第10話 真実が分かる

 それから騎士隊に戻った私たちは「誓約書を書け!」「いいえ書きません!」の攻防戦を繰り広げ結局私はまたあの部屋に拘束された。


 その翌日だった。王都バカルから赤翼騎士隊のルーサー・エクロートと言う騎士が来た。


 彼はリント隊長に新たなアギルの件について報告に来たらしい。


 私は隊長の執務室に来るように言われて部屋に入った。



 「お久しぶりです。聖女アリーシア」


 ソファーに座っていた赤翼騎士隊の隊員が立ち上がって微笑んだ。


 年の頃ならリント隊長と同じくらい。髪は黒色で瞳はダークブラウンだろうか。鍛えられた逞しい体躯にその微笑みは穏やかだ。


 「お久しぶりです。エクロートさん」


 彼の顔は知っていた。ロイド殿下の側近で彼のそばについていたから。


 だが、あまり親しいわけでもなかった。話をしたのも数回程度だったと思う。


 そんな彼がどうしてここに?


 そう思っているとリント隊長が話を始めた。彼は一切の感情のないような声色でそう言った。


 「いいから座ってくれアリーシア。実はエクロートからアギルの件で新たな事実が明らかになったと知らせを受けたところだ。詳しい事は今から聞く。君も関係者だから呼んだ」


 「事実って?」


 「その事については私から説明を…」


 そう言ったのはエクロートさんだった。


 彼の話によるとアギルの毒を盛ったのはミリアナ様の家の者でミリアナ様もその事を知っていたらしいとわかった。


 どうやらロイド殿下がいよいよ王太子となる事がはっきりしたらしく、王妃になるのが平民上がりの聖女ではと反対する者がいたらしい。


 ~ここで説明を~


 ロイド殿下には兄がいた。ジョイナス王太子だ。彼は赤翼騎士隊の隊長をしていて聖獣は赤竜のガロンを連れていた。


 だが4年前、ガロンに乗っていて落雷に撃たれたガロンとジョイナス王太子は一緒に墜落した。


 そしてジョイナス王太子は亡くなった。ガロンは火の竜。雷に打たれても大したけがではなかった。


 ザイアス国王は酷く落ち込んだ。聖獣であるガロンを殺すわけにもいかず、しかし赤翼騎士隊にガロンを置いておくのは我慢できなかったらしくガロンを黒翼騎士隊に移動させ赤翼騎士隊にはダイアウルフのアギルを連れて来ると言うことになった。


 いずれは赤翼騎士隊の隊長にロイド殿下がなるとわかっているからの措置だった。


 それでアギルの一件だが。


 ミリアナ様のグロギアス公爵家は歴代宰相を輩出してきた家系で同じ聖女ならばミリアナ様がふさわしいと言う意見が多くなったが、ザイアス国王は身分など構わないと言う人でこのままで構わんと言ったらしい。


 それで何とか私を貶めて婚約を撤回させようとアギルに腹を下す薬草を与え毒が盛られたと騒ぎ立てて、私が毒を入れた食べ物を食べさせたとうその証言をしたらしい。


 証言をしたのはグロギアス公爵の息のかかった飼育員でエクロートさんたち一部の人が調べて分かったと言う事だった。


 「あの、それで私はどうなるんです?」


 「それはもちろん婚約は元のもどすとザイアス国王はおっしゃっています。どうでしょう。私と一緒にバカルに帰ってもらえませんか?」


 「そんな…ロイド殿下はなんと?私はあの方に嫌われているんです。帰ったとしても私の幸せはありません」


 「でも、アギルは寂しがっています。どうか考えてはいただけませんか?」


 「でも、殿下はミリアナ様と婚約したはずです。それをまたのこのこと帰るなんてそれこそ王家の威信にかかわりますよ。私は帰りません。ここがいいんです。辺境が好きなんです!」


 (もう嫌だ。心が悲鳴を上げた。あんな場所には二度と帰りたくなかった。いつも蔑まれ小さくなって息をひそめるようにして生活して来た。アギルの事は心配だけどミリアナ様もいる。飼育員だっているじゃない)


 私はうなだれて肩を落としていた。


 「ハハハ。まあ、そう言われると思っていました。殿下が決めた事です。彼が困ってもそれは仕方のない事です。私もあなたにはここが似合うと思います。アリーシアさんの居場所はここだと思いますよ」


 エクロートさんはうんうんと頷きながら私の意見に賛成してくれた。


 (おかしな人だ。ロイド殿下の味方かと思えば私の意見を尊重してくれて…でも、私、そんなに浮き浮きなんてしてるように見えるのかな?こんな所で押し問答をしてるのに?)



 ふっとリント隊長と視線が合う。


 彼は私を食い入るように見つめていて私は思わず目を反らす。


 「アリーシアは無実だったのか?」彼はぽつりと零れるように聞いた。


 「はい、もちろんです。彼女はそれももうアギルからも他の聖獣からも慕われていたんです。彼女はまるであいつらと会話でもしてるかのように話をしてそれで聖獣たちもうなずいたり声をあげたりして、飼育員でそんな事が出来たのは彼女だけで…俺達も最初は驚きましたから」


 「あぁぁ…それでガロンがあんなに…」


 リント隊長が納得したように目を閉じる。



 「あの、それで隊長。アリーシアさんはどうしてここにいたんです?」


 エクロートは疑問を口にした。


 「えっ?ああ、彼女は違法行為をしたんです」


 「違法行為とは?」


 「平民に治癒行為を行ったのです。この国では聖獣、騎士隊員、貴族以外に魔法を使うことは禁じられてますから」


 「平民に治癒をですか?でも、困っている人を見過ごすのはキルベートでは無理なんですよ。ここはそう言うところです。あなたが育った王都とは違うんですよ」


 「一体何が言いたいんです?ここもコルプス帝国のはずですが?」


 「ええ、ですが元はイエルハルド国でした。イエルハルド国では民はすべて治癒魔法を受けれる権利がありました。国王はそう言う優しく穏やかでいい人でしたから」


 エクロートさんは懐かしむようにそう言った。


 「アリーシア。君はここに留まりたいんだね?」


 「はい、もちろんですエクロートさん」


 「アリーシアを解放して下さい!」エクロートさんが隊長に命令する。気迫のこもった言い方で唾けが飛んできた。


 「ああ、いつでも。ただし誓約書にサインをしてもらう。二度と力を平民に使わないとね。ドン!」隊長テーブルを拳で叩く。


 「あの、ふたりとも落ちついて…」


 リント隊長とエクロートさんが睨みあう。40代のおっさんの睨み合いはかなりのえぐさである。


 私は…(どうでもいいので私を帰してほしいんですけど…)と心の中でつぶやいた。



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