第壹章   山の民の王の三兄弟 ※文中にイラストリンク有り

 一寸法師とウラシマが挨拶の礼をしてフレームアウトすると入れ替わりではじめが【ヘッド】に話すことがあると言って、画面に映った。


 朔「【瀬戸内水軍】の半数以上のギルドメンバーが【インスマウス症】に罹患した………というのは聞いたか?」


 いきなり本題に入った朔だが、将成が何も聞かされていない場合のことを考えて質問した。


 将成「聞いていない!どういうことだ………【水兵ギルド】の【瀬戸内水軍】が魚と間違えて食べた………なんてことはあり得ない」


【ギルド瀬戸内水軍】は【水中戦】や【海上戦術】を得意とする【水兵専門ギルド】で、ギルドメンバー全員が【漂泊の者】という【特異点】の集団である。彼らが【インスマウス症】に罹患したと聞いて、貴重な人材が、と将成は頭を抱えたくなった。


 朔「【ヘッド】………まずは最後まで話を聞け。【瀬戸内水軍】の【インスマウス症】は、1名の重体患者を除いて全員が完全回復した」


 それを聞いて将成は、ほっとした。朔は安心した表情の将成に3つの誓約をしてほしいと告げた。


 朔「3つの内、2つは【風魔頭領代理】として………あと1つは【山の民の王】としてだ」


 朔が自らを【山の民の王】と断じたことに、将成は【古族】の絡んだ話だと緊張感が走った。


 みずのとは、将成の肩をポンポンと叩いてリラックスしなさいと言った。


 癸「そんなガチガチに強張らせていたら疲れるだけだよ」


 癸は将成の緊張をほぐしてから朔へ【風魔頭領代理】からの約定を聞かせてもらおうと言った。


 癸「私たちにも関係がありそうな話だから聞いても良いのだろう?」


 癸は質問口調だが、確信している。朔は勿論だと肯定した。


 朔「1つは【瀬戸内水軍】の重体患者………彼のことは処分しないでほしい。あと1つは、【八犬士】の配信を続けさせること」


 以上が【風魔】と誓約してほしい約定だと朔は言った。


 最初の1つは、【厚労省】に対して隠蔽を依頼するものなので誓約を交わす必要があるが、【八犬士】の配信は個人の趣味なようなものなので誓約の意味がわからない。


 癸「将成、返事は『応』だよ。貴重な重体患者だ。【ワクチン】………あったら不当に処分されることもなくなるよ」


 癸に圧をかけられて将成は、頷くしかなかった。


 朔「そして、これが一番重要だ。【山の民の王】として【みづち族】の【八岐やまた】の行いはスルーしてもらいたい。アイツは、【山の民】たちの会合で!」


【みづち族】の若長わかおさを集団で糾弾するとは穏やかな話ではない。この糾弾のために行いをみて見ぬふりしろと言っていることは解るが、【山の民の古族】を集めるとはかなり大事だ。


 朔「【瀬戸内水軍】の【インスマウス症】を仕組んだのは【八岐】だ。アイツは【前世】から、ことごとく俺の親族に不幸や不運をばら撒きやがる!」


 朔の【前世】である【山の民の王・闇嶽之王くらみたけのみこと】と【みづち族】の若長【八岐】は【王の座】を争った因縁があると【山の民の古族】の【伝承】にある。【闇嶽之王】は【大蛇オロチ神】で【みづち族】も【大蛇オロチ】だが【蛇】同士仲良くとはいかないようである。 


 将成「元々は、【八岐大蛇ヤマタノオロチ】とは異母兄弟だったのだろう?」


 平和的な話し合いはできないのか、と将成は訊いた。


【古族】についての文献は【夜狩省】の書庫にもあるが、【古代神】と呼称されている【古族の王】については謎が多い。【八岐大蛇】が【先代山の民の王・大闇主之王】の子というのは数少ない記述のひとつだ。


