第壹章   霞童子悲恋譚⑦狭穂彦王の叛乱の真相〜四道将軍・丹波美知能宇斯〜 ※文中にイラストリンク有り

 はじめは、じゃあ次は【四道将軍】の話なと続ける。


 朔「【四道将軍】は有名だからわかるよな」


 その内の1人は『御伽噺の桃太郎』のモデルになってるね、と癸が言ったので一同は何となく理解したようだ。


 朔「この【四道将軍】に【美知能宇斯みちのうし】という【丹波】へ派遣された将軍がいる」


 この男は【日子坐ひこいます】の子だ、と朔は言った。


 燎「手籠めにされた【海の民ウチ】の【水頼比売みずよりひめ】が最初に生んだ子だ」


 燎は、【水頼比売】はいわゆる【強制性交】の結果【美知能宇斯】を懐妊したので『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』の心情で、『呪い殺したい』ほど恨んでいたと言った。


 燎「だが、この男………あの【鬼畜外道野郎】の子にしては【仁義礼智信】の【五常】を持ち合わせた『マトモな人間』だった」


【五常】とは人間が常に持ち合わせていなければならない【道徳観念】のことである。


 満「【甲賀・伊邪那岐衆ウチ】のひかるの曾祖父ちゃんや!」


 満の元にいる【漂白の者】の中に【ヤマトタケル】がいる。名を『美夜受光みやづひかる』と改名している。姓の『美夜受』は【ヤマトタケル】の妻の1人だった【美夜受比売ミヤヅヒメ】から取ったそうだ。


 やっぱりマトモな人間から【英雄】は生まれるんやな、と満はウチの子がスゴいとドヤる。


 朔「お前の脅しが効いて、【日子坐】は【水頼比売】を気にかけてたじゃねえか」


『他よりは』と言う辺り、待遇の良し悪しが微妙だ。


 燎「【天女】は滅んでいないからな………もっとも、アレを切っ掛けに『民族大移動』したから手出しできなかったと言うべきだろうな」


 燎は、【水頼比売】が手籠めにされた後【淡海おうみの天女一族】から【羽衣】を没収していた。彼らは【水頼比売】が蹂躙されるのを見て見ぬふりをして、挙げ句に【羽衣】を奪われたことを責め立て追放したからだ。【古族の王】は【外界けがいの民(古族の民衆)】は皆我が子と考えているので、【父性愛】が強いと同時に【躾】も厳しい。【家族】を見捨てた者たちを厳しく罰したのだ。唯一の武器を奪われた【天女】たちは、丸腰の所を【人間】に襲われるのを恐れて夜逃げした。これが『民族大移動』である。


 洸「【遊牧民】みたいになってるぞ」


 燎「因みに、彼女たちが【ヴァンウルフ】の小僧たちに夜這いして襲いかかった『肉食系女子』だ」


 身を護る武器を持たないから、『強き者』に依存する性質になってしまったようだ、と燎は嘆いた。


 朔「なんだそれは!初めて聞いたぞ!」


 朔の言葉に、燎はその娘たちは【風魔五番隊】が拠点にしている【吉原よしわら】行きが確定したので片付いたと報告した。


 洸「適材適所だな」


【吉原】は【くノ一部隊】の【風魔五番隊】が表向きは【料亭】だが、内部は【吉原遊廓】という【裏社会】である。そこには、【元犯罪者】や【孤児】などもいて【更生】や【教育】もしているが【国家公認】で【問題のある人物】を『一箇所に収容して監視する』ことが目的である。


 将成「【ヴァンウルフ】を………!『国際問題』じゃないか!」


 将成は、頭を抱えた。


【ヴァンウルフ】は、【ヴァンパイア】と【人狼】の【混血種】だが、【真祖ヴァンパイア】と【神獣フェンリル】なので【上位貴族】になる。


【欧州】には今でも【貴族】が存在するが、【英国】で【貴族】を名乗っているのは【ヴァンパイアの一族】である。故に、【英国】の【上位貴族】へ危害を加えたとして『国際問題』になる案件だ。


