第壹章   霞童子悲恋譚⑩狭穂彦王の叛乱の真相〜始まりの地・佐保へ〜

 はじめは、ある日を境に【真若王】が真秀に絡む時に【御景見戸売おんかげみとめ】と真王まおを盾にしなくなった事情がわかって、アイツよく生きてたなと、おそらく顔色が蒼白あおくなっている。肌色が褐色なので顔色の変化がわかりにくい。


 燎「【真若王】………あいつ、腐っても【天孫族】だったんだな。【太元たいげん】に蹴られて生きていたとは」


【太元】とは【玉皇大帝】のことである。彼女の【仙号】(仙人の名前)は【元始天尊】で【元始天尊】は【人間界】では【太元】と名乗っているのだ。


 遙「【大闇主之王おおくらぬしのみこと】は、なぜ【真若王】を放置していたんだ?」


 娘と孫がDVされてたじゃないか、と遙はここまでされて放置する疑問を口にした。


 朔「【天孫族】だからだ」


 満「何やねんそれは!」


 意味フやぞ、とみちるは不満げに言う。


 将成「………!もしかして、アレか!」


 将成まさなりは理由に見当がついた。


 朔「お………【ヘッド】知ってるのか!」


 知っているならコイツらに教えてやれ、と朔は言った。


 将成「言っていいのか?【古族】の『秘匿事項』ではないのか?」


 将成の言った『秘匿事項』について燎が質問した。


 燎「お前の言う『秘匿事項』は【秘術】のほうか?それとも【家系異能力】のほうか?」


 将成は燎へ、両方ですと答えた。


 将成「【天孫族】固有のようなので、【強奪スチール】も【模倣コピー】も不可能だそうですが」


 それだけに簡単に話して良いものか将成は悩んでいた。


 癸「将成の口から話すのは良くないかもしれない………燎、代わりに話してみなさい」


 もしかしたら全然違うかもしれない、とみずのとは言った。普段から塩対応の義父・癸からご指名をもらった燎は嬉々として了解であります、と返事する。


 燎「【天孫族】には【目】という【異能力】を持つ者が現れる」


 生まれつき備わっている者もいるが、後天的に【目】の【異能力】が目覚めることもある。後者の後天的に目覚めることのほうが多いのだと燎は言った。


 桂「【瞳術】とは異なるのか?」


【目】と言われたので【瞳術】のことかと考えたが、【忍】の燎が【瞳術】ではなくあえて【目】と言ったのは別物だからだろうと桂は察した。


 朔「天然モノの盗撮カメラ………それが【目】の【異能力】だ」


 朔は更に、性能は衛星カメラ並だと付け加えた。


 満「プライバシーが侵害されまくりやないけ」


 遙「アレか!………『地球全域丸っと見通せます』とかいうストーカー能力!」


 遙の言い方が身も蓋もないが、確かにある意味ストーキング行為かもしれない。


 癸「【土蜘蛛の一族】は【種族】の8割は先天的に備わっているらしいね」


【土蜘蛛】は【天孫葛城かつらぎ】だからねえ、と癸は【目】のことは知っていたようだ。


 洸「【蜘蛛】は目が8個あるからな………ん?6個だったか?」


 あきらは廃墟などに、巣を張っている虫としての蜘蛛のことを言っている。


 朔「虫のほうは8個の【単眼】だが、【土蜘蛛一族】は【重瞳ちょうどう】で8個だ」


【重瞳】とは1つの目に目玉が2つあること

を言う。


 遙「それ………実質16個………いや【重瞳】は【幽界かくりょ】が視えるから………地球全域どころか【幽界】全域までもストーキングされるじゃねえか」


 朔「ストーキング言うな!【目】の【異能力】は【転身者】のレーダーにもなるんだぞ!」


 確かにストーキングかもしれないが【転身者】を索敵できる貴重な人材だ、と言ったが朔自身も実はストーキングと思っていた。


 朔「【邪神】から【神国日本】を護るのが【古族】の使だからな………【目】に【転身者】を探させて強制的に『記憶の覚醒』を促すという【裏技】があるんだよ!」


 朔が言うには【転身者】は孤児が多いらしい。今話題に出た【目】の【異能力者】は【天孫族】で【血の系譜】を継いでいく【種族】になる。


 満「ああ………【転身者】は『記憶の覚醒』前に、『討伐対象』になるっちゅうことやな」


 孤児は冷遇されて【負の感情】が育ち過ぎて【古族】から【魔堕ち】して【妖魔】になる。皆が皆、冷遇する訳では無いが【人間社会】は【カーストピラミッド】になっている。その【ピラミッド】の【上位】に位置する者が孤児を冷遇する者なら、右へ倣えである。


