逆転国王

あつし

第1話〜その国王、暴虐につき〜

ここは一人の国王がおさめる国リンカ王国。

国王の名前はキース。

膨大に膨れ上がった権力と財力の影響は凄まじく、誰も彼を止めることが出来なくなっていた…




キース「さて、お前にはどのように死んでもらおうか」

キースは愉快そうに笑いながら目の前のボロボロの青年に問いかける。


青年「ハァ…ハァ…」

青年は肩で息をしながら今にも気を失いそうなくらいに弱っている。


キース「お前みたいななんの価値もないただの人間が俺のやることに口を出してくるとは、身の程っていうもんを弁えてなさ過ぎんだよ」


青年は国王を睨見つける。



キース「あ?なんだその目は?死にかけの分際のやつがそんな目して何ができるってんだ?」


青年はそれでも睨み続ける。

その目には恨み、怒り、後悔というあらゆる負の感情が篭っていた。


キース「その目をこの後も最期まで俺に向けられてるかな?おもしれぇ…お前には極上の苦しみを与えて殺してやる」

キースは狂気的な笑みを浮かべながら青年に宣告する。


キース「お前のことは火炙りで殺してやる。地獄の苦しみをたっぷり味わって死ね。お前の死に様は公開処刑とし、二度とお前みたいなやつが現れないように見せしめにしよう」


青年「…」


キース「ククク…しかしお前も馬鹿だよな。たかだか馬鹿女一人のために自ら死ぬ様なことをするとはな」


青年「お前…!!」

青年の怒りは頂点に達し国王に向かって怒鳴る。


キース「おー怖い怖い。力のねぇお前が悪いのさ。俺はなにをしようと許される立ち場なんだよ。例えお前の馬鹿女を俺がどうしようとな」


青年「…してやる」


キース「あん?聞こえねぇぞ?」


青年「殺してやる…」


キース「そんな状態でどうやって俺を殺すと言うんだ?今のお前の状態じゃガキすら満足に殺せんだろ。それに殺すのはお前じゃなくて俺だ。お前もあの馬鹿女と同じように苦しみ抜いて死ね」


