第壹章   夜狩省のルーツ①〜地球外逃亡者〜

 将成は、『押してはイケナいボタン』についての詳しい話を聞きたいと癸に言うと、アッサリといいよと癸は返答した。


 癸「将一まさかずから聞いていないのかね?」


 楠木将一くすのきまさかずは、将成の祖父である。将一も【起源の大戦】に参戦していたが、戦で片脚を失い現在は車椅子生活だが上半身運動だけの戦闘は可能で、おとなしく隠居してくれないのが将成の悩みのひとつになっている。


 将成「【国民】が暴徒と化して、【警察】【自衛隊】だけでは制圧できない状態に追い込まれたとは聞きましたが………」


 癸「それは、【夜狩省よがりしょう】誕生の切っ掛けだね」


 将一は【夜狩省】のルーツしか話していないようだね、と癸は言った。


 癸は、今後も【警察】【自衛隊】だけで制することができない事態に備えて【ギルド】の【社会化】とそれを束ねる【省庁】を設立が【国】に認められた概要を話す。


 癸「【ギルド】は【忍】や【侠客】のような【裏社会】の人間が徒党を組んでたようなものだったからね。【ギルド】サイドは【国の犬】になりたくないと反発したし、【国会】も【蛮族】のような【ギルド】を【国家機関】に加えたくなかった」


 反発していたが、どちらの言い分も根幹部分は同じだった。


 癸「現状を見ればわかるだろう。結果は【ギルド】を【民間事業】として認めたが、【国】が監視をする形で【夜狩省】が新たに【省庁】に加えられた」


【民間事業】だが、【忍】や【侠客】の武力は侮れないので、いざという時に【国】の命令が及ぶ状態にしたい。その落としどころが【夜狩省】を設立して、中立の立場で【ギルド】と【国家機関】の橋渡しを任せることにした。  


 癸「【夜狩省】を設立して中立に置くという案を提案したのは、当時は楠木都佳紗つかさ。【初代国王】伊勢龍雲と結婚して今は伊勢都佳紗になっている」


 将成「大叔母上が!」


 伊勢都佳紗は将成の祖父・将一の妹である。将成は、【初代国王】の義理の甥になる。しかし、姻族なので将成は【王族】ではない。


 癸「将一は、妹の手柄なのに………そのことも話していなかったようだね」


 癸は、将一らしいと言った。楠木将一は、妹といえど他者の手柄を我が物顔で語る人物ではない。


 癸「【国民】が暴徒と化したのは、【激ヤバボタン】を押した後の話だよ。当時の【合衆国】の【大統領】は【保守派】で、『石橋を何十回叩いて確認して結局渡らない』性格だったが、【副大統領】は真逆の【フットワーク】の軽い人物だった。それに比例して頭のほうも軽かった」


 最後のひとことは完全に皮肉である。


 満「祖父ちゃん、それは………アホっちゅうことやな。けど………いくらアホでも、やったらアカンことぐらいわかるやろ」


 癸「当時の【合衆国大統領】は、自身の行き過ぎた慎重さを補うのにフットワークの軽い人物を【副大統領】に指名したのだが………頭の軽さまでは見抜けなかったんだねえ」


 癸は過ぎたことなので、呑気に話していると思っていたが他人事過ぎる言い方に将成は違和感を覚えた。


 将成「癸様、【核爆弾】が発射されたということは【国】の存亡に関わりますが………随分と穏やかに話されますね」


 将成は、【核爆弾】が発射されたというのに【放射能】に冒された【生物】【植物】の類の話を聞いたことがない。


 癸「オチを先に言うと、不発に終わったんだよ」


 将成「………不発弾………ということですか?」


 癸「それは違う。【創造神・女媧じょか】の【転生戦士】が、【神伝しんでん】という本来の【創造神】の姿に【メタモルフォーゼ】することで、の【核爆弾】全て躰で受け止めて【地球】の外へ自ら運んだ」


 着弾していないから不発と言ったのだよ、と癸は言った。


 将成「3機………3発も!」


 1発でも着弾すれば、範囲はわからないが周囲一体が死滅する。将成は、頭が軽いというより考えることを放棄した愚者の極みだと呆れた。


 満「【女媧賢母】はそれを全弾受け止めて、更に【宇宙】まで運んだっちゅうんか………まあ、【核爆弾】で犠牲になる【人間】の数を予想したら、自分が犠牲になるほうが彼女にとってはマシなんやろうな」


【前世】が【普賢ふげん真人】の【転生戦士】である満は、【男性神・伏羲ふっき】と【女性神・女媧】を【創造神】とする【古代中国神話時代】からの記憶があるので、【人間】を【創造】した【女媧】は『天寿を全うできなかった【人間】』の【苦痛】を自身の身で体感することを知っている。


