第壹章   霞童子悲恋譚②古族と日本史 ※文中にイラストリンク有り

 燎は、【大闇主之王おおくらぬしのみこと】に子が生まれる度に【大海主之王おおみのみこと(燎の前世)】は言祝ことほぎに【山】へ訪れたものだと話した。


 燎「第1子の【闇嶽くらみたけ(はじめの前世)】が生まれた時の喜びようは、見ているこっちが羨まし過ぎて………この『親バカが』とその日何回も心の中で罵倒しまくったぞ」


【大闇主之王】は、次の【山の民の王】だからしっかりと目に焼き付けておけと誇らしげに言っていた。まさか本当に【二代目山の民の王】になってしまうとはな、と燎は感慨深かった。


 燎「第2子の【霞童子】が生まれた時も同じように言祝ぎに行ったが………この時は【鬼陸比売きくがひめ】も産褥期で、まだ離縁していなかった」


 燎の言う【鬼陸比売】は【鬼陸之王きくがのみことの姉】のことである。【古代日本】での女性の名前は【◯◯の郎女いらつめ】【◯◯の姉妹】や【男兄弟の名前の後ろに比売】と付けて呼ばれていた。


 燎「【大闇おおくら】は、この時に俺が【海】へ帰る時に【鬼陸比売】を【陸】へ送ってやってくれと頼み込んで来た」


 癸「産褥期の女性を追い出すとは………鬼なのかね」


 みずのとの視線が剣呑さを帯びる。そして燎に、それで【前世】の君は【陸】へ送ったのかと訊いた。


 燎は癸の圧に押されて「はい」と答えたが、言い訳させてくださいと言って続ける。


 燎「自分もさすがに産褥期は安静にと【大闇】を説得したのですよ!」


 燎の必死さに、見ているだけの将成は同情した。娘婿は、舅に敵視されることは多いが相手が【一騎当千の英雄】ともなると、敵視が殺気に感じられる。癸には未婚の孫娘がいるが、未来のいつか彼女たちの婿になる者も同じ運命なのだろうか。


 朔「【霞童子】を出産した後は、冗談抜きで【生命】が危険だった………子作り目的で娶ったから無事出産を終えるまでは、【外界けがいの民(古族の民)】たちもおとなしいが、産後は………」


 つまり用済みというわけだ、と朔の説明に将成は『生贄』のようだと思った。


【古代】から【中世頃】あたりには、未婚女性を【生贄】に捧げる風習があった────────────一部の地域では今も残っている────────────がその【生贄】はだいたい【山賊】や【海賊】などの【賊】の要求から娘を差し出す、というのが現実の出来事だった。


 癸「【山の民】は何というか………本当に【ケモノ】だねえ」


 子作りが目的というのは、ある意味【合理的】だろうが子が生まれたら母は不要というのは親離れの早い【獣】の思考だ。【山の民】の子どもたちも同じ傾向だ。


 だから護るための【離縁】か、と癸は先に聞いていた理由に納得した。


 燎「義父上、当時は自分は【竜化】して安全快適に【陸】まで運びました!」


 燎は、タクシーの代わりに【竜化】で運んだという意味で言ったのだろうが、【古代】の運搬事情は安全性はいかがなものだろうか。

 

