第壹章 シノケノちゃんねる
満「ええタイミングや。おおきに(ありがとう)」
満は、【茶器】と【和菓子】が乗せられたワゴンカートをここからは自分が運ぶと言って下がらせると、ドアを閉めて施錠した。
癸「将成、【盗聴防止】の【アーティファクト】はテーブルに。範囲は最低限。そうすれば【防音機能】も働く仕組みだ」
癸は、【アーティファクト】の【隠し機能】を告げた。
将成「えっ!【防音機能】も付いているのですか!」
【
癸「それを【錬成】したのは、私の妻だよ」
将成「
癸の妻の毬は、旧姓マリーヤ=ミササギ。父親は、現在【ドイツ】に国籍を置いている
因みに、【盗聴防止】の【アーティファクト】は結婚前に【錬成】して特許を取っているので、製作者の名前は『マリーヤ=ミササギ』になっている。
癸「そろそろ時間だね。満、お茶を淹れてくれるかな」
満は、癸の分だけでなく将成と自分も含めて3人分の湯呑み茶碗に急須から緑茶を注ぐ。
満「玉露やないか!ヘッド、なんや悪さして祖父ちゃん怒らせたんか?」
満は、緑茶の香りが青海苔っぽい香りに甘さが交じっていることから玉露だと気づいた。
将成は、【盗聴防止】の【アーティファクト】を言われた通りに最低限の範囲に指定してテーブルに置くと、受付嬢が癸を追い返そうとしていた件を満に話した。
満「癸祖父ちゃんでよかったな。これが
満は、【起源の五英雄】の中でも癸は一番温厚な性格をしていると言った。
満「そろそろ時間やろ。映りが悪かったら、模造紙貼り付けてや」
あらかじめ連絡を受けていたので、プロジェクターとタブレットの接続だけは準備していた。満は、壁が白いから壁に投影すればいいと思っているのでスクリーンの代用品は設置していない。
満と癸は、並んで座ってお茶を一口飲む。こうしていると、やはり親族だけあって似ている。
癸「美味しい。私好みの濃さだ」
満「祖父ちゃん、菓子食おや。これ、『鶴屋』の『あんこロール』やで!」
満は、勝手に菓子の包装紙を取り払って中身を見て好物だったのだろう嬉しそうな声で癸に薦めている。包装紙は破かずにキレイに外して二つ折りして脇に避けて置いてある。意外にも几帳面な所があるようだ。
将成は、癸にライバーの名前を訊く。
癸「『シノとケノ』みたいな感じの名前だったはずだが………」
どうも名前がうろ覚えのようだ。
中途半端な情報だったが、将成は解ったようだ。
将成「これですね。少し早いのでしょう。このままお待ちになってください」
将成は、配信者が指定した時間が来れば自動的に動画が始まると癸に説明した。
癸が将成に、キミも座りなさいと腰掛けさせた。
将成は、失礼しますと声かけして座り、癸に意外でした、と言った。
癸「何がだね?」
将成「このライバーの視聴者は10代20代が多いですから………」
満「シノとケノは【八犬士】やからな………ヘッド、意外とマジメに仕事しとるんやな」
【八犬士】は【忍ギルド】に登録があるので、将成はライバーに【ギルド契約者】がいたら、配信内容や視聴者の層など調査させたり、配信を自身が視聴することもあった。
癸「【八犬士】にそんな名前の子はいたかな?」
癸が、はてと首を傾げていると満が【八犬士】の女の子の内2人だと言うと、誰のことかわかったようである。
満「
満は、表面的には若者受けする『ざまぁ系』だが何気に【ギルド契約者】の他人には見せない活動を暴露して、ある意味【ギルド】の宣伝になっているらしいと言った。
満「前に、【悪徳金融業者】の【会社】が白昼に襲撃されて会社倒産の配信しとったわ。まあ………あれ、殴り込みした奴、絶対に遙や。あと、リッキーも一緒やったやろうな」
癸「【美濃部一族】の子だったね。彼ひとりでも秒殺できそうだが………遙もヤンチャ好きだねえ」
【悪徳】と頭に付くとはいえ【会社】が倒産しているのだが、それを癸はヤンチャのひとことで済ませてしまった。
『シノケノちゃんねる』の説明をしているうちに、配信が始まった。
満と将成は、信乃と旦華野の衣装を見てケホケホとむせた。驚いてお茶を詰まらせたようだ。
癸が、慌てて飲み込んではいけないよと言っているが、満が「なんじゃこりゃあ」と某名台詞を口にした。驚きを表現する時に使われることを癸は解っていたようで、シチュエーションが違うというツッコミはなかった。
将成は、『アイドル路線』に変更したのだろうかとブツブツ呟きながら、中央の荘輔を見る。信乃と旦華野を左右にセンターに悠然と立っている荘輔の姿が名プロデューサーっぽく見える。
演出としては大成功のようで、コメントが嵐のように殺到している。そのせいか、動画の動きが少しカクカクしていた。
癸が故障かな、と言ったが満はコメントが多すぎてサーバーに不具合が起こっているだけと説明した。
満「シノとケノ………『宣伝キャラクター』に使えるな!」
満の元にいる【漂泊の者】の男性陣は、イケメン揃いなので【夜狩省】の『宣伝キャラクター』として【芸能界】で活動させている。【バンド】を組ませて歌手活動の【ライブツアー】で全国を回って『宣伝キャラクター』としては大貢献していた。
将成「女の子はマネージメントする気はなかったのではないのか?」
満が【芸能人】活動する彼らのマネージメントをしているのだが、【漂泊の者】の女性陣だけは『宣伝キャラクター』にすることを猛反対した。