 遙「落ち着け【ヘッド】、これに関しては【0機関ゼロきかん】の【代表】に収めてもらうから、もう解決したも同然だ」


【肉食女獣】たちは【吉原】行きで『一件落着』と、遙は『大岡裁き』の如くドヤった。


 みずのとは解決したなら聞く必要ないよと、【美知能宇斯みちのうし】の話の続きを急かした。【甲賀】に籍を置く【漂白の者】が絡んでいるので癸には、こちらのほうが大事な話なのだ。


 朔「【美知能宇斯】だったな………【まほろば鳥】の真秀まほの父親が【美知能宇斯】だ」


 満「何やて!」


 満は、クワッと目を見開いた。


 洸と遙がクワッてやった、マンガみたい

と言っている。


 朔「【日子坐ひこいます】は、【大比売おおひめ(大闇見戸売おおくらみとめ)】の前に【景比売かげひめ(御景見戸売おんかげみとめ)】を手籠めにしていた。その時に【景比売】は【真王まお】を懐妊し、【白痴】の状態になった」


【御景見戸売】は【日子坐】の【暴力行為】のせいで【恍惚の人】になってしまったらしい。


 満「【死刑】や!【日子坐】は【死刑

】でエエやろ!」


【日子坐】は【天孫族】なのでそれは無理である。


 朔「この時点では、まだ【日子坐】の『佐保侵略』は無い。まあ………下見に来ていた可能性はあるが………」


 下見に来ていたと仮定して、そこで絶世の美人姉妹の片割れ【御景見戸売】を見初めたと予測できる。【御景見戸売】は【比類神子ひるこ】なので何らかの『身体障害』を抱えていた。ガチ武人の【日子坐】から逃げることは不可能だ。彼女は懐妊したので、そこで何が起こったのかは容易に想像できる。


 朔「真王まおを出産して【景比売かげひめ】は【白痴】になった。そして生まれた真王は【めしい】に【ろう唖】の【比類神子】………だが、【古族】は『無神論者』が多い。【古族】には【比類神子】は【忌み子】と言われた」


【比類神子】を【奴婢ぬひ】にするなど扱いが酷すぎると思ったが、そういう背景があったせいだと判った。


 洸「これ………アレだ。【まほろば鳥の一族】、『神の怒りに触れた』ヤツだ」


【僧侶】の洸は『神罰』だなと、【まほろば鳥の一族】に問題があったと論じた。


 朔「挙げ句の果てには【比類神子】が災いの主を呼び寄せたと言う始末だ」


 助け合うどころか、弱い者に責任をなすりつけて情けない、と朔はため息をついた。

      