 朔「先代王の【大闇主之王】は【地這いの一族】だということは知っているか?」


 癸「【ムカデ】だったのかね」


【地這い】=(イコール)【ムカデ】と解ったのは癸だけのようだ。


 満「【ムカデ】!いやいや………王様が地面に這いつくばる【ムカデ】て………低姿勢過ぎるやろ!」


【ムカデ】と聞いて、みちるは王様像と結びつかないギャップに、世界一腰の低い王様とちゃうか、と冗談めかした。


 将成「いや………そうでもないぞ。【ムカデ】は【軍神・毘沙門天】の【御使い】とされている」


【ムカデ】という虫が前進しかしないことから、勇ましい【軍神】と結びつけて考えられている説のようだ。癸は、将成によく勉強しているね、と褒めるが将成は正直に、【上杉家】の方から聞きましたと自己申告した。


 癸「ああ………【上杉謙信】の子孫だね」


【戦国武将・上杉謙信】は【毘沙門天】を信仰していたことで有名である。【戦国時代】は、【上杉】【武田】【北条】は【関東三つ巴】と呼ばれ、時には同盟を組み時には戦場で敵味方に別れ【戦】をした間柄だったが、【現代】ではこの【三家】は【囲碁】や【将棋】の【盤面】で【戦】をする仲だ。つまり非常に仲良しである。ただし、【北条】は【分家筋】の【伊勢家】のほうだが。   


 癸「【初代・山の民の王】が【ムカデ】というのは驚いた。どの文献にも記述されていないし、【初代】から仕えていた【シーサー】【オオガミ】【ヤマネコ】は誰にも言っていないのだね」


 癸が今挙げた3名は、【獅子狗神シーサー族・長】キングシーサー、【大神おおがみ族・長】カイザーウルフ、【猫又族・長】オオヤマネコのことである。3人は【初代・山の民の王】【山の民の王】の最古参の側近だ。


 朔「あいつらは、口が固いようだな。【ヤマネコ】の曾孫がここにいるが聞いたことがなかったようだ」


 朔は【初代・山の民の王】が【地這いの者(ムカデ)】と聞いて、驚きのあまり口を開いてマヌケ面を晒している【猫又族】の宙広そらたを横目でチラ見して、こいつも初耳だったかと思っていた。宙広はパソコンから離れた所にいるので、癸たちはマヌケ面を拝むことはできなかった。


 朔「【初代】は自分を醜い【地這い】と思っていたようだ………【闇嶽之王前世の俺】の母は【蛇神族】で最も美しいと呼ばれた【白蛇姫】だった。そして【八岐】の母は【女媧じょか】だ」


【白蛇姫】は【神女】だった。【初代】は【神女】の美貌に惑わされたか【神女】を妻にして箔を付けたかったかは、【大闇主之王おおくらぬしのみこと】は既に亡き者なのでわからないが、朔は【地這い】のサガだと言った。


 朔「【初代】は、黒い身体に赤いまなこの立派な【大百足オオムカデ】だった」


【地這いの者】にとっては泥にも汚れない【黒】と【古代】より【神聖な色】とされている【赤】を纏う【大闇主之王】は、【王の中の王】と誇りだった。本人は自身の姿を心底嫌悪していたようなので、他人の気持ちはままならない。また【赤】は【武田信玄】【真田幸村】【井伊直政】など【戦国武将】が【鎧の色】に好んで纏ったことから【ツワモノの印】ともされる。


 癸「【闇嶽之王くらみたけのみこと】は黒い【大蛇】だったよねえ」


【闇嶽之王】の【大蛇神】ビジュアルは朔から聞いて癸をはじめ、満、将成も聞いている。


 朔「ああ………漆黒の身体に赤いまなこの【大蛇】………【先代】が焦がれてやまない姿だった」


【古族】の【異種族】間の子は母方の遺伝が強く出るとされているが、【闇嶽之王】の【御神体】と呼ばれる【大蛇バージョン】の姿は黒と赤が見事に配合された【大蛇】だった。


 朔「これは【三長老】から聞いた話だが、【闇嶽之王前世の俺】が孵化した瞬間に、【先代】は『この子が次の王だ』と高々に宣言したらしい………まあ名前から【先代】の入れ込み具合は理解できるがな」


【三長老】とはキングシーサー、カイザーウルフ、オオヤマネコのことだ。【闇嶽之王】の名には【大闇主之王】の【くら】の文字が入っている。そして【たけ】とは『みたけ』、【山】を示す名前からして【大闇主之王】は相当な期待をかけていたのだろう。【闇嶽之王】は【山の民の古族】の長たちからは【嶽王みたけおう】と呼ばれ敬われている辺りから父親の期待通りに成長したと言える。


