見えちまったんだよ!

 美羽はトテトテと崚太に近づいていき、未だに困惑する崚太の肩にそっとタッチする。


「崚太、捕まえた」


 捕まえたと美羽は言ったが、別にこのかくれんぼは鬼ごっこのようにタッチする必要は無い。美羽の目に入った時点で崚太の負けなのだ。要するに、この一連の行動はただの美羽の気分だった。


「何で飛び降りて来たんだとか、そもそもどうやって俺の場所が分かったんだとか、言いたいことはあるけど取り敢えず……ふぅ、捕まっちまったぜ」


 崚太は美羽のノリに乗り、さながら罪人のように両手を前に突き出した。如何にも手錠を掛けてくれという感じに。


 崚太は肩を落とし、取り敢えず現状を受け入れる。かくれんぼで鬼に見つかってしまったという現状を。


 ――あーあ、最後まで逃げ切るつもりだったのに開始八分弱で見つかるとか……。しかも見つかった理由が膀胱の限界とか、今の俺ダサすぎるぜ。


 崚太は心の中で猛省した。何で開始前にトイレへ行ってなかったんだと。トイレに行かなければ見つからなかったかもしれないのに、と。


 この気持ちはあれだ。映画館で映画を見てるときに、途中でトイレに行きたくなって一番大事なシーンを見逃した時のあの気持ちに似てる。


「よっこらせっと」


 崚太は美羽の居る中庭へ出るため、ゆっくりと美羽が先程開けた窓をくぐった。そして景と美羽の二人に合流する。


 あっ、そういえば――。


「美羽が飛び降りて来た時は驚いたぜ。……あまりの白さに」


 と、崚太はいたずらする子供のように、最後に言葉を付け足した。傍からしたらわけが分からない。白さ? 何のこと?


「!?」


 美羽はピクッと反応する。その反応的に、どうやら美羽は崚太が一体何のことを言っているのか分かったようだ。


 景は美羽とは対照的にただ首を傾げる。この反応的に、どうやら景は崚太が何のことを言っているのか見当もついていないようだ。純粋な奴なのだ、景という人間は。


「白さ? どういうことだい?」


 崚太は景の質問に対し、やれやれと肩を落とす。親友よ、察しが悪すぎるぜ、と。


「そうかそうか景は気になるのか。なら教えてやろう。実は美羽のパン――」


「殺す」


 崚太がそれを言い終える前に、美羽が言葉を遮りいきなり崚太に対し物騒な発言をした。


「なっ!? 飛び降りて来た藤城が悪いんだろ!? 見えちまったんだよ!」


 今の発言で分かる者は分かっただろう。


 成程、崚太は先程美羽の純白の下着が見えてしまったらしい。それも美羽が飛び降りて来たその時にばっちりと。そりゃそうか、だって美羽はスカートなんだもの。上から落ちて来たら見えても仕方がない。仕方がないとは思うが崚太よ、わざわざそれをばらさなくても良いだろう? うん、そりゃあ美羽は怒るだろうよ。


「嬲り殺すわ」


 そう淡々と告げる美羽の目は、さながら獲物を狩る獣のよう。ゆらぁという赤色のオーラが、美羽の周りに見えるような気がする。端的に言ってすごく怖い。


「さっきより酷くなってるんですけど!?」


 崚太は即座にツッコミを入れた。こんな状況でもツッコミを欠かさないその胆力、尊敬するよ。


「美羽」


 狩るものと狩られるもの。その二人の間に割って入るものが居た。そう、景である。


 景はぽむっと美羽の頭に手をそっと置く。すると美羽の怒気は一瞬にして霧散した。景、恐るべし。


「そんなことしてら、崚太が可愛そうじゃないか」


 そう言う景の声色はとても優しい。誰しもを和ませるほどの穏やかな声だ。


「……はーい」


 渋々といった感じで美羽は返事をする。景に怒られて美羽はシュンとしたのだ。景に注意されるなんて珍しいもんね、仕方がないね。


「崚太も」


 景は美羽をぽむっとしたまま崚太に向き直る。


「安易にそういうことを言うのはどうかと思うよ」


 今度は崚太を叱る景。喧嘩両成敗だ。


「すみませんでした」


 崚太はシュンとする。ちゃんと謝れる崚太偉い。凌太は良い子なのだ、基本的には。


 さて、それはそうと当然のことながら景は、崚太の無遠慮な発言で大体の察しは付いていたらしい。曰く、美羽の下着は白であると。その事実に美羽は気が付き、たちまち美羽の顔がボッと赤くなる。


 ――うぅ、恥ずかしい。


「さてと、それじゃあ次は誰を探す?」


 一拍間をおいてから景は、美羽に対しそう言った。この場の微妙な空気を切り替える為に。それはこの場に居る誰もが易々と理解できた。


 景に自分の下着の色を知られたことが恥ずかしかった美羽は、全力でその発言に乗っかる。あくまで冷静を装って。


「そ、そうね。次は加奈かしら」


 若干声がどもる美羽。仕方がない。だって乙女の秘密を知られたんだもの。


 美羽は意味もなく、自身の頬を掻く。美羽は意味もなく、髪を耳に掛ける。いや、違うな。意味はあるか。恥ずかしさを誤魔化すためだ。だけどさ、髪を耳に掛けちゃったらその真っ赤な耳が見えちゃうよ。良いの?


「……崚太、そこの木の下に立ってくれるかしら?」


 「ふぅ」と短く息を吐くことで気持ちを切り替えた美羽は、中庭に生えている木を指し示しながらそう言った。


「良いけど……なんで?」


 疑問符を浮かべながらも、崚太は示された木の下に向かう。素直な子だ。それはそうと、崚太は美羽の意図が全く分からない。景も多分分かっていない。


「ほい。立ったぞー」


 だから早く意図を説明しろーと、そう手を振っていたその時――。


 ガザガザ、バサッ!


「わー!」


 崚太の上、木の中から何かが落ちてきた。


 それは崚太を下敷きに、お尻から着地する。


「ぐぇ」


 人の形をしたものが上から落ちてくるのは、崚太からしたら本日三回目の出来事だ。もっとも、下敷きにされるのは本日一回目だが。




==========

次回投稿予定は明日の同時刻です。

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