第壹章   霞童子悲恋譚㉔狭穂彦王の叛乱の真相〜狭穂彦王の叛乱・打ち合わせ〜(【生神サクヤ】【死神チルヤ】視点)

【サクヤ】は、ここで会話している間に【狭穂姫】は輿入れして半年が経過していると言った。


 一寸法師は【チルヤ】を見た。


 一寸法師「【天の扉】が開いた時に、【時間】を静止したのでしょうか?」


【サクヤ】と【チルヤ】が自ら姿を現したことから、何かやっていると一寸法師は警戒していたが、すっかり出し抜かれてしまった。


 チルヤ「いいえ………もっと後よ。黙っていようと思ったけど白状するわ。あなたたち、【ナムチ】と【ニニギ】をディスっていたでしょう。あれを見て【サクヤ】が仲間に加わりたいって言って【天の扉】を開いたのよ」


 それを聞いた【闇嶽之王くらみたけのみこと】は【サクヤ】を睨んだ。


 闇嶽之王「今回は、こちらが【召喚】しようとしていたから、あまり強く叱れないが………次からは【神社】に降りろ」


【コノハナサクヤ】は【神社】に祀られているので、他の【管理者】と違って【天の扉】を開かずに【神社】に降りて来ることが可能なのだ。



 闇嶽之王「【狭穂】が輿入れするまでに、【狭穂彦】を逃がしたかったが………ん?真秀は?………真秀はどうなった!」


【闇嶽之王】は、自ら【片翼】を切り落として更に残りの【片翼】も切り落とすつもりでいた真秀の様子を訊く。


 チルヤ「私たちの【権能】を使って切り落としたことにした」


【チルヤ】は、真秀の【時間】を止めてその止まった時間の間に真秀の【片翼】を切り落とし、その後は傷口が塞がって完治する所まで【サクヤ】が時間を進めたと話した。


 サクヤ「なんで真秀あの子ばっかり、傷つかないといけないのよ!」


 真秀がまた【生命力】が削られるほどの苦痛を受けることに心を痛めた【サクヤ】と【チルヤ】は、その過程をサクッとスキップさせたのだった。


 サクヤ「【時間】を進めたせいで、【狭穂姫】はお腹が誤魔化せないことになったから、輿入れしなきゃならないことになったけど………別にいいよね!」


 恋い焦がれた女性を妻にしてラブラブ新婚生活が幸福感で満たされているほど、別れがツライものになると【サクヤ】は腹黒い笑みを浮かべた。


 ウラシマ「『ヤンデレ』じゃねえか」


 チルヤ「【時間】を進めたせいで、【イクメ】はプロポーズ無し、新婚初夜無しでいきなり『腹ボテ新妻』がいる状態の『托卵夫』!」


【闇嶽之王】には『ラブラブ』や『プロポーズ』が何を指しているかわからなかったが、【チルヤ】が最後に言った『托卵』はわかった。【山の先住者】に『托卵』の習性がある者がいるからだ。


 闇嶽之王「【人間】に『托卵』の習性はないはずだが………」


 一寸法師「【狭穂姫】のように結婚相手とは別の人物の子を授かって、結婚相手に育てさせることを『托卵』と【未来の世界】では言うのですよ」


 夫のほうは自身の子と信じきって育てるので『托卵』という言い方になる、と一寸法師は【未来の知識】からそう言った。


 闇嶽之王「【先住者】の【卵】を他人に孵させて育てさせるのと同じことか」


 一寸法師「【伊久米大王】が育てる子は、従兄の子だから血が繋がっているだけマシですね。【未来の世界】では浮気相手の子を育てさせますからね」


 闇嶽之王「浮気相手の!………【2000年後の未来】は道徳観念が破綻しているのか?」


 一寸法師の話を聞いた【闇嶽之王】は真秀、【狭穂彦】、【狭穂姫】を逃がすのが少し心配になる。


 チルヤ「【みたけ様】、【未来】では【別世界】からの【異邦人】のことを【漂白の者】と呼ぶの。この【漂白の者】は、最初に見つけて保護した者が面倒みるか施設へ預けるか決める権利があるから………ちゃんと面倒見てくれる人物に発見されるようにする」


