第壹章 霞童子悲恋譚⑪狭穂彦王の叛乱の真相〜佐保の皇子と皇女〜
狭穂彦と狭穂姫の話はショートストーリーを間に挟んで書いていきます。
◆+。・゚*:。+◆+。・゚*:。+◆+。・゚*:。+◆+。・゚*:。+◆+。・゚*:。+◆+。・゚*:。+◆+。・゚*:。+◆+。・゚*:。+◆+。・゚*:。+◆+
桂が最初の【回生】で1500年ほども長く生きたという話から【転生戦士】は同一の【宿体(生まれ変わりの体のこと)】で千年以上も生きられることが証明された。
将成「【転生戦士】は………【超越種】になった【人間】の寿命ほどかと思っていた」
【超越種】になった【人間】自体が【ハンター業】で【殉職】することが多いので、【超越種】の平均寿命は未だ判明していないのだが。
桂「いや………【転生戦士】は、数万年は生きられる。俺の場合は、【崑崙山】へ1度戻って【
1500年をわずかと言うあたり、桂の年数感覚がかなり非常識になっている。
癸「それでいくと………【崑崙山】へ戻る度に、1度死亡しなければならないということかね?」
癸は、桂が何かの拍子に【崑崙山】へ行くので死にます、と言い出さないか心配になった。
桂「それは大丈夫そうだ。………理由はわからないが、今のこの体は………何と言えばいいのか………普通じゃない感じだ」
【転生戦士】の時点で既に普通ではないのだが、桂は【加藤段蔵】の時とは何かが違うと感じているらしい。
洸「それ………俺も同じだ。【
癸「2度とあんな真似はやらないように………」
洸は、体得したのでもうやる必要はない、と言ってからごめんなさい、と謝ったので反省はしているのだ。
彼らはまだ自分たちが【獣神の子】────────────【神の子】という呼び方は、子孫全般を示す────────────だとは知らないので、【回生】によって【霊力】が上がる効果が発揮されたのかと思っている。
◆ ◆ ◆
真秀(初めて来たはずなのに、懐かしい気がする………)
【佐保】には【
あまり帰りが遅いと、兄の
「【狭穂】!………その格好はどうした!追い剥ぎにでも合ったのか!」
真秀は、人違いされていることに気づいたが、やはり自分の服装はみすぼらしいもののようだ。
追い剥ぎのワードに対して、ですよねー、と相槌を返しながら振り返って真秀は固まった。
真秀(この方は………絶対に気軽に口を利いたらイケナイ人だ!)
どうしたものかと真秀は、口を噤んで俯く。
真秀に声をかけた男性は、年齢は真秀より少し年上ぐらいだろう。そして、その容姿は【日子坐】や【美知能宇斯】をかなり若返らせたらこうなる、と予想した容姿だ。つまり【天孫族】の【分家筋】の【皇子】である。
早く母と兄の元へ真秀は帰りたいが、人違いをされてしかも気安く話をすることが許されない身分の相手に、どうやって誤解を説くか考えるが、いい案が浮かばないので真秀は眉を顰めていた。
その様子が、体調がすぐれないように見えたのか、男性は近づいて真秀の額に自分の額を当てて熱を計る。
「熱はなさそうだな………そんな薄着をしているから、風邪をひいたかと思ったよ」
真秀(ひいぃっ!近い!………バレたら私、無礼討ちだ!)
