第6話王都防衛戦(1)結界と言葉足らずの男

 【挿絵】


https://kakuyomu.jp/users/tukigimenori/news/16818622173527603233


 パンゲア大陸の南端、ズール地方の丘陵に建つ、此処ズール城は王都を含む城郭都市である。

  

 一段高い丘に断崖絶壁を背にして王城があり、城を取り囲む様に貴族や有力商人の住む館が立ち並んでいる。

 

 ロキは城の主塔から王都を見渡せるテラスに移り外壁で魔法士が懸命に守る結界が今にも破られそうなのを見た。

 

「アイちゃん、先に結界張り直すわ。謁見の間の事もあるし、攻防一体の強烈なやつにしようか」

 

 ロキは目を瞑り、何やら呟き始め、最後に両手を掲げた。

「これで良し」

 

「攻防一体とはどんな結界ですか?攻める結界なんて聞いた事無いですけど」

 アイーシャが尋ねた。

 

「普通結界は中に魔族が入れない様に弾くだけなんだけど、これは入れちゃうんだな。入れるけど、入りながら死ぬんだ。オマケに死んだ魔族を取り込んで結界自体が増強される仕組みになっている」

 

「そんな凄い結界張れるなら先に張っといてくださいよ」

 

「だって攻めて来る魔族なんていないと思ってたからさ。これ、結構むずいんだよ?計算と種族フィルター間違えると魔族以外の余計なのまで死んじゃうから」

 

「ロキ様、それでは今頃謁見の間では……」


「そういう事、どんな大騒ぎになってるか、見に行こうぜー!」

 (ロキ様、楽しそうだ……スキップしそうな勢い……)


 謁見の間に着いたロキは部屋の外まで聞こえる騒ぎに笑いを堪えられないようだ。

 

 ロキは扉を開けて白々しく聞いた。

「あれー?どうしたのかなぁ?」

 

 女王が泣きそうな顔で答えた。

「ロキィ、大変なのだぁ、この間に居た半分以上の者が苦しみ出して倒れたかと思うと、消え去ってしまったのだぁ」

 

「あー消えたやつはみんな魔族ね、女王あんた危なかったよ?何せ魔族に取り囲まれてたから」

 

「いや、そんな訳……」


「魔族が王都侵入の瞬間にあんたと側近は殺されてゲーム終了、からのエンドクレジットってやつさ」

 (エンドクレジット後に地下三階、真のラスボス編が始まってたと思うけど……)ロキの軽口を聞いていたアイーシャは思った。

 

 「ゴルゴリー師団長、ここは任せた。守れよ、大事な女王陛下だろ?」

 

 ロキに指示されると、立ち尽くしていたゴルゴリーがやっとの事で口を開いた。

「ちょっと待てロキ、外の様子はどうなってる?」

 

「結界張り直したから、すぐにどうこうはならん。王都から出なけりゃ魔族に殺されることはないが、兵糧攻めされたら終わりだ。王都単独で自給出来る構造になってないからな。あるのは燃やして暖を取るくらいにしか役に立たない貴族や商人の館ばかりだ」

 

 ロキは謁見の間を出ようとしてもう一度振り返って言った。

 

「それからお前ら、戦いが終わったら汗に塗れて農作業する覚悟しとけよ?」


 ロキは謁見の間を出て地下三階に戻ろうと歩き出した。

 

「ロキ様、どちらへ?」

 

「ん、二、三日は大丈夫だからもう一度風呂に入って寝ようかと思ってね、ちょっと汗かいちゃったし」

 

 アイーシャの顔が変わった。

「冗談、ですよね?」


「冗談に決まってるし!面白くなかった?」

 

 ロキはそう言いながらも地下三階の浴場に向かっている。

 

「ロキ様、私は里が心配なのです!私一人でも里へ向かいます」

 

「里は大丈夫だよ、聖大樹様の結界は揺らいでない。アイちゃんも冷静になれば感じ取れるはずだ。それに何かあれば俺や黒龍に知らせがある段取りになってるから」

 

 アイーシャはそれを聞いて泣きそうになるのを堪えて言った。

 

「それならそうと何故言ってくれないのです……ロキ様は余計な事はペラペラと口が回るくせに、大事な事はいつも言ってくれません……」

 

 ロキは自分の言葉足らずがアイーシャを不安にさせ、心を傷つけている事に今更ながら気づいた。

 

「ごめん、アイちゃん……君の気持ちを汲めば最初に里が無事なのを告げるべきだった、許してくれないか?」

 

 アイーシャはロキの肩に顔を埋めて泣き声で言った。

「後で脇腹に一発で許します……」


「おぅ、や、優しくたのんます……」


 ロキが浴場の扉を開けると正面の更衣室には入らず、左奥の扉に向かった。

 

 (あら、右奥の扉は上階のトレーニングルームに繋がっているけれど、左奥に扉なんてあったかしら……)

 

 扉を開けると階下に降りる螺旋階段があり、それを降りた先に広がる光景にアイーシャは呆気にとられた。

 

 そのフロアはコンクリートの打ちっぱなしの床に、天井にはレール状の金属の柱が縦横無尽に張り巡らされている。

 

 これは格納庫だ。戦闘機でも格納出来るくらいの十分な広さがあるが、異質なのは中央に藁が敷き詰められてその上に巨大な黒龍が鎮座している事だった。


 そして、その前に一人の男の姿があった。


「毎度どうもー!!ロキシュタイン伯爵ー!!」

 

 

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