【チルヤ】は、私たちアフターサービスも万全よ、とドヤる。しかし例によって【闇嶽之王】にはアフターサービスが通じていない。


 サクヤ「無責任はしない!ちゃんと保護されるまで私たち見届けます!」


 サクヤは、【30世紀末期の未来】から送った者を保護した人物がいるので、そこへ送ると託す相手を具体的に説明したことで、ようやく【闇嶽之王】は納得した。




   ◆   ◆   ◆



【狭穂姫】が臨月を迎えて【佐保】に真秀まほと共に帰って来ると、母【大闇見戸売おおくらみとめと兄【狭穂彦】と【闇嶽之王くらみたけのみこと】そして、なぜか【大海主之王おおみのみこと】が「おかえり」と出迎えた。


【古代】は嫁いだ女性が頻繁に実家へ入り浸りになるのがよくあることだった。【伊久米大王いくめのおおきみ】は婚姻後に【玉垣宮たまがきのみや(奈良県桜井市)】に【都】を移した─────────【古代】は【天皇】が変わると【遷都】していた─────────ので【佐保】までの距離が少し近くなったが、それでも片道4時間かかるので身重の【狭穂姫】の帰省は約5~6カ月ぶりだった。それは【狭穂姫】の【侍女】として付いて行った真秀も同じであった。


【狭穂姫】は、【狭穂彦】へ揶揄うようなニマニマした笑顔を向けた。


 狭穂姫「お兄様、新婚だったのに私が真秀を独り占めしてごめんね」


【狭穂姫】と真秀は、【都】でずっと2人一緒だったのでお互いに敬称を付けなくなるぐらい仲が深まっていた。


【狭穂姫】は、自分の出産から産褥が過ぎるまではずっと【佐保】にいるので真秀の側にいられて嬉しいでしょ、と言って真秀と【狭穂彦】がお互いに顔を見合わせて赤面して照れるという初々しくも微笑ましい姿が展開されている。


 そこへ【サクヤ】と【チルヤ】が現れた。


 サクヤ「照れちゃって初々しい!これが『青春』!アオハルよ!」


 恋愛脳でテンションが高くなっている【サクヤ】を真秀はちょい引き気味に【狭穂姫】は、趣味の合いそうな人を見つけたような表情で見る。


 狭穂姫「アオハル………という言葉はわかりませんが、何だかキュンキュンする響きがします」


 サクヤ「あなた、なかなか見どころがあるじゃない!」


【狭穂姫】は持前の社交性で初対面の【サクヤ】にも物怖じしていなかった。【サクヤ】のほうは、なぜか『悪役令嬢ムーブ』を出している。


 チルヤ「【サクヤ】黙って。真秀、【狭穂姫】、【佐保彦】、ようやく3人揃った。今日は疲れてるでしょうから休みなさい。明日、【日子坐ひこいます】と【美知能宇斯みちのうし】がここに来る。その時に重要なことを話すわ」


【チルヤ】は同じ話を何度もするのは非効率だから当事者3人と、それぞれの親が集まる明日まで話はオ・ア・ズ・ケと昔流行した「お・も・て・な・し」をパクリアレンジした。何気に【サクヤ】に対抗して『クールビューティームーブ』をやってみた。


 どちらのムーブも【古代】では理解してもらえず、【サクヤ】と【チルヤ】は【大海主之王】と【闇嶽之王】から残念な生き物を見る目を向けられただけであった。


 そして翌日、【日子坐】と【美知能宇斯】が【佐保】へやって来て【サクヤ】と【チルヤ】が指定した者たちが集まると、彼女たちは自己紹介から始めた。


 サクヤ「突然の呼び出しに応じてくれたこと、感謝するわ。私たちは【管理者】と呼ばれるそこにいる【先住者】たちよりも『上位の存在』よ」


【サクヤ】の言葉に【大海主之王】と【闇嶽之王】を除いた一同は目を瞠った。


 彼女は【先住者】と呼んだが、【大海主之王】は【海の先住王】、【闇嶽之王】は【山の先住王の一族】でただの【先住者】とは天地ほどの格差がある。更に【大海主之王】と【闇嶽之王】は【先住者】と一括りにされていることに対して異を唱えていない。この両者の態度から【サクヤ】と【チルヤ】が『上位存在』と自称しているのではないことが窺えた。


