第壹章   霞童子悲恋譚③凶星・八岐大蛇

 桂があることに気づいてそういえばと続けた。


 桂「【みづち族】の若長がまだ誕生していないな………【ヤマタノオロチ】は【神話時代】の話だろう」


 時系列がおかしいぞ、と桂は指摘する。


 朔「順番通りに話を聞くか、先に結論を聞くか」


 好きな方を選べ、と朔は言うと意見が割れた。


 桂「結論だな。あの【性ワル】がどうなったか気になる」


 遙「過程なんかどうでもいい………【八岐大蛇ヤマタノオロチ】の『ざまぁ話』はよ聞かせろ」


 桂と遙は結論を聞きたがったが、あきらみちるが真っ向から反対した。


 洸「無粋だな。時系列に沿って聞くのが常識だろ!」


 満「お前ら………それは【ミステリー小説】で犯人誰か教えるんとおんなじやで!」


 洸と満は先に結論を言うのは【邪道】だとブーイングする。


 洸「遙は『ざまぁ話』を期待してるなら過程聞きたいだろ。過程が酷いほど『ざまぁ』にスッキリするぞ!」


 洸の言い分は、もっともなのだが遙は【前世】で【日本】に何度か来て【八岐大蛇】の悪戯を妨害したこともあるからなあ、と言う。そして、そのうちの1つを話す。


 遙「【御伽噺】の『浦島太郎』が助けた【亀】………アレ【乙姫】だぞ」


【御伽噺】では悪ガキが【亀】をイジメていたとあるが、実際は【乙姫】が漁村の若い男衆にイタズラをされかけていたのを【浦島太郎】が助けたのだ、と遙の話にウラシマが顔を真っ赤にしてその話はヤメてくれ、と言った。


 画面の向こうでは、満、みずのと将成まさなりは怪訝な表情をしている。


 一寸法師「遙………その話は、ウラシマとウラシマの奥さんとの馴初め」


 遙「ウラ伯父さんの奥さん………美人だな」


 微妙に応答が噛み合っていないが、リアルに伯父と義理伯母の恋愛過程に遙は、ほんの少し関わったようだ。


 洸「ああ思い出した!【白竜】兄者が【ジェットコースターの刑】に処したガキ!」


 あれが【八岐大蛇ヤマタノオロチ】だったのか、と洸はタチの悪いガキだったと言った。


 満「【ジェットコースターの刑】て………【白竜王】の【竜体】で超高速飛行やったんか!」


 某遊園地に【ドラゴン】の名が付いている【ジェットコースター】があるが、リアルな【竜】に【ジェットコースター】されたようだ。


 癸「なんか楽しそうな【刑】だねえ………」


 遙「癸祖父様、【白竜王】は【風竜】だ。【竜巻】の中で洗濯物の気分だぞ」


 将成「それ………普通に死ぬだろ」


 癸「【転身】しているから生きてるねえ。………性悪ほどしぶとい」


 棗「お前ら………ガキだけで愉快なことしてズルいぞ!」


 なぜ誘わなかった、となつめが言う。


 燎「そんな酷い目に合わされてるのに、性格が全く改善されないとは」


 燎は、だから【八岐】は赤児のうちに殺せと忠告したのだ、と言った。


 朔がちょっと待てをした。


 朔「質問が2つある。まず遙、ウラシマの馴初めに【八岐】が関わっているのか?」


 遙「【R−25】の話をして大丈夫か?」


 何だそれは【R指定】の数字がオカシイぞ、と朔は遙が意味不明なことを言い出したと思ったが、先のやり取りから一緒にいたと思われる洸(当時は黒竜王)が、その年齢でなければ聞くに耐えない行為があった、と言った。


 朔「ウラシマの奥さんの名誉のためには、ここで聞いたらマズいか………じゃあ次の質問だ。燎、【八岐】を殺れって忠告は何のことだ?俺は知らないぞ」


【前世】のことなので忠告したのは【海の民の王】なのだが。


 燎「【前世】の俺(海の民の王)の所には、【シャン(棗の前世)】や【太上老君(梓の前世)】も遊びに通って来てたんだよ」


【海の民の王】は、【竜王・祥】と【太上老君】とは気の合う飲み友達だったそうだ。【海の民の王】の元には【汎梨ファンリ公女】が降嫁しているので、【竜王・祥】は頻繁に訪ねている。生まれ変わって数千年ぶりに再会した時はひとりは妹、もうひとりは娘なので燎は驚いた。


