第壹章 霞童子悲恋譚⑮狭穂彦王の叛乱の真相〜まほろば鳥・御景見戸売、真王、最期の飛翔〜
【真若王】は、後方から迫って来る【魔界】から逃げながら、なぜこんなことになったのかと反芻する。
【山の先住王の末子】と称した子供の話を間に受けたのが事の発端だ。
【山の先住王の末子】は見た目、10才前後の
童は、自ら【山の先住王の末子】と言い自分は
【真若王】は、真秀へ恋愛感情を拗らせた上に真秀への執着や独占欲まで入り混じって、真秀が絡んだ途端に冷静な判断力────────────ただでさえ愚行しかしていないのだが────────────や理性を失っていた。
八岐「真秀お姉ちゃんが、明日には祝言だから今晩、お兄さんとお話したいって」
【
【真若王】は、そのあざと可愛さと真秀への未練と【狭穂彦】への対抗心がない混ぜになり、真秀と【狭穂彦】は【
真若王(真秀は、本当は俺に気があるんだ!【ツガイ】だか何だか知らないが、【先住者】が勝手に言ってるだけだ!)
その証拠に弟に拘束を解かせて祝言前夜に寝所へ俺を招いたではないか、と【真若王】はものすごく都合のいい考えをした。
しかし、【山の先住王】、【闇嶽之王】、父【
【真若王】は舎弟たちや取り巻き女たちを次々と牢から解き放ち、【
実は、【大闇主之王】は【御景見戸売】と真王を連れて行こうとしたが、再会を果たした姉と離れがたかった【
そして【真若王】は、舎弟たち取り巻き女たちを従え拉致して来た【御景見戸売】と真王を連れて告げられていた真秀の寝所へやって来た。だが、そこは【狭穂姫】の寝所だった。
【御景見戸売】は、この時に激しく首を横へ振ってあーあーと母音しか言葉にできなかったが、「ここに入ってはだめ」と身振りをしていると【真若王】たちは捉えた。邪なことを考える者たちから娘を守ろうとするのは、親なら当然の行いだ。真王も【真若王】の腕を引いて、言葉が話せないなりに行動で入室を止めようとしていたが、【不具】の為に体を鍛えることをしていない真王は【真若王】の舎弟たちに簡単に羽交い締めされた。
【真若王】たちは寝所へ入る。そして彼らは【悪意の邪淫】を犯す。
彼らが【狭穂姫】の寝所へ入った後、それを隠れて見ていた【八岐】は【真若王】を【狭穂姫】の寝所へ向かわせることに成功したことに邪悪な笑みで喜んだ。【御景見戸売】と真王を拉致して更に舎弟や取り巻きを連れていたことまでは【八岐】も予想していなかった。しかし、中で行われることはわかっている。自分がそう仕向けたのだから。
八岐「しかし………【人間】は残酷だ。流石に私でも、あそこまではやらない」
【真若王】を焚き付けておいてよく言えたものである。
◆ ◆ ◆
洸「【真若王】が【狭穂姫】を犯ってるのを【御景見戸売】と真王に見せつけ、終わったら別の誰かが【狭穂姫】を犯ったか?それとも【真若王】の執着ぶりからして真秀と思い込んでいる【狭穂姫】は独占して、舎弟たちには【御景見戸売】を輪姦させ取り巻き女たちには真王を輪姦させた」
こんな所か、と洸は【僧侶】のモラルを色々と問いたくなることを言い終えた。
朔「見てないのに………見ていたように言えるあたりが………洸も相当ヤバいな」
桂「【真若王】は、本当に真秀に惚れていたのか?」
桂の質問の意図が朔にはわからない。
朔「他人の色恋なんか知るか!………けどかなり拗らせてたからな………惚れてたんじゃねえのか」
【
遙「俺、桂の質問の意図が解った。真秀に惚れてるくせに、なぜ相手を間違えたかって話だ」
ホントありえねえ俺は絶対に都(遙の妻)と別人とは間違えない、と言い切る。
桂「だろう。俺も
桂は、第1夫人と第2夫人の判別までつけられると言った。因みに桂には第3夫人までいるが、第3夫人はワケアリの偽装結婚なので彼の中では妻にカウントされていない。
燎「俺もだ!
恐ろしくてできません、という最後の言葉は呑み込んだ。
癸「百合子を間違えるなんてそんな………後に続く言葉は?」
癸は聞いてみたが、予想はつくけどね、と相変わらず燎には冷たい。
癸「桂と遙はお婿さんの鑑だねえ………お祖父ちゃんは鼻が高いよ。特に桂、梢も私の孫だからねえ」
大切にしてくれて嬉しいよ、と癸は燎とはものすごい温度差だ。桂の第1夫人の梢は
既婚者たちは、確かに妻と別人を間違えるのは無いという答えだ。
独身の洸────────────彼は独身の上に戒律で童貞だ────────────には理解できない話だ。【過去世】を振り返っても、【黒竜王】は未婚だった。【
洸が何かに沼っている様子に、癸はこの話題はお開きにしようと提案して強制終了した。
◆ ◆ ◆
【魔界】から逃げる【真若王】の前に【八岐】が現れた。
八岐「まだ生きていたのか………『悪人ほどしぶとい』というのはあながち間違いではないようだな」
【
真若王「お前!俺を騙したな!
