第壹章   霞童子悲恋譚㉓狭穂彦王の叛乱の真相〜時間の権能~

【サクヤ】と【チルヤ】に『狭穂彦王の叛乱』で【狭穂彦】が冤罪で討伐されるのは理不尽だから、一寸法師とウラシマがいた【未来の世界】へ逃がしてやりたいという旨を【闇嶽之王】は告げた。


 サクヤ「珍しい。【大海主おおみ様】なら言いそうなことだけど、【みたけ様】が【人間】を救けるなんて貴重よ!」


 チルヤ「そうだね。【山の先住者】は、基本ヒッキーだから【人間】に肩入れするのは珍しい」


【サクヤ】と【チルヤ】は、どういう風の吹き回しかと【闇嶽之王】を追求する。


 闇嶽之王「その【人間】は【まほろば鳥の一族】の【花婿】だ。一族の繁栄の象徴たる【ツガイ】を護るのは当然のことだ」


【闇嶽之王】は、所でヒッキーとは何だと訊いた。【サクヤ】と【チルヤ】は『時間に干渉する者』なので、【未来】の言語を結構知っている。故に、このように言語が通じない相手に使ってしまう『うっかりミス』がある。


 一寸法師「引き篭もり………という意味ですよ」


 一寸法師は、すっかり【未来】の言語翻訳機と化している。


 闇嶽之王「引き篭もり………は、父上だろう。俺は最近は割と活動的だぞ」


【闇嶽之王】は、真秀まほの様子を見に【淡海おうみ】まで出向くことが多かったので、それを活動的と言っていた。因みに真秀が生まれてからの十数年間が【闇嶽之王】の最近である。【人間】の感覚だと結構な年月だ。


 サクヤ「実は………私たち、真秀には申し訳ないと思ってるのよ。母親と兄は【比類神子ひるこ】だから、当然尊い存在として格別な扱いを受けると思ってたわけ!」


 ところが【御景見戸売おんかげみとめ】は暗殺されかけ、匿われた【淡海】では【御景見戸売】は【碑女はしため】の扱いで更にその子である真王と真秀も【奴婢ぬひ】にされていた。【サクヤ】はオカシイでしょう、と地団駄踏んで力説する。


 チルヤ「【サクヤ】に任せてたら話が進まない。【みたけ様】了解しました。真秀、【狭穂彦】、【狭穂姫】の3名を2000年後の【未来】へ亡命させます」


 3人を逃がしてくれると言う【チルヤ】に【闇嶽之王】は、【対価】を払わなければならないのではないかと訊く。当初の目的は【狭穂彦】だけ逃がすことだった。


 サクヤ「対価を払うのは、私たちのほうよ。【比類神子】が不当な扱いを受けて、挙句の果てに亡き者にされたんだから!」


 3人を【亡命】させるだけでは全然見合わない、と【サクヤ】は言った。


 チルヤ「あ………【エレン】が真王推しだったから、【狭穂姫】の子かも」


 言い方の悪い【チルヤ】に【闇嶽之王】はマトモじゃない子が生まれたら困る、と言っているが一寸法師がどうマトモじゃないか判ったようだ。 


 一寸法師「【みたけ様】、【狭穂姫】が出産する【ホムチワケノミコト】は生まれつき口が利けないといいましたよね!多分、それですよ」


 そういえば言ってたな、と【闇嶽之王】は思い出した。一寸法師は【クズ種馬男ナムチ】の【呪い】じゃなかったんだとつぶやく。


 ウラシマ「ヒデェな。子どもに罪はないだろ」


【ウラシマ】はそう言うが、【狭穂姫】の産む子は【真若王】の子なので、真王推しの【女神エレオノーラ】から見れば『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』の心情である。


【サクヤ】と【チルヤ】は【比類神子】2人の【生命の対価】は、まだお釣りが残っていると言った。


 チルヤ「他にはない?なければ貯蓄するのも有り!」


【チルヤ】は『イイねポーズ』をする。


 サクヤ「【みたけ様】、私たち【時間】の概念の【管理者】だから【転身者】を探していた時に見ちゃったんだ」


【サクヤ】は【闇嶽之王】が【後継の儀】で見事に【大闇主之王おおくらぬしのみこと】を討ち、次代の【山の先住王】になると告げた。


 闇嶽之王「そうか………俺が父上を討つのか」


 複雑な心境だった。【大闇主之王】は怜悧で酷薄な印象を与えるが、【山の先住者】たちは彼を慕っている。その【大闇主之王】を討ち取って【山の先住王】の座に就く【闇嶽之王】は恨みを一身に受けることになるのではないか、と考えてしまった。