青年「…」

青年の目には涙が浮かぶ。

この状況がたまらなく辛く、この世界はなんでこんなにも不条理なのかと全てに対して恨んだ。


キース「公開処刑は3時間後だ。それまで牢屋に入れておけ、死なない程度ならいくらいたぶっても構わん」


王国の軍人「はっ、かしこまりました」


青年はそのまま荒々しく引きづられ牢屋へ連れてかれた。




王国の軍人「お前も可哀想なやつだ。たかだか一人の女のために命を捨てることになるとはな。自分の不運を恨め。残り3時間もない人生せいぜい楽しむんだな」

淡々とそう伝えると軍人は青年を牢屋に投げ入れる。



青年は1人になり今までのことを思い返しながら泣いた。



〜6時間前〜


青年「今日は君のために花を買ってきたんだ!」


女性「あら!嬉しいわ!あなたったらいつも私のために何かしようとしてるわよね。もう少し自分のことにも時間使いなさいよ」

女性は嬉しそうに笑いながら青年と話している。


青年「君と一緒になろうと決めた日から、ほんとに毎日が幸せだからね!君のためなら僕はこの命だって差し出せるさ!」


女性「ふふ…大袈裟ねもう」

何気ない会話だけど2人にとってはものすごく幸せな時間が流れていた。


女性「いよいよね」


青年「そうだね」

青年は緊張した様子をしており深呼吸をする。


青年「ふぅ~、今日は君の家族達へ挨拶をする日だからね、認めてもらえるかな結婚すること」


女性「あなたなら大丈夫よ。私のことを誰よりも考えてくれて、真っ直ぐ向き合ってくれるあなたのことはきっとお父さんもお母さんも認めてくれるはずよ」

女性は自信ありげに答える。


青年「ありがとうね、そろそろ支度しよっか」


女性「ええ。そうね」


2人で幸せな日常を噛み締めているとその時何やら外が騒がしくなる。


男の声「ここだ!!この店だ!」


男の声「全て調べろ!!」


静かな村に突然の怒号が響き渡る。


女性「なにかしら…外でなにかあったのかしら。」


青年「ただ事じゃなさそうだね。ちょっと様子を見に行こう」

2人は不安になりながらも外にでる。


そこにはなんとあの国王軍がきていた。


女性「王国の軍隊が何故こんなところに…」


青年「こんなとこまでくるなんてよっぽどのことじゃないか、いったいなんだって言うんだ…」


2人の不安は一気に高まり恐怖すら感じる程だ。

いかんせん国王軍と言えば、権力に物を言わせ暴虐の限りを尽くすあの国王が率いる軍隊。

その国王の軍がこんな田舎まできているんだから、ただ事ではないことは一目瞭然だった。


キース「あー、ここか。やる事もやらねぇで不当な蓄えをしているジジイの店は」


女性「国王まで…!?」

青年「キース国王までいるのか!?」

2人は驚愕する。


その声に反応するようにぞろぞろと家から人が出てくる。


村人「いったい何事なんだ…」

村人「あの国王自らこんなことまで…」

各々が恐怖の感情を浮かべる。


国王が要件があるのはどうやら村の人達が贔屓にしている野菜屋のおじいちゃんのようだ。


国王「おい爺。国王である俺自らが態々こんな田舎まで出向いてきたんだ。理由はわかってんだろな?」


野菜屋「いえ…キース様自らが態々こんな老いぼれのとこにくる理由など…ワシには見当もつきません…」


キース「ほう。あくまでしらばっくれようってか。なら無駄な駆け引きなんかしねぇで単刀直入に言ってやる。テメェの納めてる税金が足りてねぇんだよ。店を構えて商売すんのは自由だが、店を出してる以上は俺の国へ対して金を納める。それが俺の国のルールなはずだぜ。知らねぇわけじゃないだろうよ」


野菜屋「それは承知しています…」


キース「だよな?知らねぇわけねぇんだよ。ということはそのルールを知ってるんなら正規の額を納めてねぇことはテメェ自身が一番わかってるはずなんだよ。」


野菜屋「それは…」

おじいさんは気まずそうに答える。


キース「つまりテメェのしてることは脱税。そして俺への反逆だ。ここまで言えば何故俺がこんなとこまで直接きたかわかんだろうもう。」


おじいさんは顔を青くする。


野菜屋「どうか待っては…頂けませんか。この通りです…ワシには孫娘がいるんです。その孫娘が病気になってしまい高額な治療費がかかるんです。脱税をしたら国へ対する裏切りとみなされキース様の逆鱗に触れることは百も承知です。ですが、どうか未来ある孫娘のためにワシ一人の命を差し出した上で助けられるならと思ってるんです。脱税した罰は受けますし、一生キース様へ献上し続けることだって構いません…だから、どうか後2ヶ月待って頂けないでしょうか。2ヶ月あればそれで治療が出来るんです」

おじいさんは涙を流しながらキースへ土下座をする。


村人達はおじいさんを庇いたくなる気持ちを押し殺しながら見ていた。

村人達は全員野菜屋のおじいさんの事情を知っていたからだ。

自分で作った野菜を売っていて、その収入で生活してることも最近孫が病気にかかってしまい、そのために高額な治療費が必要なことも村の人達は知っていた。


孫が病気になったと聞いてからおじいさんはより一層働いていた。

最近無理が続いてるのか以前より痩せているのも村人は知っている。

だからこそ庇いたい。


だが、庇ってしまうとキースの矛先がこちらに向いてしまうかもしれない。

だからこそ庇えずにいたのだ。


その時キースが口を開く。

キース「なにを勘違いしてるんだジジイ。この俺に待てとテメェが言うのか?価値のない人間が俺に行動を求めるとか笑わせんじゃねぇよ。それに俺に命を差し出すだと?まだ状況を理解してねぇようだな。俺が直接こんなとこまできてんだからテメェの命なんかもうあるわけねぇだろ。テメェの事情なんか俺は知らねぇよ。払えねぇなら死ぬ、それだけだ。脱税とわかった上でやってんだから尚更生かす道理なんかねぇ。ここにある金も没収した上にテメェは死刑だ。そうなりゃそのガキとやらもどうせ助からねぇだろうから、後であの世で合流できるさ。あの世でよろしくやってな。まぁ、そんなはした金すら払えねぇジジイなんだから恨まれるかも知れねぇけどな」


