第4話:友達のままは嫌だ

 気まずいまま別れた翌日の朝。私は悩みに悩み、彼女の家まで彼女を迎えに行った。インターフォンを押すのを躊躇っていると、出てきた彼女と鉢合わせた。驚く彼女に、私はいつものようにおはようと声をかける。彼女は何故きたのかと言わんばかりに唖然としてたまま、挨拶を返してくれない。来るべきではなかったかと問うと、ハッとして首を横に振った。


「いや……今日は来ないと思ってたから……」


「どうして?」


「どうしてって……」


「……私と一緒に学校行くの、嫌になった?」


 やはり昨日は踏み込みすぎてしまったのだろうか。彼女との友情もここで終わってしまうのだろうか。不安になる私に、彼女ははっきりと言う。「君のことを嫌いになんてならないよ」と。


「むしろ私は……」


「私は?」


 その先の言葉を聞きたい。私を信じてほしい。想いをぶつけるのを堪え、彼女の方から言葉を発するのを待つ。彼女は私から目を逸らしながら、途切れ途切れに言葉を放つ。放たれた言葉は昨日と同じ。『友達だと思ってる』そう口にする彼女は、苦しそうだった。本音を知りたい。だけどそれ以上は彼女を苦しめたくなかった。


「……私も月子が大好きよ。君が嫌いな弱い君も。月子は私の大切な、一番の友達。だから……これからもずっと、私のそばに居て。友達としてで良いから」


 彼女のそばに居られるなら、名前なんてどうでも良かった。一番であり続けられるなら、それで。申し訳なさそうな彼女に大丈夫と微笑む。私が守るから。ずっと、守ってあげるから。


「……良いの。月子の気持ち、分かるから。だから……友達で、いいの」


 本当に? と、もう一人の自分が問う。本当にただの友達で良いのかと。無視をしていると、私ではなく彼女が叫んだ。私は嫌だ。帆波と友達のままでなんていたくないと。一瞬、友人だった彼の顔がよぎった。違う。あんなのとは違う。月子の私に対する想いを、あんな穢らわしいものと一緒にしたくない。動悸を抑え、彼女の言葉を待つ。出てきたのは、親友という言葉だった。


「え?」


「友達じゃなくて、親友だと思ってるから!」


「親友……」


「っ……ごめん……と、とにかく……その……私にとって君は、誰よりも特別で……大切な人なんだ。だから……ごめん……」


「……嬉しい」


「え?」


「私も君のこと、大切で、特別だと思ってるよ」


 それは友情ではないと、彼女は訴えたいのだろう。私にはどうでも良かった。ただ、特別で大切。その本音が聞けただけで充分だった。だけど彼女は納得していなかった。奥底に眠る本音を伝えられない自分を責めていた。誤魔化さずに話したい。ちゃんと彼女を信じたい。そんな彼女の想いがたまらなく嬉しかった。

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