第21話 再会した喜びと、残るわだかまり
あれから数日が経ち、学園ではひとまず大きな混乱が落ち着いてきた。
朝、昇降口へ入るときに感じるピリピリした空気もずいぶん和らぎ、クラスメイトの態度も以前よりはだいぶ穏やかになっている。もっとも、本音のところ、俺はまだいまいち馴染めずにいるのだけど――。
「おはよう、阿久津くん」
廊下で声をかけてきたのは、クラスの女子・三浦。前まではあまり話したこともなかったのに、いきなり満面の笑みで挨拶されるから調子が狂う。
「お、おはよう。どうしたの、急に?」
「えへへ、委員会の書類さ、渡すの手伝ってもらってから、ずっとお礼言いたかったんだ」
「いや、別に大したことしてないし…」
なんというか、クラスの雰囲気が妙に「気を遣っている」感じで、ちょっと気恥ずかしい。三浦も悪気はないんだろうけど、今までは特に絡みもなかった相手だ。
そんなぎこちなさを抱えながら教室に入ると、今度は隣の席の男子がアタフタしながらこっちを見てくる。
「えっと、昨日の宿題のプリントさ、俺ちょっと見落としてたんだけど、阿久津が持ってるなら教えてくれない?」
「ん? ああ、いいよ。はい、これ…」
「助かる…あ、ありがと」
まるでクラス全体が「何とか今までのイメージを取り繕おう」としているようで、少し複雑。何もなかったかのように接してくる人もいれば、やたら申し訳なさそうに目を逸らす人もいて、完全に気まずいわけじゃないが、落ち着くわけでもない。
すると、教室の後ろから鳳 真琴が声をかけてきた。
「おはよう、阿久津くん。さっき先生から呼ばれたんだけど、例の行事関連の話みたい。あとで一緒に職員室行ける?」
「あ、もちろん。文化祭絡みの後処理ってこと?」
「そうみたい。私、委員長の立場に戻ったし、一応報告書を作る役目があるんだって」
そう言いながら彼女はこっちに歩み寄る。途端にクラスメイトたちが微妙な距離をとるのが見えて、俺は心の中で小さくため息。
「ごめんね、まだ変な感じが続いてて」
「ううん、それは私も同じだから。気にしないで」
真琴は柔らかい笑顔でそう答える。昔の女王然とした雰囲気とは少し違うが、苦難を経て成長したのかもしれない。
一方で、彼女を見たクラスメイト数名がモジモジしながら、ちらちら目を合わせてはそっと頭を下げてくる。中には「鳳さん、あの…本当にごめん」という声もかけてくるけれど、真琴は軽く目を伏せながら、
「いいの。私のほうも色々至らないところがあったし。…ただ、今はそれほど気にしてないから、無理に謝らなくても大丈夫だよ」
にこっとした笑顔を浮かべた後、「ちょっと行こ」と小声で俺に言い、教室を出る。廊下を歩きながら、彼女がぼそりと呟く。
「…ありがとうって言われると、嬉しい反面、どうしても複雑になっちゃうね。私だけかな」
「わかるよ。俺も、急に優しくされても困るときあるし…」
「でも、みんなも悪意だけじゃなかったんだと思う。私たちを本気で疑ってたのもあるし……何より私自身が昔、ちょっと敷居高い雰囲気を出していたところもあるしね」
そう言って肩をすくめる真琴。実際、彼女はもともと華やかな存在だったせいで、周囲も萎縮しがちだったのかもしれない。今はもう少し柔らかい印象になり、なおかつ芯の強さを保っている。
そうこう話しているうちに職員室へ到着。先生に呼ばれたのは、「一連の騒動の報告書を作ってほしい」という正式な依頼だった。
真琴と並んでデスクに通されると、顧問の先生が申し訳なさそうに頭を下げてくる。
「鳳さん、阿久津くん…大変だったね。学校側も対応が遅れたせいで苦労をかけた。改めて申し訳ない」
「先生が頭を下げることじゃないですよ。まぁ、色々ありましたけど、もう解決はしましたし」
俺が苦笑すると、先生はほっとしたように胸を撫で下ろす。
「それで、文化祭の件はもう時期的に大きな企画は難しいけれど、代替案というか補填行事を年度末にやるかもしれない。そこに委員長としてあなたの意見が欲しいんだ」
真琴は目を輝かせて「ぜひ協力します!」と即答。俺も思わず笑みがこぼれる。
「いいじゃん、それ。俺も裏方で手伝うよ。何かできることがあれば」
「うん、二人ともよろしく頼む。じゃあ後日、正式に話し合おう」と先生が頷き、手早く打ち合わせを済ませた。
職員室を出ると、真琴が上機嫌で並んで歩く。
「ようやく、私たちがやろうとしてた行事を形にできるかも。無理せず、楽しみながら進めようね」
「そうだね、無理しなくていいと思う。俺たちもまだ傷が完全には癒えてないし」
「ふふ、そうだね」
階段を上がる最中、真琴が急に足を止めて、少し照れくさそうに口を開く。
「ね、また一緒に帰らない? この間みたいに、駅前の喫茶店でも寄って…あなたの話、もっといろいろ聞かせてほしいんだ」
「え? そんな改まって…まぁ、いいよ。俺も別に予定ないし」
彼女の口調や表情から伝わるのは、どこか安心感に似たもの。そしてこの数日、クラスの空気は変わっても心のザラつきはまだ完全には拭えない俺たちにとって、お互いが一番落ち着ける存在になっている気がする。
無意識に噂されることを警戒したり、周囲を気遣ったりするのは疲れるけれど、もうそんなことはあまり気にしなくていいのかもしれない。今さら同級生にどう思われようと、俺と真琴の間には確かな信頼があるのだから。
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