第20話 壊れたオルゴール

 荒涼とした大地と青空が広がっている。

 住人の気配は無い。廃墟や壊れたテント、何かの残骸がポツポツと落ちている。

 緩やかな坂道を、ルイは上る。背後から、モナの足音が聞こえる。

「ここは、外の世界から来た研究者や探索員の拠点でした。今では想像がつきませんが、かつては小さな町のようになっていました。そこの大きな瓦礫はアパートでした。私はそこに住んでいたんですよ」

 薄いプラスチックの板と金属製の柱が乱雑に積み重なり、あるいは散乱する場所で、ルイは立ちどまる。食器の破片や、本のページ、壊れたオルゴールが、瓦礫の下に落ちている。

「あそこに見える、上部が吹き飛んだ塔は、次元の歪みを計測する施設でした。ココアが好きな研究員がいて、夜にあの塔へ行くと、ご馳走してくれたものです」

 丘の上に、白地に赤いラインの模様が入ったが立っている。塔は途中で途切れている。この距離から見ると、歪な台形に見える。

「ここに住んでた人達は? 死んだの?」

「結論から申し上げますと、はい。大勢が亡くなりました」

 ルイは下半分だけ残った塔に向かい、その前で足を止めた。モナはルイの隣に立つ。

 塔の麓から、丘の周りが見渡せる。

 すり鉢状の、巨大な窪みがあった。

 草一本生えていない、黒々と焦げた地面。微かに異臭が漂っている。窪みの反対側は霞んで見える。

「貴女のお兄さん達と会った後、私は迷宮探索のため、この世界に再び来た、数日後のことです。門が爆発しました」

「門が?」

「このクレーターの中心には、門がありました。門の周りには、門を維持するための施設があり、研究員や作業員がいました。骨の一欠片も残りませんでした」

「なんで爆発したの?」

「分かりません。私はその時、塔の一階にいました。突然、強烈な揺れと衝撃で床に倒れたところに、頭上から次々と物が降ってきました。幸い、アザができただけで済みましたが。他の研究員と一緒に塔の外に出たら、この景色でした」

 ルイは口を閉じ、巨大な穴しか無い、不毛の景色を眺めた。小さなため息をつく。

「門が壊れた以上、外部との連絡も取れません。そこで、生き残った人達で話し合いました。これからどうするのか、と。出た結論は、『もう一度、外へ繋がる門を開通させる』というものです。皆、各々の能力を発揮し、門を再構築しようとしました。私は、元々迷宮の地図を作るために来ましたので、迷宮を探索し、材料や道具を集める担当になりました」

「その門はできたの?」

「途中までは。もうすぐ、完成するはず」

「本当に?」

 モナはルイを睨む。

「本当に、その門はあるの? 私は兄さん達に会えるの?」

 モナの赤ワイン色の瞳に、うっすらと透明な膜が張っている。身体は震え、白い肌は、より一層色を失い、青白い。

「ええ、会えますよ。新しい門は、完成間近です」

 ルイは塔の入り口を指した。

 中に、装置があった。両開きの扉とそれを支える枠組みで構成されている。いかにも門、という形だ。

「あれが、外界へ繋がる門です」

 門は今、閉じている。開く気配は無い。

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