 燎「そうだ。『イジメ行為』を受けている者に【目】の【異能力】で【覚醒】を促す………そうすることで【魔堕ち】することを防ぐが………」


 実は、この方法は『両刃の剣』だと燎は言った。


 癸「だろうねえ………『イジメ被害者』が突然【異能力】に目覚めて、これまでのに走ったら、【魔堕ち】するからねえ」


 つまり『イジメ加害者』への仕返しの度を超えたら【魔堕ち】するということだ。


 癸「【起源の大戦】の時に、これで【魔堕ち】した【古族】がそれなりにいたんだよ」


 どうやら癸は【魔堕ち古族】を実際に見たことがあるらしい。


 桂「つまり、後天的に【目】という【異能力】が【覚醒】する可能性があって、迂闊に殺せないわけだな」


 桂は、目玉を奪い取って【移植】して使えないのか、と訊く。【忍】らしい考えだ。【忍】は【稀少な瞳術】の目玉を奪う為に、持ち主の【忍】を殺害して目玉を奪った後、手術で自分の目玉と交換してしまう。この交換のことを【移植】と呼んでいる。


 朔「【移植】は無理だ。【目】は【天孫族】の【系譜】つまり【魂魄】【血肉(肉体を意味する)】【目】の3つが揃わなければ【目】の【異能力】は発現しない」


 それは強奪不可能だな、と洸が言った。

 

 洸「つまり【魂魄】を入れ替えて【天孫族】に成り代わる手段が無理なんだな」


 満「【憑依】して主導権握るっちゅうのは?」


 満の提示した方法は、実行者が【精神】だけの存在────────────つまり【幽体】にならなければならない。


 燎「【天孫族】には【アマテラス】の【加護】がある。【アマテラス】は【太陽神】………その意味する所は【光】、【清浄】………他はちょっと思いつかない………とにかく、【異分子】は排除される」


 燎の補足説明に、満はなるほど『乗っ取り不可』ちゅうこっちゃな、と納得した。


 燎「【古代】は【天孫族】は、【八百万の神の子】とされていて、【大王おおきみ(天皇)】へ嫁ぐのは【天孫族】のみだった」


 燎は、当時の【垂仁天皇】は御年23才で【皇后】を迎えようとしていた、と話しを【古代】へ戻した。


 燎「ここで【皇后】の候補の筆頭に挙がったのが【狭穂姫】だ。次点で【丹波姉妹】の【一の姫】と【二の姫】だ」


【狭穂姫】は【日子坐王ヒコイマスノミコ】の娘、【丹波姉妹】は【美知能宇斯王ミチノウシノミコ】の娘で【日子坐王】の孫だ。


 燎「候補の3人とも、【日子坐】の【直系】だが………そこは孫より娘だろう」


 孫の父親は【美知能宇斯】なので、彼に【皇后の父】と権力を付けさせるのを【日子坐】は警戒した、と燎は言った。


 朔「この時、【佐保】に【まほろば鳥の一族】、【美知能宇斯】と【一の姫】、【二の姫】、【真若王】と【息長おきなが一族】、そして【日子坐】と奴の出身【和邇わに一族】が集まった」