 癸「【前世】で夫婦だった男女が生まれ変わったら兄弟姉妹になっている………ということは割と『あるある』だよ………友人が家族に生まれ変わるというのは聞いたことはないけど相当深い友情だったなら………あり得るかもしれないねえ」


【前世】の夫婦仲が良好だった人たちほど、死後も離れがたく【血縁】という断ち切れない間柄に生まれ変わりやすい、と癸は言った。


 棗は【八岐】を殺れという理由に心当たりがあった。


 棗「アレか!【星見ほしみ】だな!」


【星見】とは、星を詠んで【未来】を予知する【卜占ぼくせん】のことだが、【占星術】とは異なる。【中国】の【道教】や【道教】が源流となっている【日本】の【陰陽道】の【占盤せんばん】と呼ばれる【法具】を用いるのが一般的な【星見】だが、【仙道】を修めた【仙人】の中には夜空に輝く【星】の位置を【占盤】に見たてて星詠みができる者もいる。


【太上老君】は【道教】【陰陽道】において【神格】と見られている【大仙人】だ。夜空を【占盤】に【星見】ができる数少ない【未来予告者】であった。


 燎「梓の名誉のために言っておくが………【老子ろうし(太上老君)】は殺せとは言わなかった。ただ夜空に浮かぶ【真紅の星】を【凶星】と詠んだだけだ」


【海の民の王(前世の燎)】は夜空に不気味な異彩の輝きを見せていた【真紅の星】に不吉さを感じたと言った。そして【太上老君】がその【真紅の星】を「【八つ首の蛇】が生まれるが残念………それは【凶星】だ」と呟いたのを聞いたのだ。


 朔「残念………だと?まるでその【八つ首の蛇】が【凶星】でなければ良いのにと言いたげだな」


 朔の言葉を癸が肯定した。


 癸「その通りだよ」


 朔「不幸をばら撒きやがった【八岐】は確かに、別の意味で『残念男』だけどな………惜しまれるような価値はない【出涸らしクズ野郎】だ!」


【前世】では兄弟だった相手に対しての朔のあまりの言いように、満は、うわキッツーと引いた。洸も、そこまで言うと引いている。


 桂「朔、まあ聞けよ。【老君尊師(太上老君)】と癸お祖父様の言う【残念】は数字だ」


 桂の言葉に、朔は何だそれ数字オタクか、とやや呆れ気味だ。


 桂「【東洋】と【西洋】で異なるが、数字で【縁起】を担ぐ風習はあるだろう」


【東洋】では【4】や【9】が忌避され、【西洋】では【13】が不吉とされる。宗教によっては【6】は悪魔の数字と呼ばれることもあるようだ。


 桂「例えば【12】は不吉とされる【13】を止める数字なので【聖なる数字】と呼ばれている。そして、これが本題だ。数字の【8】………【東洋】は【8】という数字を『神聖視』している」


八咫鏡ヤタノカガミ】【八卦】、【無限大】は数字の【8】を横に置いた形として縁起が良い。


 遙「【結界】も【八方陣】【十六方陣】【三十ニ方陣】と【8の倍数】の【方陣結界】は【邪気】を祓い【清浄】する」


 燎「なるほど………【老子】は【八つ首】は【神聖な8】なのにと言っていたのか………」


【凶星】のほうに気を取られて数字に頭が回っていなかった、と燎は言った。


 燎「【大闇おおくら】も【八つ首】は『縁起が良い』と言って、そこで大喧嘩した」


 結果は、お前知ってるだろ、と燎は朔に言った。


 朔「【先代】と派手に喧嘩してから疎遠になったな………【八岐】を縁起悪いつったか………そりゃあキレられるわな」


【先代山の民の王】は、【八岐】誕生の言祝ぎに【海の民の王】が来てそこで喧嘩別れし絶交状態になった。そして【跡目の儀式】で討たれたので【海の民の王】とは仲直りが叶わなかった。 


 癸「それで、【八岐大蛇】が生まれたのは【日本史年表】ではいつなのかね?」


 朔「【伝承の時代】とも【大和時代】とも言われている曖昧な時期だ。だが、【八岐】が5〜6才の頃に事件があった。【大王おおきみ(天皇)暗殺】だ。失敗して首謀者は自害したか、討伐されたか………」


