第7話 図書室と放送室、それぞれの思惑

 放課後、俺は再び図書室へ向かった。昨日、放送委員の倉木が持っていた“削除ログ”のスクショをさらに詳しく見せてもらうためだ。鳳(おおとり) 真琴は放送室の様子を探りに行くと言っていたが、果たしてどうなっているだろうか。


 「阿久津、こっちだよ」

 静かな図書室の奥から倉木が手招きする。彼は数枚のプリントアウトを机に並べ、待ち構えていた。

 「これ、追加で解析してみた。チャットの削除タイミングとユーザーIDが紐づいてるはずなんだけど、IDが改ざんされてる可能性があって……」

 倉木が指さすのは、生徒会システムから出力したらしいログの一部。そこには日時とアクションが記録されている。

 「ユーザーID……?」

 「うん、本来は文化祭実行委員の登録メンバー名が表示されるはずなんだけど、“unknown”になってる。これ、何者かが書き換えたとしか思えないよ」


 なるほど。誰かが意図的にアクセス権を隠し、画像を削除したのだろう。イケメンの瀬良やその取り巻きがやったと考えるのが自然だ。

 「ありがとう、すごく助かる。これなら、生徒会の端末をちゃんと調べれば誰がやったかわかるかもしれない」

 そう言うと、倉木は複雑そうに眉をひそめる。

 「でもね、阿久津……生徒会長や顧問の先生も、あんまり積極的に動いてくれないみたいなんだ。下手をすると、この証拠すら“でっち上げ”扱いされるかも」

 辛い現実だ。俺も、それはよくわかってる。


 ちょうどそのとき、図書室のドアが開き、真琴が息を切らせて入ってきた。

 「阿久津くん、倉木くん……放送室、やっぱり鍵かかってて入れなかった。しかも放送委員顧問の先生が『ここは立ち入り禁止だ』って頑固に拒んでるの」

 がっかりしたように肩を落とす真琴。どうやら正攻法では難しいらしい。

 「そりゃあ勝手に設備を使われたら、先生も嫌がるだろうね」

 倉木が苦笑して、うつむく。俺と真琴は顔を見合わせる。

 「でも、どうにかして放送委員の機材を利用できないかな。たとえば、こっそり録音とか……」

 真琴が唇を噛みながらつぶやく。大胆な発想に見えるが、もうこれくらいしか手段がないのも事実だ。

 「うーん、実は夜間にこっそり放送室へ侵入する方法もあるにはあるけど……リスク高いな」

 倉木は困り顔だが、あからさまに否定はしない。要するに許可なく使えば処分されかねないわけだ。


 真琴は険しい表情を浮かべたまま、ちいさく拳を握りしめる。

 「私、もう何もかも失いかけてるの。委員長の地位も、友達も……このまま黙ってたら、私たちが犯人扱いされる未来しかないわ」

 その言葉に、倉木も目を伏せる。

 俺は静かにうなずいてから、「具体的な作戦は慎重に考えよう。でも、やると決めたら覚悟がいる」と声を低くして言った。

 すでに瀬良や取り巻きが警戒しているのは間違いない。こちらが変な動きをすれば、何をされるか分からない。……それでも、止まってはいられないんだ。

 すると倉木が意を決したように顔を上げた。

 「わかった。俺も協力する。放送委員として、多少は裏口の事情も知ってるから。いざとなれば夜遅くに放送室へ行くなり、マイクか何かを仕込むなり……」

 真琴は微かに笑みを浮かべ、「ありがとう、倉木くん。私たちを信じてくれる人がいてくれて、本当に救われる」と言う。

 少し照れくさそうに首を振る倉木。彼の協力は心強いが、同時に巻き込んでいいものかという不安もある。

 「ここからが本番だね、阿久津くん」

 真琴が覚悟を問うような視線で俺を見る。俺は大きく深呼吸し、うなずいた。

 「大丈夫。俺も覚悟してる。いまさら失うものなんて、ほとんどないしな」


 こうして、放課後の図書室での打ち合わせはひとまず終了。外に出れば、また冷たい視線が襲ってくるんだろう。それでもほんの少しだけ、心は前に進んでいる。

 “放送室へ忍び込む”なんて、あまりにも危険だ。だが、ここで臆していては何も変わらない。いつか誰かの前で証拠を突きつけ、「ざまぁみろ」と逆転する日まで、負けられないのだ。

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