第11話 見えない糸

 涼は、また9月8日の朝を迎えた。


 もう何度目になるのか。目覚めた瞬間、昨日までの記憶が鮮明に蘇る。そして、このループの中で確実に何かが変わりつつあることを、涼は肌で感じていた。


 朝食を済ませ、玄関の扉を開けると、今日も葵がいた。


 「おはよう、涼君」


 昨日と同じ微笑み、だが瞳の奥にわずかな違和感があった。


 「……おはよう、葵」


 二人は並んで歩きながら、言葉少なに学校へ向かう。


 「涼君、昨日のこと、覚えてる?」


 葵の問いかけに、涼は足を止めた。


 「……お前も?」


 「うん。はっきりとは言えないけど、何かが少しずつ違ってきてる気がする」


 涼は黙って頷いた。


 校門をくぐると、廊下を歩く生徒たちの雰囲気にわずかな違和感を覚えた。昨日と同じようでいて、どこか微妙に違う。


 教室に入ると、佳奈が窓際の席でノートを広げていた。涼は無意識に声をかける。


 「おはよう、佳奈」


 「……おはよう、涼」


 その声には、いつもとは違う緊張感が滲んでいた。


 「佳奈、お前……昨日のこと、覚えてるか?」


 佳奈の指がわずかに震えた。そして、ゆっくりとノートの端をなぞりながら答えた。


 「……覚えてる。少しずつ、違ってる。でも、どうしてなのかは分からないの」


 涼の胸に冷たいものが広がる。


 「佳奈、お前も……」


 「私だけじゃないよ」


 佳奈の視線が教室の外を向いた。


 「きっと、他の誰かも気づき始めてる」


 涼はその言葉の意味を考えた。もし、ループが続くことで記憶を保つ者が増えているのだとしたら——


 ——この世界はいったい、どうなっているんだ?


 その時、授業開始のチャイムが鳴った。


 堀田先生が教室に入ってくる。そして、いつものように黒板に数式を書き始め——


 その瞬間、涼の背筋に悪寒が走った。


 ——今日は、昨日とは違う。


 先生の書く数式が、今までと順番が違っている。


 小さな変化。しかし、その積み重ねが、この世界の歪みを示している。


 涼は思った。


 ——もし、この違いがヒントになるのなら……俺たちは、このループを抜け出す方法を見つけられるかもしれない。


 涼は拳を握りしめ、葵と佳奈をちらりと見た。


 ——この世界の秘密を、解き明かすんだ。


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