 癸「朔の話を聞く限りだと、真王のほうは生まれつきのようだけど………【御景見戸売】は『外道行為の果ての懐妊出産』の後で症状が出ているね」


【御景見戸売】は【双子】だから【忌み子】と無理矢理こじつけた感じは否めない、というのが癸の考えだ。


 朔「生まれた【真王】が『【盲い】の【ろう唖】』というのが、こじつけの決定打だな」


【忌み子】を生んだからやはり【景比売】は【忌み子】だと、よくわからない着地の仕方をしたと朔は言った。


 朔「【景比売かげひめ】の味方は、同じ時に生まれた姉の【大比売おおひめ】だけだった」


 そして約10年の歳月を経て【日子坐】は【佐保】へ進軍して来た。


 朔「【日子坐】は、【まほろば鳥の一族】に【景比売】と真王を殺せと命じた」


 だが、それは阻止された。【まほろば鳥の一族】が【御景見戸売】と真王を幽閉していた【洞穴】へ向かった時、そこはもぬけの殻だったと朔は続ける。


 朔「真王の声………喋れないから【思念】と言うべきか。とにかく声が【先代】に届いた」


大闇主之王おおくらぬしのみこと】は、『母の【御景見戸売】が殺される』という【思念】を受けた。そして、彼は【闇嶽之王くらみたけのみこと】を【佐保】へ向かわせた。


 朔「【日子坐人間】の手のひらで踊らされる【まほろば鳥の一族】がみっともなさ過ぎて【闇嶽之王】は【蛇神体】で大暴れした」


 この頃は、【闇嶽之王】は若かったんだと朔は言うが、【イザナギ】【イザナミ】の【国生み】より前から存在し【ニニギノミコト】の【天孫降臨】、【初代・神武天皇】から【10代・崇神天皇】の御代みよになっている【古族】を若いと判断できるかどうか基準がわからない。


 満「これがホンマの『神の怒り』やな」


 癸「一体、誰が【御景見戸売】と真王を連れ出したのだね?」


 真王は足が不自由だっただろう、と癸は逃げるにしても誰かが抱えることになると言った。癸の妹のひのととほぼ同じ状態 と聞いているので、逃走はかなり難易度があることが解る。


 朔「【蛇神体】で大暴れする俺に果敢にも挑んで来た『挑戦者チャレンジャー』がいた!」


 それが後の世に【四道将軍・丹波美知能宇斯たんばのみちのうし】と記される【美知能宇斯】だった。


 朔「最初は、そいつが【日子坐ひこいます】だと思った………顔が似てたんだよ。『絶対に女が惚れる美形』ってこれ結構有名な話」


 親子だから似ていても不思議じゃないよね、と言って朔は続きを話す。


 朔「俺は果敢に挑んできた【人間】………【美知能宇斯】に敬意を表して、【景比売】とその息子・真王を『殺人鬼と化した鳥頭どもから守れ』と任務を与えた」


 一同は、はて何故任務を与えたのかと疑問を持つ。


 洸「敬意を表したんだろ。与えるのは、普通【加護】とか、ちょこっとだけ【通力】が使えるようにするとかじゃないのか?」


 しかも『殺人鬼の鳥頭』って【まほろば鳥】のこと思いっきりディスってるじゃないか、と洸はツッコむ。


 燎「今の発言は、実際に見ていた俺でもお前が【まほろば鳥の一族】を屠った張本人みたいに聞こえたぞ」


【日子坐】が【宝貝パオペエ】の使用エネルギーに【まほろば鳥の一族】を使ったのを【大海主之王おおみのみこと】が知っているので燎の記憶が【闇嶽之王(朔)】はシロだと証明できる。


 朔「仲間を迫害するような子は【山の民ウチの子】にいらない」


 朔は【闇嶽之王】も【大闇主之王】も直に手を下していないが、【まほろば鳥の一族】は放置することに決めたと言った。


 朔「とりあえず、【先代】の子の【大比売】と【景比売】とその血族だけ生き残れば良しみたいな感じだな」


 燎「お前らも滅亡に絡んでるじゃないか」


 手を下していないが、見捨てている。


 朔「『見ること』、『聞くこと』、『口を出すこと』をやめただけだ。『【生命いのち】尽きるまで搾り取った』のは【日子坐】だ」


【羽衣】の能力を十全に引き出せず【まほろば鳥の一族】は『無駄死に』させられたな、と見捨てておいてすべて【日子坐】のせいにする朔に、癸は【海の民の王】と【山の民の王】とでは自分たちの【外界けがいの民】への扱いが違うのだね、と彼は珍しく燎を評価する。


 癸「【海の民の王】は武器を没収したけれど、『お引越し』させて【外界の民】に反省と更生の機会を与えたね」


 結局、あまり更生したとは言い難いことになったけれど、それは燎のせいではないので癸は愚痴っただけに留めた。


 癸「【山の民の王】は、問答無用だね。もしかしたら迫害されたのが【大闇主之王】の娘さんだったからかもしれないけれど………【種族】が絶えるほど追い詰めるのは相当恨んでいるんだね」