真秀の脳裏に【恍惚の人】となった母【
「【狭穂】、何を泣いているんだ?まさか………あのアホに失礼なことを言われたのか!」
衣装は、アホの所の躾のなってない【
「おのれ【
真秀は、男性の口から出た名前に人違いしていることを指摘したら自分はどうなるかを考えるとますます口が利けなくなった。
「【佐保の皇子】よ………その娘は、お前の妹姫ではない。解放してやってもらえないか」
突然かけられた声は、真秀には聞き覚えのある声だった。
真秀「【若王様】!」
助かったと安堵の表情を真秀は浮かべた。
「えっ………しかし、その顔は………」
男性は、自分の妹は2人といない美少女と評判なのでソックリな顔の美少女がもう1人いることが信じられない様子だ。
闇嶽之王「俺は【山の先住王】の第一子、そうだな………俺のことは【上様】とでも呼ぶがいい」
下に弟が2人いるので若様では紛らわしいからな、と【
佐保の皇子「【先住】の【王族】の方でしたか」
【佐保の皇子】は地面に片膝付いて、自分は【佐保】の族長【
【狭穂彦】が片膝付いて従順の意思を示したのを【闇嶽之王】は、好感の持てる態度ととらえた。
闇嶽之王「【狭穂彦】が名乗ったから、お前も名乗るといい」
【闇嶽之王】は真秀に名乗れと言った。身分の高い者から名乗るかまたは、名前を聞かれるか、されなければ身分の低い者は名乗ることができないのが【古代】でのルールだった。
真秀「
身分のことは【皇子】を相手に言いにくかったが、真秀は一気に言ってしまえば気にならないと考え息継ぎもせずに言い切った。
狭穂彦「追い剥ぎに合ったのではなかったのか………」
妹とは別人と理解されたようだが、おそらく【奴婢】を見るのが初めてなのか、追い剥ぎ説をまだ疑ってるようだ。
闇嶽之王「真秀………正直に話せよ。俺が贈った衣装は?あれは【
【闇嶽之王】の目が危険な輝きをしていた。
真秀「それは………ほら、私は【奴婢】なので洗濯とか、下働きの用で衣装を汚しやすいんですよ」
我ながら苦しい言い訳だと思うが、【闇嶽之王】に事実を話せば、この【佐保】の地で【一家失踪】が起こる。
狭穂彦「僭越ながら………【上様】がおっしゃった特徴に似た衣装の女がおりました。【
【狭穂彦】は、【真若王】が嫌いなので【従碑】に高価な衣装を与えて着飾らせていることに不快な気分になったことを覚えていた。
【闇嶽之王】は思った以上に【上様】と呼ばれた感じが良かったので、今後はこう呼ばせようと目論見ながら真秀から衣装を奪ったクズ女の始末をどうしてくれようかと考える。
狭穂彦「【先住王】の若様から贈り物をいただくということは、君は身分の高い御人の【ご落胤】ではないのか?」
【狭穂彦】は、妹の【狭穂姫】にソックリな容姿の真秀に【奴婢】の纏う衣装を着ていても品格を感じていた。その品格のせいで最初に妹と間違えたのだ。
真秀「いいえ………私の母は【
真秀が母親は【碑女】と言ったが、父親のことに触れなかったので【狭穂彦】は、ますます真秀の出自は【奴婢】ではないかもしれないと思いはじめた。
狭穂彦「とにかく、若い娘がその格好ではご家族が驚くだろう。私には君と同じ年齢くらいの妹がいる」
妹が変装用に使用している衣装を着て帰るといいと言って、【狭穂彦】は自宅へ真秀を連れて帰ろうとしていた。
闇嶽之王「【皇子】よ、そろそろ嫁を迎えようという年齢の男子が若い娘を連れて帰るのは、いらぬ邪推を招く。俺も付いて行くが………」
真秀1人だけ連れて行かせない、と【闇嶽之王】が言うと、【狭穂彦】は【佐保】の者は古くから【山の先住王】を信仰しているのでそんな非礼はしない、と同行を快諾した。
◆ ◆ ◆