 癸「【古代】にフカフカなクッション等はないよねえ………網籠に入れて荷物のように運んだのではないかい?」


 癸の鋭い切り込みに燎の目が泳いだ。


 燎「一応………底には草で編み込んだ座布団的な敷物をしていました」


 満「ホンマに網籠で運んだようやな」


 まあ草で座布団編んだのは、気ィ使つことるんとちゃう、とみちるは燎に肩入れした。燎は満の父の弟なので叔父の味方をしただけのことだ。


 洸「そこは座布団2枚作って座布団と座布団の間に【綿花】から作った【ワタ】を挟むぐらいの気遣い見せろよ」


 息子のあきらが父親の燎に冷たい。


 朔「お前ら親子関係大丈夫か?」


 朔は燎は【前世】で息子たちを【跡目の儀式】で息の根を止めてしまっている【前科】があるので、コミュニケーションはしっかり取って欲しいと考えている。 


 燎「大丈夫だ!洸は、『ツンデレ』なだけだ」


 燎の言葉に洸がデレたことねえけどな、とツッコんでいるので最低限のコミュニケーションは取れているのだろう。


 将成「しかし………御母堂ごぼどう君から引き離して【霞童子】は、どのように育てられたのですか?」 


【鬼神】は、ほぼ【人間】と同じ育て方なので『ネグレクト』に近い状態ではないだろうか。


 朔「【山の民】は母乳に事欠かない。【兎人とじん族】なんか………アイツら年中発情してるから」


 癸は、【ウサギ】の生態とほぼ同じだねえ平和だ、と和んでいた。   


 玲鵺「【鬼神の子】は母乳で育てられないぞ。生まれた時点で【牙】があるから食い千切られることになる」


 玲鵺れいや忍武しのぶを見て、お前もそうだっただろうとアイコンタクトする。忍武は縦に首を振って肯定した。


 癸「猟奇的なんだねえ………だからこそ【古族最強】なのかな」


 生まれた瞬間に【牙】があるということは『闘える』ということになる。癸は【鬼神族】は【嬰児】も【戦力】か、と呟いた。【リモート会話】が録画されているので、敢えてわざわざ口に出したのだろう。


 癸は、将成をチラっと見て後で文字起こしするのが大変そうだと考えていた。


 朔「記録の為に、一応話しておくが………この時が【大和時代】だ。【邪馬台国】が滅んだ後だから………この時点で【邪馬台国】は【漂流】していることになる」


 朔は【歴史】では【大和朝廷】に滅ぼされたとなっている時期で、勢いに乗った【大和朝廷】は更に進軍して南下して行ったと話す。


 癸は、この話で『歴史の教科書』が作れそうだねえと『教科書にない話』でちょっと心躍っている。


 朔「だが【大和朝廷】は進軍叶わなかった。【スクナ】………【ニライカナイ】の【海の民】たちに反撃されて引き返した」


 この時に【海の民】が手にしていた武器が【鉄】とも【ヒヒイロカネ】とも異なる【金属製】で投擲後に曲線を描いて投擲者の手元に戻る『三日月型の奇怪な武器』に『長い部分と短い部分のあるニ叉の小刀』で【大和朝廷軍】は【鉄製の刀剣】を折られたことで、兵も武器も削られついでに心もへし折られ撤退した。


 癸「『三日月型の投擲武器』………これは【ブーメラン】かな?『長短の二股の小刀』は明らかに【十手じって】だねえ………【ブーメラン】はともかく、【十手】は【江戸時代】だから………【漂泊の者】それも【未来人】」


【ブーメラン】は名前が異なるだけで、似たような形状の投擲物があった可能性は高い、と癸は考えていた。


 癸は朔に【スクナ】と言いかけてやめていたことを追求する。


 癸「途中で言い直したけど………【スクナ】と言いかけたね………【スクナビコナ】と言おうとしていたのではないかね?【スクナビコナ】の別名は【一寸法師】………!きわむか!」


 癸は、陵究みささぎきわむ(一寸法師)の関与に気づいた。


 癸「戦争真っ只中に【漂流】したんだねえ………なるほど………究が【覚醒ドワーフ】の理由はそういうことだったのだね」


【江戸時代】の武器である【十手】を【古代】で造るには、武器の形状と性能を知るだけでは鋳造できない。熟練の技術が必要になる。『自然の摂理』や『世界のことわり』が『オーバーテクノロジー』を受け付けないからである。故に知識だけで作れない状態になる。しかし、『摂理』や『ことわり』を無視できるのが【超越の者】であった。


 陵究は、敵軍の武器が【鉄製】だと気づくと、『西暦2000超えの未来知識』で【玉鋼】で打った武器や【刀剣】を挟んで折る【十手】があれば追い返せると理解した。そして【超越の者】の『人間をやめる』選択をし、その辺に転がっている石を【錬金術】で【鉱物】に【練成】するというかなり強引な方法で【鉱物採集】をクリアして【覚醒ドワーフ】に【進化】した。【人間】の技術では不可能だが、【ドワーフ】の技術なら『未来チート武器』が作り放題である。


