第壹章   霞童子悲恋譚⑭狭穂彦王の叛乱の真相〜黄泉還ったイザナミ〜

 一寸法師の創作した【ハーフチェーンソード】により、かなりの数を斬り倒したが一向に数が減りそうになく、一寸法師から【大海主之王おおみのみこと(燎の前世・古竜体)】へ【ハーフチェーンソード】の補給が追いつかなくなりそうだと伝令がとどいた。


 【神通力】で空気を振動させて音を届ける【術】で断続的に音を鳴らしているいわゆる【モールス信号】である。


 大海主之王「【イマス】よ、【剣】の補給が追いつかなくなりそうだ。お前………【水頼比売みずよりひめ】の【羽衣】を使え」


日子坐ひこいます】は了解したと答えながら、今の断続した音が伝令だったのかと訊く。


 大海主之王「【高天原】で使う【暗号文】だそうだ」


 音で伝える方法の他に石ころ、木の葉、木の実を並べる方法や暗闇ではロウソクの火など結構伝達手段が豊富だと【大海主之王(古竜体)】は言った。

  

日子坐ひこいます】は符号を決めて暗号化する手段と理解した。


 日子坐「流石は【神の国】。文明が発達しているのだな」


【日子坐】は、そう言ったが【未来】のものだから文明が発達しているのは当然だ。  


 大海主之王「それがただの比礼ひれではないことくらい、お前にはお見通しだろう」


【大海主之王(古竜体)】は、お前がそれを使って多くの【まほろば鳥】が犠牲になったことはわかっているのだぞ、という意味をこめている。  


 日子坐「【海の先住王】よ………あの無様に逃げ回るクズ共を捕獲してもらえますかな」


【日子坐】の言葉に、使いの荒い奴めと愚痴を零しながらも【大海主之王(古竜体)】は【神通力】で大地から植物の【蔓】を生やして、オーダー通り【真若王】の舎弟たちと取り巻き女たちを拘束捕獲した。


 日子坐「【ワカ】の姿が見当たらぬが………構わんか、【山の先住王】の怒りに触れたあやつは断罪される運命だったのだからな」


【日子坐】は、【魔界】に呑まれて【無】になるほうが『楽な死に方』だったと言えよう、と苦しまずに往生したと思う親心と『消耗品』としても役に立たなかったという冷酷な失望の両方だった。


 大海主之王「ウラシマたちを退かせる」


【大海主之王(古竜体)】は、口を開いて息吹を吹く。【古竜の息吹】は【風】となり断続的な【音】として伝わった。


────────────ハゴロモヲツカウ。ワレノウシロマデ、テッタイ。


【モールス信号】に気づいたウラシマは、【大海主王おおみおう】の後ろまで撤退だとキングシーサーに告げた。


 更に一寸法師からも【モールス信号】が送られる。


────────────カイテイマデ、センスイ


『僕は海底に潜るよ』と一寸法師は【海】に潜って避難する、と金槌を打ち合わせて告げて来た。


 一寸法師の姿が【へ消える。


 美知能宇斯「あの【亀】は………【船】だったのか………しかし、沈没したようだが」


【美知能宇斯】は【亀】が【生物】ではなく【乗り物】だったことに驚くと同時に、沈んだのではと言う。【潜水艦】のない【古代】では、そう見えるだろう。


 ウラシマ「問題ない。あれは【潜水艦】という【海】に潜る【乗り物】だ」


 ウラシマは、一寸法師が【スクナビコナ】の名だった頃に、かつて【オオクニヌシ】と共に【国造り】をしていた頃に使用していた【神聖遺物】だと、適当にトンデモないことを言ったが、【元天津神】の肩書きが『イイ仕事』をして【美知能宇斯】に疑惑を抱かせなかった。


【潜水艦】など【古代日本】ではオーバーテクノロジーである。キングシーサーは、一寸法師が金槌で音を鳴らしていたのも【高天原式】の【伝令】だと【美知能宇斯】へ説明していた。


【美知能宇斯】は、【日子坐】の子らの中で最も父親の能力を受け継いでいるので、先の【大海主之王(古竜体)】の【息吹】も【高天原式】の【伝令】だと理解した。だが、くどいようだが【未来世界】の【モールス信号】である。


