僕はどこかで、君に支えて欲しいと思っている
あひるくん
僕はどこかで、君に支えて欲しいと思っている
『レイ、もう生きる希望ない。』
また電話でそういってきた。高校の頃からの付き合いである玲生(タマキ)は、自分の名前に入っている「玲」という漢字がお気に入りらしく、僕と二人でいるときは自分のことを「レイ」と呼ぶ。だから僕も普段は彼女をレイと呼ぶ。
『レイこの世にいる意味ない。』
レイとは、たまたま席替えで隣になったのがきっかけで仲良くなった。それから、LINEで授業の内容や課題などについてのやりとりをしていくうちに頻繁に電話をする仲にまで発展した。電話をするといっても内容はいつも決まってレイの病み電。病み電というと聞こえがよくないかもしれないが、僕は別に嫌じゃない。むしろ一人で抱え込むくらいなら僕に吐き出してくれと思っている。
『レイ不細工。』
レイは可愛い。僕はそう思うし僕の友達も、男女かかわらずレイのことは可愛いといっている。絵に描いたような童顔のレイは、おそらく男子からの連絡もそれなりにくるだろう。ただ、人間関係を築くのが苦手なレイに男の影は今の所ない。一応記しておくと、僕が彼氏になる予定もない。僕はレイに幸せになって欲しいと思っているが、それは恋愛感情ではない、多分。別にレイのことが好きなわけではない、多分。実際、二人で遊びに行こうなんて話は出る気配がない。ただただレイが落ち込んでいるのを僕が慰める。
こんな関係、男女の仲では普通ではないと思う。と同時にそこそこ現れてしまう関係性だとも思っている。
『明日までの宿題終わんない!死にたい!!』
これがレイから最初にきた電話だ。当時僕たちのクラスには、宿題が終わってない人がいたら追加課題が出されたのだが、その課題は終わっていない本人の隣の席の人もやらされるという、何とも呆れる制度があった。そのくせ宿題の内容は教科書の写経をするというものである。あえてもう一度、呆れると言わせてほしい。初回の授業の時、「連帯責任ともなれば宿題はやらざるを得なくなるだろ。」と先生はニコニコしながら説明していたが、当然その先生は生徒全員から嫌われている。
僕は他の授業中にこっそりと宿題を進めていたから徹夜をしたことはない。が、無駄に真面目なレイはそんなことはできないので、家で夜遅くまでしっかりと課題に取り組んでいた。確か初めて電話がかかってきたときは、僕もどうしていいかわからず、でも明日連帯責任になるのも嫌だったので、何とか励まして夜遅くまで電話を繋ぎながら宿題を終わらせてもらった気がする。なんで俺だったんだ、こういうのって仲良い女子友達にするもんじゃないのか、そんなことを思った。それから、どうやらレイは僕に電話するハードルが下がったようで、勉強関連でちょくちょく電話がかかってきた。LINEは日常会話が毎日続いていたと思う。
その後学年が一個あがり受験生になるとレイの気持ちはなかなか安定しなくなる。必然的なのか、僕とのLINE頻度が増え、電話の頻度も増えた。内容も、勉強関連というよりはネガティブ寄りのものへと変化していく。それでも前述した通りの真面目さで、危なげなく大学生となっていた。一方僕は危なげありまくりな中、運もよくレイと同じ大学に進学していた。ただ学部が違く、キャンパスも違うので今やレイと顔を合わせることはほとんどない。
新環境という要素はレイに不安となって襲い掛かった。結果、大学生となってからはレイの病み電がもはや習慣となったというわけだ。さっきも言ったが、決して嫌ではない。そんな気持ちは一切なく、もしかしらた、自分では認めたくないが、頼られているという感覚に少し気持ちよくなっていると言っても過言ではないかもしれない。どこか元気のないレイを欲していた僕がいたのだろう、きっと。
自分でいうのも気が引けるが、おそらく僕は結構優しい人間だと思う。他の人にはかなり気を遣っていて、自分がどういう立ち回りをしたら周りの人が一番いい思いを出来るかと常に考えながら生活している。だから、レイが苦しんでいるなら前を向かせてあげたいという一心で相談に乗っていた。レイはいい子で、きっと誰かに望まれるような存在で、おそらく今後もどこかで必要とされる存在であるということを僕は知っている。おまけに見た目も可愛い。だから、どうか元気に幸せに暮らして欲しいと思っている。慣れてくるにつれ、電話をかけてくるレイが愛おしく感じ、少し面白いという気持ちも持ってしまうのは事実だが。やりとりが増えていく中でレイに対する理解度はとんでもなく高まり、今は何も考えずともレイを励ますという形で会話ができてしまっている。
『どうしたの?』と深刻に話を聞いていた僕は次第に『またなんかあったの笑笑』といった具合で会話を始めるようになったということだ。
『ユウセイ、話聞いて。』
『何だよ笑笑』
『今日の授業の発表、みんなクオリティ高すぎた。レイのだけゴミだった。多分みんなレイのこと見下してる。』
『そんなことないだろ笑笑』
『そんなことあるよ〜。もう死にたい。』
僕はどこかで、君に支えて欲しいと思っている あひるくん @minikuiahirunokotakumu
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