 チルヤ「論より証拠………あなたたち、外へ出てここまで同行した従者を見に行きなさい」


【チルヤ】が【日子坐】と【美知能宇斯】に外の様子を見て来いと言ったのを聞いて、【狭穂彦】は彼らの手を煩わせることを厭って自分が見に行くと申し出た。更に【狭穂姫】が興味本位から便乗して兄妹2人で見に行った。


 戻って来た【狭穂彦】と【狭穂姫】は顔色が悪い。


狭穂彦「大変なことになりました。父上と【美知能宇斯様】のご家来の方々が土偶のように動きが止まっています!」


 息もしていないし脈の動きもない、と【狭穂彦】はそれだけではなく周囲が静かすぎると違和感を訴えた。


 狭穂姫「風の音も木の葉の騒めきもなくて、まるで時間が止まったみたい」


【佐保】の地は山背と呼ばれる山の方から吹く風が絶えず吹いている。【狭穂姫】は子守唄のようにずっと聞いていた風の音が聞こえないことから比喩表現として時が止まったようと言ったが、それは的を射ていた。


 サクヤ「ビンゴ!よくできました!私たちの【権能】で【時間】を止めちゃいましたー!」


 チルヤ「『時を止める権能』は私のもの。【サクヤ】はまだ何もしてない。それに【古代人】には通じないよ」


 何もしていないのにドヤる【サクヤ】に【チルヤ】はツッコミながら呆れる。


 大海主之王「この者たちの言うことは事実だ。素性は我と【みたけ】が保証する。この者たちがこれから話すことは荒唐無稽だろうが、最後まで聞いてやってほしい」


【サクヤ】と【チルヤ】に進行を任せていたら会話が停滞すると考えた【大海主之王】は発言力と信頼がある自身と【闇嶽之王】の名を出して、この場では【サクヤ】と【チルヤ】への追及を免除させる。


 闇嶽之王「【サクヤ】と【チルヤ】は元は【山の神】だった。【山の先住者】とは縁が深い者たちだ」


【闇嶽之王】は【山の先住者】との縁を前面に出したほうが受け入れられると考えてそう言った。そしてそれは読み通りであった。【大闇見戸売】と真秀は【闇嶽之王】へ絶大の信頼を寄せている。それは【大闇見戸売】の子の【狭穂彦】と【狭穂姫】も同じである。


【日子坐】が動きの止まった者たちはどうなるのかと気がかりなことを訊く。それに対しては【チルヤ】から『獣の冬眠』と同じ状態という答えを得て命に別状がないことがわかると、返答に対する礼を言って話を聞く態勢になる。【美知能宇斯】も家来の無事が保証されれば何も言うことはない様子だ。


 サクヤ「本題の前に、私たちの『管理者の権能』について話すわ。【チルヤ】は今その目で見た通り、『時間を静止させる権能』よ。そして、私は『時間を流動させる権能』を使えるわ。【狭穂姫】と真秀は、経験済みよ。私の権能で【狭穂姫】の輿入れから新婚初夜、その後の御床入り等………【イクメ】と接近しなければならないこと全部飛ばしてやったわ!」


【サクヤ】の言葉に真秀は言われてみればと反応した。【先住者】の真秀には何か違和感を覚えることが度々あったようだ。


 狭穂姫「私………全然気づかなかったわ」


【狭穂姫】は、あっという間に臨月を迎えたがそういうものだと思っていた。


 チルヤ「今、話した通り【時間】を止めたり【時間】を早送りしたり巻き戻ししたりするのが私たちの【管理者の権能】」


 でも私たちは気まぐれだから無闇矢鱈には頼まないでね、と【チルヤ】はいつもそういうことをしているわけではないことを強調した。


 サクヤ「今回は【比類神子ひるこ】が2人死亡したから、を観察していた。そして【未来】を知ってしまった」


【サクヤ】は自分たちは【時間の権能】でその気になれば、いつでも【過去】【現在】【未来】を覗き見できるのだがバカ正直にそれを話す必要性を感じなかったので、【比類神子】の【御景見戸売おんかげみとめ】と真王まおのおかげで【未来】を知ることができたことにした。


