底から始める魔王道

琉生

第一章 底から始める魔王道

第1話 スタートライン、ドン底

 大学受験前日の教室は、追い込みを掛ける生徒達の筆圧音が響いている。

 制服の似合わない冴えない眼鏡の男、マシュもその一人だった。


 昼休憩のチャイムと共に、生徒がガヤガヤと席を立ち始める。マシュは一息つきながらニヤついた。


 ————十年分の過去問、全教科満点。その他近年の傾向を掴んだ予想筆記問題集も全て攻略済み。……行ける。これで僕も、憧れの逢魔大学に————ッ!


「おや。おやおやおやおや? 落ちこぼれのマシュ君は、また筆記のお勉強かい?」


 マシュに絡んだのはスラリとしているが筋肉質の、顔の整った金髪の男だった。

 彼の背中に続いた舎弟達は、不敵な笑みをこちらへ向けてくる。


「ア、アゼル……君」


 アゼル。

 マシュの数少ない、古くからの友人だった。魔力量は学年トップクラスの多さを誇る、性格は悪いが優等生だ。


「マシュ〜、そーれまじで意味ないよ? 時間の無駄無駄。お前どうせ試験落ちるんだから、今から違う所探しといた方がいいんじゃねーの?」


 強めに肩に腕を回してアゼルが絡む。


「ひ、筆記だって大事な試験科目————」


「あっれー、知らない? 今年の逢魔大、魔王学科は実技九割よ」


「な!?」


 ほんの少しだけ芽生えた反抗心が過剰に鎮火され、マシュは灰のように白くなる。


「今から魔力訓練した方がマシじゃね? ま、学校一貧弱なマシュ君じゃ無理か!」


 ギャハハハと笑いながら、アゼル一同は教室を後にする。


 教室から露骨な笑い声はない。

 けれど代わりに、視線が飛んでくる。

 

 冷ややかな視線。

 呆れた視線。

 可哀想だと、同情される目線。


 あぁ、またこれだ。


 僕はこれでいつも、僕が嫌いになる。 




 ————『逢魔大学』。

 歴代で最も多くの魔王を輩出した、魔王育成の為の機関。


 魔王になる条件は単純明快、『強者』であることだ。


 ここ、『逢魔大学附属高校』に通う生徒は、憧れの魔王になるために、逢魔大学入学を目指す。


 だけど、問題が一つだけ。


 僕の『魔力』は、同世代の中でも『最底辺』。


 全く力のない落ちこぼれ。




 スタートラインにすら、僕は立てていなかったんだ。

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