異世界ヒーロー
みやび
第1話 異世界ヒーロー
「もうすぐあの時期だね!」
幼馴染であるまゆが興奮気味に僕に言ってきた。
あの時期とは、僕の住んでいるこの村で1年に1回開催される祭りのとある儀式の事だろう。
その祭りは僕が生まれる少し前にできた祭りのようで、この村にしては珍しく外からも大勢人が来るほど賑わう。
その理由はこの村の中心に聖剣があるからだ。
その聖剣は地面に刺さっており大人が何十人と力を合わせて引き抜こうとしても抜けない程だ。
村長曰く
「聖剣に選ばれし者にしか引き抜けんのじゃっ!!」
…だそうだ。
まぁ、そんな話を誰かれかまわず話しているうちに
あれよあれよと大勢の人が村に押し寄せてきたのだ。
我こそはと言わんばかりに毎日人が押し寄せて来て流石の村長もそんな状況をよしとせず1年に1回のみ
聖剣へ挑戦できる日を設けた事がこの祭りの始まりらしい。
だが、実際は聖剣なんて呼ばれてはいるがその剣が一体なんなのか。いつからそこに。なぜ抜けないのか。その全てが不明だ。
こんな祭り事のようになる前は
この剣は村の神様のようなものだったらしい。
村を出て外へ出稼ぎに行く者。森に食材を探しに行く時。諸々、何かあるときにはこの剣の前に行き御参りをするのが通例だったらしい。
なぜこの剣がそれほど祀られていたのかというと
この村は剣を中心として民家が建てられているからだ。
否が応でも村の中心にあるこの剣を意識せざるを得ない。
その考え方が剣を神にしたのだろう。
それが今じゃ祭りの出し物にされるなんて神も報われないなぁ。
「ミライも聖剣に挑戦するの!?」
まゆが僕にまた興奮気味に言ってきた。
「いや、僕はあまりそういうのには興味ないかな」
まゆは頬を膨らませて僕を睨んでいる。
いや、ホントつまんない男ですみません…。
我ながらそう思う。
「そんな事よりもうすぐまゆの誕生日だよね。何か欲しいものとかある?」
これが僕が今日まゆに聞きたかった本題だ。
「んー。何もいらない!ミライがいればそれでいいー!」
まゆが僕の胸に飛び込みながら言った。
まゆも僕も今年で17歳になる。
まゆの両親も僕の両親も僕たちが7歳の時に亡くなった。
以来、村の人の協力もあり2人でなんとかここまでこれた。
17歳。つまり成人になる。
まゆが先に成人になるけど僕も少し遅れて成人になる。
成人になると何がいいかというと村を出る事ができる。
町にでて商売を始めるもよし、冒険者になるもよし。
自由になる。
僕はまゆと町にでて商売を始めようと思っている。村を出て商売をしたい僕にはありがたいこの村は外から大勢の人が1年に1回やって来る。そんな人達に話を聞き、すぐには成功しないかもしれないけれど昔から色々考えて来た計画がある。
食べていくには申し分ないはずだ。
問題はまだまゆにこの話をしていない。
断られたりしたらどうしようと中々話せずにいた。
まゆの誕生日前には話さなきゃなぁ…
そうだ!来週の祭りの日に話そう!
そう心に決めた。
一体何が起きている
村が燃えている
今日は祭りの日だったはずだ。
村に来て聖剣を抜こうと挑む人達を見物し夜にはまゆに
村を出ようと言うはずだった。
その後僕の誕生日を迎えたら町に出て商売を始め、軌道に乗ったらまゆにプロポーズしてそれから…。
どうしてこうなった。
村が燃えている。人が死んでいる。僕たちの家が燃えている。
こんなにも動揺するものなのか。こんなにも呆気ないものなのか。なんでどうして
まゆは?
まゆは何処にいる?そうだ。絶望してる場合じゃない!
今すぐまゆを探して逃げなきゃ…
僕の腕の中にいるこの女の子は誰だ?
冷たい。こんなにも周りが燃えているのに。こんなにも僕の体は熱いのに。この子はとても冷たい。
雨が降って来た。
いや、これは涙だ。僕は泣いていたんだ。
この子は この冷たい女の子はまゆだ。
「あれ。まだ生きてる人いるじゃん」
そうだ。コイツだ。聖剣の挑戦者の中にいたこの男が村をまゆをこんな目に合わせた元凶だ。
「なんでこんな事…なんで!!」
「探しているんだ。」
「何を!」
「主人公をだよ。」
は?コイツは何を言っている?
