猫ラーメンの短編
@Neco_Ramen
どこへ行ったの
耳障りな蝉の鳴き声が、桜並木に茂る青葉の間に染み入る夏の日でした。私はお地蔵様の横にしゃがんで、友達を待っていました。確か、虫取りか何かに行こうと約束していたような気がします。約束の時間になっても友人は現れませんでした。でも、当時はスマホなんてありませんでしたし、遊びたい盛りの小学生であって腕時計すら持っていなかったので、もしかしたら私が集合時間を間違っていたのかもしれませんね。まあ何にせよ私は、持て余した暇を、照りつける日差しの中で過ごす必要があったのです。ここに来る途中の駄菓子屋で買ったラムネは、もう随分と温く、微炭酸と強烈な甘味が、喉に不快な余韻を残しました。最後の一口を半ば強引に流し込んだ時、瓶に纏わりついていた水滴が一粒、首元のだらけきったタンクトップの内側に落ちて、浅黒く焼けた私の胸を少し濡らしました。冷たい感触に驚いた瞬間、影が動きました。影が動いた、というか、離れていってしまったのです。私の足元に繋がれていた筈の影は、一瞬こちらに視線を向けてから、田んぼの畦道をスタスタと歩いて鎮守の森へと消えて行きました。以来、私には影がありません。
猫ラーメンの短編 @Neco_Ramen
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