 朔「時間が逆転しているが………【ニライカナイ】には、一寸の前にウラシマが既にいた。元の世界で生き別れていたが………【古代】で再会を果たしたわけだ」


 もっとも、【大和朝廷】と絶賛戦争中だったので、兄弟の再会を喜ぶ感動場面はかなり後回しになったらしい、と朔は話す。


 将成「先に行方不明になったのは………一寸殿のはず!しかし、【古代】では後に行方不明になったウラシマ殿のほうが先にいたことになっていたのか」


 将成は、【漂流】の時系列は本当にバラバラだなと呟く。


 朔「【まつろわぬ民】というのを聞いたことがあるな………あれは正確には【まつろわぬ外界けがいの民】だ」


 朔は、もうわかっただろう【古族】のことだと言った。


 朔「【人間】は【古代】から【古族】の地を荒らし、残虐行為をしていた」


【まつろわぬ民】の話で【大和朝廷】に攻撃された【土蜘蛛族】がある。【土蜘蛛族】は【山の民の古族】だった。


 朔「【土蜘蛛】は、【人間】に狩られただけではなく、その堅固な体を武器に変えられ利用された。どこまでも【先住の者】を軽んじる卑しい行為だ」


【先住の者】とは【古族】のことである。歴史書には、【古族】のことは【先住者】と記されている。


 将成「ひとつ聞いてもいいだろうか」


 朔が何だと応じると、将成は燎センパイも同じ質問だと言ったので燎は、カワイイ後輩の質問に応じないわけがないだろう、と社会人になっても将成が先輩扱いしてくれていることに燎はちょっと満足げだった。


 将成「【海の民の王】【山の民の王】………それと【陸の民の王】は【古代神】と別格扱いされる存在ですが………【転生戦士】の場合は、【古代神】になるのか【人間】になるのか………」


 どちらの【分類】になるのかと訊く。


 燎「明らかになっているほうから答えよう。【陸の民の王】………【鬼陸きくが】は【妖主】つまり『妖魔の親玉』だ。既に【古族】ではなくなっている」


鬼陸之王きくがのみこと】は【魔堕ち】したので、別種族になってしまったのだと燎は言った。


 将成「【伝承】を読んだ限りでは、もっとも【人間】に友好的で対等な目線の【王】だったと記されていますが………彼を堕としたのが【人間】だった………」


【人間】とは何と業の深い生き物か、と将成は先人たちの愚かさと【起源の大戦】で自分たちだけ逃亡した者たちと比較して、全く成長していないとディスった。


 朔「【海の民の王】と【山の民の王】に関しては、【歴史書】に記述のないことから『歴史の外の神』という意味で【外津神とつがみ】とされている。【天津神】【国津神】と似たものだが、【イザナギ】【イザナミ】の【国生み】よりも遥か昔から存在していた」


【イザナギ】【イザナミ】より古い【神】に【造化三神ぞうかのさんしん】と呼ばれる3柱の【神】が存在する。この内、【カムムスヒノカミ】は【一寸法師】の前身である【スクナビコナ】の親だ。【造化三神】は男性か無性なので母親の概念がないが、【カムムスヒノカミ】は好んで女性の服装をしていたらしい。


 朔「【神話時代】の一寸法師の親の【カムムスヒノカミ】たち【三神】より更に前からの存在だから『歴史の外』なんだよ」


 最も古い歴史書の【古事記】に最初に登場するのが【造化三神】と【別天津神コトアマツガミ】である。【別天津神】は【造化三神】の3柱に2柱を加えた5柱のことだ。生まれ順の1番目から5番目が【別天津神】のカテゴリーだ。そして【イザナミ】【イザナギ】は【神世七代かみよのななよ】と呼ばれる神様のカテゴリーで、12柱いる。この時は【八百万の神】は、わずか17柱だった。


【外津神】は、その17柱に含まれていない外野扱いである。しかし、神様としては最も古くから存在していた。故に【古代神】の別名があるのだ。


 燎「まあ………生まれるのが早いから偉いってワケでもないがな………【造化三神ぞうかのさんしん】3柱全員の名前言えるか?【カムムスヒノカミ】は【オオクニヌシ】との絡みで知られてるが………あと2神、聞かれて即答は難しいだろ」


 癸「【アメノミナカヌシノカミ】【タカミムスヒノカミ】だねえ。因みに、【アメノミナカヌシノカミ】は【男性神】最初のほうで登場しただけで、後は空気扱いになっているよ。【タカミムスヒノカミ】【カムムスヒノカミ】は【無性神】」