そこにいたのは【狭穂姫】だった。【狭穂姫】は、【
八岐「お前に他人を責める資格はない。私は、真秀が呼んでいるのは貴様だと言った」
もっとも真秀と【狭穂彦】は我が父上たちが【佐保山】へ連れて行って、ここにはいないがなと【八岐】は邪悪な笑みを浮かべた。
真若王「全部………嘘だったんだな」
八岐「何を言っている?私は【山の先住王】の末子だ」
これは事実なんだよ、と【八岐】は【真若王】を小馬鹿にするが、そこだけしか事実を言っていない。
八岐「私と真秀が姉弟というのは嘘だ。正しくは真秀の母【
つまり私は真秀の叔父なのさ、と【八岐】は続ける。
八岐「不公平とは思わないか?【
【八岐】は、それに比べて【大闇見戸売】とその子たちは結構な暮らしをしている、と天と地ほどの差がある人生を送った姉妹とその子たちの境遇を語る。
八岐「だから、私は公平に不幸を与えた!私は【狭穂姫】が傷物になることで【大闇見戸売】、【狭穂彦】、【狭穂姫】の3人を絶望させてやりたかった!だが、【人間】は愚かだ」
お前は、【御景見戸売】と真王まで不幸に巻き込んだと一方的に【真若王】を責め立てる。
【八岐】の話術に乗せられて【真若王】は、彼の言い分が正しいとすら考え始めた。【真若王】が自分が意趣返ししてやろうと考えなければ確かに【御景見戸売】と真王の身に不幸は降りかからなかった。
【大闇見戸売】と【御景見戸売】の姉妹そして彼女たちの子らの境遇の差は、端から見れば確かに不公平だが、他人の幸、不幸は他人が決めることではない。当事者が不公平と感じたかどうかだ。
少なくとも、真秀は【真若王】とその舎弟や取り巻き女には迷惑を感じていたが自身を不幸と思っていない。大好きな母と兄がいて、伯父バカが行き過ぎた【
【八岐】は、自分のタチの悪いイタズラを正当化しているだけである。
その時、背後で人の気配がした。
狭穂姫「そんな理由で………叔母さまと真王兄さまを巻き込んだなんて、許せない!」
【佐保】の族長一族を不幸にしたかったのならば族長一族だけに悪意を向ければいい、と【狭穂姫】の気丈さに【八岐】は動揺した。
女性にとっては耐え難い酷い目に合ったが、【狭穂姫】は鼻でせせら笑った。
狭穂姫「私にとっては、【
結構ガチで言っている。逆境を好機に変えるあたりは、流石は【
狭穂姫「【真若王】………お前は、ここで死ね!」
【狭穂姫】は、【小刀】を脇に垂直に立てて構え突進の態勢をする。【狭穂姫】は、自分を汚した【真若王】を亡き者にすれば【賊】を自ら討ち取ったと面目を保てると考えた。結構、脳筋思考だ。
【八岐】は【狭穂姫】が、ここまで活発な姫とは考えも及ばなかったので呆然自失の状態だ。
真若王「待て!そんなことしなくとも、俺は処刑は免れない!」
矛先を向けられた【真若王】は喚き散らす。
狭穂姫「私の気がすむ!これは、名誉のかかった報復だ!」
自分の気晴らしに加害者を殺害しようとする被害者のシュールな構図である。
真若王「女に刺し殺されるなんて、恥だ!」
刺し殺されるだけのことをやらかしておいて、どこまでも身勝手な男だ。
【真若王】は【狭穂姫】のほうを向いたまま後退る。殺気のある人間に背を向けるのは危険だ。しかし、数本後退った所で【真若王】は、ズルッと片足を踏み外した。【真若王】は背後をチラ見する。
後ろに足場はなかった。【魔界】の侵食が進み、先程まで地面だった箇所が谷底になっている。
【狭穂姫】は、今なら突き落としてしまうだけで目的を果たせると思い立つや否や、【小刀】を鞘へ納めると【真若王】へ突進して体当たりした。
片足だけしか地についていなかった【真若王】は、【狭穂姫】の狙い通り転落した。しかし、勢いのついていた【狭穂姫】は急停止できない。
狭穂姫「おばさま、真王兄さま、短い時間でしたが………出会えてよかった。真秀さんのこと………姉さまって呼びたかったな」
【狭穂姫】は振り返ってそう言うと、迫り来る【魔界】の奈落へ落ちた────────────と思ったが、【狭穂姫】は浮遊感を感じた。
【御景見戸売】と真王が、【翼】をはためかせて右と左に分かれて【狭穂姫】を抱えて飛翔した。
【魔界】の影響で、周期を無視した【蝕(日食と月食の両方を指す)】のせいで光の差さない闇夜に【まほろば鳥】の【御景見戸売】と真王の背に生えた【翼】が白銀に輝いて幻想的な美しさである。
【御景見戸売】は人前で【翼】を隠していただけで【翼】がないわけではなかった。真王も片翼だけでも問題なく飛翔できるようだ。
【狭穂姫】を大地に不時着させようと【御景見戸売】と真王は、ゆっくりと下降してゆく。
それを呆然と見ていた【八岐】は我に返った。
八岐(【狭穂姫】を生かしておくのはマズい!)