【核爆弾】で不本意に死亡する【人間】の人数分の苦痛と、【核爆弾】が命中した苦痛を天秤にかけて後者を選んだわけだろう、と満の【創造神】の【掟】を聞いて将成は、理不尽だなとつぶやいた。


【起源の大戦】に関しては【女媧】のせいではないので、完全なとばっちりだ。


 遙「まだ続きはあるぞ。その後、【世界各国】の一部の【特権階級上位国民】が【ロケット】で【宇宙】へ逃げた」


 遙は、影千代の記憶から話しているのだが【厨二病】寄りの遙の言葉なので、荒唐無稽な『SF小説』のように聞こえた。


 満「『ガン◯ム』ネタか?【宇宙コロニー】から【工作員】が【地球】へ送りこまれたとかいうヤツか」


 癸「ネタではないよ。実際に【宇宙コロニー】へ逃げた。しかし、わずか3カ月で【宇宙コロニー】へ移住した【特権階級上位国民】は全員死亡したよ」


 おそらく、【宇宙】へ逃亡する予定で【宇宙コロニー】は建設していたのだろう、と癸は言った。


 将成「何年か前に宇宙飛行士が燃料切れで不時着したという【宇宙コロニー】ですよね」


 当時、不時着した【宇宙コロニー】に【人間】が生活していたと思われる痕跡があったと、ニュースで報道されて半年間のトレンド1位をキープし続けた話題を将成は思い出した。


 将成「あれは、【起源の大戦】の名残でしたか………」


 将成は、どうやら【宇宙】逃亡話を信用したようだ。


 癸「【特権階級上位国民】だけで、生活維持できると思うかい?無理だね」


 癸は、【特権階級上位国民】だけの世界というものを想像してどんな世界だと思うと質問した。


 満「マウントの取り合いやな」


 即答したので、満は何も考えてなさそうだったが、その答えに癸は正解と言う。そして遙と将成に他にもあるだろう、と癸は1人ずつ意見を聞きたいようだ。


 遙が、はっきり言っていいのかと訊く。前もって、こう言うということは結構手厳しいことを言おうとしているようだ。


 癸は、答えに期待できそうな予感がした。


 遙「【蜂】で例えると、【女王蜂】しかいない【群】だな。潰しあって、事と次第によれば全滅」


 いや、結果は生存者がいなかったから状況云々ではなかったな、と画面の向こうの遙は続けた。


 遙「【女王蜂】を養う【働き蜂】がいないわけだ。やがて備蓄が尽きて、最終的には『共食い』だな」


 搾取ばかりして来た側は、搾取される側へシフトチェンジなど無理だと遙はわかりやすく【蜂】の生態に例えた。


 癸「思ったより遙は、言葉を選んで発言したね」


 癸は遙は完全解答だが、ストレートに【特権階級上位国民】を養う【納税者】がいないと言ってほしかったと言った。


 将成「『特権階級の上位国民』が【庶民】と見下している【民間人】の重要性が明らかにされた結果ですね」


 癸「【日本】からは『最後の総理大臣』と彼に仕えた【閣僚】がみんな【地球外】逃亡してくれたからね。龍雲りゅううん


 癸の言い方では、まるで邪魔な人物たちが自滅することをわかっていて『逃亡させてやった』と言っているように聞こえる。


 満「祖父ちゃん、中々の腹黒やなあ」


 癸「『去る者追わず』と言いなさい」


 将成が確認ですがと言って、【丁様】の【預言】で結果を知っていたのかと訊いた。


 癸「私たちが【地球外】逃亡した連中の末路がわかっていたのは、ひのとの【夢見】とは無関係だよ」


 【特権階級上位国民】と【納税者】に当たる【民間人】は『自他共栄』だ常識を踏まえた予想だよ、と癸は言った。 


 癸「しかし、【地球外】逃亡した者たちは、夢見の【預言】を信じて準備して逃亡を実行した」


 都合の良いことにその連中は、全員が丁と【闇神あんじんカオス】を引き離した者ばかりだった、と癸の言葉で将成は【地球外】逃亡の『真の目的』を理解した。


 将成「丁様なりの復讐………なのでしょうか」


 癸「無理矢理引き離されたからねえ………恨んでいただろうねえ。それこそ殺したいくらいに………丁は、あの通り動けないから【預言】を使って誘導した………かもしれない」


 癸は、これは【殺人罪】になるのだろうかと訊く。


 将成「ならないでしょうね。【預言】は『当たるも八卦、当たらぬも八卦』で言われた通りの行動をするかどうかは『自己責任』ですから」


 将成は、【夢見の巫女】も【人間】だったのですねと言った。【未来】を完璧に見通す丁のことを無意識に神聖視していた。




https://kakuyomu.jp/users/mashiro-shizuki/news/16818622170694536702

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