 チルヤ「【先住者】は強さが正義!勝者には無条件で従う。それが【先住者のルール】よ」


【チルヤ】は、その時がきたら遠慮は無用だと言った。そして重要なのは【大闇主之王】を討った後だと言う。


 チルヤ「互いに死力を尽くした後だから当然、疲れ切ってる。そこを狙って【八岐】は【みたけ様】を後ろから不意打ち殺害しようとするの」


 後ろから不意打ちすると聞いてウラシマが、卑怯だと言った。


 ウラシマ「百歩譲って、疲弊している所を突くのは戦略ってことにできても後ろから攻撃するのはセコすぎるだろ!」


 闇嶽之王「疲れた所を背後から………【八岐】なら納得だな。だが、殺害と言ったな」


【闇嶽之王】は【チルヤ】が殺害とは言っていないことを指摘する。


 チルヤ「【山の先住者】の最古参の三長老が【八岐】を警戒していたから、不意打ちは失敗する。【八岐】の【毒攻撃】を受けて【ヤマネコ長老】が弱体化してしまうの」


 闇嶽之王「【オオヤマネコ】が!俺を庇って代わりに【毒】を受けることになるということか!」


【チルヤ】は【オオヤマネコ】がなぜ【毒攻撃】を受けるかは話していないが、【闇嶽之王】はその過程を想像してその結果に行き着いた。


【サクヤ】は【生神せいしん】、【チルヤ】は【死神ししん】と、自分たちの【管理者(亜神)の名】を告げた。


【管理者の名】だけで、その者の【権能】が判ってしまう者もいる。【サクヤ】と【チルヤ】はその最たる例である。


 闇嶽之王「【生】と【死】………『時の流動』と『時の静止』か」


 案の定、【闇嶽之王】には【サクヤ】と【チルヤ】の【権能】がバレた。


 一寸法師が、話の腰を折って申し訳ないですがちょっといいですかと割り込ませてくださいと言った。


 一寸法師「僕、ずっと不思議だったんですよ。【八岐】って【日本神話】で【スサノオノミコト】に討たれる【八岐大蛇】のことですよね」


 討たれたはずの【八岐大蛇】がなぜ生きているのですか【不死身】なんですか、と一寸法師は訊いた。


 闇嶽之王「何を言っているんだ?【八岐】が生まれたのは【ミマキ】の御代だ。【スサノオ】の頃だとだろ」


【スサノオ】は【神話時代】なので、ひと昔前のはずがないが【長命種】の狂った時間感覚では10年前くらいのことのようだ。


 一寸法師とウラシマも【禍津神マガツカミ】に覚醒しているので、時間感覚がズレているが流石に【神話時代】をひと昔前にする感性を持っていなかった。


 一寸法師「まだということは理解しました」


 ウラシマ「ああ………話を盛った的な………」


 ウラシマは『ヤマトタケルの英雄譚』が好きだが、『スサノオの冒険譚』も好きなので、『スサノオの八岐大蛇退治』は当然知っている。彼は、話を盛り上げる為に派手なエピソードを挿入する読み物あるあるかと言った。


 サクヤ「いいえ盛ってないわ。【八岐】は【スサノオ】に討伐されたのよ」


【サクヤ】は【古事記】の『スサノオの八岐大蛇退治』は、【管理者】によって後から挿入した事柄だと言った。


 チルヤ「私が【八岐】の現地時間を止める。その止まった時間の間に【過去】で【八岐】は【スサノオ】に討伐されたり、【ヤマト朝廷】に処刑されたり、さらに【未来】では『ムカデ妖怪』として討伐されたり、酒に酔わされて討伐されたり、『あらゆる苦痛を受けさせる刑』を受刑してもらう」