 そして撤退して来た【美知能宇斯】は、【蔓】に絡め取られた【真若王】の舎弟たちと取り巻き女たちを見て、そこに【真若王】がいないことに気づく。


【美知能宇斯】は、撤退時にキングシーサーから降りていて同じく【大海主之王(古竜体)】から降りている【日子坐】に、あれらをにするのかと耳打ちした。


 日子坐「まともに【戦】もできぬクズ共だが、ここまで逃げ回れただけの【生命力】を買って【燃料】に使うことにした」


【日子坐】は、【武力】では【戦力】にならないが元気だけは有り余っている、と皮肉を言っている。


【美知能宇斯】は、ここを逃げ切れても彼らに生存の道は残されていないので、それが合理的だろうと考える。


 大海主之王「【イマス】よ【人間】は短命だ。1度に複数人ずつでなければ【燃料】にもならぬぞ」


【大海主之王(古竜)】は、男が8人に女が5人かとつぶやき、女は男に比べて体力がないので、1度に5人使い、後は男4人ずつで計3回が使用限界になる、と告げた。


【日子坐】は、ご助言感謝します、と礼を言って拘束した女5人を横一列に並べた。拘束者たちは、腰を抜かして自力で歩けないので【日子坐】、【美知能宇斯】、そしてキングシーサーは口で襟首を加えて運んだ。


【日子坐】は【羽衣】を宙へ舞わせる。【羽衣】に意思があるのか宙へ舞うとグルグルと旋回を始めた。


【羽衣】は【渦巻状】に形を固定すると、女たちの前でグルグルと回る。女たちは、目の前で回る羽衣に視線が集中した。【羽衣】はゆっくりと回る。その動きを目で追っている女たちの目がトロンと虚ろになっていく。いわゆる催眠状態だ。女たちは、目は開いているが意識を【羽衣】に持っていかれた。


【催眠導入】が終わると、【羽衣】は更に形状を変える。【渦巻状】が崩れて不定形な形を作る。しかし、今の【羽衣】の形には何の意味もない。意味を持つのは不定形な羽衣の中央に模様が合わさって描かれた【陰陽太極図】だ。


 ここにいる者は、誰も知らないがこの【羽衣】の模様をパズルのように組み合わせて完成した【陰陽太極図】こそが【古代中国】の【神仙】たちの武器【宝貝パオペエ】でも最強とされる【盤古バンコ】である。  


【盤古】は催眠状態の女たちから【生命力】を吸い上げていく。それに比例して、女たちの皮膚から瑞々しさが失われていく。そこから更に女たちの皮膚にシワが刻まれていった。やがて女たちの姿は老婆のように老いた姿となる。しかし、【盤古】はまだまだ【生命力】を吸うことをやめない。そして、5人の女たちは干からびたミイラとなり事切れた。


 ようやく【盤古】は【生命力】を吸うのをやめたが、そこへウラシマがしょうがねえな、と言って両手のひらをかざした。


 ウラシマ「コイツら、【出力】の最低基準もなかったぞ」


 ウラシマは自身の【神通力】を追加したのだ。


 ウラシマ「こういうのは、最初にドカンと派手に一撃かまさねえとな!」


 秒で【盤古】を最大出力までチャージし終えたウラシマは、照準はどうすると訊いた。


 ウラシマ「一発目は、俺がサービスしてやる」


 しかし、【古代人】には『サービス』の意味が通じないのでウラシマはやっちまったという表情をした。


 大海主之王「【イマス】、初撃はウラシマが撃つと言っている」


【大海主之王(古竜体)】は多少はウラシマたちの【未来人】の使う言葉に慣れているので、意味が理解できたようだ。


 日子坐「それは直線攻撃しかできません。範囲は出力に応じて横広がりしますが」


【日子坐】は、最大出力値までチャージした使用は、これが初めてなので範囲がわからないと言った。


 ウラシマ「OK、OK!んじゃ、範囲をちょっくら修正してと………よし、撃て!」


 宇宙戦艦ヤ◯トの『ヤマト砲発射』のノリでウラシマは、【盤古】のビーム砲を放った。


 その威力は、一同が呆然として沈黙するほどで、無限に増殖していたかに見えた【謎の生命体】は、一瞬で一掃された。


 ウラシマ「スゲェ威力だな。『ヤマト砲』みてぇ!」


 ウラシマは、【未来世界】の有名アニメのビーム砲の名称を口にしただけだが、この時代は【時代】。迂闊に口にしてはイケナイ名前だった。以後、【羽衣】のビーム攻撃は【】と呼ばれることになった瞬間だった。