【佐保の族長宅】は、【
【伊久米大王】は【師木の玉垣の宮(現在の奈良県桜井市)】に都を造り遷都していた────────────当時は【
【伊久米大王】は、【佐保】の【皇子】【皇女】とは、いとこ同士なので交流はあったが、お年頃になった【狭穂姫】が2人といない美少女に成長している姿に一目惚れした。そういった個人的理由から都の場所を決めたのだが、遷都そのものは【大王】が即位するごとの恒例行事なので異論はない。しかし日帰りできる距離をいいことに、【伊久米大王】は足しげく【佐保】に通って来るのである。これが少々厄介だった。
【古代】の結婚は【
つまり現状、【伊久米大王】は【通い婚】を疑われることをしているのだ。【大王】が【通い婚】など前代未聞の【醜聞】確実のことである。
実際は、【狭穂姫】の母である【
【侵略戦争】や【通い婚】で所有【領地】を拡げてきた【
以上が【日子坐】たちの【佐保】滞在理由だ。【
【闇嶽之王】が【佐保】に現れたのは、【佐保】の【まほろば鳥の一族】は【御景見戸売】を殺害しようとした前科があるので、【闇嶽之王】が監視しているように見せかけるためだ。実際は、姪の真秀を構いたいだけの伯父バカである。
屋敷内の慌ただしさに紛れて帰宅した【狭穂彦】は、【闇嶽之王】へお構いできずにと非礼を詫びる言葉を口にしていた所へ【高天原】の【神の落し子】と見間違うような美少女が、鈴の転がるような声で【狭穂彦】をお兄さま、と呼んだ。
真秀は、【狭穂彦】がこの美少女と自分を見間違えたと気づいた。
真秀(なぜ間違えたんだろう………全然似てないよ)
毎日の下働きで、やや日焼けしている真秀に比べ彼女は日光を浴びたことがないのではないかと思うくらい透けるように肌が白い。
狭穂姫「お客様ですか?」
兄の客人だと思った【闇嶽之王】と真秀へ一礼する。この時代の上位階級の挨拶は両手を胸の前で合わせて頭を合わせた手の高さまで下げる。この挨拶は女性は手元が袖に覆われているが、男性は手元が露わなので指を組む。
【狭穂姫】の礼は見とれる程、美しい礼だった。
闇嶽之王「皇女よ………そう畏まる必要はない。俺は【山の先住王】の第一子だ。【上様】と呼ぶがいい」
【闇嶽之王】は【上様】が相当気に入っているようだ。
狭穂姫「あっ………これはとんだ御無礼を………」
【狭穂姫】が床に膝をつこうとしたのを【闇嶽之王】は止める。
闇嶽之王「家人が
【狭穂姫】は再度、礼をして名乗った。
狭穂姫「【佐保】の族長が一女・【狭穂】と申します………」
この後に【山の先住者】への挨拶言葉を続けようとした【狭穂姫】を止めて、【闇嶽之王】は真秀へ挨拶を促す。
真秀「真秀と申します………【淡海国】の………」
【
狭穂姫「まあ………あなたのお顔!私によく似てらっしゃるわ!」
【狭穂彦】は、お前もそう思うかと兄妹で頷き合っている。
狭穂彦「彼女は、装束を奪われたらしい………【真若王】の【
狭穂姫「ああ………あのお衣装が全く似合ってらっしゃらなかった方!」
【狭穂彦】の言い方もヒドいが、【狭穂姫】のほうも歯に衣着せぬ言い方である。
真秀(似合ってなかったの?)
真秀の視点では、【奴婢】の自分が着るよりマシに見えたのだが【皇子】【皇女】から見れば衣装が豪華過ぎて似合っていなかったらしい。
闇嶽之王「聞いたか真秀!あのクズ女にあの衣装は相応しくない!」
真秀は、自分が着るよりはまだ見られるものだと言って自己評価の低さを【闇嶽之王】に叱られている様子を傍目に【狭穂彦】は【狭穂姫】に変装用の衣装を見繕うよう頼んでいた。
狭穂姫「簡素な衣装より、1度手を通して着なくなった衣装のほうがいいのではありませんか?」