 どっちかわからねえ、と朔は【人間】は自分たちの【王】をハメたり暗殺したりが多すぎて細かいことは覚えていないと言った。


 朔「あ………みっち(満)の所にいる【漂泊の者】!【過去の世界】で暗殺失敗したのがいるだろ。そいつが首謀者だ!」


 その言葉に将成は、犯罪者を匿っているのかと言いたげな視線を満へ向ける。


 癸は、満の所に首謀者がいると聞きて、ふむふむなるほどと納得した。


 癸「【垂仁天皇すいにんてんのう】の頃だねえ………その事件は【狭穂彦王さほひこのみこの叛乱】だ」


 一般的には【垂仁天皇】に輿入れした妹の【狭穂姫】に暗殺を指示したが、【狭穂姫】が暗殺を踏みとどまったので企みが露見して討伐部隊を向けられたが屋敷に火を放って自害したとされている。【狭穂姫】はこの【狭穂彦王】に追随したので、後世では【心中】という見方もある。【日本書紀】では【物語性】が高く【禁断の兄妹愛】のワードが【恋愛小説】に取り入れられたりと人気がある。


 満「嶽斗ガクト那岐ナギか!あいつらは、俺の子ども同然や!絶対に引き渡さへんで!」


 満は、将成に引き渡しを要求したら【夜狩省よがりしょう】を辞めると言い出した。


 将成「それ以前に、彼らは【夜狩省】の宣伝キャラクターだ。そもそも、お前の所の【過去世界】の【漂泊の者】は『歴史的に有名人』ばかりで、過去の個人情報ザルだろうが!」


【漂泊の者】は激動の時代にいた者が多いので、ほとんどの者が【殺人行為】を経験している。これを罪に問うとキリがない。


 癸「2000年以上も昔だねえ………【時効】どころか【風化】してるよ。当時をリアルタイムで過ごしていた【転生戦士】もうろ覚えだよ」


 朔は【大王おおきみ暗殺犯】としか覚えていなかった。


 癸「でも、名前すら覚えていないのに暗殺を企てた行動を把握しているのはなぜだね?」


 癸は、まるで監視していたかのようだ、と言う。


 朔「俺が監視していたのは【日子坐ひこいます】という【開化天皇】の【第三皇子】だ。みっちの所にいる【ヤマトタケル】………そいつの曾々お祖父ちゃんに当たる………のか?」


 朔は「合ってる?」と視線を画面に映る癸に向ける。


 癸「そうだね………【ヤマトタケル】の御父君の【景行天皇】が【日子坐王ひこいますのみこ】の曾孫だから………合っている」


 癸は、人物像は文献にはほとんど残っていないが、【日子坐王】の系譜が記された【家系図】は残っているようだから親族の縦横の関係は、【古代マニア】には知られているはずだ、と言う。


 朔「【日子坐】という男が、どんな【人間】かは、【漂泊の者】に聞け。俺が【日子坐】を見張っていたのは、この男が【鳥人とりびと族】の【まほろばちょう】の長を嫁にしたから」


 この出来事は【狭穂彦王の叛乱】より前のことだ、と朔は言った。


 将成「【鳥人族】の長は【烏帽子太夫】か【五位鷺姫】ではないのか?」


 もっともその名前になったのは【官位】を賜った【平安時代】なので、【古代】では違う名前だったかもしれないのだが。


 朔は、その質問の答えは話を聞いていればわかる、と言って今は答えなかった。


 朔「この娘は双子姉妹で名前は【大闇見戸売おおくらみとめ】と【御景見戸売おんかげみとめ】………【大闇主之王おおくらぬしのみこと】の【愛妾・加津戸売かつとめ】が産んだ子だ」


【先代山の民の王】には【妻】として迎えていない【しょう】がいたので、【闇嶽之王くらみたけのみこと(前世の朔)】には非公式な【異母兄弟姉妹】が何人かいるとのことだ。


 朔「双子を出産後、【加津戸売】は死亡した。プライドの高い【鳥人とりびと族】が【愛妾】の扱いなのは、そのせいだ」


 妻に迎える前に『お隠れ』になってしまっては不可抗力だねえ、と癸はお悔やみを言った。


 癸「【佐保一族】は【鳥人族】だったのだね」


 かの一族は美男美女揃いだったそうだから【鳥人族】だったと聞いても納得だ。長の一族は【審神者】の【能力】を授かっていたらしいね、と癸は【佐保一族】の伝承を言いながら引っかかりを覚えて首を傾げる。


 癸「しかし、【鳥人族】は【女系】ではなかったかね?」


 朔「【オス】が生まれるちょっと変わった【種族】だった」

 

