2ピリオド~舞台⑨~

 スコア:鶴賀中 22 - 14 本屋戸中


 二乃のミドルシュート成功で、点差は8点のまま。


 「よし!」


「ナイスシュート二乃!」


 三久は二乃に近づきハイタッチをした。チームの士気は高い。


 (チームとして形になってきたな。それにしても、この状況は少し想定外だな)


 鶴賀中のベンチ。亮多は、選手たちが自分の指示(トラップに慣れること)を遂行しつつ、同時に得点差を維持していることに驚いていた。彼は最悪、このリードを失う覚悟でいたのだ。


 (俺は、9点差がひっくり返されても構わないと思っていた。なのに、五月、三久、二乃、そしてかずみと四季。指示以上の働きをしている...)


 亮多の頭の中に、鶴賀中へ赴任する前に校長が彼にかけた言葉が蘇った。


『四人は皆、バスケに才能があります。ですが、そのどれもが個人技の才能です。

 協力してプレーすることが、苦手なのです』


『一対一なら誰にも負けない――彼女たちは、そう言います。ですが、試合で勝てません。それでも負けた原因が自分にあるとは思っていません』


(葵さんの言っている意味がやっと分かった。彼女らは勘が鋭い。今までは個人技に特化していたが、今までのチームプレーを取り入れたことで協力が生まれた。彼女たちのは、として、協力に結びついている!)


 亮良は、静かにコートを見つめた。選手たちの自律的な判断に委ねることを決める。


 「かずみ!前から当たって!」


 ベンチからではなく、コート上の三久からの指示で、かずみはエンドラインからのスローインを受けるPG(4番)にオールコートマンツーマンに切り替えた。


 (わたしもみく、にのみたいに活躍したい)


 かずみは、低い姿勢でプレッシャーをかける。本屋戸中のC(11番)はボールを受けに寄るが、五月がタイトに張り付き、簡単にパスを出させない。


 かずみのプレッシャーが効いているのか、4番はサイドライン際でボールをなかなか前に進めない。ドリブルを何度も突き直し、立ち往生する。


 本屋戸中ベンチからは、監督の「ボールを運べ!前に!」という悲鳴のような指示が飛んだ。


 電子タイマーの表示が、「6秒」を示した。このままでは、バックコートで8秒を超過し、バイオレーションとなる。


 パニックに陥ったPG(4番)は、自らドリブルで突破することを諦め、苦し紛れにハーフライン付近にいたPF(四穂梨)へ、チェストパスを出した。


 四穂梨をマークしていた四季は、このパスコースを予測し、パスの瞬間に一歩前に出て、ボールをキャッチした四穂梨にすぐ体を寄せた。


 四穂梨がボールをキャッチした瞬間、電子タイマーは「7秒」を表示。ハーフラインを越えるまでの時間はほとんど残されていなかった。


 (まずい。時間が無い!)


 プレッシャーに耐えきれず、四穂梨はすぐにボールをPG(4番)に戻そうと試みるが、かずみが瞬時にそのリターンパスのコース上に立ち、パスを遮断した。


 鶴賀中のディフェンスは、完全に本屋戸中の動きを読んでいた。


 「ピー!」


 審判の笛が鳴り響く。


 「バックコート・バイオレーション! 鶴賀中ボール!」


 鶴賀中の攻撃権。本屋戸中がハーフラインを越えられなかったため、コート中央からのスローインとなる。


 スコア:鶴賀中 22 - 14 本屋戸中


 三久は、かずみからのスローインを受け、トップでボールをコントロールする。


 三久は、ディフェンスが最も警戒する右への鋭いドライブを仕掛けた。


 三津紀とPG(4番)がトラップを仕掛けようとするが、三久は急停止し、ディフェンスの体が流れるのを利用して、右ウイングにいる二乃へボールを渡す。


 二乃がボールを受け取った瞬間、本屋戸中のPF(四穂梨)は、四季を警戒してハイポストから離れられない。一方、C(11番)は、五月を警戒してローポストから動けずにいた。


 二乃は、この「二人のインサイドプレイヤーがマークされている状況」こそ、最大のチャンスだと見抜いた。二乃はシュートフェイク一つで6番にシュートカットを誘い、一気にペイントエリアへドリブルで侵入する。


 四穂梨が二乃にヘルプに出るため、ハイポストの四季がフリーになる。


 二乃は、迷わずハイポストでボールを受けている四季にパスを入れる。


 四季はボールを受けると、すぐにローポストの五月とアイコンタクトを交わす。五月は、マークマンのC(11番)を力強く押しのけ、ゴール下にポジションを取った。


 これが、鶴賀中の連携の一つ、五月と四季のハイロー連携だった。


 四季は、二乃に気を取られているディフェンスの横から、ローポストの五月の胸元へ、バウンスパスをした。


 パシッ!


 パスは完璧に五月の手に収まった。ゴール下でポジションをとっている五月は、もはや誰も止められない。五月はそのまま力強く踏み込み、ジャンプシュートを打った。


 ザシュッ!


 スコア:鶴賀中 24 - 14 本屋戸中

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2025年12月12日 19:00 毎週 火曜日 19:00

指導者日記 神童要 @roukyuubu44

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画