狭穂彦「また【真若王】の躾の素敵な女に取り上げられるような衣装は控えたほうがいい」
狭穂姫「あの方、ご自分の【従碑】への躾もできないのですね。私のことを不躾にジロジロ見て、とても気持ち悪かったです」
おそらく真秀にソックリで、【真若王】は【狭穂姫】をガン見していただけだろうが【上位階級】の女性を不躾に眺めると、このように心象を悪くする。
狭穂姫「あの方、去り際に私に追いすがって腕を掴んだのですよ!」
力任せに掴まれて、とても腕が痛かったと【狭穂姫】は言った。
狭穂彦「どこまで常識のない男だ!」
【狭穂姫】は、父【
【狭穂彦】は、しばらくは【真若王】は大人しくなるだろう、と怖い思いをしたであろう妹を慰めた後、【闇嶽之王】と真秀を放置していたことに気づきお詫びを口にする。
狭穂彦「個人的な話でお耳汚しを………【上様】申しわけありません」
闇嶽之王「いや………なかなか面白い話だった」
【狭穂彦】は、家人が突撃して来た【大王】にかかりっきりの今の内に真秀の着替えを済ませようと【狭穂姫】に真秀を部屋へ案内させた。
着替えの間、【狭穂彦】は【闇嶽之王】をおもてなしするため族長である母親の私室へ案内した。
客室は【大王】との会談に使用中で、【狭穂姫】と【大王】を引き合わせない為に、私室に招くことにしたが、族長の【
まさかそこへ【大闇見戸売】が戻って来るとは予想していなかった。
【狭穂姫】は、【狭穂彦】が【大闇見戸売】の私室へ案内したことをわかっていたようで、真秀を連れてやって来た。
変装用の簡素な衣装だが、【皇女】が手を通す衣装なので、手触りの良い上質の絹織物の着慣れない衣装に戸惑い顔の真秀と【狭穂姫】が並んでいる姿に、【狭穂彦】はやっぱり瓜二つだと呟いた。
狭穂姫「お兄さまもそう思いますか!私も、妹ができたような気分です」
狭穂彦「真秀さんのほうが年上だったら失礼だろう」
狭穂姫「まあ!そうでした!真秀さん、ごめんなさい。お気を悪くしないでね」
真秀「あ………いいえ………こんな綺麗な衣装をありがとうございます」
【狭穂姫】は【皇女】の衣装なので簡素なものでも質が良いことは知っているが、真秀が今まで着たこともないような衣装を着るようなモジモジした様子に、今まで相当ヒドい扱いをされていたと思った。【皇女】の衣装は、本人が着なくなったら処分と称して【采女】や【従碑】へお下がりさせて、縫い直して着ることが割と一般的である。
闇嶽之王「皇女のほうが真秀より半年ばかり早い生まれだ。妹と呼ぶのは間違いではないぞ」
【闇嶽之王】の言葉に真秀が【皇女様】に失礼ですよと言う。
狭穂姫「いいえ!私、妹が出来て嬉しいわ!」
【丹波姉妹】は妹のような存在だが、彼女たちはどこか自分に対してよそよそしさを感じて寂しい、と【狭穂姫】は言った。年齢が近いので姉と呼んでほしいのに叔母上様と呼ばれるのだと頬を膨らませた。
狭穂彦「そんな頬を膨らませて………子供っぽいぞ。真秀さんのほうが落ち着きがあって、お前より姉のようじゃないか」
【狭穂彦】は【狭穂姫】の髪をクシャクシャとして頭を撫でる。非常に仲の良い兄妹だ。
闇嶽之王 “【狭穂彦】に【狭穂姫】………『対の名前』だな”
真秀 “【若王様】それ、どういうこと?”
【闇嶽之王(朔)】は【念話】で話しているので、おそらく【狭穂彦】と【狭穂姫】に聞かせたくない話だと察し【念話】で返した。
闇嶽之王 “【佐保】の者は【まほろば鳥の一族】という我々と同じ【先住者】だ”
【闇嶽之王(朔)】の言葉に真秀は、思わず声を上げそうになってどうにか踏みとどまった。
真秀 “どういうことですか!彼らは【人間】………ですよね?”