 そして朔は【大闇主之王おおくらぬしのみこと】が切磋琢磨してこそ【王】は強くなると脳筋思考から、【闇嶽之王くらみたけのみこと】に兄弟を作ることを決意して娶ったのが【女媧じょか】だったと話した。


 朔「実はな、この婚姻………一族総出で猛反対された」


 満「ああ!【女媧賢母】の何が気に入らんのや!」


 即座に満が食ってかかってきたのは、満の【前世】が【普賢真人ふげんしんじん】で【古代中国】は【伏羲ふっき】と【女媧じょか】の【二神】を信仰していたからである。つまりガチな信者だ。


 癸「ガチ信者に聞かせてはイケナイ話だったねえ」


 癸は、お茶をすすりながら【転生戦士】の孫2人の口論を和やかに眺めている。


 朔の説明には【山の民】が【大闇主之王】の第二夫人に【中国】(異国)の女を迎えることに猛反対したそうだ。それを聞いて満は、【古代中国神話】の【創造神】をディスってると激オコなのだ。


 癸「これは………時系列から考えて、【女媧】は【神話時代】の【日本】に【転生戦士】として最初の【回生】で生まれ変わったと考えていいのかな?」


 癸の質問に、口論していた朔と満はおとなしくなった。朔は、どうなんだと満に視線で訊いている。【回生術】は【崑崙山の神仙】の【術】なので、朔には仕組みがわからない。


 満「そうなるんかな………今まで、【黒竜王】の【萬巻上人まんがんしょうにん】、【玉鼎ぎょくてい】さんの【安倍晴明】、【ジン】の【安倍泰親やすちか】が【転生戦士】のセンパイや思とったけど、もっと早い人がおったことになるな」


【萬巻上人】は【奈良時代】の【修験者】で【風魔忍】の【始祖】である。どうやら【黒竜王】の【転生戦士】のあきらが【元祖風魔】のようだ。【芦ノ湖の毒竜退治】で【萬巻上人】は知られているが、中身が【黒竜王】だったとは同士討ちしたようなオチだ。


 朔「洸………同士討ちオチじゃねえか」


 ある意味チートだな、と朔は言った。湖(水辺)で【水性竜】の【黒竜王】と闘うなど負け戦確定である。


 癸「今、気づいたけど【風魔】って洸の子孫なんだね………」


【現世】の名前で言わないでほしい、朔は癸に記憶から追いやっていたことだと言った。


 画面には「もっと俺を敬え子孫ども」と得意げにドヤ顔をしている洸が映った。


 洸「因みに父は【相模坊】、母は【伯耆ほうき坊】だ」


 洸はざっくりと【風魔】のルーツを語った。


 癸「【天狗】が【竜種】の生まれ変わりを生んだのだね………【相模坊】と【伯耆坊】に箔が付いたねえ」


 癸は、【太郎坊】がマウントを取られる日も近いかな、と言ったのを画面の外で聞いていた【愛宕の太郎坊】は顔色が悪くなっていた。


【天狗族】たちは、【鞍馬天狗】の娘の篁壬たかむらみずのえが【烏帽子太夫】の【転身者】だということをまだ知らないので、更にマウント支配図が混乱する予感が潜んでいる。


 洸「それで、【女媧賢母】の何が気に食わないか聞かせてもらえるんだろうな」


 話が逸れていたが、洸の【前世】の【黒竜王】も【古代中国】出身なので、揉め事の振り出しに戻った。


 遙「お前ら【竜種】は【西王母様】信者だろう」


 遙は、一応仲裁に入ってくれたようだ。【崑崙山】は【元始天尊】が派閥の代表で、【元始天尊】とは現在は【玉皇太子】と名が変わっている。


 遙「つまり、【崑崙十二仙】は【玉皇太子】の信者………ということだ。【女媧】は別の派閥なので、言いにくいことでも遠慮なく言え」


 遙は、なぜ【山の民の古族】が【古代中国】では【創造神】とされる【女媧】を拒絶するのか興味があった。


 朔「だったら、なんで満はキレてたんだ?」


 満「ノリや!」


 どうやら関西人特有の『ノリでキレてみました』だったようだ。因みに、マナーとして親しい間柄でだけ披露する行為だ。


 他人にやったら大喧嘩になるよ、と癸はどこまでもマイペースだ。


 癸「でも、【外津神とつがみ】と【神格視】される【古族の王】の『御家事情』は、聞いてみたいなあ」


【古族】は秘密主義で、【伝承】や【文献】はあるが書き手が【人間】なので、だいたい話が盛られている。 

 