 そこには、【御景見戸売おんかげみとめ】、真王まお真秀まほの姿もあった、と朔は『役者が揃った』と言った。


 朔「因みに、この【和邇一族】は先に癸祖父様が言っていた『狭穂彦王の叛乱』の原因の1つと考えられている【新羅しらぎの皇族・アメノヒボコ】と【祖】を同じくする者だ」


 満「何やて!」


 満、三度のクワッである。


 桂「ほお………これは『クライマックス』ということだな」


 朔「そうだな………【狭穂彦】、【狭穂姫】、真秀にとっては『始まりの地』となる」


【佐保の地】で【狭穂彦王】と真秀は『運命の出逢い』をする。そして、互いにひと目で恋に落ちた。陳腐な言い方だが、そういうことだと朔は言った。


 洸「某国発の恋愛マンガ展開………第2弾だな」


 朔「まほろば鳥の真秀とその【花婿】の【狭穂彦】の出逢いの裏で、もう1つ【運命】の引き合わせがあった………【真若王】と【霞童子】が出会った」


【真若王】の生まれ変わりが、あの【俵藤太たわらのとうた】だと朔は言った。


 そして、この【狭保】で日本史上での【邪神】が現れたと、朔はその【邪神】の名は【いにしえのもの】と言った。


 将成「………この時代に【邪神】の存在が発見されたのか………」


 将成は【古のもの】とは【クトゥルフ】なのかと訊いた。


 燎「海から現れた【古のもの】は、『我が名は【古のもの】またの名を【イザナミ】』と名乗った」 


 燎は、勿論適当に名乗っただけだろうと言う。


 燎「【邪神】は元々、【合衆国】で発見されている。そんなのわけがないだろう!」


 燎の言っていることは正しいのだが、和名云々が否定の理由そこか、と残念な気がする。


 朔「【古のもの】が本物の【イザナミ】かどうかはわからねえが………【アマテラス】の子孫の【天孫族】にはそれなりに効果があった………と思う………多分」


 朔は後のほうでよくわからない曖昧な表現をする。


 燎「【日子坐】とか【美知能宇斯】は容赦なしで滅多斬りしてたよな」


 朔「これからの展開ネタバレさせたらダメだろ」


 燎がネタバラしをしてしまったが、朔の曖昧な表現の理由がわかった。


 燎「因みにこの約300年後に朝鮮へ出兵した【神功皇后】は【大和】へ帰還せず、【九州】に【独立国家】を造った。これが【邪馬台国】だ」


 つまり【神功皇后】こそが【邪馬台国初代女王・卑弥呼】である。燎はそう言った。


 朔「それから【卑弥呼】が【女王】の時代に、の【邪神】出現だ」


 朔は、【邪馬台国】についての日本史の歴史的記述はないので【狗奴国クヌコク】と敵対していたとあるが、【狗奴国】の皇子【卑弥弓呼ヒミクコ】がオーバーテクノロジーの【兵器】を造って、【邪馬台国】、【狗奴国】、【末盧国マツロコク】の3国が同盟を結んで【邪神】に対抗したと話した。


 朔「桂………お前、【加藤段蔵】の前に【卑弥弓呼】に【転生】してたんじゃないのか?」


 あのオーバーテクノロジー兵器は、どう見ても【宝貝パオペエ】だと朔は桂を問いただしている。


 桂「いや………【卑弥弓呼】は確かに俺だが………【加藤段蔵】と同一人物だ」


 桂は【回生の術】で【古代】に【転生】していたことを認めたが、【加藤段蔵】が最初の【転生】だと言い張る。


【加藤段蔵】とは【飛び加藤】という名前で知られる【忍】である。


 桂「【狗奴国】の皇子に生まれ変わったら………【王】は侵略戦争しか考えてない脳筋だし………けど、ガキの体じゃ何もできないから成人するまで、待っていたら【邪神】の登場だよ」


 もう俺は【狗奴国】の脳筋父王のせいで呪われてるのかと、泣きたくなったと桂はトホホと口に出して言う。


 桂「その頃は、俺も成人してたし………『タコ星人』1体だけだったからな。【盤古砲】をお見舞いしてやれば瞬殺と思ったのに………」


 さすが【邪神】の親玉だ、一撃でくたばらなかった、と桂は悔しそうに言った。


 洸「お前が『タコ星人』って呼んでる奴………【クトゥルフ】だろ」


 いきなり『ラスボス』出て来てるじゃないか、と洸が言うのを桂が否定した。


 桂「【クトゥルフ】だけがボスではない。他にも【ハスター】やらさっき、父上が言っていた【古のもの】もそうだ………【邪神】のボス相当クラスは何体か存在する」


 桂がクドクドと理屈を言ってくるのに洸はイライラしてキレた。


 洸「【クトゥルフ】のカテゴリーではボスだろうが!」


 こんな所で兄弟喧嘩されては話が進まなくなるので、遙が質問をぶつけて仲裁した。


 遙「それで、『タコ星人』は上陸したのか?」


 桂「チャージが済んだ【盤古砲】で今度は威力を上げて撃ってみた所、体の半分を吹っ飛ばすことはできたが………次に撃つまでのチャージ時間の間に『タコ星人』が再生してな」