【鳥人族】は【女系】の美女揃いなので【男】が生まれる【種族】というだけで【稀少種】ではないだろうか。


 朔「【まほろばちょう】という………『【桃源郷】へ導く者』として伝わっていると思うのだが」


 将成「そのせいで大昔に乱獲されて絶滅した【古族】か」


 将成は、文献を読んで知ったのだろう。しかし、彼は『乱獲』の意味をそのままに解釈していた。


 癸「美男美女の【種族】だからね………捕らえて【奴婢ぬひ】にして一生だよ」


【奴婢】というのは、【古代】での下層階級のことだ。必ずしも【奴隷】にされていたとは限らないが、ほぼそういう扱いだった。


 癸が【奴婢】について口にしたことで将成は、自分の考え違いに気づいた。


 満「【天孫族】ヤバいんとちゃうんけ………【ニニギ】が【磐長姫イワナガヒメ】を娶らんと帰したんで【呪詛】かけられたやろ。更に子孫が当時の【山の民の王】の【愛妾】の一族に無体なことして………」


【コノハナサクヤヒメ】が【アニメ】や【ゲーム】に取り入れられているので、割と知られている話だ。【不老不死】をもたらす【イワナガヒメ】を娶らなかった【ニニギノミコト】に激怒した【オオヤマツミノカミ】が彼の子孫に当たる【天孫族】に【寿命】の概念を与えた為に、【天孫族】は【不老不死】の存在ではなくなった。


 満の言わんとしているのは、『どうぞお引き取りください』で【永遠の生命】を奪われているので、【奴隷】に堕とされた【鳥人族】の扱いに怒った【古代神・大闇主之王おおくらぬしのみこと】が【人間】たちに何をするか考えただけで恐ろしい。


 燎「【日子坐ひこいます】は父親は【天孫族】だが、母方は【和邇一族】という【奈良盆地東部】を縄張りとした【戦人いくさびと】の一族だ。高い【製鉄技術】を持ち、陸だろうが海だろうが負け戦を知らん一族だ。【和邇一族こいつら】は時には侵略して【戦】で領地を奪い取り、時には【領地】の長の娘を手籠めにして領地を奪うなどで、縄張りを拡大していった」


【日子坐】という男は、精悍な美丈夫でいわゆる『モテ男』だ。なんかムカつく、と最後は燎の私情ダダ漏れだった。

  

 燎「【彦坐】は、精力的に侵略し【丹波(兵庫県)】【淡海おうみ(滋賀県の琵琶湖周辺)】を手中に収めた。【古事記】に【彦坐】の息子の【美知能宇斯みちのうし】丹波出身、【真若まわか】淡海出身とあることから、この2箇所は女をタラシこんでゲットしたようだな」


【淡海】は【琵琶湖】をはじめとして水辺が多く【漁】や【交易】が盛んで、【海の民の王】の支配圏内である。


 癸「なるほど………【山の民の古族】と【海の民の古族】が関わってきたねえ」


 癸は、失礼な話だが娘婿は脳筋で『残念なオツムの人』と思っていたので、彼が【古代】の【部族】の首長おびとを務める【天孫族】の名前を覚えているのは関わったからだと納得した。


 朔「【日子坐】に【佐保】に『【未来予知】ができる絶世の美女姉妹がいる』と囁いた奴がいた。その結果が【日子坐】の【佐保】侵略だ。それが【鳥人とりびと族・まほろばちょう】のだ」


 唆した奴は【八岐やまた】だと朔は言った。そして、おそらく【淡海】の【天女一族】の件もそうに違いないと朔は確信を持って言った。更には【日子坐】のいずれ自分が【大王おおきみ(天皇)】にという野心を煽って【狭穂彦王の叛乱】も【八岐】が【狭穂姫】を利用しての【暗殺】を唆した。


 やっぱり【八岐】は【大凶星】じゃないか、と燎は【日子坐】へ【天女族】の1人を娶らせた話をした。


 燎「【天女】は乱獲されなかったが1人が【人間の男】に汚されて【天女の羽衣】を奪われた。結果、【天女族】の【邑】から追放されたが当時の俺(【海の民の王】)が【日子坐】にお前が犯した【天女】を娶らなければ、お前の野望はついえることになると脅してやった」


【海の民の王】の怒りを【王】直々に向けられて【日子坐王ひこいますのみこ】は【天女】を娶った。その【天女】が最初に出産したのが【美知能宇斯王みちのうしのみこ】だ。【日子坐王】は美しい【天女】の妻を気に入っていたようでその後に【真若王まわかおう】を含め5人の子をもうけている。


 その【天女】の名前は【水頼比売みずよりひめ】という。 



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 星占いの話がでてましたが、本作では『星座占い』は『占星術』または『西洋占星術』としています。『星見』は『東洋占星術』です。

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