第15話 臨時集会と噂の真偽をめぐる攻防

 翌日の朝、学校に着くとすぐにクラスメイトたちがバタバタと落ち着かない様子を見せていた。ホームルーム開始前だというのに、廊下や教室で「臨時集会があるらしい」「全校生徒を集めるって本当?」という噂が飛び交っている。


「ねぇ阿久津、これってもしかして瀬良の件と関係あるのかな?」

「わかんない。けど今までのパターンだと、生徒会が何か緊急で発表するときは、大抵トラブル絡みじゃないか」


 俺がそう言うと、同じクラスの友人(まだ完全に味方というわけでもないが)が「ついさっき放送部の倉木から『多分関係ある』って聞いたよ」と小声で教えてくれた。どうやら、生徒会が急きょ“文化祭資金の不正流用疑惑”について何らかの動きを見せるらしい。

 これまでずっと黙っていた生徒会が、ここに来てやっと重い腰を上げたのか。それとも瀬良たちが何か裏工作をしたのか――わからないが、ともかく落ち着かない気分でホームルームの開始を待つ。


 チャイムが鳴り、担任が入ってくると同時に、「今日の午前10時から、全校生徒を体育館に集めるそうだ。文化祭実行委員の問題で報告があるらしい」との告知があった。クラス中がざわつき、俺も思わず鳳(おおとり) 真琴のほうを振り返る。彼女は神妙な面持ちで、小さく頷いてみせた。

 (ここで一気に真相を暴露できればいいが、下手をすれば瀬良が先手を打って俺たちを悪者に仕立て上げる可能性もある。気を抜けないな…)


 午前の授業が始まっても、誰もが上の空。体育館に集まる時間が近づくほど、俺の心臓は嫌なほど高鳴りだす。そして10時、クラスごとに整列して体育館へ入場。講堂ステージには生徒会長と数名の生徒会役員が並んでおり、その隣には文化祭実行委員の一部(瀬良の仲間)が座っている。

 (瀬良の姿はない…? それとも裏で待機してるのか?)


「それではこれより、文化祭準備期間中の資金トラブルについて、生徒会から説明と報告を行います」

 マイクを握った生徒会長が淡々と話し始める。内容は「委員会の管理に不備があり、当初予算に対し金額が合わないため、責任者だった鳳 真琴と阿久津 聡の処分を検討している」といったものだった。

 俺は思わず息を呑む。まだ何の調査も終わっていないのに、こうして体育館という公の場で“処分を検討”だなんて。大勢の前で、また俺たちを犯人扱いする気か…?


 ざわつく体育館。真琴は俺の隣でぎゅっと拳を握り、「こんなの…一方的すぎる」と小声で震えている。俺も怒りが湧いてくるが、今ここで声を上げても黙殺される危険が大きい。


「待ってください!」

 そのとき、一人の女子生徒がステージ近くで声を張り上げた。倉木か、あるいは彩花か――そう思って目を凝らすと、見覚えのない生徒会役員の女子だ。彼女はうろたえつつもステージの生徒会長に向き合い、必死に訴えている。

「まだ全容が解明されたわけじゃないのに、なぜこんなに早く処分の話が出るんですか? しかも、実行委員長はすでに解任状態…おかしくないですか?」

 生徒会長が渋い顔で「この問題はもう長引かせたくない。学園のイメージもある」と言い返す。会場がさらにどよめく。

「いや、長引くとかそういう問題じゃなく、事実を確かめるのが先でしょう!」


 生徒会役員同士で意見が割れているのか、ステージ上が微妙な雰囲気に包まれる。辺りは騒然として、教師数名が「静かに!」と制止の声を上げるが収まらない。

 (今しかない…!)

 俺は隣の真琴と目を合わせる。そして意を決したように、彼女の手をそっと握った。


「行こう。こんな場面は二度とない」

「うん…やるしかないね」


 二人で人混みを縫って前へ進む。ステージ下で教師が怪訝な顔をするが、構わずスピーカー近くに立つ。そしてできるだけはっきりと大きな声で――


「失礼します! 俺たちこそ、ちゃんと話したいことがあります。資金を盗んだのは俺たちじゃありません! 証拠も持っています!」


 全校生徒の視線が一斉にこっちへ向かう。息を呑む教師たち、戸惑う生徒会長。ここで黙っていれば、また一方的に“犯罪者”として処分されるだけだ。やるしかない。

 真琴もマイクを掴み、「私は最後まで委員長として仕事をしたかった。でも途中で不正に巻き込まれたの。そして…その不正に加担した真犯人が、学校のどこかにいるんです!」と声を震わせながら言い放つ。

 ピリつく空気。ざわざわというざわめきが体育館を包み、誰かが「嘘だろ?」「本当なのか?」と騒ぎ出す。


「証拠があるなら出してみろよ」

 唐突に響いた男の声。その場に瀬良はいないはず……と一瞬思ったが、そこに現れたのは取り巻きの相沢。ステージ袖から強引にマイクを奪い、「お前らの言う証拠とやら、どこにあんだよ」と挑発的に叫ぶ。

 (やはり来たか…!)


 騒然とする生徒や教師の視線の中、俺は肩を回して深呼吸。ここでうろたえたら負けだ。

「みんなの前で堂々と見せるよ、俺たちが手に入れた“本当のデータ”を。それを見ても、まだ俺たちが犯人だと言えるのかどうか…」

 そう言い放ち、背後の真琴と軽く頷き合う。この臨時集会が急に開かれたのも、何か瀬良陣営の思惑があるのかもしれないが、逆に利用してやればいい。

 (ここからが本当の勝負だ。絶対に逃げない。俺たちが、学園の皆の前で真実を明らかにする…!)

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