1ピリオド ~出会い⑩~

 四人のまっすぐな視線を受け止めながら、亮多は静かに息を吐いた。


(……そういえば、校長にはまだ期限のことを伝えてなかったな)


 葵校長に言いそびれた「期間限定の指導」という条件。

 女子中学生のチームだと知ったときの戸惑いと躊躇。

 自分が本当にここに関わる理由が足りない――そう思っていた。


 だが、目の前の四人は、その考えを揺さぶり始めていた。


 真正面からぶつかってきて、負けを受け入れ、それでも立ち上がる。

 誰かのせいにしない。自分で決めて、前を向く。

 その姿勢が、胸の奥に熱を灯す。


(……この熱意に、応えたい)


 気がつけば、期間限定という言葉は心の中で薄れていた。

 ただ、真剣に向き合ってくれる彼女たちに――自分も応えたい。


 亮多は四人をまっすぐ見つめ、小さく「……よし」と呟いた。

 一歩、前に出る。


「改めて、自己紹介させてほしい」


 静かだが、芯のある声が体育館に広がる。


「中谷亮多。帝華大学の学生で、今は外部指導員としてここに来ている。……いつまで関わるかは正直まだわからない」


 一度言葉を切り、四人の顔を順に見渡す。


「でも――お前たちを見て、本気でやろうと思った。指導者なんて偉そうな肩書より、まずは向き合うことだ。前を向くなら、俺も一緒に向き合う」


 少し笑って続ける。


「だから……これからよろしく。お前たちと一緒に進みたい」


 言葉が落ち着くと、体育館には静かな余韻が残った。


 最初に口を開いたのは、上星かずみだった。

 青髪を整えなおし、落ち着いた表情で歩み出る。


「上星かずみ。ポジションはポイントガード。……みんなにボールを届けるのが仕事。これからも、ちゃんとやっていくよ」


 おっとりしているが、不思議と芯の強さを感じさせる声だった。


 続いて、泉二乃が快活に手を挙げる。


「泉二乃! シューティングガード! スリーポイントは任せてね! 亮くんにも、ちゃんと見てもらうよ!」


 明るく、まっすぐで、どこか懐かしい笑顔だった。


 和田五月が緊張した様子で前に出る。

 一言ずつ、丁寧に紡ぎながら言う。


「和田五月です。……センターをしています。ゴール下で、みんなの力になれるように……頑張ります」


 その奥にある真面目さと、静かな情熱が伝わってきた。


 最後に、三久が一歩踏み出す。

 強いまなざしを亮多に向け、はっきりと言った。


「羽沢三久。ポイントフォワード。チームのエースとして、誰にも負けないくらい強くなる。……そして、あんたを超える」


 その言葉は、挑戦であり、宣言だった。


 四人の声が静まると、体育館には心地よい静寂が訪れた。

 亮多は、胸の奥に湧き上がる感情をそっと噛み締める。


(……そうか)


(こいつら、もう立派な選手なんだな)


 ただバスケをする場所じゃない。

 彼女たちはここで、自分自身と向き合い、強くなろうとしている。


 その歩みに、俺も並んで進んでいく――。


 亮多は、静かに微笑んだ。

 まるで、ここから始まる新しい物語を歓迎するかのように。

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