 癸は、ダメ元だったが意外にも朔は思案すらせずに、いいぞ、と答えた。


 癸「え………報復とか大丈夫なのかい?」


 自分が言い出したのだが癸は、朔が秘密を漏らすことが心配になった。


 朔「癸祖父様は、【古族】は知性のない【蛮族】と思っているのか」


 朔は、【古族】には好戦的な種族もあるが皆が皆そうではないと言った。


 鞍馬天狗「癸坊っちゃんよ………俺ら【天狗族】は、基本『インテリ』だぞ。まあ………【太郎坊】は例外だがな」


【鞍馬天狗】に『インテリ』から外された【太郎坊】が、どういう意味だ喧嘩売ってるのか、とキレている。


 癸「【法眼ほうげん】師匠、おられたのですか?」


鬼一法眼きいつほうげん】は【僧正坊(鞍馬天狗)】の【剣鬼けんき】としての名前である。【甲賀忍】は、【鞍馬天狗】から【剣術指南】を受けているので、【鞍馬天狗】から見れば癸は『坊っちゃん』だった。しかし、実はこの2人は篁壬たかむらみずのえを間に挟んで【鞍馬天狗】は壬の父、癸は壬の子なので、祖父と孫の関係なのだが【起源の大戦】の混乱でお互いにその事実を知らなかった。


 癸は、【師匠】は全然姿が変わってませんねと言い、【鞍馬天狗】はお前こそ孫の洸と並んで兄弟にしか見えねえ、と同レベルの口撃を展開している。 


 癸と【鞍馬天狗】の終わりの見えない口撃の応酬をよそに朔は、将成へこの話を記録しろ、と言った。正式に【文書】で残すことを許可したことになる。将成は、このリモート会話を録画する許可を朔から承認してもらい、ここからリモート会話は録画されることになった。録画と聞いて癸も【鞍馬天狗】も口撃をやめる。

 

 朔「まずはじめに、【大闇主之王おおくらぬしのみこと】には、妻が3人いた。【闇嶽之王くらみたけのみこと】の母【白蛇姫】、【八岐やまた】の母【女媧】、そして【霞童子】の母・かつては【陸の民の王】と呼ばれた【鬼陸之王きくがのみことの姉】だ」


 ここで引っかかったのが【鬼陸之王の姉】であった。彼女は、【闇嶽之王】の妻だったはずでは、と疑問を持った所へ朔は説明する。


 朔「【鬼陸】の姉は、【霞童子】を出産後に【鬼陸】の元へ帰った。つまり【離縁】だ」


【鬼陸之王の姉】は、【闇嶽之王】とは再婚だったことが判明した。


 朔「【鬼陸】の姉と【先代】との婚姻は、完全に【政略結婚】………いやこの場合、【侵略結婚】と言うほうが正しいな」


 遙「【侵略結婚】!斬新な響きだな」


 これは絶対に『利権が絡んだ野望』の予感を遙は嗅ぎ取った。


 満「完全に【陸】に縄張り広げようゆう魂胆やないか」


 満は、【海の民】が黙ってへんで、と後の展開を予想する。


 朔「この時は、【大海主之王おおみのみこと】の元へ【アオ家】の末姫【汎梨ファンリ公女】が降嫁して来た時期だ」


【古代中国神話】の【四海竜王】の【異母妹・汎梨】が【大海主之王】に降嫁したことで、【古代日本】と【古代中国】が繋がりを持った歴史的瞬間である。


 洸は【前世】は【汎梨】の【異母兄】だったので、降嫁までの経緯をよく知っている。


 洸「いつものように【白竜】兄者と【瑤姫ようき】姉様と【汎梨】と俺の4人で遠出して【日本】に遊びに行った時だな」


 あの時は、長兄と【汎梨】の婚約者【炎帝】の【BL的】な関係を知り【汎梨】は荒れまくっていた。


 燎「息子よ………俺は、昨日のことのように覚えているぞ。【汎梨】は【コアン】と【炎帝】のことをディスりまくって、【炎帝】なんかこっちから捨ててやる、といい啖呵切ってたのに俺は惚れた」