キースは冷酷に言い放つ。


野菜屋「そんな…どうか勘弁してください…!」

おじいさんは泣きながら許しを乞う。


村人達はその場の残酷な光景になにも言えずにただただ恐怖する。


キース「そのジジイを連れてけ」

国王軍「かしこまりました」


誰もが絶望する状況に一人の青年が声をあげる。


青年「お待ち下さい!キース国王様!!」

女性「あなた!!!」


キース「誰だお前?」


青年「この村に住む村人です。」


キース「そんな村人が俺になんの用だ?」


青年「どうか…おじいさんを見逃してくれはしませんか!!」

青年はその言葉と共にキースへ土下座する。


キース「なんのつもりだ?罪人を庇うとはお前も同罪ということか?つまりは死にてぇっていう解釈でいいんだな?」


女性「あなた…やめて…」

女性は泣きそうになりながら呟く。


青年「いえ。ただで見逃して欲しいと言っても国王様は当然納得出来ないと思います。なので、僕にその分のお金を立て替えさせて頂けませんでしょうか!不足してた分に加えてこんなとこまでご足労かけさせてしまった分も迷惑料として追加で払わせて頂きます。だから、今回はどうかおじいさんを見逃しては頂けませんでしょうか!!!」

青年は震えながらもキースに懇願する。


キース「ほう?」

女性「あなた…」

野菜屋「お主がそんなことする必要はないのに何故…」


青年「良いんです。あなたはいつも村人達の為を考えて頑張っているのを村中の人達は知っています。僕はそんなあなたに何も返せていない。だから今ここで恩返しをさせてほしいんです。」

青年は力強くおじいさんに言う。


青年はそのまま女性に問いかける。


青年「君にも謝らないといけないことがある。君と婚約をして、いつか2人でお花屋さんを開こうと約束したよね。今使おうとしてるお金は今後2人でお店をやるための貯金とこれからの結婚生活のためのお金だ。それを君の意見なしで僕の独断で手をつけることをどうか許して欲しい。」


女性「あなた…私が怒るわけないじゃない。貴方のそういう優しさが私は一番好きなのよ。だから貴方との将来を誓ったの。私が怒ることがあるとするのなら貴方1人で抱え込もうとしてることよ。2人で解決しましょう。」

女性は涙ながらに青年に答える。


そして女性もまた国王に頭を下げる。

女性「国王様、どうか私からもお願い致します。おじいさんの不足分をどうか私達に払わせて頂けないでしょうか」


それを聞いたキースは少し考える

「なるほどな。そのジジイがそんなに大切ってんならその命を俺から買うってことだな。利息分も払うってんなら今回だけは見逃してやるよ。ただし次同じ様なことがあればその時点で殺す。」

キースは全員を威圧する。


すると村人達も声を上げ始める。

村人「足りないのであれば私達も払います!」

村人「俺も協力させてもらいます!」

村人「だからどうかおじいさんを見逃してください!!」


村の心が一つになっていくのを青年は感じていた。


青年「みんなありがとう…」

青年の目からは涙が零れた。


また野菜屋のおじいさんは村人全員に感謝の言葉を言い、涙を流す。


野菜屋「みんな…ワシのためにほんとに申し訳ない…この恩は一生忘れはせん…」



そしてキースは配下の軍に声をかける。


キース「おい」

国王軍「はい」

キース「金を徴収しろ」

国王軍「直ちに」


そして村人達からキースの元へお金が集まる。


国王軍「キース様、徴収の方が完了致しました」

キース「ご苦労」


キースは集められた金を数える。


キース「確かに迷惑料込みでも問題ない額だな。ジジイの件はこれで不問にしてやる」


村人達は安堵の表情を浮かべた。

これで悪夢のような時間が終わったのだ。




しかしキースはここで悪魔のようなことを言う。



キース「なに安心してんだお前ら?これでジジイの件は不問にすると言ったがもう一つの罪が清算出来てねぇぞ」


その言葉に村人全員が凍り付く。


キース「ジジイの件は終わりだ。もう一つの罪はお前だよ女の婚約者」

キースは青年に向けて言い放つ。


青年「僕…ですか…?」

女性「なんでなの…」


唐突な宣告に2人の顔は恐怖に染まる。


キース「お前はまだあの時罪人だったジジイを庇って、提案より先に俺に犯罪者のジジイを見逃せと言ってきたよな?つまりはこの時点でお前はジジイの共犯であって同罪なんだよ。それに王の俺へ対する要求。すなわち立派な不敬だ。これから裁くのはお前の罪だ」