【チルヤ】は事前に打ち合わせのないことをされたが、元々【サクヤ】と【チルヤ】は『同一生命体』だったのですぐさま【サクヤ】の意図は理解した。


 チルヤ「私たちは、偶然知った【未来】を認めたくなかったから【時間の権能】を使って何度もやり直しを試みたけど、結果は変わらなかった」


【チルヤ】は、【サクヤ】に話を合わせながらアドリブを加えた。彼女たちの言う【未来】は実際は【未来人】の一寸法師とウラシマから得た『歴史書の事象』だが、自分たちの【権能】で知り得たことで押し通すことにした。


 サクヤ「私たちは【比類神子】の子であり妹である真秀を見守っていた」


【比類神子】は『神々の寵愛を受けし者』で、【御景見戸売】や真王のように若くして死亡することは前代未聞の出来事だったので自分たちの他にもあと10柱いる【管理者】全員の意見一致で【比類神子】のである真秀を『疑似的に比類神子』にすることにしたと告げた。


【比類神子】は身体的に【不具】が生じるというのが決まり事なので、真秀は自分のからだを見回して【不具】を確認するが、【チルヤ】は仮初めのものなので体のどの部分も奪っていないと言った。【チルヤ】が奪うと口にしたことから、やはり【比類神子】は『神々の寵愛』と引き換えに体の一部が【不具】になることが確定した。


 チルヤ「真秀は【先住者】だから【長命】。私たちも延々と【長命種】を見守り続けるのは無理だから、亡くなった【比類神子】が生きるはずだった歳月だけ【比類神子(仮)】に真秀を据え置くことにしただけ」


【チルヤ】は、早すぎる【比類神子】との別れに【神々】も動揺してそれをなだめるのに【比類神子】のを利用するだけだと【神】らしい傲慢な理由を述べた。


 サクヤ「私たちは、【先住者の伴侶】を得ることができた慶事を祝って【未来】を占った」


 そして出た結果が、【神々】が納得しない結果だったから【時間の権能】を持つ自分たち2柱が【人間界】へ派遣されたのだと【サクヤ】はもっともらしいことを言った。全て真秀のため【比類神子】が享受するはずだった吉事を全て真秀へ与えるのだと【サクヤ】は言い含めた。


 サクヤ「【占い】の結果は【狭穂彦】が『謀反の冤罪で討伐される』だったわ」


 ようやく本題に入った【サクヤ】だったが、当事者の【狭穂彦】をはじめ真秀、【狭穂姫】、【大闇見戸売】は激しく動揺する。【日子坐】と【美知能宇斯】は何やら思案する様子だった。


 チルヤ「結論から話します。この【占い】を何度やり直しても、同じ結果になったので私たちは【時間の権能】を使って【未来の世界】へ真秀、【狭穂彦】、【狭穂姫】の3名を逃がすことに決定しました」


【チルヤ】は逃がしてくれると言ったが、【未来の世界】というのが理解不能だった。


 狭穂彦「あの………質問してもいいでしょうか?」


【狭穂彦】が意を決して伺いを立てると【サクヤ】はどうぞと促した。


 狭穂彦「その【占い】で私が何をして【謀反人】となったのか原因が判っているなら、その行動をしなければ良いのではないでしょうか?」


 チルヤ「あなたが本当に【謀反】を起こしたならそうね。先に、言ったでしょう。これはなのよ」


 あなたがどのように動いても【謀反人】にされてしまうのよ、と【チルヤ】は言った。【狭穂彦】側からすれば理不尽この上ない話だ。


 サクヤ「【イクメ】は【狭穂彦】と【狭穂姫】の仲を疑っている。あなた達兄妹は【狭穂】という『対の名』でしょう。【佐保】は身内同士で婚姻する一族だから、【イクメ】の疑心暗鬼は当然といえば当然だけど、許せるのはそこまでよ!」