満「【漂泊の者】の男のほうは、【戦】に出て行くんと【芸能人】活動するんとは形はちゃうけど、意気込みが似たようなもんらしいわ。けど、女の子のほうは慎みを重んじてる感じやな。男より前に出えへんゆう考えしてる」
満の元には【古代日本】と【未来の日本】から【漂流】して来た正反対の環境の【漂泊の者】がいる。女性陣が皆【古代日本】からの【漂泊の者】なので、彼女たちに【芸能界】でスポットライトを浴びる活動は無理だと判断した。
【漂泊の者】の女性陣は【古代人】の知識で、【薬草】に詳しく【調剤技術】が非常に高いので、有能な【薬師】として充分な貢献をしている。
癸「将成には、色々と迷惑をかけているが【おかしら】としての満は、良い上司なんだよ」
癸は、ジジイの贔屓目と言われるかもしれないが、と言ったが将成は、自分も同じ意見だと言ってから付け加える。
将成「同僚と仲良くしてくれたら言うことはないのですが………」
満「無理や!」
癸「無理だろうね」
満と癸に即答で息ぴったりに返された。
ところでと言って癸は、ライバーへコメントを送る方法を聞いてきた。
癸「コメントは、どうやって送るのかな?」
満「祖父ちゃん、コメントやるんか?ほな俺が代筆しちゃる(してあげる)!」
満が画面の『フキダシボタン』を押してから、癸に文章言うてとキーボードに手をかざしてタイピングの準備をして待ち構える。
癸は、マンガセリフみたいな所を押せば良かったのか、とつぶやいてから言ったが、コメント内容を聞いて将成は再びお茶を詰まらせてむせることになる。
癸「えーっと、[倒れた方の中に………【与党代議士】の………龍造寺貴延氏が………いましたね。………彼が狙われたのですか?]
以上だよ」
満のタイピングに合わせて、言葉を区切りながら癸は言った。将成は、再びむせてしまう。その弾みで満は、『エンターボタン』を押してしまい、コメントが画面を横切った。
満「あ………思わず押してもうた!」
将成「ケホケホ………極秘情報が………」
将成は、トホホな表情をする。
満が代筆(代打ち?)した癸の爆弾コメントに、視聴者たちが食いつきサーバーの動きが鈍くなったので、おそらく言葉を失くしているだろうライバーの【八犬士】たちは、サーバー荷重で言葉が紡げなかったと誤魔化しが通用する状態で助けられた結果になる。
満「バレたらマズいやつ………暴露してもうたんとちゃうん?」
流石に、満もマズいなと思っている。エンターボタンを押したのは自分だからだ。
癸「問題ないよ。【被害者】たちは全員、完全回復して今頃は【九州】へ向かう【船】の中だよ」
それに、アレは『仕込み』だからと癸は【毒物混入事件】が作戦だったことを明かした。
癸「この映像………『液状化した【インスマウス】』を吐き出している感じに編集しているけど、吐き出したのは【蟲】だよ」
癸は、吐き出させた決定的瞬間の映像が見たいなあと呑気につぶやいている。
癸「介抱した人物は映っていないけど、きっとオモシロイ方法で吐かせたのだろうね」
癸は、この場に梓と環の2人の【医療忍】がいたことを知っている。2人とも気性は癸の姉・
癸「クズ【代議士】が腹パンされる所、見たかったな」
正にその通りのことをしたのを見たかのような言い方の癸に満が、何やそのオモロイことはと食いついた。
将成「腹パン………殴ったのですか?」
将成は、胃がキリキリッとしたのを感じた。
癸「応急処置だよ。緊急事態には、人命救助の為に手や足を切断することだって許されている。腹を殴った程度で怒り狂っていたら、度量の小ささを笑われるよ」
彼の【ゲスオヤジ】のように、と癸は【龍造寺翁】と呼ばれる老獪な人物を頭に浮かべた。既に龍造寺翁は護衛役の鍋島老師に斬殺されているが、その情報はまだ癸の元に届いていない。
癸「【毒】盛るなら、ゲス龍造寺の方にやりたかったな。あのジジイ………年食ってから出不精になったからねえ」
癸は、心友の
満「祖父ちゃん、編集前の動画やったら
【八犬士】は8人チームなので、情報を共有している。そこには元の動画もあるのではないかと、満は癸が重度に拗らせた恨みを反らせる話題を持ちかけた。
元の動画に反応した癸に満と将成は、ホッとする。癸の『恨み話』は長いのだ。【陵御影殺害事件】は【犯罪史】に残る【残酷事件】だが、活字を読んだだけの者と実際にその時間を生きていた人物とでは、捉え方が大違いだ。
満も癸も陵御影が生まれ変わった
癸「大角から『共有ファイル』の招待?みたいなメッセージを受け取っているよ」
使い方がわからないから放置していた、と癸は結構いい加減だった。
満「祖父ちゃんのスマホにメッセージは残っとるんか?」
迷惑メール扱いして削除していないか訊く。
癸は、意外とものぐさな所があってメールは既読した後は要、不要に関わらず残っている。広告メールなど、明らかに削除対象だが残されている。
満は、『八犬士・大角』の名前のメールを開く。
満「これやな。確かにファイル共有の『URL』が貼ってあるわ」
癸「それは、開いてはイケナイ『リンク』ではないのか?」
満は、『リンク』を踏む。【ファイル】を共有するものだった。この【ファイル共有】の【
満「ああ………これやな。梓、腹パンしとるやないけ!無茶苦茶やりよるな」
早送りして先に内容を見た満は、そこしか見ていないので『どエラいことをした』ように見えたが、癸と将成が後から見ると苦しんでいる
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