   ◆   ◆   ◆




 オヤジギャグか、とみちるがツッコんだ。一同が同意見だったが、流石は関西人だ。ツッコみ速度が速い。


 みずのとが満に、パソコンは精密機器なので乱暴に扱ってはイケナイ、と注意している姿が画面に映っているので、満はツッコみに手振りまでしていたことが判る。


 将成「それで、【古のもの】は全て片付いたのですか?」


【盤古】の威力で【邪神】が全滅できるとなれば、『日本政府』に情報提供することも吝かではない、と将成は考える。ただし、使用できるのは【海の民の古族の長】限定と方便を使うつもりであった。そうしなければ【古族】が乱獲されるのは明らかだ。


 燎「いや………とにかく数が多かった」


 倒す側から増殖しているのではないかと疑うほどの大群だったので、【直線攻撃】しかできない【羽衣型盤古】は前方の約1km以内の範囲が限界だった、と燎は言ったがそれは【撃ち手】がウラシマだったからで他の者ならもっと射程が短く範囲も狭いだろうと推測も告げた。


 燎「しかし、前方がスッキリ片付いたおかげで【古のもの】の親玉の姿が確認できた」


 桂「あいつらは、集団活動するが群れのリーダーはいないはずだ。しいて言うなら【ショゴス】という下僕から主人と思われていた………」


 もっとも、反抗されて襲いかかられたと記述されているが、と言った桂へ燎がネタをバラすなよ、と苦言する。


 遙「その口ぶりだと、出現した【古のもの】は【ショゴス】から逃げて大挙して押し寄せて来た感じか?」


 遙の言い分は、ほぼ当たっていた。ただ、その逃走経路で【古のもの】はある場所に行き着いたと燎は言った。


 燎「逃走経路で【根の国】の扉をこじ開けて、そこへ逃げ込んだのだよ」


 洸「それ………ヤバすぎだろ。【根の国】には【イザナギ】憎しの【イザナミ】がいるんだからな」


【イザナミ】が【現世】に出てきて、【イザナギ】を探し回ってあわや二次被害に、とあきらは言う。


 燎「ああ………実際に見なければ洸と同意見だろうな。何しろ、【根の国】の【イザナミ】の体は………【ゾンビ】か【キョンシー】のような状態だ」


 しかし【イザナミ】は、逃げ込んで来た【邪神・古のもの】を養分にして、かつての姿を取り戻したらしい、と燎は推測を言う。


 燎「【前世】の俺は、過程を見てないからな………現れた【イザナミ】を名乗った者の姿と【古のもの】が逃げて来たということからの予想に過ぎん」


 しかし、その予想は概ね合っている。否定要素は、【イザナミ】が本物か語りか判りかねる部分があるので断言できないのだ。


 将成「すると、【古のもの】が【佐保】に逃げて来たのは【イザナミ】がそこを示した………ということですか?」


【イザナミ】【イザナギ】は、【島】を創った【国生みの神】でいわば【元祖・天孫族】ということになる。子孫が【佐保】に居るとなると、そこへ逃げて来ることは自然の成り行きだ。


 燎「おそらくそうだろうな。そして、【イザナギ】は【古のもの】の同胞を多く吸収していたので、奴らからすれば強者!」


 つまり【親分】認定されたということだ。【古のもの】は、下僕を創ったりして知能は高いようなので、優劣の仕組みを理解する頭脳を持ちあわせているとみえることからの推測である。


