みみずくバーガーは今夜も眠れない
一矢射的
第一夜 カミソリと体温計
第1話 ユーチューバー、スメラギこういちは語る
グッド・ホラータイム!
みなさんは『ミミズクバーガー』の都市伝説って、ご存じでしょうか?
そう、SNSで話題沸騰中の例のアレ……。
「深夜のみ営業しているハンバーガー屋さん」の噂ですね。
なんでも店の利用者が怪異ばかり、いわゆる人外の類らしくて。
生身の人間が迂闊にそこへ足を踏み入れたら、タダじゃすまないとか。
しかし、私ことスメラギコウイチはユーチューバー。
普通は行けない所へおもむき、動画を撮影してくるのが生業です。
タダじゃすまない? むしろ上等じゃないですか。
そんなんでビビッていたらフォロワー百万人達成なんて夢のまた夢。
野心があるなら行動あるのみ! 行くっきゃない!
そんなワケで、ですね。
今日はそのミミズクバーガーの駐車場から撮影を始めようと思うんですけど。
調査だけに苦節半年。その辺りは過去動画を見返してもらえばって感じですね。
どうやら表向きは山道沿いの潰れたコインランドリーになっている「この場所」が、夜中のみ看板をつけかえてハンバーガーショップになっていると。どうもそういう事らしいんですよ。
では、以上を踏まえまして!
あれを見てください。建物の明かりがついています。
ファミレスみたいに煌々と照っていますね。
こんな山奥で、ひどく不気味です。車も何台か停まっています。
えーと、怪異もワゴン車を乗り回しているのでしょうか?
普段は人間のフリをしているのかもしれません。
その辺の秘密も中に入ってみれば判明するでしょう。
それではいよいよ突入です!
二日に一度の動画更新が途絶えたら、私の身に何かあったと思って下さい。
その際は警察へ通報を宜しくお願いします。というか、何かあったらこの動画そのものがまずアップされませんけどね。あはは。
我ながらお茶目な一面もある。それがスメラギチャンネルの魅力なのです。
すいません……突入前はバカ言ってないと落ち着かないもので。
編集では消そうかな、ここ。ちょっと嘘くさいか。
では、あらためて。お邪魔しまーす!
カランカラン(鈴の音)
店員さんはカウンターに二名。深夜でもワンオペじゃないとは素晴らしい。
客席はまばらのようですね。しかし、アレは!?
居ました皆さん! コレは間違いなく怪異です。
私の目が確かなら、アレはモスマンとチュパカブラ!
アメリカの都市伝説にして代表的なUMA!
ボックス席で向かいあって仲良くソフトドリンクを飲んでいます。
蛾の怪人とトカゲの怪人! どう見ても怪人同士!
いやぁ、特撮番組でもこんなシュールな画は流しませんよ……。
さて、他には……OLっぽいスーツ姿の女性、布マスクをしてますね。
それから、こんな店には珍しいお婆ちゃん。京都の祖母を思い出します。
あとは髪がぼさぼさの女性と、お嬢様ルックの二人連れ。
なんか期待してたのと少し違う……。
どうも人間が多いですね。少なくともそう見えます。
初見感想は、まずこんな所でしょうか?
では次にレジへ行ってメニューがどんな物かを見て……。
「あの、お客様?」
へっ? 僕ですか?
まさか店員さんの方から来るなんて。
へ、へへへ、何か問題でも?
「もしかしなくても、動画を撮影していらっしゃる?」
え、ええ。僕はしがないユーチューバーなもので。
いけませんか? せっかくの長髪イケメンが台無しですよ。
そんな怖い目をしないで下さいよ。
「申し訳ありませんが、そういった行為はご遠慮願えますか。当店は皆さまの『憩いの場』を目指して毎夜営業していますから。他のお客様に迷惑をかけ、店内の雰囲気を壊すような真似はくれぐれも謹んで頂きたいのです」
め、迷惑になりますかね?
「ええ、当店のお客様はとても恥ずかしがり屋さんばかりなもので。特撮のトカゲ怪人だの、髪がボサボサでいかにも漫画家っぽいオタク先生だの、そうも率直に感想を言われると傷ついてしまうのです、とても」
え? オタク? いや、そこまで言ってませんよ?
髪がボサボサの人、貴方の発言をメッチャ気にしてますけど?
メッチャこっちをガン見してますけど?
「とにかく、規則ですので。このカメラは没収です」
そんな困りますよ! まだローンも済んでないのに。
「文句があるのなら事務室の方へどうぞ。人前で出来ないハナシはそちらで済ませましょう。そちらなら客席に声は届きませんから、絶対にね……」
文句ですって? もちろんありますとも!
断固として抗議しますよ、こっちは客なんだ。
たっぷり話し合いましょう。店の事情も聞きたいし。
「……それでは店長、すいませんがお店の方を少しだけお願いします。処置が終わり次第、迅速に戻りますから。ええ、すぐに」
「お手柔らかにね、小金井くん。それから気を付けて、君はどうもやりすぎのキライがあるのだから」
「ご心配なく。あの方もスグに判って頂けますよ。すぐにね」
「やれやれ、これで三人目か。最近、ああいう連中が多くて困るよ。どうしてソッとしておいて欲しいコトを人は暴きたがるのか。いや、そういう人間が多いからこそ、都市伝説が廃れないのかねぇ。我々がやっていけるのも、あんな連中のお陰……か」
「店長、コーヒーのおかわり……もらえますか? 髪がボサボサのオタクでも」
「いや、恐山先生! ウチの奴が失礼しました。アイツには後でよく言っておきますから。人間でもルールを守ってくれるなら大切なお客さんだって」
「いいんです。私なんて、どうせ怪異に溶け込むような人間ですから……」
「ほらほら、漫画の締め切りが近いんでしょう? 頑張って取材をして下さい。都市伝説を題材とした新連載、楽しみにしていますから。ねっ、さぁ、コーヒーを飲んで気合をいれましょう」
「そうですね……今日はターボばば……ターボお婆さんから話を聞かせてもらえる事になっているんです。最年長だけあって、色んな都市伝説に詳しいから」
「ほう、何について調べるおつもりで?」
「腐れカミソリのキノコ床屋」
「また物騒な話を選びましたね。ご武運をお祈りしますよ。おや、小金井くんのお戻りだ。相変わらず仕事が早い」
「済みましたよ、店長。彼は戻ってこないでしょう、もう二度とね」
「記憶抹消もOK? お疲れ様、それじゃ戻って早速だけど、四番席にダブルブラッドバーガーをお願い」
「了解です。静かな夜になりそうで何よりだ、今晩も」
『モスモスモスモス……じゅるるるる』
「お前さ、いつも思うけど、他にもっとお似合いなバーガー店があるんじゃないのか? いや、どことは別に言わないけどさ。モスマンが居たらバカうけしそうな名前のチェーン店があるだろ? どことは言わないけどさ」
『モスモスモス……』
「悪かった、もう二度と言わないよ」
「はい、ダブルブラッドバーガー二つ、お待たせしました。ご注文の品は以上でお揃いでしょうか?」
『モスモス』
「ああ、全部だね」
「それじゃあ、ごゆっくり。お客様が快適に過ごせるよう我々も全力を尽くしますので。秘密結社イルミナティ・ゲートの名にかけて」
「……アンタも大変だね。いや本当に」
『じゅるるるるる……』
(その頃、表では)
……? はて? 私はこんな山奥でなにを?
物語の主役は自分だと、張り切ってまたバカをやっちまったのか?
とにかく麓を目指すしかないか。
脇役は早々に去るのみ、くわばら、くわばら。
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