1ピリオド ~決意の先にのエピローグ~
部活動のない木曜日。
金沢先生の計らいで用意された教室には、亮多と四人の部員が静かに集まっていた。教室の隅では、葵校長が腰掛けている。会話には加わらず、ただ見守るような柔らかい眼差しだった。
ホワイトボードの前に立つ亮多は、ゆっくりと皆を見渡す。
「昨日、三久の話を聞いて、俺は大事なことを見落としていた。……このチームには、まだ本当の『目標』がなかったんだ」
静かな間が落ちる。亮多は慎重に言葉を紡いだ。
「今日は、それを決めたい。『何のために、この部活を続けるのか』──揺るがない方針を」
そのとき、椅子に座っていた三久が、ゆっくりと立ち上がった。
自然と四人の視線が彼女に集まる。
「……親から言われたの」
三久は俯きがちに続ける。
「部活を続けたければ、七月末の市のバスケ大会で優勝しなさいって」
その言葉に、五月が小さく「え……」と息を漏らした。
皆の戸惑いを和らげるように、亮多が説明を挟む。
「その大会は公式戦じゃない。市が主催する、草試合みたいなものだ。申請すれば、学校でもクラブでも出場できる」
教室の空気が、きゅっと締まる。
三久は、視線を足元へ落としていたが──やがて、覚悟をにじませて顔を上げた。
「うちの親は、本気でバスケをやるならクラブチームに行けって言ってる。でも、私は、ここでやりたい。鶴賀中で」
その声は震えていない。
迷いのない、はっきりとした意志だった。
「クラブを選ばずに済む道があるとしたら……優勝しかないって」
言い終えると、三久は亮多を見た。
その瞳の奥に宿る強い決意が、教室の空気を震わせる。
「……その大会、出ますか?」
亮多はゆっくり、四人の表情を確認する。
五月は戸惑いながら亮多に聞き、かずみは真剣に三久の言葉を噛みしめている。二乃は、三久と亮多を行き来するように見つめていた。
そして亮多は、穏やかな声で告げる。
「……わかった。やろうじゃないか」
小さく息をのむ気配が、教室に走る。
「目指すのは、七月末の大会での優勝。それが、このチームの目標だ」
その宣言を、葵校長は黙って見守っていた。
静寂。
そして──最初に声を発したのは、二乃だった。
「亮君……私たち、勝てるかな」
不安の滲む声。
五月とかずみも、緊張を押し隠せずに頷く。
亮多は、間髪入れず返した。
「わからない。でも、勝ちにいくしかないだろ。三久が、ここでバスケを続けたいって言ってるんだ」
三久の目が、大きく揺れる。
「……できる、かな?」
最初にその言葉に応えたのは、かずみだった。
不安そうな瞳に、少しずつ光が宿る。
「練習すれば、きっと。私は、みんなとバスケがしたいから」
その言葉に、五月がそっと背中を押されるように顔を上げる。
「……私も、頑張る。勝って、またみんなで部活したいもん!」
そして、二乃。
小さく震える声で、でもしっかりと──
「私も……勝ちたい」
五人の視線が、ひとつに結ばれる。
たった一つの、シンプルな目標。
教室の窓から、夕焼けの光が差し込む。
その光の中で、五つの影が、同じ方向へと伸びていく。
──彼らの「部活」は、ここから本当の意味で始まるのだ。
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