 その場で求婚して、嫁入りしてもらったと燎が得意げな表情で画面に映り込んで来た。


 癸が燎へ座った目を向ける。


 癸「ほおー………私の娘の百合子りりこにプロポーズしたのも昨日のことのようだと言っていたのを記憶しているのだが………君は幾つ昨日のことのような記憶があるのかね?」


 どわぁ義父上ご機嫌麗しゅう、と燎は慌てて挨拶するが、明らかにご機嫌を悪くしている相手にヤラカシてしまっている。


 洸の父親を見る目が冷たい。


 洸「過去の女関係を暴露して、自爆してるな」


 過去といっても、【前世】なのだが。その場には【黒竜王】も同席していたので、その求婚が「そんなクズ男捨てて、ウチの子になりなよ」という気軽さで発言したものだと知っているが、あえて言わないので洸は結構イイ性格である。


 義父の癸を前に慌てる燎の姿がオモシロイので、朔も話を中断していた。


 将成「朔、録画しているんだ。続きを」


 特に助ける気はなかったが、結果的に将成が燎を庇った形になった。


 朔「どこまで話したんだ………ああ【前世】の俺の嫁が【先代】の元嫁だった話だな」


 伝承では【霞童子】は【闇嶽之王くらみたけのみこと】の子になっているが、事実は連れ子だった。しかし、【霞童子】の父は【闇嶽之王】の父と同じなので【異母兄弟】だ。


 朔「【闇嶽之王】には子がなかったから、【霞童子】を【次期山の民の王】にするつもりで教育した。元々【異母兄弟】だからな………兄から父に立場が変わっただけだ。俺と【霞童子】とは仲は悪くなかった………と俺は思っている」


 はっきりと仲がよかったと朔が断言しないことが引っかかり癸は、遠慮気味だね珍しい、と言った。


 朔「俺が一方的に仲が良いと思っていただけの可能性があるからな………【先代】は【霞童子】を【虐待】していた」


【闇嶽之王】は【先代】が後継者に確定した【次世代の王】なので、『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』の思考で恨まれていても不思議ではない、と朔は憎悪される心当たりは山程あると言う。


【古族】は【長命種】なので生殖能力が低く、生まれる子は貴重なので【虐待】があった事実には驚きしかない。


 朔は、『DV的』な【虐待】と勘違いされたと気づいて否定した。


 朔「俺の言い方が悪かった。【虐待】というのは俺の視点では………という意味だ。【大闇主之王おおくらぬしのみこと】は【霞童子】を【女】のように扱っていた」


 満「こっちも『BL』なんかい!」


【前世】でも【青竜王】と【炎帝】に悩まされたので、【崑崙山陣営】には『NGワード』に等しい。


 遙「【霞童子】の母親には見せられない関係だな」


 遙は【鬼陸之王きくがのみこと】の姉が【離縁】された理由が解った気がする。


 朔「俺が【前世】で【山の民の王】を継いだ経緯は知ってるな」


 将成「ああ………【先代】を倒して跡目を継いだと朔自身から聞いた。【海の民の王】は【先代】を倒せなかったから【代替わり】していないのだろう?」


 子が親を倒して【王の座】を勝ち取るというのが『獣的な思考』と将成は思ったが、【長命種】は悠久の時を生きるので率いる者は強さを求められるのかもしれない。


 朔と燎は頷いて肯定した。


 朔「では、伝承で【大百足オオムカデ】を退治したのは誰だ?」


 将成は【先代山の民の王】は【地這いの者(ムカデ)】という事実と【大百足退治】で一躍【英雄】となったある【人物】とを結びつけた。


 将成「伝承では、【藤原秀郷ふじわらのひでさと】が【大百足オオムカデ退治】をしたことになっているな」


 朔「【俵藤太たわらのとうた】の【大百足退治】………あれは、ガセだ」


【俵藤太】とは【藤原秀郷】の別名である。【俵藤太】は【大百足退治】で一躍【英雄】となった。【大百足退治】の記述されている【俵藤太絵巻】があるが、これが完成したのが【室町時代】なので【ヒーロー】がカッコよく【化け物退治】をした風に盛られるのは『あるある』だ。


