2ピリオド~舞台①~

 土曜日の朝。地区大会の会場となる南体育館の最寄り駅前は、普段の土曜日とは違う、独特の張り詰めた熱気に包まれていた。


 亮多は、私服姿の金沢ゆか先生、そして真新しいバスケ部のジャージを身を包んだ女子バスケ部員たちの七名で駅の改札を出た。


「う〜、まじ緊張してきた……。駅の空気がもう『試合』の匂いするじゃん」


 ウェーブのかかった金髪を揺らしながら、泉二乃が顔をしかめる。その横で、キャプテンの羽沢三久は、いつもの冷静さを保ちつつも、手のひらを何度も強く握りしめていた。


「静かにしなさい、二乃。それより、亮多さん。本当にここから歩きなんですか?」


 三久が冷めた視線を向ける。亮多が確認した地図には、会場まで徒歩15分と書かれていた。


「ああ。ここは駅からバスがない。それに、いいウォーミングアップになるだろ?」


 亮多は努めて明るく笑ってみせたが、部員たちの視線は痛い。


「運動になるならプラマイゼロですよ!」


 金沢先生は、ピリピリとした空気を和ませようと、努めて明るい声を上げた。


「それに、試合前にちょっとお話しする時間があるのも、試合前の醍醐味じゃないですか?ね、かずみさん?」


 上星かずみは、金沢先生に話を振られ、一瞬だけ目線を上げた。


「ん……。この道、ドリブルしやすそう」


「え、かずみ、そっち!? 歩きやすさじゃなくて、ドリブル!? 」


 二乃のツッコミにかずみは平然としている。


 そんな中、一番後ろを歩いていた佐倉四季が、おずおずと亮多に話しかけてきた。


「あ、あの……亮多さん。私、足が震えてて……」


 真新しいジャージに身を包んだ彼女の華奢な背中は、まだ試合の重圧に耐えきれていないようだった。


「佐倉」


 亮多は立ち止まり、四季に向き直った。その真剣な声に、五月と三久、二乃、かずみも足を止める。


「俺が前の練習で決めた『絆スコア』、覚えてるか?」


「……はい。仲間への感謝や声かけを数値化した、点数、ですよね」


「そうだ。あれは、シュートの点数よりも重い。お前がここにいるだけで、チームは試合ができる。それが、お前がチームに与えてる最高の点数だ」


 亮多はまっすぐ四季の目を見て、静かに言い切った。


「コートで迷ったら、誰かの名前を呼べ。お前がパスを出せば、それは信頼という最高の絆ポイントになる。足が震えるのは、お前が本気だからだ。自信を持て」


 その言葉に、五月が小さく息を呑み、三久が目を見開いた。


「……はい、亮多さん!」


 四季の返事に、わずかだが芯が通る。


「行くぞ。遅れるなよ、四季」


「はい!」


 亮多の言葉に、四季は慌ててついていく。二乃とかずみは顔を見合わせ、小さく笑い合った。

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