 癸は、生まれ順に口にしただけでなく性別まで答えてから、即答可能ですが何かと言いたげに燎を見る。


 燎「………流石は義父上!【起源の五英雄】の智将と言われただけあって博識です!」


 数秒間返答に詰まったが、一度褒め言葉を口に出せば後はスラスラと燎の口を付いて飛び出してくる。


 洸「【ミナカヌシ】は【イザナギ】【イザナミ】を派遣した結構重要ポジだろ」


 もっとかまってやれ、と影の薄さを通り越して空気になった神様に洸は同情的だ。


 朔「俺たちは、かまってすらもらえなかったがな………」


 歴史書にかまってもらえなかった【外津神】の切なさだ。


 遙「【竜】とか【ムカデ】とか【オロチ】とか………全部、退治される側だぞ」


 悪役で討伐されるキャラだな、と遙はイタイ所を付く。  


 燎「話が逸れたな………将成の質問は、【海の民の王】と【山の民の王】の【転生戦士】の俺と朔は【神】カテゴリーか【人間】カテゴリーかだったな………正直、俺と朔の存在は曖昧だ」


 本来なら【外津神】は【転身】という形で生まれ変わり【記憶】の【覚醒】と共に【先住の者】になるはずだったのだと燎は答えた。


 朔「俺も燎も【超越の者】に【覚醒】しているから【仙人】に【進化】しているのだが………これ【仙人】なのか?」


しかばね】に解放の【解】に仙人の【仙】で多分【仙人】のはず、と朔は大雑把な考えだったが改めて考え直すと【屍】の文字が気になってきた。


 遙と桂が互いに顔を見合わせる。2人には、何のことか判っているようだ。


 遙「それは【屍解仙しかいせん】と読む。【地仙】【天仙】【屍解仙】と【仙人】には大雑把に分けて3分類あるんだよ」


 遙の言葉に朔は、【仙人】だったんだとほっとする。ヤバいものかもしれないとちょっとだけ不安だったのだ。


 遙「【地仙】【天仙】は【神仙】と一括りされるが、【屍解仙】は【妖怪仙人】のカテゴリーだな」


 朔「化け物じゃねえか!」


【仙人】の頭に【妖怪】が付いていて字面的にヤバい、と朔は慌てる。ガチで討伐対象にされそうだ。燎も冷や汗がダラダラ流れるのを感じていた。


 癸「それは………合法的に、憎っくき娘婿を凹れる………ということでOK?」


 癸は、ものすごくイイ笑顔をする。


 遙「【古族】を【転生戦士】にしたらどうなるか………ちょっと心配だったけど、なるほど………【屍解仙】か………悪くない結果だ」


 遙は結果に満足して、きちんと説明する気がないようだ。


 桂「イイね………研究材料が2体!お前ら解剖させろ!」


 桂の目が輝いてものすごく活力的である。


 満「桂の【前世】は【太乙真人たいおつしんじん】………【神仙】の間では『マッドサイエンティスト』や」


 満の【前世】は【普賢真人ふげんしんじん】で【太乙真人】と同じ【崑崙山十二仙】だった。


 洸は、コイツらダメだ説明する気ゼロだ、遙と桂の様子に呟いてため息をつく。


 洸「カテゴリーで言えば、【竜種】も【屍解仙】になる。【神仙】の間で【竜種】がどういう立場にあるかは知っているだろう」


 つまり【黒竜王】の【転生戦士】である洸も【屍解仙】のカテゴリーだが、【竜種】は【神仙の世界】では【竜公女】を【天帝】に嫁がせる【天帝妃】の【生家】なので、【聖者(仙人)】の中では頭ひとつ分突出している。


 棗「【前世】の私は、【竜王君】とか【竜王公】とか呼ばれて結構チヤホヤされていたぞ」


 なつめの【前世】は【竜種】の長である【竜王・シャン】、【四海竜王】の父親だった。


 棗「他にも【屍解仙】は………【青龍】【朱雀】【白虎】【玄武】もそうだな。だが、【黄龍】【麒麟】は【天仙】だ」


もっとも【四神】というカテゴリーになっている────────────【黄龍】【麒麟】は【隠れ四神】────────────ので、【屍解仙】と呼ばれなくなっているが、と棗は補足説明した。 



https://kakuyomu.jp/users/mashiro-shizuki/news/16818622171415470119

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