 周りの兵たちがチャージの待機中には弓矢や槍の投擲で、攻撃は続けていたが再生速度が速くチャージの間に全快しそうだった、と桂が話していると、そこへ燎がで加勢したと言った。最初の【邪神】襲来から『対【邪神】』は『【古族】の使命』になったのだ。【邪神】と闘う者があれば加勢するのが『暗黙の了解』だった。


 桂「俺が………ここでは【太乙たいいつ】にしておこう」


 桂は、当時は【卑弥弓呼】、【果心居士かしんこじ】、【太乙】の3つの名前を使っていたと言った。


 桂「【太乙】の【盤古砲】と【海の先住王】の【羽衣】とで交互に攻撃した」


【盤古砲】はチャージに時間がかかって連続攻撃できないので、チャージ中は【海の先住王・大海主之王おおみのみこと】が【羽衣】で攻撃を続けていた甲斐あって、敵の再生に遅れが出て来たのだ。  


 燎「最後は【太乙】が最大威力の砲撃かまして敵は頭も足も散り散りバラバラで海に沈んだ」


 後で海の中を探してみたが、【邪神】の欠片ひとつなかったと燎は言う。


 洸「ヤケにアッサリだな………【クトゥルフ】の【本体】じゃなかったってことか」


 洸は、再生は厄介そうだったがあまり手こずっていないようなので、【分体】だったのかと考える。


 燎「おそらくな………【クトゥルフ】は【太陽系惑星】が『直線上に直列』した時に【封印】から目覚めると伝わっている」


 300年ほどの歳月が過ぎているが【分体】を送り込んで来た理由は、先の【古のもの】のせいだろうと燎は言った。


 燎「【クトゥルフ】と【古のもの】は敵対関係らしいからな」


 大方、【古のもの】が侵略を試みた【神国日本】へ偵察を送ったといったところだろうと燎は自身の推測を口にした。


 燎「300年なんて歳月………【宇宙人】のアイツらからすれば、3日前ぐらいの感覚だろ」


 偵察を送るのに間が空きすぎと感じたのは【人間】の感覚だからのようだ。


 遙「加勢したのが【海の先住王】だけだったのか?」


 遙は【海の民の古族】はどうしたと訊いた。


 燎「当然、加勢していた。しかし、決定打になる攻撃は【盤古砲】しかなかった」


 せいぜい時間稼ぎしただけだった、と燎は言った。


 その2度目の【邪神】との闘いに【山の先住者】は参戦していない。正確には出番がなくなった。


【海】に現れたので、【支配圏外】の【山の先住者】は移動に時間がかかったのだ。


 癸は、【邪神】とは関係ないがやはり【古族】の王は【盤古】が使えるようだねと言った。


 癸「燎の【前世】の【大海主之王】が使ったという【羽衣】は【盤古布ばんこぬの】というものなのだろう」


 話を聞いていた限りでは、使いこなしていたのではないのかと癸は言った。


 燎「義父上!わかっていただけましたか!」


 燎が喜んでいるのを見て、癸は君は実力だけは影連かげつらさんと姉上(きのえ)からしっかり遺伝されてるからと認めた。


【太乙】は、この【邪神】との戦闘後大陸へ渡った。彼のオーバーテクノロジーを【狗奴国王】は利用するに決まっているので共闘した【大海主之王】に頼むと、意外と簡単に了承して【中国】へ運んでもらえた。そこで【太乙】は【果心居士かしんこじ】と名乗った。そこから日本へ戻って【加藤段蔵】という『伝説の【忍】』になるのは約1300年後である。


太乙真人たいいつしんじん】は、【1廻目】の【回生】(転生戦士は転生のことを回生という)から約1500年間、名前を変え大陸へ渡ったり帰国したりを繰り返して自由気ままな人生を送った。 




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