【07-b】戦争

『警告。全乗組員に警告します。本艦は地上からの攻撃を受けました。繰り返します。地上からの攻撃を受けました。乗組員は速やかにシェルターに避難してください』


 けたたましいサイレンと、アナウンスでラピュタ内は騒然としていた。


「一体、何があったんだ……!?」


 汰輝が膝をつくDr.ブネに尋ねると、Dr.ブネは大急ぎで近くの壁の端末をカタカタ弄る。すると、反対側の壁にビジョンが投影された。


 地上の様子だ。遠目で見ると黒い甲冑を着た騎士たちが大砲やバリスタを使ってこちらに向かって攻撃している。さらに、その背後には魔族の大群が控えていた。


 その映像を見て一番驚愕したのはアルタイルだった。


「あれは……アストロナイツの騎士たちです……! 魔族と一緒に……!」


 アルタイルの言う通り映像が乱れていて目を凝らさないと分からないが、攻撃してくる騎士たちの黒い鎧に正座の意匠が刻まれていた。


「そんな……! いきなりどうして……!?」


 驚愕するセレスたちを尻目にDr.ブネは考え込んでいた。


「もしかすると、あれは……」


 言いかけると更なる攻撃で艦が傾いたかのようになり、全員はバランスを崩す。


『損傷率37%! このままでは墜落の可能性があります! Dr.ブネ! 指示を請います!』


 アナウンスがこちらのDr.ブネに語りかけてきた。船体が傾く中、Dr.ブネは上半身を起こして、


「ロゼッタくん、アルタイルくん。カプセルでラピュタから地上に降ろすから、君たちはあの騎士たちと魔族を頼む」


「Dr.はどうするんですか?」


 アルタイルが尋ねる。


「僕はここに残ってラピュタを守る義務がある。どっちにしろ、僕はここから出られないしね。君たちに託せるものは託した。あとは、生きるために戦ってくれ。任せたぞ」


 汰輝たちは床伝いに巨大なシェルターのところまで移動した。そして、Dr.ブネが端末を動かすと、シェルターの扉が閉まった。


 ラピュタは傾いたバランスのまま地表近くまで降下して、大きなカプセルを落とす。地面にめり込むほど着地すると、カプセルがウィーンと透明部分が開き、汰輝達が姿を見せた。


 汰輝やアストロナイツ一番隊が辺りを見回すと、乾いた大地以外になにもなく、精霊が1匹も見当たらない。


 一方で向こうのアストロナイツや魔族の軍勢がこちらに向かって進軍してきていた。


「どうしますの?」


「姫様、お下がりください。アストロナイツ一番隊が姫様をお守りします!」


 アルタイルたちアストロナイツは剣や槍を抜き、向こうのアストロナイツを迎え撃つ。


 向こうのアストロナイツは総勢でも40人ほどしかおらず、軍勢の多くが魔族で占められていた。


 先陣に立つのは鋭い槍を携えた者と、ヒポグリフを駆る騎士たちだった。それを見たアルタイルは、剣を構えた手を更に握りしめた。


「アンタレスさんにベガさん。どうして魔族に加担するのですか!?」


アルタイルが問い質すが、返答はなく、バイザーでその表情はうかがい知れない。


「操られている……? いや、もしくは……」


 ロゼッタが考えを巡らせるが、進軍の足が止まることはない。ロゼッタは杖を、汰輝はタロットリボルブを引き抜いた。


 アルタイルが剣を対する軍勢に突きつけて高らかに声を上げる。


「アストロナイツ一番隊及び支援者の方々、突撃してください!!」


 「うおぉぉぉぉおお!!」と雄叫びを上げながら先頭を駆けるアルタイルに部隊は続いていく。アルタイルは隊長のアンタレスとベガを同時に相手にして、部隊の騎士たちは後ろの部隊と相対する。


