすっと脚を曲げて腹を地面につける。



 「おいガロン。いい加減にしろ。こうしている間も人が襲われているかもしれないんだ。さあ、行くぞ!」


 リント隊長はガロンにはめられている手綱を強く引いた。


 「びぇぇぇ」(ちぇっ!)


 「そうよ。ガロン。さあ早く立って!」


 私はガロンをなだめるようにそっとその硬い皮膚に触れた。


 ガロンは機嫌が悪そうにしながらのっそりと立ち上がる。


 ちろりと視線を向けられると何だか心が痛んだ。



 何か自分にもできることはないかと思う。


 「でも隊長、きっとけが人も出るはずです。私も行きます」自然と声が出ていた。


 「それは有難いが、君はせいぜい後方支援で頼む。おい、誰か馬を。彼女を乗せてやってくれ。けが人の治療をしてくれる聖女だ」


 他の騎士隊員が駆け寄って来る。


 「聖女様がご同行をしてくれるんですか?これは有難い。すぐに馬の準備を…」


 「ああ、頼んだ。俺は先に行く。行くぞガロン」


 「きゅぅぅぅ」(じゃ、あとで。必ずだよフローラ)


 ガロンは私は行くとわかったからか大人しく翼を広げるとリント隊長と一緒に空に向かって飛び去った。


 (それにしてもフローラって誰なんだろう?ガロンが見間違うほどその人に似ているのかもしれない。後で誰かに聞いてみようか…)


 私はそんな事を思いながら騎士隊員が準備してくれた馬に乗り騎士隊員と一緒に魔樹海に向かった。


 もちろん聖女服などではなく乗馬ズボンをはき分厚いコートにマントを羽織った。


 それに魔樹海は瘴気があるらしいので防護マスクも渡された。


 私は聖女なのである程度の瘴気なら問題はないが、一応念のため借りることにした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る