「主人公っていいよねぇ。どんな逆境にも負けず弱気を助け悪を挫く。憧れるなぁ。会いたいなぁ。」
コイツは何の話をしているんだ?
主人公を探している?
主人公てのはアレか?本や絵本や伝承で出てくる勇者とかそんなの事か?
「だったら何で人を殺すんだよ!村を…まゆを…なんで…!」
「考えたんだよ。主人公を探すには会うためにはどうしたらいいかって。」
「そして思いついた。」
「人をいっぱい殺せばいいんだって!」
「は?」
「いやだってそうでしょ!?主人公に会うためにはこれしかないんだよ!人間はウザい事にウジャウジャいるからねぇ。その中の1人。たった1人のこの世界の主人公に僕が会うためにはきっと僕がいっぱい人を殺す事でしか会えないんだよ!」
「主人公にもし僕が会えたなら。僕のようなモブじゃきっと殺せないだろうからねぇ。
僕が殺そうとしても殺せない人。きっとその人が主人公なんだって!会う方法を思いついたんだぁ!」
狂っている。
話を聞くだけで吐き気がしてくる。
ダメだ。コイツの話を聞くのはダメだ。
どうにかなってしまいそうだ。
そんな事のために村を…まゆを…!
「話しすぎたかな?まぁいいか。」
アイツが近づいてくる。
僕もコイツに殺されるのか。
こんな事にならなければ僕はどんな人生を送ったのかな。
今日まゆに村を出ようと話をしたらまゆはなんて言ってくれてたのかな。
喜んでくれたかな。断られたのかな。
もういい…。
もう疲れた。
「まゆ大好きだよ。」
思わず口に出てしまった。
言いたかった。伝えたかった。村を出なくたっていい。
大人ぶりたかっただけだ。
ただ、まゆと2人でいれるなら僕はそれでよかったんだ。
「私も大好き。」
まゆの声がした。
大好きな人の声が。
もう聞けないと思ってた。伝えられないと思ってた。
伝わった。伝えられた。大好きな人に大好きだと言ってもらえた。
「生きて。」
まゆにそう言われた直後
村の中心が揺れた気がした-
目の前で剣が浮いている。
僕はこの剣をよく知っている。
いや、知ってはいない。だが子供の頃から見てきていた。
この剣はあの聖剣だ。
でもなんで急に目の前に?
「え、何これどう言う事」
アイツも流石に目の前で急に起こった事象を飲み込めていないようだ。
剣を警戒して動きを止めている。
何で急に剣が目の前に来ただとか
剣が抜けている事だとか
全部今はどうでもいい。
村のみんなをまゆをめちゃくちゃにしたコイツを倒す事ができる方法はもうこれしかない…!
僕は目の前の聖剣を手に取った。
その瞬間、意識が遠のいていった
「…何を望む」
声が聞こえた。
女性の声?
「私を使って何を望む。」
何を望むって…。そんなものは一つだけに決まってる。
「まゆを助けたい!助けて欲しい!」
「…無理です。失った命はどうにもできません」
失った命…?