 朔「スゲェ見た目だったぞ」


 何かのセットみたいな衣装だった、と【前世】を思い出しながらはじめは言う。


 癸「なるほど【紅白歌合戦】の小◯幸子のような感じ………」


 満「祖父ちゃん、それ【昭和】生まれしか知らんとちゃうんか?」


 癸は、芸能人の名前を口にしたのだろうが、【日本神州国】と【国王制】になって以後の生まれの者には馴染みのない名前だ。


 癸「【平成】生まれも知っているよ………【紅白歌合戦】名物だったのだよ」


 綺麗な女性だったけれど還暦前まで独身だった、と癸は言うが【現代】では【超越種】が世界人口の半分存在するので、【還暦前】の結婚は割と早いと考えられている。




   ◆   ◆   ◆




闇嶽之王くらみたけのみこと(前世の朔)】が、【獅子狗神シーサー族】の長の息子【イリジョウ】と共に到着した時には、【海】から【木の精霊王】っぽい雰囲気を出している【女】の【人ならざる者】が【古のもの】を下僕のように従えている姿を見せた時であった。


 ウラシマ「【大海主王おおみおう】悪い!どうやら俺は、あの『花の中の女』には攻撃できないようッス!」


 新たな敵出現のタイミングでウラシマの戦力が期待できないのは痛手である。


 大海主之王「それは『攻撃が通じない』か、それとも『攻撃する意思が阻害された』か、どちらだ」


【大海主之王】の質問は、どちらも『攻撃できない』だが、前者は『意思がある』で後者は『意思を絶たれた』状態である。


 日子坐「【先住王】よ………私も、攻撃できないようだ」


 美知能宇斯「父上もですか………私も同じく」


】の2人の意見に【大海主之王(古竜体)】は、頷く。【古竜体】なので表情はわからないが、何かに納得したような感じだ。


 大海主之王「我の記憶が正しければ………あれは【国生みの神】の片割れ【イザナミ】だ」


 あの顔に覚えがある、と【大海主之王】は言った。


 かつて何もない【海】と【山】だけの地上に、眉目秀麗な美少年と容姿端麗な美少女が現れて、彼らは【山】の麓をそれぞれ左右に別れて一周して元の場所で行き逢った時に、「君の名は?」と名前を聞き合ってその後謎の浮遊物が【海】を漂った。


【古事記】で有名な【国生み】の最初の『なり損ないの島・蛭子ヒルコ』の誕生場面である。


 大海主之王「あろうことか、奴らめ生まれた浮遊物を『不法投棄』しよった!」


 持って帰れケシカラン、と【大海主之王(古竜体)】は激オコである。


 大海主之王「しかし、我は【外津神トツガミ】だからな………ここは懐の大きい所を見せて、今回だけは見なかったことにしたのだ!」


 それどころか、投棄された浮遊物を拾って持って帰ったと【大海主之王(古竜体)】は得意げに話す。【古事記】には捨てられた後どうなったか書かれていないが、【蛭子】は【海の先住王】が拾って持って帰ったらしい。


 しかし、奴らは2度も同じことをしたのだと【大海主之王】は1度は見逃してやったが2度はない、と言う。


 大海主之王「2度目も同じように【山】の周囲を左右に別れて、元の位置で行き逢って『君の名は?』と………」


 1回、名前を聞いてるからわかるだろう、と【大海主之王(古竜体)】は彼らの前に現れてツッコみを入れたそうだ。


 闇嶽之王「オッサン………そこは、邪魔しちゃダメだろ」


【闇嶽之王】は、【国生みの儀式】の最中なんだから終わるまで待て、と言う。


【大海主之王(古竜体)】は、終わるまでそこで待っていたと言って、聞いている【闇嶽之王】は引き顔をしていた。


 大海主之王「あやつらめ、また失敗したと投棄しようとしたから、我が貰ってやったのだ」


 その2度目の浮遊物が【淡島アワシマ】である。


 大海主之王「しかし、その直後に【大闇主おおくらぬし】が現れてな………」


 あいつムッツリだ隠れて見ていたぞ、と【大海主之王(古竜体)】の【大闇主之王おおくらぬしのみこと】ディスに、【闇嶽之王】は鋭い目つきで睨む。父親を悪く言われて怒らない子はない。【大海主之王(古竜体)】は、子供のすごみなんて怖くないとばかりにスルーして話を続ける。


