第壹章 外道の末路
将成「癸様、『仕込み』とおっしゃいましたが………【毒物混入事件】はあらかじめご存知だったのですか?」
癸は、あの『世界唯一の【
癸「勘違いしないでくれ。丁は、まったくの無関係だ」
詳しい話をしようとした所で、
癸は、受けると満に言うと将成にこれを主導した本人から聞くといいと言った。どうやら遙の企みのようだ。
パソコン画面に遙の姿が映る。
遙「癸祖父さま、例の配信は見てくれたようで、ありがとう」
開口一番に遙は謝礼の言葉を口にした。彼が自ら礼を述べる所は貴重と言えるほど、ほとんど無いことなので将成は画面に映る人物は本当に遙なのかと食い入るように見ていると、遙から「【ヘッド】は俺にガン付け勝負を挑んでいるのか」と言われた。
将成「いや………いきなり礼を言っていたから遙本人なのかとガン見してしまった」
遙「年長者には礼儀を尽くすのは、人として当然ではないか」
いけしゃあしゃあと言う遙へ満がツッコむ。
満「【ヘッド】は『年長者』に含まれとらんようやな」
【転生戦士】の遙は【回生】という【転生】を繰り返しているので、【精神年齢】は数千年だが【宿体】(【魂魄】の宿る体)の年齢は将成のほうが上なので『年長者』のはずだが、礼儀を尽くされたことがない。
遙「【ヘッド】は彼の手足となって働く者に礼儀を尽くす側だろう」
遙の独断と屁理屈で将成に対する礼儀が欠けていることが判った。
癸「これは………将成、1本取られたねえ」
クスクスと癸は無邪気に笑っているが、完全にマウントを取られた将成には笑い事ではない。
癸「ところで、あの配信を私に見せた目的は答えてもらえるのかな?」
癸は、元ネタの動画を見て吐瀉物を意図的に変えた理由がグ◯いからではないことに気づいている。満から【瀬戸内水軍】内で【インスマウス症】が一斉に発症したことと、梓が意味ありげに重体患者の血液を送ってきたことを踏まえて、癸を巻き込もうとしていることは間違いない。
遙「癸祖父さま、その質問は本気で言っているのか?【智将】と呼ばれる癸祖父さまは、既に理解してくれていると思ったが」
『狐と狸の化かし合い』のような会話をしてから、遙は慎重な面持ちで癸へ報告しなければならないことがある、と言った。
遙「そこに【ヘッド】もいることだし、【
遙は、
遙「龍造寺のジジイが死んだ」
いきなり結論から言う遙に、癸、満、将成は一瞬、思考が停止した。
満と将成が、死因や経緯を訊くのを癸が制する。
癸「ふたりとも、おとなしくしてもらえるかな」
声は穏やかだが、癸の表情は目が座っていて全然穏やかではなかった。
癸「あの性悪ジジイが、
癸は、息子の龍造寺
遙「龍造寺のジジイは【超越の者】に【覚醒】できなかった。どんなに長生きしても、200才前後の寿命だ」
【起源の大戦】を起点に【人間】の寿命は、かなり長くなった。【寿命】を【限界突破】した者が【超越の者】で、【覚醒】すると【老化】が無くなり【寿命】は5倍から10倍延びて【長命種】となる。【超越の者】になれなかった者でも200才前後の長寿が常識となっている。
癸「あのジジイは、折を見て倅と自分の【大脳】を入れ替えて【生命】を延ばすことを企んでいた」
龍造寺翁が息子の貴延を『操り人形』にした理由は、これが目的であった。癸がそれを知っているのは龍造寺翁が自身の【罪】を悔いる様子も見せずに【甲賀総帥】の癸に、【大脳移植手術】の依頼をして来たからだ。その厚顔無恥さに癸は、その場でキレて「【
【
満「ウマいこと言うな………副作用で【異形の化物】になった龍造寺ジジイを祖父ちゃん自ら討伐するっちゅうオチやな」
【異形の化物】は【人間】の理性を失っているとされているので、討伐対象だ。合法的に殺害しても許されるということになる。
将成「【大脳移植手術】は親族内では許されていますが………なるほど、入れ替えた後に違和感がないように息子から【思考】を奪ったわけですか………」
将成は、背筋がゾッとした。
【大脳移植手術】は、【政治家】や【資産家】の2世以後が身代を破産させてしまうことを防ぐ為に、許可はされているが【血縁者】限定と厳しい条件が課されている。
遙「残念ながら、龍造寺ジジイは【認知症】だった。【大脳移植】で入れ替わりをしても、やるだけ無駄だ」
遙の見た龍造寺翁の【認知症】の状態を聞いて、満と将成は『寄る年波には勝てない』と思ったが、癸はそんな簡単に済ませることができなかった。