【狭穂姫】には【八岐】が【真若王】を焚き付けたことや、【八岐】の救い難くタチの悪い性格を知られてしまったので口を封じなければならない。
【八岐】は、着地前の不安定な状態にある【狭穂姫】へ駆け寄り、両手を突き出してチカラいっぱいに背後の【魔界】の谷へ突き飛ばした。
【狭穂姫】を支える【御景見戸売】は痩せ細っており、真王も【不具】ゆえに鍛えていないので、この2人では到底突き飛ばされたら踏ん張って耐えることができない。
3人の姿が、【魔界】の虚空が口を開いている谷へ落ちた────────────しかし、落ちたのは【御景見戸売】と真王の2人だけだった。【御景見戸売】と真王は、最後のチカラを振り絞って【狭穂姫】だけを大地へ投げたのだった。
【狭穂姫】は、大地へ見事にすっ転んでしまったが【魔界】に呑まれるのは免れた。咄嗟に投げられたものだから、着地の受け身も取れなかったので【狭穂姫】は、倒れた状態から起き上がれない。しかし、意識はしっかりしているので落ちた【御景見戸売】と真王を放置できないと気ばかり焦っていた。
【八岐】は、これで証拠隠滅だと高笑いしていたが、【狭穂姫】だけ大地に投げ入れられたことに舌打ちした。いかにも体力がなさそうな【御景見戸売】と真王に【人間】を投げられる余力があったことは予想外であった。
八岐「なんて悪運の強い娘だ!しかし、もうお前を助ける者はいない!」
今度こそ確実に殺す、と【八岐】が【狭穂姫】へと迫ろうとした矢先、【八岐】の体が何かに絡め取られた。
【八岐】を絡めとったのは【地這い(ムカデ)】の尾の部分だった。
恐る恐る【八岐】は振り返ると、そこには冷たい眼差しの父【
大闇主之王「【八岐】よ………お前は、今何をした?」
【八岐】は、ここは慎重に答えなければこのまま絞め殺されると直感した。
八岐「ご覧の通り、倒れた【狭穂姫】を介抱して差し上げようとしてました」
いけしゃあしゃあと呼吸をするように、スラスラと嘘が吐き出される。
大闇主之王「【魔界】が開いた谷底へ突き飛ばしておいてか?」
【八岐】は、ギクッとなったが【大闇主之王】が見ていたという可能性は低い。なぜなら、黙って見ているだけのはずがない。必ず助けるはずだからだ。揺さぶりをかけられただけだと【八岐】は落ち着こうとするが、僭越ながらと声をかけてきた者を見て誤魔化しが通じないことを悟った。
オオヤマネコ「僭越ですが………【下様(八岐)】が【
必死で駆けたが間に合わず無念、と【オオヤマネコ】は涙を流して漢泣きした。
【猫又族】は夜目が利く。月の無い【蝕】の暗闇でも、明るい陽光の元のごとく鮮明に見えるのだ。
大闇主之王「同じ質問が必要か?」
【大闇主之王】は、【八岐】をギュッと絞めあげた。
あまりの苦痛に【八岐】は、痛い許してと泣き言を漏らすが、【大闇主之王】は聞く耳もたない。
大闇主之王「【景比売】と真王は【魔界】に呑まれ、非業の死を遂げた………お前は、この程度の苦痛で音を上げるとは情けない」
【大闇主之王】は、【八岐】に情けないと言いながら、それは自分も同じだと激しい後悔に苛まれた。
【
【猫又族】は、目だけでなく耳も良いのでオオヤマネコには【八岐】が【真若王】を罵っていた辺りから話は耳に入っていた。
【大闇主之王】は、子を可愛がっていたが親バカではない。【
【まほろば鳥の一族】は、【大闇見戸売】の母子たち以外は【大闇主之王】にとってはどうでも良い存在になっていたので放置した。【海の先住者】の【
【
【大闇主之王】は、娶ることが叶わなかった最愛の女性の遺児を失った悲しみに打ちひしがれた。
https://kakuyomu.jp/users/mashiro-shizuki/news/16818622173460221791
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