 疑いが過ぎて殺意になったら許容範囲を超える、やり過ぎだと【サクヤ】は言った。どことなく【大王おおきみ】に対して積年の恨みを感じる。


 狭穂姫「それでは、私のせいでお兄様は冤罪を!」


 そして【狭穂姫】は、ハッとして膨らんだ腹に手をやった。


 狭穂姫「まさか………この子をお兄様の子と勘違いしているのでは………こんなことになるなら、本当のことを話しておけばよかったわ!」


【狭穂姫】は自分のせいで兄に冤罪がかけられると思いこんで、冷静な思考ができなくなっていた。


【狭穂姫】の腹の子の父親は【真若王】なのだ。この事実を【伊久米大王】が知れば、【狭穂彦】だけでなく【日子坐】と【美知能宇斯】までが連座で処刑となる。


 大海主之王「落ち着け。我が思うに【イクメ】は【狭穂彦】を完全に排除したいのだと思うぞ。輿入れの際に真秀を紹介する時に【狭穂彦】の妻だと言っていたではないか」


【大海主之王】の言葉では侍女で付いて来た真秀は【狭穂彦】の妻という素性にしたようだ。そのほうが身元もしっかりしているので悪くないと思われたが、【大海主之王】の次に続く言葉で【サクヤ】がブチ切れることになる。


 大海主之王「おおかた、【イクメ(垂仁天皇)】は【狭穂】に顔がソックリな真秀を手に入れたくなったのだろうよ」


 サクヤ「はあぁ?『二股』!二股かけんのか!あのがー!【✕殖✕】腐れ!」


【サクヤ】は【ニニギノミコト】への憎悪から【天孫族】の【直系】へのディスリスペクトは尋常でない。【日本神話】随一の美女と呼ばれた【コノハナサクヤ】像が崩壊している。


 闇嶽之王「ふたつの動機で【狭穂彦】が邪魔ということか………全く持って度し難い思考だ」


【闇嶽之王】は【伊久米大王】が【狭穂彦】を排除して【狭穂姫】と真秀の両方を手に入れようとしている短絡的な考えに呆れた。

 

【狭穂彦】は【先住者の伴侶】なので、【伊久米大王】が真秀を欲した場合【佐保】が【先住者】と【朝廷軍】との戦禍の中心地になる。死を目前にして【加津戸売かつとめ】が【預言】した【佐保の滅亡】は確実のことになる。


 大闇見戸売「お母様の『最期の預言』が現実のことになる………【比類神子】の【景比売かげひめ(御景見戸売おんかげみとめ)】を【忌み人】として葬ろうとしたから【佐保】は呪われたのよ!」


【大闇見戸売】は母【加津戸売】の遺した『滅びの導き手』が誰を指すのかをようやく理解して、【佐保】は【朝廷】に滅ぼされると告げた。


 大闇見戸売「『滅びの導き手』は【狭穂彦】………言い訳にしかならないけれど、今の今まで誰も知らなかった!でもそんな言い訳は通らない!【佐保一族】は【比類神子・御景見戸売】を亡き者にしようとした!この事実は消せない!」


 冤罪の次は『滅びの導き手』とまで言われて【狭穂彦】は、困惑した。しかし、自分の存在が【佐保】を滅ぼすなら処刑されたほうがいいのではないかとオカシな考えに傾いていく。


 そんな【狭穂彦】の頭を【チルヤ】が張り倒した。


 スパーンと非常にいい音が鳴ったので、一同が注目した。そこにはハリセン片手にご満悦な【チルヤ】と張られた頭を手で押さえている【狭穂彦】の姿があった。


 チルヤ「【人間】は余計なことを考えすぎ。答えは簡単。【狭穂彦】は【未来の世界】へ逃亡する!真秀は【伴侶】なんだから当然、同行これは絶対よ!拒否権無し!そして残して行ったら後が心配な【狭穂姫】は強制連行!強制だから当然、拒否権無し!」