真秀は【狭穂彦】と【狭穂姫】から【霊力】が感じられない。
闇嶽之王 “【佐保】の一族は、同族で【ツガイ】になるのだが………【日子坐】の侵略戦争のせいで兄妹の母親は、【人間】の【日子坐】の子を生んだ………彼らに【霊力】がないのは【人間】の【血】が入ったせいだ”
【闇嶽之王】は、そう言ったが真秀の父親の【美知能宇斯】も【人間】なので条件は同じはずだと真秀は考えるが、【闇嶽之王】は【美知能宇斯】は母方が【海の先住者】で彼自身が混血なので完全な【人間】ではないせいだろう、と【念話】で言った。
闇嶽之王「時に、皇子よ【今代】の【大王】は随分と非常識………いや、活動的だな」
【闇嶽之王】は、つい本音が出てしまった。【狭穂彦】と【狭穂姫】が、結構あけすけな感じなのでつられたのだ。
【上様】今、非常識と言ったよねと【狭穂彦】と【狭穂姫】は顔を見合わせてアイコンタクトしたが、そこは流して活動的という部分に返答した。
狭穂彦「はい………【伊久米】とは年齢は離れていますが、【幼なじみ】で親しい仲ではありますが………」
それをいいことに突撃訪問されては、こちらも充分なおもてなしができずに時間を潰させて帰らせることも少なくない、と【狭穂彦】は困り顔だった。
アポ無しで訪問して来る【大王】のほうに問題があるが、付き人には【大王】がわざわざ訪問しているのに【佐保】ではロクなおもてなしをしない、と見えるのだ。
闇嶽之王「皇子と皇女には立ち入ったことを聞くが、本来は兄妹で『ツガイにさせる』はずだったのではないのか?」
つまり、【狭穂彦】の【婚約者】である【狭穂姫】に【大王】が横恋慕をして割り込んで来たと【闇嶽之王(朔)】は聞いていた。
狭穂彦「【佐保】の者たちは、そのつもりだったようです………ですが私には【狭穂】は可愛い妹で、ツガうことを考えたことがありません」
【佐保】の者が出産後に【霊力】を失った【大闇見戸売】の子の【狭穂彦】と【狭穂姫】をツガわせて2人の間の子を次代の族長にと考えているのだと【狭穂彦】は、彼らの考えが
闇嶽之王「ふむ………より近しい【近親婚】なら【霊力】の復活が望めると考えたか」
【闇嶽之王】は父【
その時、真秀が身をかばうように蹲った。
狭穂彦「真秀さん、具合が悪いのか?」
【狭穂彦】が真秀の肩に手をかけて様子を窺うと、真秀の背中に大きな瘤のような盛り上がりがあることに気づいた。
闇嶽之王「皇子よ心配ない。これは………【先住者】の【成人の証】のようなものだ」
【闇嶽之王】は、真秀は【
闇嶽之王「この子も13才………そろそろと思っていたが………そういうことか!」
【闇嶽之王】は、何かに気づいて自己完結した。そして、【狭穂彦】と【狭穂姫】に【
蹲る真秀の背中の隆起がさらに大きくなり、ビリビリと衣装の背中部分が破れてしまった。
そして、遮蔽物が取り払われた瞬間バサバサッと真秀の背中に【漆黒の翼】が生えていた。
真秀「ううっ………今、何か破れたような………」
真秀は、床に衣装の切れ端を見つけて顔面蒼白になった。
真秀(借り物の衣装………破ってしまった!)
こんな高価な衣装をダメにして弁償する術がない、と真秀は一生無償の下働きをすることで何とか許してもらえないだろうか、と【狭穂彦】を見ると彼は目を瞠って固まっていた。
真秀は、これダメなヤツと思い衣装の持ち主の【狭穂姫】を見る。
【狭穂姫】は、両手を口に当てて目をキラキラさせていた。
真秀「?………」
真秀は訝しげに眉を顰める。
狭穂姫「綺麗!………真っ黒に見えたけれど、よく見ると七色に輝いているわ!」
【狭穂姫】は、【佐保】の【鳥人族】は通常は黒一色で屋外で日光に当たった時だけ七色に光っているので、室内で七色に輝く【翼】は初めて見たと喜んでいる。
真秀「あの………皇女様、お衣装をダメにしてしまって………」
狭穂姫「いいのよ!たくさんあるから………そんなことより、こんな綺麗な【翼】を見せてもらえて嬉しい!」
