第18話 苦しむ加害者たちと胸に灯る希望

スクリーンに映し出される証拠の山を前に、瀬良は完全に沈黙していた。取り巻きが何か言おうとするが、もうどうしようもない。相沢すらも「ぐっ…まさかこんな形で…」と苦悶の表情を浮かべたまま項垂れている。

 会場全体が呆れや怒りの声で埋め尽くされ、教師や生徒会役員も「これはもう明らかだな……」「ひどい話だ」と口々にささやき合う。


「ねえ、これって、結局、阿久津くんたちが犯人じゃなかったってことじゃ…?」

「やっぱり瀬良が横領してたんじゃん!」

「最悪…そっちがスケープゴートにされてたんだな」


 あちこちから聞こえる言葉が、今まで味わったことのない安心感をもたらしてくれる。ずっと俺たちを悪者扱いしていた空気が、一気に反転し始めているのだ。

 ステージ下で聞こえてくる悲鳴にも似た声は、瀬良を慕っていたクラスメイトや部活仲間たちが動揺しているのだろう。


「し、信じられない…私たち、瀬良先輩を応援してたのに…」

「裏でこんなことしてたなんて、もう取り返しがつかないよね…」


 その“取り返しがつかない”という言葉に、俺は複雑な思いを抱く。周囲の連中がどれほど謝罪してきても、傷はそう簡単に消えない。けれど、少なくとも真琴が委員長として蔑まれる理不尽は終わりにできそうだ。

 真琴はマイクを握り直し、最後の言葉を口にする。

「私たちは、ずっと言ってきました。横領なんてしていないし、むしろ誰か他の人がやったんだって。……こうしてみんなの前で証明できてよかったです」

 その声は震えているが、確かな自信を宿していた。長い苦悩から解放される安堵が混じった微笑みを浮かべ、俺の方へ視線を送る。

 俺も小さく頷き返し、「そうだ。……もう二度とこんな理不尽に巻き込まれないようにしたいな」と、教師たちにも聞こえるように言う。


「…瀬良、お前の言い分があるなら今のうちに言え。何か弁明するか?」

 生徒会長が振り向くと、瀬良は悔しげに唇を噛むが、何の言葉も出ない。自分が組んだシナリオが完全に崩れ去ったのだろう。

 一瞬、「ふざけんな…俺をこんなに追い詰めやがって…」という声がこぼれたが、取り巻きたちでさえもう庇う言葉を失っている。相沢が「すまねぇ…もう付き合いきれねえよ」と呟き、瀬良から距離を取るように下がった。


 こうして、一連の騒動は公開処刑にも近い形で終結しつつあった。教頭や生徒会長が「瀬良たちの処分を検討する」と発表し、教師が瀬良を連行する形で体育館をあとにする。相沢たちも灰色の顔でその後を追う。

 会場の誰もが沈鬱な空気をまといながら、「とりあえず解散」の指示に従って整列を崩した。


「阿久津くん、鳳さん、ごめん…ほんとにごめんね…」

「私たち、疑ってた。あんなに言っちゃって、本当に最低だった…」

 そうやって俺たちに頭を下げるクラスメイトが何人もいる。勢いに流されて言動を翻す連中に苛立ちもあるが、心の奥で「これで少なくとも疑いは解けた」とほっとする気持ちが上回る。

 真琴は苦笑まじりに、「ううん、でももう遅いかも。私たちがどれだけ辛かったか…ちゃんとわかってくれてる?」と答える。相手たちは口をつぐむしかない。


 一方で彩花が顔を真っ赤にして、「ごめんなさい、ほんとに…」と何度も頭を下げてくる。俺は複雑な感情を抱えながらも、思わず苦笑いで返すしかない。

「ま、ありがとな。お前が言ってくれたおかげで決定打になった。もうあいつらに近づかないほうがいいぞ」

 彩花は涙を落とし、「うん…もう戻れないのはわかってる」と寂しそうにつぶやく。それでも、最後の最後で勇気を出してくれた彼女の姿を見て、少しだけ憎しみが和らいだのも事実だ。


 こうして、長かった冤罪がとうとう晴れる。体育館の雑踏から出て、真琴と並んで歩きながら、俺は深いため息をついた。

「やっと、終わった…のかな。あとは正式な処分を待つだけか」

「うん。……私たちは無罪になったけど、正直、喪失感もあるわね。大勢の人があっさり手のひら返ししてきたし」

「そうだな。許せない気持ちもある」

 二人とも、完全にスッキリするわけじゃない。腹の奥には“今さら何を”という痛みが残る。だけど、少なくとも今は“自分たちを犯人扱いする”視線から解放されるだけでも救いだった。


 昇降口まで来たとき、真琴が少し笑顔を見せてくれた。

「でも、あなたがいてくれたから私、ここまで戦えたんだ。ありがとう…阿久津くん」

「いや、俺も同じ。おかげで折れずに済んだ」

 互いに微笑んで握手を交わすような気持ち。それを遠巻きに見ているクラスメイトが少し驚いた顔をしているが、もうどうでもいい。俺たちだけの小さな達成感が胸を満たす。


 瀬良や取り巻きが深く後悔に苛まれているのは間違いないだろう。今さら遅い、と切り捨ててもいいくらいの代償を、奴らは払うことになる。

 窓の向こうで夕陽が校舎を赤く染め始める。これまでずっと苦しかった日々が、やっと報われた。

 (まだこれから細かい問題は残るだろうけど、とりあえずは新しい一歩を踏み出せそうだ)

 そう胸に決めた瞬間、隣に立つ真琴が小さく笑い、そして俺に向かって「さ、帰ろうか」と優しく声をかけてくれる。


これから先、二人で歩む学園生活は、今までより少しだけ明るく、そして尊厳を取り戻した日常が待っているはずだ。

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