藤原秀郷ふじわらのひでさと】は【平安時代】の【豪族】で子孫は【奥州藤原氏】や【戦国武将】では【大友氏】【立花氏】【龍造寺氏】など【分家】として多く枝分かれしている。その子孫の中に【武藤氏】という【武家】がある。この【武藤氏】を継いだのが【真田昌幸まさゆき】だ。


 みずのとは、【俵藤太たわらのとうた】の名前が出たことで、【甲賀】に関わりが出てきたねえ、とみちるを見た。


 満「主に俺と俺の嫁とたけるやけどな」


 満の妻は、【源頼光みなもとのよりみつ末裔すえ】と【真田幸村】の子孫の【系譜】である。【源頼光】は【酒呑童子】を討伐した【英雄】で【真田幸村】の父【真田昌幸】は【俵藤太】の【系譜】を継いだ者である。満や【甲賀】は婚姻による【姻族】たが、満の子である尊は【源氏】と【真田】の子孫だ。


 癸「それで、【俵藤太】の【大百足おおむかで退治】が虚構というのはどういうことかな?」


 ことと次第によっては【英雄】詐欺だよ、と癸は言う。正真正銘の【英雄】が言うので妙な説得力があった。


 朔「俺の言い方が悪かった。【俵藤太】がのは【霞童子】だ」


 癸「なるほど………『退治した』というのは事実だが、対象が違ったわけだね」


【霞童子】が【大百足】になって伝わっているわけだ、と癸は納得した。


 朔「退治か………【霞童子】の時も【酒呑童子】の時も、【人間】は【嘘】と【裏切り】で陥れて………一体、どちらが【外道】なんだろうな」


 はじめは【人間】に討伐された【山の民】へ想いを馳せる。


【酒呑童子】は【神便鬼毒酒しんべんきどくしゅ】という【人間】には【美酒】、【鬼】には【毒】となる酒を飲まされ無力化された末に捕らえられた。これは、結構有名な話なので大抵の人は知っている。


 満「頼光の【鬼退治話】は、俺も頼子よりこ(満の嫁)から聞いたことあるで。【渡辺綱わたなべのつな】の話やけどな」


【渡辺綱】の名を聞いて、画面の向こうでは【茨木童子の末裔すえ】の玲鵺れいやの目つきが険悪になる。


 玲鵺「あの『ゲスクズ男』の名を出すとは………」


 玲鵺は先祖が討伐されたわけだが、その口ぶりからはそれだけではなかったことが伺える。  


 満「玲鵺がヤバいことになっとる………らんの嫁に絶対会わせたらアカン!」


 嵐の妻は、【渡辺綱の末裔すえ】である。満が【源頼光の末裔】を妻にしたことをきっかけに、【甲賀忍】は【源氏の末裔】と呼ばれる【渡辺】【坂田】【碓氷うすい】【卜部うらべ】の【四天王】を取り込んでいる。


 朔「【俵藤太】は、【渡辺綱】を上回る『ゲスでクズで』だ」


 今から虚飾をまとった【エセ英雄】のメッキを剥がしてやる、と朔は【俵藤太】と【霞童子】の物語を始める。 




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※霞童子と俵藤太の設定は、山藍紫姫子氏オマージュです。作品名は『闇の継承・日影成璽シリーズ』です。山藍氏のジャンルは、BLというより芸術的な耽美小説になるので、好み好みじゃないに別れますが熱狂的なファンが多いので、盗作疑惑保険の為に記述しておきます。


 因みに、『闇の継承シリーズ』は四部作なのですが三巻までは発刊済みですが、四巻はあらすじだけ公開して十数年以上も放置?状態です。販売される可能性は極めて低いので、私の妄想だけがひとり歩きしてモヤモヤしているので書いてしまってスッキリしようと思いました。


 本作は、霞童子と俵藤太の名前だけ使用で俵藤太に至ってはクズ男設定ですので話の本筋は別物になっています。別サイトでタグ付けしているので、検索で引っかかって山藍氏のファンの方の目に入って気分を害される可能性を考慮して、ここに記述します。




https://kakuyomu.jp/users/mashiro-shizuki/news/16818622171066251219

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