癸「【認知症】………あれだけの悪行を重ねて、全部忘れたのか………【魑魅魍魎】のクセに普通の【人間】アピールのつもりか?こんなことになるなら、一服盛って【異形の化物】に変えてぶっ殺しておけばよかった」
よほどショックが大きかったのか、側に【夜狩省】のトップがいるにも関わらず、【犯罪行為】に該当してしまうヤバいことを口にしている。
朔「年季が入っているだけに言うことがヤバいな」
癸「洸は、何と言っていたんだね」
癸は、今は自身の孫だが
朔「あいつは、龍造寺ジジイの孫を人質にするとかゲスいこと言い出しやがった」
朔は、無関係の孫に手を出すのはルール違反だろう、と言ったのを満と将成は頷いて肯定するが癸は違った。
癸「【生命】の恨みは【末代】まで!孫はどこにいる?」
癸は、洸────────────この場合、御影かもしれない────────────に同調した。
遙「龍造寺ジジイの孫嬢と鍋島老師の孫息が、『恋仲』のようだ。孫嬢が【国王側妃】にという話は、【ヘッド】の耳には入っているな」
遙は、この話は【王族】だけの【ロイヤル会議】で決定した話だが、【国の公的機関】のトップなら報告を受けているだろうと将成に言った。
将成「ああ………聞いている。それどころか、御孫嬢の
【ギルド】に依頼を出されたことから【
満「無理矢理【国王】に嫁がされそうになった娘と駆け落ち………どっかで聞いたことある話やなあ、遙」
満は、遙に満面の笑みを向ける。
今より十数年前、遙は同じ【現国王】へ【輿入れ】が確定した伊勢
癸「遙が手伝ってあげれば、駆け落ちは成功するのではないかね?」
先ほどまでは孫に仕返しを考えていた癸だが、若い恋人の悲恋になりそうな話を聞いて絆された。
満「絆されたんか?祖父ちゃん、チョロ過ぎやろ!」
癸「満、『他人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られる』という【罰ゲーム】が課される」
馬に蹴られるのは【罰ゲーム】どころではないはずだが、癸の主観ではそうなるのだろうか。ともあれ彼は、もう胡桃をどうこうする気は失せている。
癸は、取り乱したせいで肝心の死因を聞いていなかったことを思い出した。
癸「遙、龍造寺ジジイは何故死んだ?【認知症】だから【自害】の可能性は低い………というか、あのジジイは【大脳移植】で延々と【生命】を繋ごうと企んでいたから絶対に【自害】しない!」
癸は、そうなると別の誰かの手にかかったことになると推理した。
遙「【大脳移植】の件を除いても、龍造寺ジジイは『いのち根性が汚い』から【自害】はあり得ない」
遙は、癸の推理は概ね正しいが1点だけ間違いがあることを正してから、続きを話す。
遙「龍造寺ジジイは、鍋島老師に斬首された。その後に鍋島老師は切腹して果てた」
このご時世に【切腹】と言う者は、いなかった。将成の父も、【切腹】して果てているので『ケジメをつけた』と考えている。
癸「長年仕えた護衛兼側近が手にかけたのか。………
癸は、龍造寺と鍋島は綻びが見え隠れしていた主従関係だったと言う。
遙「その後は、ニャルが【魂魄】を喰った」
遙は、『数百年に1度の【因業】たっぷり』とか言って喜んで下品に貪り食っていたと言った。
満「【ニャルラトテップ】のことか?………【邪神】に【魂】食われてもうたら、もう生まれ変わることはできへんな」
満は従者に斬られて【魂魄】を【邪神】に喰われて、最期は踏んだり蹴ったりだったがそれでも龍造寺翁は報いを受けたとは思えない。【超越の者】に【覚醒】していた
癸「【ニャルラトテップ】は、銀髪の美女なのだが………残念系のようだねえ」
癸は、遙が『下品』と言うくらいだから相当身に余るものだったのだろうと想像した。
将成「【邪神】と遭遇したのに遙は、なぜそんな冷静なんだ………癸様も、貴方は実際に闘った相手ではないのですか?」
将成の言葉に、遙と癸は完全否定した。
遙「影千代の記憶によれば、【起源の大戦】の終盤の敵は『暴徒と化した日本国民』だ」
癸「【外なる神・アザトース】の関与があった痕跡があったからね。すっかりテンパった【合衆国】の【副大統領】が【大統領】を殺害して、『専用ボタン』を押しちゃったんだよ」
やっちまったな、だねと癸はギャグのように言っているが当事者から事実を聞かされて、言葉を失くして一同は固まってしまった。
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