第6話 夜に、また——

学校に着いても、授業が始まっても、どうしても華乃とのやり取りが頭から離れなかった。


机に肘をつきながら、ぼんやりとスマホをポケットの中で握りしめる。


——「今日の夜、電話して?」


その一言が、ずっと心の中で反響していた。


放課後になり、友達と適当に話しながらも、どこかそわそわしてしまう。家に帰ったら、夜になったら、俺はまた華乃と話せる。そう思うだけで、無意識にスマホを何度も確認していた。


——そして夜。


「……そろそろいいかな」


時計を見ると、21時過ぎ。少し緊張しながら、華乃にLINEを送る。


「今、大丈夫?」


すると、すぐに既読がついた。


「うん、待ってた」


その返事を見た瞬間、心臓が跳ねた。


躊躇うことなく通話ボタンを押す。


プルルル……プルルル……ピッ


「……もしもし」


「……こんばんは」


「こんばんは」


どこかくすぐったい沈黙が流れる。お互いに、少し照れくさい。


「……ねえ」


「ん?」


「今日ね、授業中ずっと輝人のこと考えてた」


「……俺も」


「ほんと?」


「うん」


華乃が、少しだけ笑ったのが分かった。


「なんかね、朝のLINE見てから、ずっとドキドキしてた」


「……俺も同じ」


「そっか……」


お互いに、どこかぎこちない。だけど、それが嫌じゃなかった。


「……ねえ、もう一回言って?」


「何を?」


「朝のLINEのやつ」


心臓が跳ねる。わざわざ言わせようとするなんて、ずるい。


だけど、俺はゆっくりと口を開いた。


「……俺も、好き」


通話越しに、小さな息をのむ音が聞こえた。


「……私も」


静かな夜の中で、俺たちは少しずつ、確かに距離を縮めていった。

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