【チルヤ】が時間を止めている間に【サクヤ】が【過去】【未来】の後世に記録が残っている討伐された【先住者】を【八岐】に差し替えるのだとカラクリを話した。


 サクヤ「出来事をそのままに対象を差し替えるから、ギリギリで『事象改変』にならないのよ」


 サクヤは左右の腕を横に水平に伸ばして『セーフのポーズ』をする。


 闇嶽之王「最後の酒に酔わされてと言うのが、やけに具体的だな。ところで『時間を止められている間』の【八岐】はどうなるのだ?」


【闇嶽之王】は、時間が止まるということは『冬眠状態』と考えていいのだろうかと予測していた。【先住者】の『冬眠状態』とは【コールド・スリープ】のことである。【山の先住者】は【獣】が多く『冬眠』する種族も少なからず存在する。


 チルヤ「よ。『冬眠』と違って、眠りが浅くなって途中で目覚めるなんて中途半端はしないから!」


【管理者】は【神】だからきちんと死なす、と【チルヤ】は物騒なことを言っている。


 闇嶽之王「………その『仮死状態』とやらの間は、【八岐】は『死んでいる』ことになるのか?」


 チルヤ「【みたけ様】どうしてほしい?『仮死状態』は、私の【権能】だからアレンジし放題!例えば、【八岐】の肉体を『仮死状態』にして『意識を生かしておく』と、意識は生きてるから見えるし聞こえる。でも肉体は死んでる状態だから、周囲から『仲間外れにされている』という疎外感にモヤモヤと苛立ちと何とも言えない焦りを感じるプラン!これ私のイチオシ!」


【闇嶽之王】のわからない言語が出て来たが、相当底意地の悪いことだというのはわかった。


 闇嶽之王「【チルヤ】の今の話からすると、例えば【悪夢】を延々と見せ続けることも可能なのか?」


 サクヤ「まさかの【精神攻撃】!【みたけ様】………意外と病んでるねえ」


【サクヤ】がおヌシも悪よのうと言う時の悪人風笑顔をしている。【サクヤ】の反応から可能であることを【闇嶽之王】は理解した。


 チルヤ「あのね………【八岐】の刑執行は少し後になるけど、【みたけ様】が【後継の儀】をする時には【八岐】は死なすから安全に【儀式】は行えるはずよ」


【チルヤ】は【八岐】付きの【神堕ち】した【鬼】を【地獄界】が追放したがっていることを話した。


 チルヤ「【閻魔大王】から、あいつら厄介だから悪さしている所を現行犯で押さえて追放処分したいって相談持ちかけられた。あいつら悪がしこいから【八岐】の悪だくみに加担してる所を捕まえるしかないのよ」


 その為に【八岐】を泳がせる作戦であった。


 闇嶽之王「【夜叉鬼やしゃき】と【阿修羅女あしゅらめ】か………あいつら【本体】から切り離されただけでなく、からも厄介払いされるのかよ」


【夜叉鬼】は【夜叉王】から【阿修羅女】は【阿修羅王】から切り離された【オニの気】が人型に【受肉】した存在だ。本来なら【具現化】で【精神体】のはずが【受肉】を果たしたのは、【夜叉王】と【阿修羅王】は現在は【地獄界】で【閻魔大王】の側近に就いているが、元は【天上界】の【神仏】だったから高い【神通力】が【受肉生物】に変えたのだろうか。


 サクヤ「そもそもなんで【八岐】の付き人になってるの!根性の歪んだ【八岐】と根性邪悪なあいつら………サイアクの組み合わせじゃん!」


 闇嶽之王「最悪同士で意気投合したんだろ。【夜叉鬼】と【阿修羅女】は最初は【霞童子】に舎弟にしてくれと頼んでたぞ」


【霞童子】は【鬼神】なので、同じ【鬼】のよしみで受け入れたようだが、気づけば【八岐】が引き抜いて自分の配下にしていた、と【闇嶽之王】は言う。肝心な【八岐】に鞍替えした理由に【闇嶽之王】は無頓着だったので、【長命種】の杜撰な性格が見落としをしていた。


 一寸法師「あの………【サクヤ様】、【チルヤ様】、僕たちのいた【未来世界】では【オオヤマネコ長老】は弱体化してましたよ。これって、【八岐大蛇】を封じても別の要因で結果は変わらないのではありませんか?」