 あなた達3人が【大王おおきみ】の手の及ばない所へ行ってしまえば全て解決するのよ、と【チルヤ】は強引に【管理者の権能】で解決してあげると言った。


 サクヤ「感謝なら【御景見戸売】と真王にしなさい!あの2人の【生命】を対価に本来ならやってはいけない『時空間干渉』をやってあげるのよ!」


 闇嶽之王「【大比売おおひめ(大闇見戸売)】は【山の先住王】が保護する。お前たち3人は後顧の憂いなく逃げろ」


 3人が最も心配していた【大闇見戸売】は【山の先住王】の元で保護されるらしい。【山の先住王】とは短い対面で人柄はわからないが、【闇嶽之王】は信頼できる。真秀、

【狭穂彦】、【狭穂姫】はお願いしますと手を付いて頭を下げた。頭を下げた際に腹がつかえた【狭穂姫】は、腹の子は逃亡先の【未来】で出産することになるのかと訊いた。【狭穂姫】としては慣れない地で出産は不安だ。


 サクヤ「何の為に【時間】を止めたと思ってるの。ここで生んでから【未来】へ逃がすわ!でもその前にハッキリさせることがある。【狭穂姫】、あなたは出産した子を育てたい?それとも【ケダモノ】の子は育てる自身がない?時間はいくらかかっても………」


 狭穂姫「自身がありません!」


【サクヤ】が言葉を言い終わる前に【狭穂姫】は清々しいほどキッパリ言い切った。


【大闇見戸売】は、あなたは育てる自身のない子を産むつもりだったのかと言いたげに娘を見る。


 狭穂姫「身籠ったのが判った時、この小さな【生命】を亡き者にする権利はないと思いました。でも、ずっとお腹の中で育てていると私はこの子を育てられるか不安のほうが大きくなりました」


【狭穂姫】は腹の膨らみが大きくなって、子の存在が現実味を帯びてきたのと比例して【真若王】への怒りがフツフツと育ってくるのを感じたと告げた。


 サクヤ「【人間】は身籠ってから十月十日とつきとおかの長い期間、胎内で育むから最初の『子に罪はない』の勢いがいつまでも続くとは限らないのよ。あなたは悪くない。悪いのは【ケダモノ真若王】!」


 その【ケダモノ真若王】と呼んだ者の父親と兄が同席しているのだが、【サクヤ】は【管理者】なので配慮や遠慮は度外視している。


 子は【真若王】の身内である【日子坐】か【美知能宇斯】に渡されるのだろうか、と【狭穂姫】の脳裏によぎったのを知ってか知らずか【チルヤ】が非常識な発言をした。


 チルヤ「その子を育てるのは【イクメ】!あわよくば、その子が次の【大王】かもしれないから【イマス】は文句ないでしょう。【狭穂姫】が消えた後の【后の座】は【ミチ】の所の【丹波四姉妹】に押し付けなさい。上の2人は【大王】とお見合いさせてたから、元より【后】に推す気だったでしょう。この際だから全員【イクメ】に押し付けてしまえばいいわ!」


【チルヤ】の言葉の端々に【大王】へいくらでも面倒事を押し付けて良し、という雰囲気が纏い付いているのは気のせいだろうか。


 戦乱の元になりそうな3人の逃亡と生まれて来る子の行く末や、身内から【大王】の嫡子を出すという【日子坐】の野望まで叶って至れり尽くせりなのが少し怖い。


 チルヤ「あなた達に都合の良い結果を用意してあげるのは、全部【御景見戸売】と真王のおかげだと忘れないで!」


 あの2人は真秀の幸せを願うから、真秀が後々罪悪感を持たないように良いことずくしにしてあげるだけだから、と【チルヤ】はツンデレっぽく言ったがツンデレを理解できない【古代】では誰の得にもなっていなかった。


 サクヤ「どうせなら、お別れする前に【狭穂姫】の姿をひと目見せてからのほうがドン底を味わうに違いないわ!あなた達にはこの逃亡劇の共犯者になってもらうわよ!」


【サクヤ】の腹黒い笑みに、彼女が【大王】の一族に対して並々ならぬ恨みがあるのは間違いないと誰もが確信した。



https://kakuyomu.jp/users/mashiro-shizuki/news/16818622175877365504

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