 アストロナイツの後ろに控えているロゼッタは魔法を詠唱する。


「眩き雷よ、天より穿て、その轟きと共に……! ライトニングブレイク!!」


 曇天から鋭い光が閃くと、射線状に雷が魔族の大群の真ん中に降り落ち、その電光の衝撃に魔族たちは吹き飛んだ。


「『マキナ・ドラゴン』を召喚!」


 汰輝は召喚獣を次々にランクアップさせて、『マキナ・ドラゴン』を召喚した。


「行ってくださいまし!」


 セレスの命で『マキナ・ドラゴン』は電気のブレスを魔族めがけて吹きかけ、魔族の大群を撃破していった。


「すごいです! 皆さん!」


 アルタイルがアンタレスとベガを牽制しながら皆を賞賛する。


 その隙にアンタレスの槍がアルタイルの肩を掠める。


 汰輝が見るにアルタイルはかつての仲間の姿に本気を出せずにいる。そんなアルタイルに汰輝が大声で言う。


「アルタイルさん! その人たちは召喚獣だ! 本物の人間じゃない!」


「本当ですか!? ありがとうございます!」


 アルタイルは汰輝の言葉を受けて、2人へ距離を詰める。槍や剣を弾いて、アンタレスの長槍をすり抜けて、鎧の隙間を精密に狙って剣を体に突き刺した。


 アンタレスの体から血が噴き出ることはなく、光の粒子となって霧散した。


 ヒポグリフに跨がるベガは、ヒポグリフを操ってアルタイルに襲わせるが、アルタイルの剣閃は鋭く、力強くヒポグリフごとベガを斬り裂いた。


 ベガも消え去り、一息ついたアルタイルは剣を納めた。そんなアルタイルにセレスは駆け寄ろうとした。


「すごいですわ! アルタイ……」



「隙見ーっけ!!」



 フードの男が大剣を振り下ろし、アルタイルの背に命中させた。男はアルタイルに気づかれることなく、気配を消していたらしい。大剣はアルタイルの鎧を砕き、背中に向かって斬りおろした。


 アルタイルは背中から血飛沫を上げ、地に倒れ伏した。


「あ、あぁ……!」


 セレスは顔を真っ青にして横たわって動かないアルタイルを見る。悲鳴にならない声が口から漏れる。


 フードの男は懐からカードを取り出して、表の赤黒い面をアルタイルに向けると、アルタイルの体が赤黒く光り、粒子となってカードに吸い込まれていった。


「アルタイルゥゥゥ!!」


 セレスの悲痛な叫びが荒野に響き渡った。そんなセレスの前に汰輝とロゼッタが守らんと男の前に立ちふさがった。


「お前は……!?」


 汰輝はフードの男に聞くと、男はケケケケと乾いた笑い声を上げた。


「そういきり立つなよ、照沼汰輝。俺は剣聖を生かしてやったんだ。カードとしてだがな」


「俺を知ってるのか……お前は何者だ!?」


 男はフードを外して、その顔を見せた。双眸が鋭く光る赤と緑のオッドアイで、肌は青白く、金髪をオールバックにしている。


 その両目を見てロゼッタは睨みをきかせる。


「その目……フェイーノ村の人たちを唆したのはあなたね……! そして、アストロナイツをカードに封印した……!」


 男はパチンと指を鳴らして高らかに「イエース!」と弾けるように肯定した。


「オレはアモン! タロットトリガーの伝道師! ってブネから聞いてないか?」


「お前が伝道師を名乗るな! 早くアルタイルを返せ!」


 汰輝はタロットリボルブの銃口をアモンに向けて要求するが、アモンは両手を上げながらも、ケケケケとせせら笑う。


「タロットトリガーのファンに嫌われるのは傷つくけどなぁ、これは必要な犠牲なんだよ。この世界はタロットトリガーの餌場なんだからなぁ!」


「ふざけるな! 生命をもて遊ぶお前たちに世界のあり方を決める資格などない!」


「おー、怖っ。そのまじめくさった顔どうにかできないかねぇ。……じゃあ、ここでメインのショータイムに移るとするか!」


「ショータイム?」


 アモンは指をパチンと鳴らすと近くの崖まで瞬間移動して、大げさに両腕を広げる。


「それでは〜! 本日のゲストを紹介するぜ! タロットトリガー、プロプレイヤーの1人、塙礼二!!」


 崖の死角から一人の男が現れた。この世界にそぐわないTシャツ姿の青年。その姿に汰輝は驚愕した。


「塙……さん……!」

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