 サクヤ/チルヤ「何やて!」


 一寸法師の言葉に【サクヤ】と【チルヤ】はクワッと目を開いて極妻風の反応返しをした。ウラシマがそれを見て、おお揃ったと拍手している。


 闇嶽之王「【八岐】以外に俺は不意打ちされるってことか………」


【闇嶽之王】は、自身の母親の【白蛇姫】か【八岐】の母親の【女媧じょか】かとすぐに名前を挙げた。


 ウラシマ「【山の若様】よ………すぐに名前が出てくるなんて、なんか恨まれる心当たりでもあるのか?」


 ウラシマは【闇嶽之王】とはこれまでに深い付き合いがあったわけではないが、この短期間の交流でしっかり英才教育された完璧な跡継ぎだと感じていたので、正直他者から恨まれるのは考え難かった。


 闇嶽之王「これから恨まれるのだろうよ。あの人たちにとっては俺は『夫の仇』だからな………」


【後継の儀】は強さを証明するための通過儀礼だが、【白蛇姫】と【女媧】は儀式で討伐される【先住王】の【妻】だ。【女】として【夫】を殺された恨みを抑えきれずに感情の向くまま事に及ぶのは充分考えられる、と【闇嶽之王】は言った。


 ウラシマ「【女媧】はともかく、【白蛇姫】だっけ?その人は【山の若様】の母親だろう。母親が子に憎悪を向けるか?」


 ウラシマは【元の世界】の母・篁乙たかむらきのとを脳裏に浮かべた。優しい母だった。父親の影連かげつらの鍛錬がややスパルタ気味で、常に鍛錬後はどこかを怪我していたが【医療忍】の乙がいつも治癒してくれたので、影連のスパルタ教育もそれほど苦にならなかった。


 闇嶽之王「【人間】の母と【先住者】の母は違うんだよ。【先住者】はどうしても【本性】のほうが出てしまう。俺の母は名前のとおり【蛇】だからな執念深さや陰湿さなどの抑え込むのが難しい感情だ」


 一寸法師「僕たちの母上は【みづち】の【転身者】でしたよ」


 一寸法師が【滝夜叉姫】と呼ばれる【あやかし】を従える【異能力】を持った【先住者】の【転身】だったと告げた。


 ウラシマ「ええ!あの優しい母上が【蛇姫妖怪】だったのか!」


 ウラシマの驚きに、【闇嶽之王】はこいつ知らなかったのかと呆れた視線をウラシマに向ける。


 一寸法師「【みたけ様】、母はウラシマが10才に満たない頃に亡くなっているので、母が【転身者】と知るのは僕を含めて次男、三男までです」


 闇嶽之王「【人間】の10才未満は、まだガキだからな………そんなガキの頃に母と死に別れていたのか。しかし【滝夜叉姫】………知らない名だ。【あやかし】を従えるなんて相当な【霊力】の高さだ」


【闇嶽之王】が【滝夜叉姫】の情報を精査している時、【サクヤ】がグスッグスッと嗚咽をもらした。


 サクヤ「【前世】では【ホオリ】が生まれてすぐに私は【天】に召された………生まれ変わっても、子どもの頃に母親を亡くすなんて………ううっ」


【サクヤ】がかつて三人の子を遺して逝ってしまったトラウマから変なスイッチが入った。おのれ【ニニギ】めぇと怒りの矛先が【ニニギノミコト】に向けられていた。


 ウラシマは、【ニニギノミコト前世の父】は【サクヤ】が産後に亡くならなければ確実にマウント取られてたなと思った。


 一寸法師は【闇嶽之王】にザックリと【滝夜叉姫】の概要を説明した。


 一寸法師「元は【人間】です。【平将門】という【武士】の娘で、【平将門】が【俵藤太】と【平貞盛】に討伐された後、残党処分で追われて逃げていた過程で【みづち】の【先住者】になり【あやかし】を従える【異能力】を身につけたと【未来】では伝わってますよ。因みに【俵藤太】は『大百足退治』で英雄になったので、もしかしたら【八岐大蛇】は【俵藤太】に討伐されることになるかもしれませんね」