 大海主之王「【大闇主】が、『君の名は?』と先に少年から聞いてはどうだ、と提案したのだ」


 どうやら2回とも少女のほうから今でいう【逆ナン】したらしい。つまり少年から今でいう【ナンパ】しろと【大闇主之王】は助言したということだ。


 大海主之王「【大闇主】の助言に従って、少年のほうから『君の名は?』をすると、立派な【島】が生まれた!」


【大海主之王】は、3度目となると『君の名は?』と聞くのが【儀式の挨拶】だと理解したらしい。


 そして生まれた【島】は【淡路島】である。そして【隠岐の島】【筑紫の島(現在の九州)】【壱岐の島】【対馬】【佐渡ヶ島】【本州】と次々と【島】が生まれた。これが『大八島国おおやしまのくに』である。更に【吉備の小島】【小豆島】【大島】【姫島】【知訶島ちかのしま】【両児島ふたごのしま】が生まれ、『日本列島』の形が出来上がった。


 大海主之王「奴らは、【淡路島】に降りて散策中に我ら【先住者】が【水】やら【木】やらから生まれて来たのを見て、住み良い【国】を生もうと頑張ってくれたので、我も『不法投棄』の件は水に流して許したというわけだ」


外界けがいの民】────────────この場合は【神】から見た下界の人々【先住者】のこと────────────を大事にする者に悪人はいない、と【大海主之王】と【大闇主之王】は【イザナギ】と名乗った少年と【イザナミ】と名乗った少女を陰日向から見守った。


 大海主之王「しかし………幸せな日々は永遠ではなかった………」


【イザナミ】は【ヒノカグツチ】という【火の神】を出産した際に、生まれた子が自身の強大な【火のチカラ】を制御できずに【イザナミ】に大火傷を負わせ、【産屋】が大炎上した。火災は、【オオヤマツミ】や【オオワダツミ】が【土のチカラ】と【水のチカラ】で消化したが、【イザナミ】は息絶えていた。【ヒノカグツチ】は【イザナミ】がしっかり抱え込んで庇ったおかげで救助された。


しかし、【イザナギ】は最愛の妻を失い大激怒して【ホノカグツチ】を【十拳剣とつかのつるぎ】でバラバラに斬殺してしまった。しかしバラバラに8分割された部位と流れた血液は【火】を制御できる16柱の【神】に姿を変えた。つまり、1柱の体に16柱分の【神通力】が潜在していたというわけだ。生まれたてで、これを制するのは不可能だろう。


 大海主之王「【イザナギ】は思い立ったように【イザナミ】を【黄泉の国】から連れて帰ると言ってな………我と【大闇主之王】は【イザナミ】が【黄泉の国】へ行って日が過ぎていたので、手遅れだと思っていたが【イザナギ】は割と頑固な所が、あってな………止めるより行かせて現状を見れば諦めがつくと我らは【御守】を沢山持たせて、【黄泉の国】では【イザナミ】がダメだと言うことはしてはいけないと言い聞かせて行かせたのだが………」


 思った通り【イザナギ】は【イザナミ】にダメだと言われたことをヤラカシてしまったようだ、と【大海主之王(古竜体)】は言った。


【古事記】の【黄泉の国】の話は【ギリシャ神話】の【オルフェウス】の話に似ている部分があるので、混同されているようだが【ギリシャ神話】は【黄泉の国】から出るまで振り返ってはならないルールだが、【古事記】の【黄泉の国】は【イザナミ】の言う事を聞かないといけないルールだったようだ。


 大海主之王「ダメだと言われたら、やりたくなる気分ってあるだろ」


【大海主之王(古竜体)】の言う通り、禁じられるほど破りたくなる心理だ。


 大海主之王「【イザナギ】な………あいつは絶対にダメと言われたら逆らいたくなるタイプだと思ったんだ………だから我も【大闇主】も、あいつの髪に挿せるだけの簪を挿して首には掛けられるだけの首飾りを掛けて、両腕両足には付けられるだけの装飾品を付けて行かせた」


【大海主之王】と【大闇主之王】は、この時点で完全に【イザナギ】は絶対にヤラカすと確信していたようだ。


 結果、言いつけを聞かずに【イザナギ】は【黄泉の国】で【イザナミ】に追いかけ回され、【大海主之王】と【大闇主之王】が持たせてくれた【御守】を使い切って命からがら帰って来た。その際に【黄泉の国】の扉を【封印】して立入禁止にした。


 大海主之王「這々の体で戻った【イザナギ】を独り立ちして遠方にいた【オオヤマツミ】や【オオワダツミ】たちが、一時帰省して『おかえり』と迎えたという感動的な家族愛もあったから悪いことばかりではなかったがな」