と言うことはもう…まゆは…
ダメだまた弱気になってしまった。全部どうでも良くなってしまいそうになった。
…でもまゆは僕に言った。
生きて…と。
胸が張り裂けそうだ。
こんな気持ちを…こんな痛みを誰にも味わって欲しくない。
思えばこの気持ちを味わうのは2度目だ。
1度目は両親だった。
その時も突然僕の前から理不尽に奪われた…。
こんな気持ちを知っているのは僕だけでいい。
誰にも理不尽に奪われて欲しくない。
それなら…。
「人の大切を守れる力が欲しい。
理不尽から人を守れる力が!」
「え?」
「え?」
思わず僕も聞き返してしまった。
そんなに予想外な答えだっただろうか。
「他人のために私を行使したい。…と言うことですか?」
「はい。」
「なるほど…。ヒーローという奴でしょうか。」
「ヒーロー?」
どう言う意味だ?ヒーロー?初めて聞く言葉だ。
「ヒーロー。つまりこの世界でいう勇者みたいな人を指す異世界の単語です」
異世界…?それもよくわからないけど…勇者か…。
そうだな。
「人を理不尽から救える存在…ヒーローに僕はなりたい」
「それは茨の道ですよ」
「かまわない。」
「なぜそこまでして他人を助けようと言うのですか」
なぜ…か。
僕はその言葉を聞き子供時代…まだ親が健在だった時の記憶を思い出す。
父と母に遊んでもらっていた時。
父から将来、どんな大人になりたいか。質問された時。
僕は迷わず答えていた。
どうして忘れていたんだろう。
でも今、はっきり思い出した…。
「生きて」
まゆの最後の言葉を思い返す。
まゆ…僕だって君に…君に生きてて欲しかった。
僕じゃなくていい。誰とだっていい。
幸せでいて欲しかった
「だって…。」
「大切な人には生きてて欲しいじゃないか」
僕がそう言ったら聖剣…彼女が少し笑った気がした。
「わかりました。貴方を私の所有者として認めましょう」
「貴方…いえ我が主人が望む。理不尽から人々をきっと守る事ができるでしょう」
目の前が光に包まれた-
「その剣…聖剣だっけ?なんでこんなとこに?」
意識が戻ったようだ。
「へぇー抜けたんだ。いいね殺ろうよ。」
この世の中は理不尽に満ちている
1つ2つ乗り越えたとしても常に人の隣で理不尽は笑っている
なら僕が…俺がその理不尽を払い除ける
寝て起きれば当たり前に明日が来て欲しいから
大切な人に笑っていて欲しいから
俺は理不尽に対して刃を突きつける
「共に行こう」
俺は理不尽に剣を向けて言った
「聖剣-アザラス-ザバラス」
奴が笑いながら何度も拳を叩きつけてくる
俺はそれをかわしつつ様子を見る
「いいねぇ!最高だ!!」
奴は笑いながら何度も話しかけてくる
気持ち悪い
「お前は想像以上につまらないな」
俺はそう言った。だけど奴の攻撃はスピードも早く拳を一度でも受ければ普通なら致命傷になるだろう。
それほどの力を持っているにも拘わらず狂った思想に取り憑かれた哀れな男だ。
「本気でいくよぉぉぉ!!」
奴がそう言った後
大気中の水分が蒸発していき周りに巨大な炎の渦が出来上がっていく
「無秩序な炎-ラグナロクゥゥゥゥゥ!!!」
巨大な炎が俺に目掛けて放たれる
地響きを上げながら近づいてくるが
俺はそれを避けず受け止める
ドォォォォォォォォン
村中に音が鳴り響き辺り一面を煙が覆う
「さてどうなったかな」
煙が晴れていき
そこに無傷のヒーローが立つ
奴の炎を受け止められたのは他でもない
この聖剣-アザラス-ザバラス…いや俺達の能力のおかげだ。
俺達の能力は2つのみ。
その一つは
例外不認定-エクセプション
能力
この剣の所有者を世界は傷つけられない
つまり誰も俺に傷を…ダメージを与えることはできないと言うことだ。
理不尽を払い除ける絶対無敵なヒーローに相応しい能力だ。
そしてもう一つは…
「まさか…君が主人公!?!?!?」
奴が震えながら嬉しそうに言うのが聞こえた
奴の考え方に…気持ち悪いけどその考え方に寄った返答をするのであれば
「そうだな…。もし俺が主人公なら」
「お前は俺の新しい力を披露する為の噛ませだ」
俺達の2つの能力
その最後の1つは
不敗の英雄-ヒーロー
能力
相手の能力をコピーでき剣を通し行使する事が可能
「無秩序な炎-ラグナロク」
奴に対し奴の技を放った
「うそうそうそうそ!!!」
ドォォォォォォォォン
先程と同じ音が村中に鳴り響く
自分の技に焼かれる。狂った奴には相応しい最期だ
…それから俺は村の皆とまゆの遺体を弔った
その間、何度も泣いたししばらくその場で思い出に浸った。でももう弱気にはならないまゆの想いも背負ってるから
「行かなきゃ…。」
行かなくてはならない
まだしばらくその場にいたい自分の気持ちを押さえ込む
「もう、行くのですか?」
聖剣-アザラス-ザバラスが女性の姿で目の前に不意に現れた
てか意識の中以外でもその姿で出てこれるのか…
「行くよ。これ以上はウジウジしすぎだってまゆに怒られそうだし」
立ち上がって村を出ようとしたその時。
「いってらっしゃい」
後ろで声が聞こえた気がした
僕は振り返らず答えた
「いってきます」
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