第13話 止まらない変化

 目を覚ますと、9月8日だった。


 もう驚きはしない。だが、何かが少しずつ変わっている。


 涼はスマートフォンを手に取り、ロック画面を確認する。日付は変わらず9月8日。だが、背景に設定していた写真が昨日と違っていた。自分で変更した記憶はない。


 小さな違和感が積み重なっていく。


 「おはよう、涼君」


 登校途中、葵がいつものように待っていた。しかし、その表情がどこか緊張しているように見えた。


 「おはよう……何かあったのか?」


 「ううん。でも、今日は何かが違う気がするの」


 涼はその言葉に強く共感した。


 「俺もだ。昨日までと比べて、小さな変化が多すぎる」


 並んで歩きながら、涼は通学路の風景を注意深く見渡した。普段見慣れた商店の看板が微妙に変わっている。いつも駐車しているはずの車がなかったり、逆に見覚えのない車が停まっていたりする。


 学校に着くと、さらに違和感が増した。


 「おはよう、涼」


 佳奈の声のトーンが僅かに違う。表情もどこかよそよそしい。


 「おはよう、佳奈……具合でも悪いのか?」


 「え? ううん、そんなことないよ」


 そう言いながらも、彼女はどこか落ち着かない様子だった。


 涼は教室の中を見渡した。


 席の配置は変わらないが、生徒たちの雰囲気が違う。いつも騒がしいはずのグループが妙に静かだったり、逆に普段あまり話さない生徒同士が親しげに会話していたりする。


 そして、極めつけは堀田先生だった。


 「さて、今月いっぱいで私は退職するわけだが——」


 その言葉自体は変わらない。


 だが、その口調が昨日までとは微妙に違う。淡々としていたはずの声に、今日はわずかな躊躇が感じられた。


 ——もしかして、先生も何かに気づき始めている?


 授業中、涼はノートを取りながらも周囲の様子を注意深く観察し続けた。


 すると、ふと背後から刺すような視線を感じた。


 振り返ると、佳奈がじっとこちらを見ていた。


 「……何か用か?」


 「いや、なんとなく」


 佳奈は微笑を浮かべたが、目は笑っていなかった。


 彼も何かに気づいているのかもしれない。


 ——このループは、俺と葵だけが認識しているわけじゃない?


 その可能性が浮かんできた瞬間、涼の背筋に冷たいものが走った。


 もしも他にも気づいている人間がいるなら——それは、味方なのか、それとも。


 授業が終わり、昼休みになると、葵がそっと近づいてきた。


 「ねえ、涼君……今日の佳奈、いつもと違わなかった?」


 「お前もそう思ったか」


 涼は腕を組み、考え込んだ。


 「ループの中で何かが変わり続けている。もしかすると、ループするたびに記憶を引き継ぐ人間が増えてるのかもしれない」


 「……もしそうなら、どうなるの?」


 葵の声が少し震えていた。


 涼はゆっくりと深呼吸した。


 「それを確かめるためには……まずは佳奈と話してみるべきかもしれない」


 葵は迷いながらも頷いた。


 「気をつけてね、涼君」


 「もちろん」


 涼は席を立ち、佳奈の元へ向かった。


 このループの本当の意味を探るために。


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