 最後にほっこりする話で締めくくり、更に【黄泉】の穢れを水浴びで洗った際に服や履物から新たな【神々】が生まれ、最後に顔を洗ったら【アマテラス】【ツクヨミ】【スサノオ】の【三貴神】が生まれた。そして、【イザナギ】は全裸で【現代】なら【露出狂】か【裸族】にされる格好になってしまったというオチで【大海主之王(古竜体)】は【イザナミ】に関わる話を締めくくる。


 大海主之王「【ホオリ(ウラシマ)】は【日向三代】つまり、【イザナギ】の直系故に【イザナミ】への攻撃規制があるのだろう………それは同じく【日向三代】の子孫である【天孫族】も同じ条件となる」


【大海主之王】は、【亀型潜水艦】が陸上へ姿を現したのを目の端に留めた。


 大海主之王「一寸が迎えに来た………ウラシマ、お前は【鑑】へ戻れ!」


【大海主之王(古竜体)】は、ウラシマの耳元へ大きな口を寄せて、お前と一寸法師は絶対に【こちらの世界】で死なせてはならんと言われているのだと告げた。一瞬、ウラシマは驚いた表情をしたが、そう言ってくれたならと納得して撤退命令を聞き入れた。


 ウラシマが、【亀型潜水艦】の甲羅に乗り、甲羅の天辺を蓋のように開けて中へ入り閉めるのを見て【闇嶽之王】が、あれは【ウミガメ】ではないのかと呟いていた。


【ウミガメ】としてはかなり巨大だが、【水の先住者】なら規格外のサイズもあり得るので、そこは気にしていなかったが【乗り物】となると、「あれは【海】の中から出て来なかったか?」などと【闇嶽之王】は【古代】ではあり得ないオーバーテクノロジーをツッコんでいる。


 イリジョウ「【上様】、あれは【高天原】の乗り物だそうです」


【イリジョウ】の言葉に【闇嶽之王】は、嗚呼なるほどと納得したので『困った時は高天原』は良い仕事をする。


【キングシーサー】と【イリジョウ】たち【九州】の【先住者】たちは、【大海主之王】が【船】より早いと乗船させてくれたので、一緒に【佐保】まで来た。その為、【謎の生命体】と共闘していたのである。近隣に住んでいることもあり、【海の民】と【獅子狗神シーサー族】は友好的関係にある。


【闇嶽之王】は、【花を背負った女】に、お前は【イザナミ】か、と問う。こういう聞き方をすれば肯定の答えしか返ってこないだろう。


 【2次元】で花を背負う描写はキャラクターの絢爛さや優雅さを引き立てる背景となるが、【3次元】で実際に花を背負う人は絵のような絢爛さ優雅さに、花の香りが追加される。しかもユリの花は香りがキツいので、頭痛を起こしそうな強烈な香りが漂っている。とどのつまりは、現実でこれをされると迷惑ということだ。しかもユリの花の黄色系オレンジの花粉は衣服などの布に付くとなかなか落としにくいので、風に流れて花粉が飛んできて衣服のあちこちに付着しているので、迷惑この上なかった。


「如何にも………わらわは【イザナミ】じゃ」


 その答えの直後に、【亀型潜水艦】から一寸法師が顔を出して金槌を断続的に打ち鳴らした。


【大海主之王(古竜体)】が『シンパクスウセイジョウ、ウソデハナイ』と一寸法師の【モールス信号】を訳する。


【闇嶽之王】は、『シンパクスウ』とは何だと訊く。心臓の脈拍を計る方法は、大昔からされていたがこの当時は『脈をとる』と言っていたので、『心拍数』の言葉が使われていなかった。


 大海主之王「あの【亀の乗り物】には【脈】を計る測定器が積まれていてな………それを使って【脈】の振れを計ったようだ」


【大海主之王(古竜体)】は、嘘をついた時は瞬間的に【脈】の振れ具合が上がるそうで、それを計れば嘘かまことかの真偽判定が可能らしいと一寸法師が言っていたと解説する。


