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紙白

そのコマーシャル

 「皆さんは可燃ごみの日をちゃんと覚えていますか?各自治体によって定められているゴミの日がそれぞれあるでしょう。それでは可燃ごみ(特大)の回収がある日は?これは全国で一斉なんですからしっかり覚えておきましょうね。お電話いただくと翌日には即回収!」

 俺は、pcから軽快な音楽と共に流れる映像を黙って見つめる。画面の中の女性は微笑みながらキャッチフレーズを口ずさむ。毎週火曜日、23:23に0956−03−xxxxに電話をかけると不要になったものを回収してくれるというサービス。これは2000年代の初めに突如話題になった都市伝説だ。今の中高生は知らないだろうが、この都市伝説は当時世間を大いに賑わし政府まで介入したほどの騒動だった。

 きっかけは、その頃起こった平成同時多発蒸発事件。被害者は年齢、居住地、性別、その他一切に共通点がなく、いなくなった時刻も不明。中にはさっきまで家の中で姿を確認されていたにも関わらず麦茶を取ろうと冷蔵庫を開け、次見たときにはもう姿はなかった。なんてケースもあったらしい。唯一の共通点はいなくなったのは皆水曜日ということだけ。誘拐の線も始めはあったらしいが、あまりに統一性がないためこの件は未解決事件となりネットでは【水曜日の神隠し】などと呼ばれ様々な憶測が飛び交った。しかし、世間の飽きは早いもので1ヶ月も経たずに皆の関心は薄れていった。そんな中某有名掲示板に、1つのリンクが貼られた。何も言葉はなく、ただリンクが貼ってあるだけ。そのリンクが最初の映像のリンクだったというわけだ。

 このリンクから映像を見た連中からは、始めは例の事件に乗っかったと思われ「釣りだろ」、「釣り乙ww」など相手にされていなかったが、出演している女性がネット民総出で探しても見つからなかったこと。電話番号に掛けてもかからなかったことなどが徐々に気味の悪さを演出し、『人を回収するサービス』と姿を変え人々を恐怖の渦に巻き込んだ。世間では嫌われている奴が狙われる。というデマが広がり、犯罪行為などがめっきり減った。しかし、恐怖に苛まれ心を病んでしまう人が後をたたず、集団自殺などが各地で多発したため政府が介入したというわけだ。

 政府が出した声明文をざっくり説明すると、

 「国民の皆様を騒がしている例の映像についてですが、解析の結果次のことが分かりましたのでお知らせします。

・映像は1990年に数ヶ月間だけ九州北部の一部地域で放送されたコマーシャルである。

・映像(以下CMと呼ぶ)に出演されている女性は当時その企業で働いていた社員である。

・日時、電話番号は精巧に作られた合成であり実際の電話番号とは異なる。

・粗大ゴミの回収サービスのCMであり、犯罪などとは一切関係ない。

 この件は個人情報が含まれているため、これ以上の詮索はしないようお願い申し上げます。」

こんな感じの文書だったと思う。これは全国放送でも新聞でも大きく取り上げられた。しかし国が強引に騒動を終わらせようとしているようにも取られてしまい結果的に火に油を注ぐ結果となってしまった。国民の一部が陰謀だなどと騒ぎ立てたせいで騒動はさらに盛り上がりしばらく燃え続けていたが、やっぱり世間は飽きが早くいつの間にか忘れられていた。

 10年一昔という言葉も今では1ヶ月一昔だ。連続殺人鬼だって1ヶ月たてば歴史の地層の一部だ。遺体が埋められていたとニュースに出てきた山もいつの間にか開発されて団地ができてるなんてこともザラにある。世間ってそんなものなのだ。いちいち事件を重く受け止めているとキャパオーバーしてしまう。それぐらい現代は目まぐるしい。事件とともに地層に埋められるのは関係者だけ。被害に遭った人、またその遺族だけは地層の中で時間が動かない。

 俺は、いつから時間が動いていないのだろう。あの蒸発事件で消えた俺の母親はどこにいってしまったのだろう。あの都市伝説は本当に都市伝説だったのだろうか。俺はまだあの蒸発事件と共に化石となって埋まっている。もう15年。あのとき10歳だった俺は母親がいないまま成人し、結婚し、子供もできた。俺はどうしてもあのCMがデマだったとは思えない。だから、俺はこの事件を自分でもう一度調べることにする。母を攫ったのは誰なのか。これは記録だ。俺が母を見つけるまでの記録。

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