 執念深すぎやしないかい、と癸は言った。


 朔「癸祖父様、【地這いの者(大ムカデ)】は【蛇】以上に『執念深く偏執的』だ」


美知能宇斯みちのうし】が【御景見戸売おんかげみとめ】と真王まおを【佐保】から連れ出し、【まほろば鳥の一族】は母子の殺害は入れ違いで失敗したのだが、しばらく周辺を探索していた。


 朔「【まほろば鳥の一族】が【景比売かげひめ(御景見戸売)】と真王を幽閉した【洞穴】へ向かうのを【大比売おおひめ(大闇見戸売おおくらみとめ)】が阻もうとしたが、【日子坐ひこいます】は当時2才の【狭穂彦】を人質に【大比売】の動きを封じた。そして………この日の出来事で【大比売】は子を孕んだ………その子が【狭穂姫】だ」


 子どもを人質にするとは下劣な、と桂は眉を顰める。


 遙「【日子坐】は【まほろば鳥】へ【御景見戸売】の母子暗殺を命じたが、その結果はどうでもよかったようだな………【日子坐クソゲス野郎】は【大闇見戸売】と交尾したかっただけじゃねえか」


 ガキまで巻き込んでマジでクソだな、と遙は歯に衣着せぬ言い方をするが、一部オブラートに包んでほしい部分があった。


 朔「言ってることは間違ってないが………そんな言い方されたら、【景比売】が真秀まほを出産することになる経緯が話しにくいだろ」


 朔の言葉に洸が、真秀は【狭穂姫】と同じ年齢だったなと言った。


 洸「父子でやること同じかよ………【美知能宇斯】が真秀の父親ってことは、やったんだろ『子作り』」


 洸は一応、言葉を選んだようだが彼は【僧侶】なので、ものすごく下世話な感じになった。


 満「洸は『生臭坊主』やな」


【僧侶】っちゅうんはもっとストイックな感じやろ、と満が思い込みの【僧侶像】を口にする。


 癸「とりあえず、朔の話を聞いてみないかい?」


 癸は、朔と燎が話す【美知能宇斯王みちのうしのみこ】の人物像から無理矢理に女性を手籠めにするタイプには見えないよ、と言った。


 朔は、【狭穂姫】と真秀は年齢は同じだが【狭穂姫】のほうが半年以上先に生まれている、と言った。


 この半年以上の時間差が、【美知能宇斯】と【御景見戸売】の間に【情愛】が育まれた時間だ。


 朔「【日子坐】の侵略戦争に長子の【美知能宇斯】は大いに貢献している。それは同時に戦争ばっかりやってたってことだ」


 そんな戦三昧で、【美知能宇斯】の荒んだ心は【白痴】の【景比売かげひめ】の『無垢な純粋さ』に癒やされた、と朔は某国発祥の恋愛マンガを地で行ったと言う。


 洸「なるほど………【日子坐】のように『出会って即合体』ではなく、【美知能宇斯】は『時間をかけて【心】を掴んだ』ということだな」


 癸「洸、【僧侶】が『出会って即合体』なんて言うの………私は初めて聞いたよ」


 癸は【転生戦士】だから『耳年増』なのかな、と困った表情をする。


 洸は、『いたした』のほうが良かったのか、と言って癸が困っている理由をわかっていない。


 満「お前は『下世話』な言葉、知りすぎとちゃうんか?」


 ホンマどこで聞いて来るねん、と満は呆れた。


 朔は、某国発祥の恋愛マンガの正道を突っ走った結果、【景比売】は真秀を出産したと言い、【美知能宇斯みちのうし】の『将軍様の純愛噺』はおしまいだ、と締めた。




https://kakuyomu.jp/users/mashiro-shizuki/news/16818622171844812753

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