第5話:守らなきゃ
三学期が終わりに近づいてきたある日。その日はあまりにも生理痛が酷く、学校を休んだ。
一日中寝て、気付けば下校時間を過ぎていた。寝ている間に月子とすれ違ったりしていないだろうかと母に確認すると、母は苦笑いしながら「まだ来てないよ」と答えた。
「そう……まだ……」
彼女なら下校してすぐに駆けつけてくれるはずなのに。何かあったのだろうかと心配していると、インターフォンが鳴った。母が出る。機械越しに彼女の声が聞こえた瞬間、痛みも忘れて玄関に飛び出した。
「うわっ。びっくりした。お、思ったより元気そうだね?」
「月子に会えたのが嬉しくて。上がって上がって」
「あ、うん……お邪魔します」
その日の彼女はなんだか様子がおかしかった。学校で何かあったのかと問うと、大丈夫だよと答えた。何もないとは言わなかった。
「あー……ごめん。その……何か無いわけじゃ……無いんだけど……」
「うん」
「……うん。ごめん。今はちょっと……話せない。で、でも……いつかはちゃんと話すから。話したくないわけじゃない。むしろ、話したい。聞いてほしいんだ。いつになるかは、ちょっと……分かんないんだけど。必ず話すから。だからその……信じて、もらえないかな」
不安げな顔でそう言われてしまっては、今すぐ話してほしいなんて言えなかった。
「ごめんね。不安だよね」
「……ううん。信じるよ。月子のこと」
「うん……ありがとう。私も、君のこと信じるよ。王子様じゃない、弱い私を好きだと言ってくれた君のこと」
「……うん。話してくれるまで、待ってるね」
「うん」
翌日から月子は、やたらともう一人の王子様のことを気にするようになった。様子がおかしかったのはあの子のせいなのだろうかと思っていたある日の休み時間。次の授業のために体育館へ向かっていると、向こうから月子が歩いてくるのが見えた。隣には一人の男子。黒王子にいつも引っ付いているあの男だった。
「あ。帆波だ。次体育? 頑張ってね」
それだけ言うと、彼女は男と一緒に去っていく。彼は私をちらっと見た後、彼女に何かを言う。彼女も私に目をやった後、こくりと頷いた。それを見た彼は柔らかく微笑む。誰かが言う。「あの二人、あんな仲良かったっけ?」と。声が聞こえた方を見る。発言した人の視線は月子と彼に向けられていた。ざわつく胸を抑え、二人に背を向けて足を早める。月子は私に言った。誰よりも大切で特別だと思っていると。私はそれを、恋愛感情を抱いていると解釈している。親友という言葉は、恋心を認めるのが怖い気持ちと、認めたい気持ちで葛藤した結果出た言葉だと。そう思っていたが、深読みし過ぎていたのだろうか。好きなのだろうか。彼のことが。そうだとしたら、黒王子のことを気にしていたことにも辻褄が合う。いつか話したいこととはそのことだろうか。だとしたら、聞きたくない。湧き上がる不安を彼女にぶつけることは出来なかった。信じると約束したから。話してくれるまで待つと約束したから。信じてもらえない辛さを、私はよく知っているから。私が味方をしてあげなきゃ。私が。私があの子守らなきゃ。そう言い聞かせ、疑念と嫉妬心に蓋をした。
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