 闇嶽之王「その【脈】をとって真偽を見抜くのも【高天原】では当たり前のことなのか?」


【未来世界】の【ウソ発見器】の性能だが、とりあえず【古代】にないものは全部『【高天原】に丸投げ』であった。


 大海主之王「名前がないと不便だからな………本人が【イザナミ】と言っているのだから、【イザナミ】で良いのではないか?」


【大海主之王(古竜体)】は、ウラシマや【天孫族】の行動に制御がかかっていることから、【イザナミ】本人ではないかと9割方の確信があった。


 ユリの花の精霊王っぽい女を便宜上【イザナミ】と呼ぶ議論をしている間、女はずっと言葉を紡いでいた。


 一寸法師「【大海主王おおみおう】たち!さっきから彼女がずっと呼びかけてるのに無視ですか!新手のイジメですか!」


【亀の乗り物】の中にいるはずの一寸法師の声が響き渡った。【亀の乗り物】にはマイクとスピーカーまで装備しているので、今のはスピーカーで音を反響させたのだ。しかし【古代】では披露してはマズイ性能である。


 闇嶽之王「おい!あの【亀】から【スクナ】の声がしたぞ!」


【闇嶽之王】は【大蛇神】なので、【蛇】の【ピット器官】がある。彼の場合は【外津神トツガミ】なので、能力のほどは規格外だ。【亀の乗り物】と更に内部にいる人物まで感知できる。


 乗り物の中から、至近距離で会話するような反響の仕方は流石におかしいと【闇嶽之王】は探りを入れる視線を【大海主之王(古竜体)】へ向けた。


 大海主之王「【みたけ】よ………お前は【山の先住王】の子だろ。ならば、山で叫んだ時の声の反響は知っているだろう?」


【大海主之王(古竜体)】が言っているのは【やまびこ】のことだ。


 闇嶽之王「ああ………【人間】が時々、多分………【上官】のことだろうが、バカだの無能だのと叫んでいるな………」


 ものすごく響くから、そういう悪口のようなことは一言だけにしてほしい、と【闇嶽之王】は言っているので、叫ぶ人は結構たくさんの悪口を叫んでいるのだろう。音の反響をオモシロがって、途中からは目的を忘れてひたすら叫んでいるだけのような気がする。


 大海主之王「一寸が言うには、あれには仕組みがあるらしい。一寸はその仕組みを利用して【屋内】にいても、あのように声を至近距離で発しているように聞こえるのだ」


【大海主之王】は、【まいく】とか【すぴーか】とかいうヤツを使ったなとわかっていながら、もっともらしい理屈を【闇嶽之王】へ述べていた。


 闇嶽之王「アレに仕組みがあるのか!」


【古代】では、なぜ【やまびこ】が起こるの?などと疑問を持つ者はいないだろう。【山】で大声で叫んだら、何か声が反射するように響く程度しかわかっていない。


 大海主之王「【岩】とか固い物に音がぶつかったら反射する仕組みになっているらしい」


【大海主之王】は言葉が足りなかった。反射の条件は、声をぶつける固い物との距離は300m以上で、短いひとことしか反射されないまで言うのが完全回答だが、現状ではそれを言うと【やまびこ現象】で言い訳が通らなくなるので、言わないほうがいいだろう。 


 闇嶽之王「そういや、【スクナ】は賢い【神】だったな………」


【薬学の神】というのが最も有名だが、【オオクニヌシ】と共同作業で【国造り】をしたので、【農業】【酒造】などモノ造り関連や他に【知識の神】とも言われている。同じ【知識の神】としては彼の兄弟の【オモイカネ】のほうがネームバリューが高いので、こちらはほとんど知られていないだろう。


【闇嶽之王】は、【スクナ】は賢いという理由で納得したようだ。


【大海主之王】は、誤魔化し通せたことに安堵して一寸法師に、何と言っていたかわかるか、と聞き返した。


 この声は、【亀の乗り物】の【マイク】が音を拾って一寸法師に伝わる。先に固い物に声をぶつけると響くと言っているので誰も疑問を抱かなかった。


 一寸法師「おじさま………【海】のおじさま………そう言ってますけど………」


 一寸法師から伝えられた言葉に【大海主之王】は、彼女は100%【イザナミ】だと確証を得た。


【イザナミ】は【大海主之王】のことを【海】のおじさま、【大闇主之王】のことを【山】のおじさまと呼んでいたのだ。   



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