自称ダンジョンの主は私に殺されたい……らしい
七夕茸
第1話
私の住む町の主な産業は
そんな迷宮探索を行い一攫千金を狙う人を探索者と呼び上手くいけば今後遊んで暮らせるほど稼いだものもいるとか。
そんな夢のある話なのだが、大多数の人間にとっては無縁のことで私のように低層で今後ろから迫ってくるような魔物に殺されたなんて話の方がよく聞くものだ。
私の現在の状況を客観的に確認したところで自分の装備や状態を確認する。
なるべく軽装であることに努めた私の装備は現状を打破することが出来ない、魔力もあとは身体能力強化に使っている分を除けばもうない、一緒に探索してたパーティーメンバーたちもきっとどこかで死んでいるだろう。
逃げ切ることは不可そう判断しよう
ならばあとは簡単だ今後ここを訪れる探索者のためにできるだけ手負いにしておくべきだろう。
振り向いて腰につけた剥ぎ取り用ナイフを狼のような姿をした魔物に突き刺そうとした。
その瞬間目の前が爆発した
大きな音と衝撃が私の目の前で起きたためバランスを崩して転がる
「大丈夫ですか?立てますか?」
知らない女性の声とともに手が差し伸べられる
起き上がるとそこには金髪で紫の瞳をした私より2つ3つは若そうな女の子の姿があった
「助かりましたありがとうございます」
「いえいえ、たまたま見かけただけですから」
「それでも私の命の恩人ですし何かお礼をさせてください。あ、私ロサっていいます」
「知ってますよ」
「えっと……どこかで会ったことありましたっけ?」
私は彼女の顔を思い出せない。流石に命の恩人になった人が過去会ったことがあるなら失礼にあたると思うが全然思い出せない
「いいえ、わたしがあなたを勝手に知っていただけなので大丈夫ですよ」
命の恩人だけどもしかして少し危ない人では?と思ったがそれを口にすべきでないことぐらいはわかるので別の言葉を口に出す
「そ、そうなんですね。えっとじゃあお名前をお伺いしても?」
「あ、申し遅れました、わたしはカラット=コル=ダイヤモンドです」
見知らぬ不審者からカラットと名乗る不審者になったことで少し警戒が解ける
「カラットさんですね。それであなたの他のパーティーメンバーはどこに?合流しましょう」
こんな不審者でもパーティーメンバーと一緒なら危険もないだろうし私たち二人でいるよりも魔物の対処は楽で安全になるので彼女にその所在を聞く
「ぱーてぃーめんばー?」
「このダンジョンに入ることができるのは、最低二人からなのであなたの他にも一緒にきた仲間はいるはずですよね?」
「いえ、わたし一人ですが」
「あなたの仲間も今回の探索で亡くなったんですか?」
配慮に欠ける発言だが私と彼女の安全のためにも確認しなければならない
「わたしに仲間なんていませんけど」
「……えっと……つまりどういうことですか?」
頭が痛くなってきた。私の命を救ったのが彼女でなければこの場から逃げてるほどだ
「わたしこのダンジョンの主なので入るのに必要な人数とか関係ないんですよ元々ここにいたので」
「思考を止めるな」とはどの先輩探索者が言った言葉だろうか……その探索者も別の人の受け売りらしくその言葉は探索者にとっては最初に覚えるべきことの一つであった。
だが私は今日思考を止めてしまった。しかしかろうじて最後の力を振り絞って回った頭から言葉が出てきた
「頭おかしいんじゃないの?」
「事実ですので」
「……わかりました。あなたがダンジョンの主だとしてどうして私を助けるんですか?」
「あなたじゃなくてカラットです」
「カラットさん。どうしてか教えてもらえます?」
とりあえず会話をすべきだ。さっきまでの言動はただの不審者で片づけられたがダンジョンの主なんて世迷言を言うのだ彼女は錯乱しているに違いない。私より若いからパーティーが全滅して心に傷を負っているのだろう。
「ええと……気分ですかね?」
「ダンジョンの主を名乗る存在が人助けなんて聞いたことないですけど……」
「えーっと、善意の行動って信じてもらえないなら……お願いを一つ聞いてくれませんか?」
「お願い?」
何かを要求するならある程度正常な判断はできていそうだ……しかしお願いか、探索者同士で命を助け合う場合は金銭か食事をおごるのが相場なのだがお願いとなるとどんなものかわからないため身構える
「ロサさん私を殺してください!」
「はい?」
いまいちよくわからなかった殺す……殺すと言ったのか私が?彼女を?なるほど
「わかりました。手元にあるのがこのナイフぐらいしかないので痛いとは思いますが命の恩人ですしなるべく楽に殺しますね」
爆発で転がっていたナイフを拾い彼女に向かい刺すために突撃しようとすると彼女が慌てて止めにかかった
「待ってください!殺してほしいのは本当なんですけど今じゃなくて……えっとなんていうんでしょうか時期が悪いというかなんというか……」
「どういうことですか?」
「理屈の説明は難しいんですけど今のあなたでは私を殺せないんですよ。そのナイフをそのまま刺しに来ても構いませんし、そのナイフをわたしが使って手首を切ってみましょうか?」
わけがわからないのでナイフを手渡す
「えい!」
掛け声とともにナイフは彼女の手首を切り裂いた……はずだったのだが私のナイフは彼女のきれいな肌薄皮一枚切れていなかった
「見ての通りなんですがわたしですらわたしを傷つけることが出来ないんです。あ、ナイフお返ししますね」
ナイフを受け取って腰に戻す
「それじゃあ私にもあなたを殺すどころか傷つけることすらできないんじゃ?」
「ロサさんにだけはそれが出来る方法がありまして……それがその……」
彼女がほお赤らめながら言いよどむ
「一応カラットさんは命の恩人だからできることはするよ。それで方法って?」
「そうですか……ならはっきりいいますね!私を殺すにはロサさん……いいえ!ロサちゃん!私が愛するあなたが特定の感情をみたせばいけるらしいです!」
何を言ってるいるんだろうか……愛?愛してると言ったのかこの子は私なんかを?
「ごめんなさい。なら無理です。他のことにしませんか?探索者のためのギルドがあるんですけどそこの隣のお店お酒がおいしいんですよ」
「お願いします!わたしを殺してください!愛してるし殺してほしいんです!」
もう一人で帰りたくなってきた
帰り道へ一歩踏み出そうとするが腕をつかまれ阻止されてしまった
「無理なものは無理です」
なるべく相手を突き放すように冷たく言い放つ
「そうですよね……ロサちゃんみたいな小さい子に殺しをお願いするのは間違ってましたよね……」
「ちょっと待ってください!」
一瞬前までいち早くこの場を去りたかったがとぼとぼと帰っていく彼女を見てどういうわけか呼び止めてしまった
「わかりましたあなたの願い私が叶えます!」
「え?それって……」
「はい。私がカラットさんを殺します」
「あ、ありがとうございます!」
本人の殺しのお願いを受け入れたら感謝されるって不思議な状況だ
「感謝されることではないですよ……だってそれでカラットさんは死ぬことになるんですよ。それでもいいの?」
「はい!よろしくお願いしますねロサちゃん!」
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