灰色の世界


 日本海側に住んでいるので、冬になると雨や雪の日がグッと多くなる。降らなくても、太陽が出る日がとても少ない。青空は分厚い雲に覆われ、昼間でも部屋の電気をつけなければ暗い。本を読んだりするには不便だが、この雰囲気は嫌いではない。むしろ好きな暗さだったりする。

 雨の音を聞きながらソファに寝転がり、ぼうっとする時間。しんしんと積もる雪を眺める時間。無駄だと思われてもいい。部屋が灰色に染まる日。あえて電気をつけずに暗い中過ごすこともある。しんとした中に、私しか動かない。モノクロの、生命力が無い空間が広がっている。

 電気をつけると、途端に有彩色になる。部屋がカラフルになり、命が吹き込まれるような感覚。そうなるのは大体家族が家に戻ってきた時だ。流石に自分だけの世界に身内を引き込むのは申し訳ないので、無彩色の世界になるのは自分一人だけにするのだ。

 雨の日は好きだが、雷が鳴るとそれは別。私には生まれつき聴覚に過敏があり、雷は大の苦手。無彩色とか灰色とか言っている場合ではない。急いで耳を守り、稲光が見えないところまで逃げていく。その時だけは、その暗ささえも苦手になる。逆に言えば雷さえ鳴らなければ暗く灰色の世界は大好きだ。我ながら都合のいい考えだ。

 もう時期冬が明ける。春に鳴ると太陽が出る時間も多くなる。灰色の世界とは、一時的にお別れだ。そうして暑い夏を過ごしながら、あの無彩色を思い出して懐かしむのだ。

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