青年「…」

女性「そんな…」

女性は涙を流す。


村人「あんまりだ…」

村人「まるで悪魔だ…」

村中に再び恐怖が蔓延する。


キース「もうこの村にお前が助かる程の金はねぇはずだ。だから女、お前を貰っていくことにしよう。それで罪は帳消しにしてやる。顔はこの村にはもったいないくらいだからな。俺の相手をするにはまぁ合格といったとこだ」


キースの悪意に満ちた言葉に青年がたまらず抗議する。


青年「それだけはどうか勘弁してください!!彼女と婚約してて今日もこれから彼女のご両親に挨拶に行くんです!」


続けて女性の方も懇願する。


女性「どうかお許しください国王様…彼と私を引き裂かないで下さい。彼と離れるのだけは考えられません!だからどうか…」

女性は泣きながらキースに懇願する。


キース「お前らのくだらないおままごとなんか俺はしらねぇ。女のほうが多少気に入ったからもらったてく。それだけだ」


その言葉に青年は激しい怒りを覚えた。

こいつはそれが目的だったからおじいさんを見逃したのかと。

だから村から金を吸い上げてなにも残ってない状態のこのタイミングで、彼女を奪うことを提案してきたのだと。

だが、この状況じゃもう手遅れだった。



キース「おい、女を連れてけ」

国王軍「はっ!直ちに!」

女性「やめてください!!!!どうか許してください!!!」

女性の顔は絶望に染まり涙を流す。


その時、青年がキースの肩を掴む。


青年「いい加減にしてください!!!」


キース「なんのつもりだ?」

キースは怒りをあらわにする。


青年「何故あなたは僕達から全てを奪うんですか!王なら何をしてもいいんですか!!王なら彼女の幸せを邪魔する権利まであるんですか!!」


女性「貴方!!やめて!!!」

女性は青年のことを止めようとする。

この王に逆らえばどうなるかというのは知っているからだ。


それでも青年は止まらない。


青年「何故あなたはこんなことするんですか!王であるなら民のために尽くすのが王なんじゃないんですか!」


キースは額に青筋を浮かべ返答する。

「お前、俺に触れるだけにはとどまらず俺を否定するだと。たかだかこんな田舎のゴミみてぇな人間の分際で俺に歯向かうことがどうなるのか知らねぇのか?世間知らずなガキだと言うことなら1回だけ見逃してやる。こんな糞みたいな村なら知らなかったってのもあるだろ。だが知らねぇのは罪だ。見逃してやってもいいがもちろん罰も追加するがな」


青年「いいえ。見逃してくれなくて結構です。彼女を返して下さい」

青年は怒りを抑えながら返答する。


キース「それがお前の答えってことだな。良いだろう。なら立派な反逆者だお前は。今後こんなことがねぇように見せしめにする必要があるなお前みたいなやつは。お前を王への反逆罪とみなし公開処刑にすることにしよう」


女性「やめて!!!!」

女性は必死に止めようする。


キース「邪魔だ」

キースは女性に平手打ちをする。


女性「うぅ…」

青年「やめろ!!!彼女に手を出すな!!!」


キース「女をつれてけ」

国王軍「かしこまりました」


青年「返せ!!」

青年は女性を追いかけ国王軍に飛びかかる。


キース「抑えろ」

国王軍「はっ」


国王軍が青年を地面に取り押さえる。

この人数相手じゃ青年1人抑えることくらい容易いことだ。


青年「ぐっ…」

女性「もうやめて…」


キースは取り押さえられた青年の頭を踏みつけ言葉をかける。


キース「いいかガキ。王に逆らうってのはこういうことだ。なにをされても文句言う資格はねぇ。お前がくだらねぇ愛を語るのは自由だか俺に文句を言うとは頭がイカれてんな。」


そのままキースは青年の耳元に近付き囁く。


「女を目の前でめちゃくちゃにした後、殺してやるからその目で良く見とけよ」

悪魔のように囁き笑顔を見せるキース。


青年「ふざけるな!!」

そう言い振りほどこうとした時、キースから殴られ青年は意識を失う。


村はまさにキースの恐怖に支配されていた。

誰一人口を出せるものはもうこの場にいなかった。


キース「戻るぞ」

国王軍「かりこまりました」


青年と女性を乗せた馬車はゆっくりと村を後にする。



そして車内でキースは側近の1人に口を開く。


キース「おいダン」

ダン「どうされました?」









キース「今夜あの村焼き払ってこい」

ダン「承知しました」


その声は森に消えていった。

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