触ってもいいかしら、と【狭穂姫】は訊く。結構、好奇心旺盛な姫のようだ。
狭穂彦「【狭穂】、それは真秀さんに失礼だろう」
【狭穂彦】が【狭穂姫】に注意すると【闇嶽之王(朔)】は、【翼】は2枚あるから兄と妹で片方ずつ触ってみろと勧めた。
【狭穂姫】は、やったーと喜んで【翼】に触れる。
狭穂姫「わぁ!絹みたいにツルツルしてる!」
しっとりとして吸い付くみたいにいい手触りと、【狭穂姫】が女性の柔肌のような例え方をするので【狭穂彦】は、触るのを躊躇した。
闇嶽之王「皇女は違うようだな。では皇子よ指で突くだけでいいから触ってみろ」
【闇嶽之王】は何かを確かめようとしているようだ。
突くだけでいいなら、と渋々納得した【狭穂彦】は人差し指で真秀の【翼】に触れた。
途端に煌々と黄金色に【翼】が輝いた。
狭穂姫「綺麗………【佐保】の【鳥神様】みたい」
【狭穂姫】は、神々しい輝きに両手を組んで祈りのポーズをする。
闇嶽之王「皇子がそうだったか!」
【闇嶽之王】はそう呟いて振り返った。
そこには大きく目を見開いた【大闇見戸売】の姿があった。
◆ ◆ ◆
癸「少し………いやかなり『シスコン』な気はするけど、【狭穂姫】とは仲の良い兄妹なだけの気がする」
一同も同じ印象のようだ。
満「あのピカッと光ったんが【ツガイ】の証っちゅうやつなんか?」
朔「ああ………【まほろば鳥】は【ツガイ】と互いに意識し合うと、『黄金の輝きを放つ』と伝わっていたが………俺は初めて見た」
【現代】では【古族】の【人間】の【ツガイ】は当たり前のように存在しているが、【古代】では【人間】の【ツガイ】がいるということが【神話】と幻想視されていた、と朔は言う。
朔「実は、【狭穂彦】と【狭穂姫】は【佐保】の者たちが勝手に決めた【婚約者】だった」
癸「だろうねえ………ふたりとも名前が【狭穂】だからねえ」
【古代(本作では大和時代から奈良時代まで)】では同じ名前は対の存在つまり将来的に夫婦になるということで【上位階級】では同じ名前の後に【彦(皇子)】【比売(皇女)】を付けることがあった。癸が理解を示したのはこのことを知っているからだ。
桂「【佐保】は【大闇見戸売】の前も女族長だったな………おそらく【女系】で何事もなければ【狭穂姫】が次代の族長でその【婿】が兄の【狭穂彦】の予定だったのだろう」
桂は、この構図から見れば【婚約】が既に成立していた所へ【大王】が割り込んだように見えるが、朔の話を聞いていた限りだと【狭穂彦】と【狭穂姫】に【婚約者】同士という意思がなく、『シスコン』『ブラコン』兄妹なだけのようだと言った。
遙「本当に何事もなければ【狭穂姫】は【大王】へ嫁いで、【狭穂彦】は【まほろば鳥】の真秀の【婿】になって………これ、案外ハッピーエンドルートだったんじゃないのか」
【古事記】で【垂仁天皇】が【狭穂姫】健在の間は、唯一の【后】だった。後がどうなるかはわからないが、【狭穂姫】を無罪とし取り戻そうとした【垂仁天皇】の寵愛はだいぶ【狭穂姫】に傾いていたと見える。そして【まほろば鳥】の真秀の【花婿】である【狭穂彦】はたとえ謀反の罪をなすりつけられても、【
朔「前代未聞の『大王の通い婚』をヤラカシかけたが………【狭穂姫】への情はホンモノだった」
むしろ情が溢れ過ぎてオカシナ奇行に走っていたとも言える、と朔は思い出すのも頭が痛くなることを振り返った。
朔「【狭穂彦】に関しては、討伐部隊を寄越したら俺が【
【新生まほろば鳥の一族】の門出に血を捧げるがいい、と朔は【邪神】っぽいことを言っている。
洸「なあ………話変わるけど、父上と朔は【古代神】の『本来の姿』に変われるのか?」
朔と燎は顔を見合わせて、【応】と答えた。
https://kakuyomu.jp/users/mashiro-shizuki/news/16818622172349843590
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます