第5話

「……は?」


叩きつけられたチョコを、さらに二度、三度踏み付けていく神宮寺。包装紙は破れ、見るも無惨な形にひしゃげていく。


あまりの出来事に、四人ともただ見ていることしかできない。


一仕事終えたとばかりにふぅ、と一息ついた彼女は、次に自分のカバンをごそごそと探り、綺麗なリボンがかけられた小箱を俺の前に差し出す。


「矢上くん、これ私の初バレンタインチョコだよ。後で感想聞かせてね♪」


……お前は何を言っているんだ?チョコレート?感想?取り巻きがいないのはこのため?いや、なんで宝城さんのチョコを?


混乱した頭では次に言うべき言葉が出てこない。


「ほらぁ〜早く受け取ってよ」


俺の片手をとって小箱を押し付けてくる神宮寺。だが、俺の視線は床に落ちた残骸へ固定されている。


「なんで……こんなこと……」

「え?だって私が初めて手作りしたチョコだよ?他のメス猫なんかに邪魔されたくないもん」

「メス猫……だと?」


コイツは本当に皆が憧れたあの神宮寺美涼なのか?状況をゆっくり把握するにつれ、怒りゲージが跳ね上がってくる。わなわなと小箱を掴む手に力が入る。俺が本当に欲しかったバレンタインチョコは、こんなモノじゃ、ない。


そんな俺の脳内に、爺ちゃんの「食べ物を粗末にしてはいかん」という教えがこだまする。


だけどごめんよ爺ちゃん、今は……今だけは、その教えに背かせてもらうよ!


「散れぇぇぇぇぇぇ!!!」


俺は教室の窓を開け、握りしめた小箱を全力で外へとぶん投げた。

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