 一寸法師の話に出てきた【武士】が【闇嶽之王】には何なのかわからない。


 闇嶽之王「【武士】というのも聞いたことがない。それは【未来世界】の官職なのか?」


 一寸法師「2000年後には【武士】はいませんよ。この【世界】でいうと、【日子坐王ひこいますのみこと】や【美知能宇斯王みちのうしのみこと】のような方たちですね」


 なるほど【武官豪族】かと【闇嶽之王】が呟いたので呼び方が変わっただけだと理解したようだ。


 一寸法師が【滝夜叉姫】や【武士】の説明をしている間、【サクヤ】と【チルヤ】は内緒話をしていた。


 サクヤ「【俵藤太】に討たれる【八岐】………因果応報ね」


 チルヤ「【真若王】はハメられた恨みを晴らすのね」


 内緒話というのは、聞きとがめる者がいない所でするものだ。【蛇神】が本性の【闇嶽之王】にはしっかりと聞かれていた。


 闇嶽之王「おい、今【真若王】の名前が出たようだが………あいつ生きてるのか!」


 現在の時系列ではこの時は、【霞童子】に救われた【真若王】が【幽界かくりょ】に匿われて【霞童子】と逢瀬を重ねる『蜜月の時』であった。


 一寸法師「死んで【転生】したのではないですか?確か………この後は【蘇我蝦夷そがのえみし】になりますよ」


【未来知識チート】を披露する一寸法師に、【闇嶽之王】は【未来人】有能だなと彼らを取り込んでいる【大海主之王おおみのみこと】が羨ましくなった。


 一寸法師は【蘇我蝦夷】の次が【俵藤太】だと言う。このことから【真若王】は死後2回生まれ変わることが判った。


 闇嶽之王「あの【クズ野郎】………なんで【転生】できるんだ。【比類神子ひるこ】を虐げた親玉だぞ!おい、【管理者】仕事しろ!」


【闇嶽之王】が矛先を【サクヤ】と【チルヤ】に向けて仕事をサボっているかのように言われた彼女たちは、【真若王】に課せられた【贖罪】を暴露した。


 サクヤ「仕事してるもん!【真若王】は『100回死んで100回生まれ変わって101回目の人生が終わった』その時にようやくシャバに戻れるんだから!」


 ウラシマ「この【神様】………なんで【未来】の俗っぽい言葉を知ってるんだ」


 ウラシマは【サクヤ】のシャバ発言をツッコんだ。


 闇嶽之王「短い刑期だな。【人間】の101回の人生なんて、1000年もかからず終わるぞ」


【闇嶽之王】は1生涯を何年で計算してそう言っているのだろうか。


 一寸法師「短いですか?101回死ななければならないと判ったら、もう地獄ですよ」


 時間のほうは麻痺していても、101回という数字は一寸法師にはリアルに感じる。


 チルヤ「言葉どおりに取れば、101回目で放免だけど………この【罪科】には【管理者】がそれぞれ条件を付加して複雑になってるの。因みに『101回死ね』は私と【サクヤ】が与えた【罰】よ」


 言われてみれば、『100回死んで100回生まれ変わって』というのは【時間の権能】を持つ【サクヤ】と【チルヤ】が与えそうな【罪科】だ。


 チルヤ「さっき名前を出した真王まお推しの【エレン】は私たちの【罪科】に『魂で結ばれた愛する者に』という条件を付加したわ」


【エレン】の【権能】は【愛】なの、と【チルヤ】は他の【管理者】の【権能】を勝手に暴露してしまった。


 闇嶽之王「勝手に他人の【異能力】をバラしたことを注意すべきなんだろうが………【愛】って、【異能力】なのか?」


 ウラシマ「【女神エレオノーラ】の【愛の権能】は【洗脳】とか【精神支配】だ。『私の愛が欲しければ戦いなさい』みたいな上から目線で命令しやがる」


 他に『勝利を私に捧げたら愛をあげる』とか、洗脳対象が自分に惚れてる前提で【異能力】を使ういけ好かない高飛車女だ、とウラシマは言った。気のせいか積年の恨みが感じられる。


【闇嶽之王】の耳元で【チルヤ】がゴニョゴニョと、【未来の世界】で一寸法師とウラシマは【女神エレオノーラ】のヤラカシのせいで母親とは別の親族を亡くしていると告げる。


【未来の世界】で何かあったのかと聞きかけていた【闇嶽之王】は、【チルヤ】のおかげでを踏まずに済んだ。


 サクヤ「私たちと【エレン】の条件を合わせると『魂で結ばれた愛する者に100回殺されなければならない』ってことね。どう?人物が特定されると難易度が上がったでしょう」


【サクヤ】の言うとおり、ただ100回死亡すればいいということではないので条件を満たせずに生涯を終えることもあるだろう。


 闇嶽之王「条件を満たせなかった場合は?回数に含まないのか?」


 サクヤ「含まないわ。世の中は世知辛いのよ!条件を満たせなかった死は認めない!事と次第によれば終わらないわね!」 


 ホッホッホッいい気味よ、と【サクヤ】は片手を腰に当て手の甲を口元にやった『悪役令嬢ポーズ』で高笑いした。


 一寸法師「最初から詰んでますね。【蘇我蝦夷えみし】は自害ですから1回は無効です」


 一寸法師の【未来人の知識】で結果を聞いた【闇嶽之王】は、条件の『魂で結ばれた』という部分が引っかかった。この言葉が重要な気がする。


 闇嶽之王「【スクナ】は自害したと言ったが、自害は『愛する者』の条件にならないのか?自分が大好きという嗜好の【人間】はいるだろう?」


 チルヤ「ああ………【ナルシスト】のことね。【八岐】ぐらい『自分至上主義』のナルシストなら回数に含めるけど、【蘇我蝦夷】の場合は息子がイキッた結果、討伐されて一族皆殺しされるのを悟った上での自害だから全く条件にかすってもいないわね」


【チルヤ】が所々に【未来の言語】を使っているが、【八岐】を例に出しているおかげで【闇嶽之王】は『ナルシスト』の意味は聞くまでもなくわかった。イキるの意味はわからないが討伐されたくらいなので、ロクなことではないのだろうと解釈した。


 ウラシマ「そもそも『魂で結ばれた』って何だよ。アレか、いわゆる『運命の赤い糸で結ばれた』的な?」


 サクヤ「そうなのよ!いわゆる『運命の女ファム・ファタール』とか『運命の男オム・ファタール』とかよ!………あなたにとっては【乙姫】がそうでしょう」


【サクヤ】は母親目線で【前世の息子の転身者ウラシマ】の質問に答えた。


 一寸法師「男性も有りですか………あっ!『両片思い』の場合はどうなりますか?」


『両片思い』という恋バナではモヤモヤするがストーリーは盛り上がる言葉が出て、脳が恋バナに傾いている【サクヤ】は飛びついた。


 サクヤ「『両片思い』!じれったいけどキュンキュンする!………でも、思いが通じ合っていないから無効よ」


【サクヤ】は最初は体をクネクネさせて恋バナに目を輝かせていたが、最後は【管理者】らしく厳格な返答をした。


 両片思いが何のことかわかっていない【闇嶽之王】へ【チルヤ】が実は両思いだが気持ちを言葉にしないせいでそれに気づいていないことだと説明した。


 闇嶽之王「ああ………【大比売おおひめ(大闇見戸売おおくらみとめ)】と【日子坐ひこいます】みたいなやつか」


 どうやら【大闇見戸売】と【日子坐】は両片思いのようだ。


 ウラシマ「マジか………【大闇見戸売】はスゲェ恨んでるように見えたけど」


 一寸法師「大人の色恋は複雑なんだよ。【大闇見戸売】は【佐保の首長おびと】、【日子坐王】は【佐保】にとっての侵略者の立場だからね」


 見た目大人のウラシマへ、見た目子どもの一寸法師が大人の色恋を語っているのがシュールだ。


 ウラシマ「じゃあ、【伊久米大王いくめのおおきみ】と【狭穂姫】は?」


 一寸法師「完全に【伊久米大王】の一方通行だね。毎日【佐保】通いしていた姿なんて………痛々し過ぎてちょっと笑いそうになったよ」


【ウラシマ】は、他人の色恋は鈍いようだが一寸法師のほうは兄だけあってよくわかっていると【闇嶽之王】は感心していたが、最後の痛々しい姿に笑いそうというのがわからなかった。


 一寸法師のイタいは【未来の言語】で『かわいそう』『恥ずかしい』の意味合いで使ったが、【古代】では痛いは痛覚の痛いなので

一寸法師が相手の迷惑を考えずに、毎日通って行くイタい人と言っているのが通じていなかった。


【チルヤ】が一寸法師の使ったイタいの意味を【闇嶽之王】に説明すると、【未来】ではオモシロい言葉の使い方をするのだなと言った。


 闇嶽之王「【未来の言語】は、暗号に使えそうだな」


 一寸法師「同じ日本語なんですけどね。【古代人】に通じない【外来語】とか【造語】とかたくさんありますよ。一覧表にして差し上げましょうか?」


 一寸法師の【未来の言語】を書き出してくれるという申し出を【闇嶽之王】は、是非頼むと言った。かなり興味があるようだ。

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